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退職の事務

退職する従業員から回収しなければならない物品やデータ(誓約書サンプル付き)

Last Updated on 2025年8月19日 by

退職する従業員から回収すべきものは、会社の所有物であり、業務上必要とされたものです。一般的に回収するべきものは以下の通りです。

会社から貸与された物品

  • 健康保険証(本人分および扶養家族分)
  • 社員証、IDカード、社章
  • 鍵(会社、ロッカー、社用車など)
  • パソコン、携帯電話、タブレット端末
  • 制服、作業着
  • 会社の経費で購入した書籍、文房具、事務用品
  • 社用車の鍵、ETCカード、ガソリンカード
  • 通勤定期券

業務に関連する情報やデータ

  • 業務で使用した書類やデータ(紙媒体、電子データ問わず)
  • 社内マニュアル、規定集
  • 顧客情報や取引先リスト
  • 開発中の製品情報や企画書、設計図面

顧客の名刺や取引先のパンフレットについて

「顧客の名刺」や「取引先のパンフレット」などは営業マンの私物化されていることもありますが、次の理由により通常は回収対象品です。

  • 顧客の名刺
    • 名刺に記載されている情報は、会社に指示された営業活動で得たものであり、会社の情報資産と見なせます。
    • 名刺に含まれる個人情報は、退職後に従業員が何らかの目的で利用すると、情報漏洩や不正競争につながるリスクがあります。
    • 後任者への引き継ぎをスムーズに行うためにも、名刺は会社に返却し、社内で適切に管理されるべきものです。
  • 取引先のパンフレット
    • 業務遂行のために入手したものであれば、会社の所有物です。
    • 競合他社に渡ったり、退職者が個人的に利用したりする可能性を防ぐためにも、回収するのが一般的です。

回収を徹底すべき理由

退職する従業員からの物品やデータの回収は、単なる返却だけでなく、以下のような重要な目的があります。

  • 情報漏洩リスクの防止:顧客情報や会社の機密情報が社外に流出することを防ぎます。
  • 不正競争の防止:退職者が競合他社に転職したり、独立したりする際に、持ち出した情報を使って会社に不利益をもたらすことを防ぎます。
  • コンプライアンスの遵守:個人情報保護法や会社の規定を遵守するためにも、適切な回収が必要です。

誓約書を求める

「これで全て返却しました」「情報持ち出しはしていません」という誓約書は、退職者から書面で確認を取る際に有効です。法的な強制力は限定的ですが、従業員の意識付けや、万が一の際の証拠の一つとして役立ちます。

以下に書式の例を示します。必要に応じて項目を追加・修正してご活用ください。

誓約書

甲:〇〇株式会社
乙:氏名 〇〇 〇〇

乙は、〇〇株式会社(以下「甲」という)を20〇〇年〇月〇日付で退職するにあたり、下記の事項を甲に対し誓約いたします。

1. 乙は、甲より貸与された物品(健康保険証、社員証、鍵、パソコン、携帯電話、各種カード、制服、備品、その他甲の所有物一切)について、全て甲に返却いたしました。

2. 乙は、甲の業務上知り得た顧客情報、技術情報、営業情報、財務情報、個人情報、その他一切の機密情報及び営業秘密(以下「機密情報等」という)について、業務以外の目的で使用しないことを誓約いたします。

3. 乙は、機密情報等を、いかなる媒体(USBメモリ、外付けHDD、個人のPC、スマートフォン、クラウドストレージ、その他)にも複製、保存、転送等により持ち出していないことを誓約いたします。

4. 乙は、甲の業務上作成したデータ、書類、名刺、パンフレット等、甲の所有に属する一切の業務関連情報を、甲に全て返却し、自己の管理下には一切保管していないことを誓約いたします。

5. 本誓約に違反し、甲に損害を与えた場合、乙は甲の被った損害を賠償する責任を負うものといたします。

上記の内容を相違ないことを誓約いたします。

20〇〇年〇月〇日


  (甲)〇〇株式会社
代表取締役 〇〇 〇〇 (印)

(乙)氏名:〇〇 〇〇 (印)

【誓約書作成のポイント】

  • 具体的に記載する: 「全ての物品」「一切の機密情報」といった包括的な表現だけでなく、具体的な物品名や情報の種類をできるだけ例示するとより明確になります。
  • 返却物リストとの照合: 念書を書いてもらう前に、返却物リストを用意し、一つずつ確認しながら回収し、双方でチェックするようにすると、抜け漏れを防げます。
  • 法的な効果: この念書は、あくまで「本人が持ち出していないことを表明した」という事実の証明であり、それ自体が情報持ち出しを物理的に防ぐものではありません。万が一持ち出しが発覚した際の、会社側の主張の補強材料として用いるものです。

データの持ち出しをシステム的に防ぐ方法

データ持ち出しを完全に防ぐことは難しいですが、システム的に対策を講じることで、リスクを大幅に低減できます。

データ持ち出しを制限・監視する

  • USBポートや外部ドライブの制限:
    • 会社のPCでUSBメモリや外付けHDDの使用を制限したり、特定のデバイスのみを許可したりする設定を行います。
    • Group Policy(Windowsの場合)やMDM(モバイルデバイス管理)ツールなどで一元管理できます。
  • DLP(Data Loss Prevention)ソリューションの導入:
    • 機密情報と定義されたデータが、メール、ウェブアップロード、USBメモリなど、社外への経路を通じて送信されるのを検知・ブロックするシステムです。
    • どのデータが、誰によって、どこへ持ち出されようとしているのかをログとして残すことも可能です。
  • クラウドストレージの利用制限:
    • 会社の許可していない個人用のクラウドストレージ(Google Drive, Dropbox, OneDriveなど)へのアクセスやアップロードを制限します。
    • 社内でのみ利用を許可されたクラウドストレージやファイルサーバーを活用し、そこでのアクセス権限を厳密に管理します。

アクセス管理を徹底する

  • 役割ベースのアクセス制御(RBAC):
    • 従業員の役職や業務内容に応じて、必要なデータにのみアクセスできる権限を設定します。
    • 退職時には、速やかにアカウントを無効化し、アクセス権限を削除します。
  • ファイルサーバーや共有フォルダのアクセスログ管理:
    • 誰が、いつ、どのファイルにアクセスしたか、編集したか、ダウンロードしたかなどのログを記録し、定期的に監視します。
    • 不審なアクセスがあれば、すぐに検知できる体制を整えます。

物理的・運用的な対策も重要

  • PCの起動時パスワード:
    • PCにパスワードを設定するだけでなく、起動時にもパスワードを要求する設定にすることで、PCの紛失・盗難時のリスクを低減します。
  • 持ち出し制限に関する社内規定の明確化:
    • データ持ち出しに関するルールや罰則を明確にし、従業員に周知徹底します。
    • 入社時に誓約書を交わすことも有効です。
  • 退職時のデータ消去の徹底:
    • 退職者が使用していたPCやデバイスのデータは、専門のツールで完全に消去するようにします。

これらの対策を組み合わせることで、情報漏洩のリスクを最小限に抑え、会社の重要な資産を守ることができます。


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