Last Updated on 2025年10月2日 by 勝
中小企業退職金共済制度(中退共制度)について詳しく説明します。
制度の概要と仕組み
中退共制度は、単独で退職金制度を設けることが難しい中小企業のために、国の援助で退職金制度を確立し、従業員の福祉の増進を図ることを目的とした、法律(中小企業退職金共済法)に基づいた安全・確実・有利な制度です。
- 契約と掛金の納付:
- 事業主が独立行政法人 勤労者退職金共済機構(中退共)と退職金共済契約を結びます。
- 毎月の掛金は、事業主が全額負担し、金融機関を通じて中退共に納付します。
- 退職金の支払い:
- 従業員が退職した際、退職金は中退共本部から退職者(従業員)の預金口座へ直接支払われます。事業主が退職金を管理する手間はありません。
- 受取方法:
- 原則として一時金で受け取りますが、本人の希望により全額または一部を分割して受け取ることも可能です。
- 掛金について:
- 掛金月額: 従業員ごとに5,000円から30,000円までの16種類から選択できます。短時間労働者には2,000円、3,000円、4,000円の特例掛金もあります
- 掛金の変更: 従業員の賃金や勤続年数に応じて、いつでも増額が可能です(減額には一定の条件が必要です)。
加入できる企業・従業員
加入できる企業(共済契約者)の範囲
業種ごとに、常用従業員数または資本金・出資金のいずれかの基準を満たす必要があります。
業種 | 常用従業員数 | または | 資本金・出資金の額 |
一般業種(製造業、建設業等) | 300人以下 | 3億円以下 | |
卸売業 | 100人以下 | 1億円以下 | |
サービス業 | 100人以下 | 5千万円以下 | |
小売業 | 50人以下 | 5千万円以下 |
加入対象者(被共済者)
- 原則として、上記の企業で働く常用従業員は全員加入させる必要があります。
- 短時間労働者(パートタイマーなど)も加入できます。
- 経営者(事業主)や役員は加入できません(役員は「小規模企業共済」の対象となります)。
- その他、期間を定めて雇用される従業員、季節的業務の従業員、試用期間中の従業員など、一部の従業員は加入させなくてもよいとされています。
制度の主なメリット(特色)
特色 | 詳細 |
国の助成 | 新規加入時:掛金の一部(掛金月額の1/2、上限5,000円)を加入後1年間、国が助成します。増額時:掛金月額(18,000円以下)を増額する場合、増額分の1/3を1年間助成します。 |
税制上の優遇 | 事業主が負担した掛金は、全額非課税(法人企業では損金、個人企業では必要経費)となります。 |
退職金は安全・確実 | 国が定めた制度であり、掛金は中退共が管理・運用するため、企業経営に左右されず安全です。 |
退職金のポータビリティ | 一定の要件を満たせば、中退共制度に加入している他の企業に転職した場合などに、加入期間を通算できます。 |
退職金の金額
退職金の額は、「基本退職金」と「付加退職金」の合計額で決まります。
- 基本退職金: 掛金月額と納付年数によって定められた固定金額です。
- 付加退職金: 運用益が予定利率を上回った場合に上乗せされる金額です(近年は上乗せがない年もあります)。
注意点として、掛金を納付した期間が43カ月(3年7カ月)未満で退職すると、受け取れる退職金が掛金総額を下回る、または掛金相当額になるなど、長期加入者ほど有利になるように設計されています。
過去勤務期間通算制度について
中退共制度の退職金は、原則として制度に加入してからの掛金納付月数に基づいて計算されます。
しかし、退職金は、従業員の勤続年数に応じて支払うのが一般的です。
このため、この制度には、勤続年数全体に応じた退職金額に近づけるための重要な仕組みとして「過去勤務期間通算制度」が用意されています。
事業主が初めて中退共制度に加入する際、すでに勤務している従業員について、制度加入前の継続した勤務期間(勤続年数)を、一定の範囲内で通算することができます。これにより、制度開始時からその従業員が働いていた期間全体を退職金の計算に反映させることができます。
制度のポイント
- 対象期間:
- 従業員の採用日から中退共への契約成立日の前日までの継続して雇用された期間が対象です。
- 通算できる期間は、最大10年が限度です。
- 期間は年単位で計算し、1年未満の端数月は切り捨てとなります。
- 過去勤務掛金の納付:
- 過去の勤務期間を通算するためには、通常の掛金とは別に**「過去勤務掛金」**を納付する必要があります。
- この過去勤務掛金は、従業員の現在の掛金月額と同額以下で**「過去勤務通算月額」**を設定し、その金額と通算期間に応じて算定されます。
- 過去勤務掛金は、**最長5年間(60ヶ月)**にわたって、通常の掛金と一緒に毎月納付することになります(一括納付はできません)。
- 適用対象者:
- この通算制度の申出は、事業主が初めて中退共制度に加入する時に限り行うことができ、その時点で過去の勤務期間がある従業員全員を対象としなければなりません。
- 一度契約を締結した後から、新たに通算を申し出ることはできません。
勤続年数に応じた退職金額とするためには
中退共制度は、長期加入者ほど有利になるように設計されていますが、勤続年数全体を退職金額に反映させるには、以下の対策が重要です。
対策 | 内容 |
1. 過去勤務期間の通算 | 新規加入時に、すでに1年以上勤務している従業員の過去の勤続期間(最大10年)を必ず申し出、過去勤務掛金を納付する。 |
2. 掛金月額の調整 | 従業員の勤続年数や賃金に基づいた貴社の退職金規程の考え方に応じて、従業員ごとの掛金月額を定期的に見直す(例えば、勤続年数が長くなるほど掛金月額を増額するなど)。 |
3. 他の制度との組み合わせ | 中退共制度だけで十分な退職金が確保できない場合、企業型確定拠出年金(企業型DC)や確定給付企業年金(DB)など、他の退職金制度の導入も検討する。 |
結論として、中退共制度に加入する時点で既に勤務している期間を退職金額に反映させるには、「過去勤務期間通算制度」を新規加入時に必ず利用することが、最も直接的な方法です。
詳細な情報や、より正確な退職金の見込み額のシミュレーションについては、中退共の公式サイトでご確認いただくことをおすすめします。