障害年金の初診日とは
障害年金を受給するには、原則として、初診日の前日において、一定の保険料納付要件を満たしている必要があります。この要件を満たしていない場合、たとえ障害の程度が重くても、年金を受け取ることはできません。
したがって、申請時には正確な初診日を特定し、それを証明する書類(受診証明書、カルテなど)を提出することが不可欠です。ところが、初診日が特定できないために、稀なケースですが、発病当時勤務していた会社に対して、健康診断の記録を求めてくることがあります。
初診日が特定できないケース
初診日が分からないというのは、どういうことだろう、と疑問に思うかもしれませんが、次のような場合です。
1. 医療機関の受診記録が存在しない・見つからない
最も一般的なケースです。
- カルテの破棄:医療機関にはカルテの保存期間(通常5年間)が定められています。初診から障害年金の申請までの間隔が長い場合には、当時の病院が既にカルテを破棄していて、初診日の証明書(受診状況等証明書)を発行できないことがあります。
- 医療機関の閉院・移転:初めてかかった医療機関が閉院していたり、移転先が不明であったりして、記録を探すことができない場合です。
- 本人の記憶の曖昧さ:初めて「この病気だ」と診断された病院ではなく、その前に自覚症状が出た時に軽い気持ちで受診した医療機関について、本人の記憶が曖昧になっていることがあります。
2. 病歴が複雑で、どの受診日が「初診日」か判断が難しい
複数の病気や症状が関連している場合です。
- 因果関係の判断:申請する障害の原因となった傷病と、それ以前にかかっていた関連する別の傷病がある場合、どの時点の傷病が現在の障害の「初診」と見なされるか、判断が難しくなることがあります(例:糖尿病と糖尿病性腎症など)。
- 症状の経過が長い精神疾患など:うつ病などの精神疾患の場合、「不眠」や「倦怠感」といった軽い症状で初めて受診した日が初診日となることがありますが、本人がその重要性を認識しておらず、診断が確定した後の受診日を初診日と考えてしまうことがあります。
初診日不明の場合はどうなるか
上記のように、初診日の証明を得られない場合、当時の状況を裏付ける第三者の資料を提出することで、審査機関に初診日を認めてもらう試みをします。これを「初診日に関する申立書」と呼び、その際に添付する資料として、勤務していた会社の健康診断の記録や受診命令の記録が必要になることがあります。
ケーススタディ
ここで、仮の事例をもとに解説してみます。
10年前に退職した従業員から、人工透析を受けることになったが、初診の病院が閉院してしまったので、会社の健康診断の記録を出してほしいという依頼があったとしましょう。
人工透析は、通常、慢性腎不全の治療として行われます。透析治療を受けている場合の障害認定は比較的明確ですが、問題となるのはやはり「初診日」です。
障害年金でいう初診日は、この腎不全の原因となった病気(例:糖尿病や慢性腎炎など)について、初めて医師の診察を受けた日を指します。透析導入日ではありません。
したがって、その元従業員は、原因となる病気(糖尿病など)で最初に医療機関を受診した日を証明する必要があるにもかかわらず、その記録が見つからない状況にあり、当時の健康診断で異常値が出ていたという記憶をもとに、元勤務先に援助を求めてきたと推測されます。
もし健康診断の記録に尿蛋白や血糖値などの異常の指摘があれば、元従業員が初めて異常を指摘され、治療が必要とされた日(=初診日と認められる可能性のある日)を特定するための証拠となる可能性があるからです。
また、当時の事情を知る従業員がいれば、記憶を辿ってもらうのも有効です。当時から「とても疲れやすい」と言っていた、などという証言があれば、初診日の特定に関して役に立つ可能性があります。
当時から疲れやすい状態にあったとすれば、それは、糖尿病による症状(易疲労感、倦怠感など)であったことを示唆し、当時から障害の原因となる傷病が発症していたことの根拠の一つになるかもしれないからです。
健康診断の記録について問い合わせがあったときは、協力的に対応することをお勧めします。記録や証言があれば必ず審査が通るというものではありませんが、状況証拠の積み重ねが重要なので、もしかすると役に立つかもしれません。ただし、協力するは、あくまでも事実に基づくものでなければなりません。同情のあまり事実でないことを付け加えると不正に加担したとして大きな問題に発展してしまいます。
