入社日と会社の定期健康診断の時期が近い場合、新入社員に連続して健康診断を受けさせる負担を減らすため、両者を兼ねて(雇入れ時健診を省略して定期健診として)受診させることは可能です。
ただし、この運用にはいろいろな落とし穴があるので、以下の点に注意する必要があります。
雇入れ時健康診断の目的に関する問題点
雇入れ時の健康診断は、「入社直後の適正な人員配置」や「就業上の配慮の必要性を確認すること」が目的です。
会社の定期健康診断は全社員が一斉に受診するため、結果が手元に届くまでに1ヶ月〜2ヶ月程度かかることがあります。結果が出る前に現場に配属し、後から「実は配慮が必要な持病があった」と判明した場合、企業側の安全配慮義務違反が問われるリスクがあります。
検査項目についての問題点
法律上、2つの健康診断は検査項目の「省略」についてのルールが異なります。
- 定期健康診断の場合:対象者の年齢(例えば35歳未満、または36歳〜39歳)や医師の判断によって、血液検査、心電図検査、胸部エックス線検査などの一部項目を省略することが法律で認められています。
- 雇入れ時の健康診断の場合:年齢に関わらず、法定の11項目すべてを必ず実施しなければなりません。
【予想される問題点】
企業側が医療機関に単に「定期健康診断をお願いします」と依頼して新入社員を受診させた場合、医療機関は年齢に応じて血液検査や心電図を省略してしまうことがあります。その結果、雇入れ時健康診断としては「法定項目を満たしていない(法律違反)」状態になってしまいます。
定期健康診断との間隔についての問題点
労働安全衛生規則ではあくまで「雇い入れる際」に実施することと定められているため、期間が空きすぎると法的な問題や労務リスクが発生します。
入社日と定期健康診断をまとめて(雇入れ時健診を後回しにして)実施する場合、実務上、妥当と判断される期間は入社から「おおむね1ヶ月以内」が一つの限界ラインとされています。
1ヶ月以内を限界とする理由
- 「適正配置」の目的が果たせない 雇入れ時健康診断の最大の目的は、「その労働者をその業務に就かせても健康上問題ないか」を事前に確認し、適正な配置を行うことです。健診を1ヶ月以上先送りして業務に従事させた場合、「雇い入れる際」という法律の趣旨から逸脱しているみなされる可能性があります。
- 安全配慮義務違反のリスク 万が一、健診を実施するまでの期間に労働者が持病を悪化させたり、業務中に倒れたりした場合、「事前の健康状態の把握(雇入れ時健診)を怠ったまま就労させた」として、企業側の安全配慮義務違反(損害賠償責任)が問われることになります。
「逆」の運用を検討する(定期健診の免除)
入社日と定期健康診断の時期が近い場合、「定期健診まで雇入れ時健診を待つ」のではなく、「入社直後に雇入れ時健診を実施し、会社の定期健診を免除する」運用も考えられます。
労働安全衛生規則(第44条第2項)の、「雇入れ時の健康診断を実施した労働者については、その後1年間は定期健康診断の該当項目を省略できる」を活用します。
【具体的な運用の流れ】
- 入社時(または入社直前): 法定11項目を網羅した「雇入れ時健康診断」を個別に受診させる。これで適正配置の判断ができ、企業の安全配慮義務も果たせます。
- 数週間〜数ヶ月後の定期健診時: その新入社員は、すでに雇入れ時健診で全項目を実施済みであるため、今回の定期健康診断は「受診免除」とする。
この方法をとれば、新入社員に対して二度受診させる手間を省きつつ、健診の実施漏れや「項目の省略ミス」といったトラブルも完全に防ぐことができます。
まとめ
新入社員について、定期健康診断を「雇入れ時健康診断」として兼ねて実施させる場合は、以下の点に注意しましょう。
- 医療機関への事前の念押し 受診を予約する際、医療機関に対して明確に「この者は新入社員であり、雇入れ時の健康診断を兼ねているため、年齢に関わらず省略項目なしで法定11項目すべてを実施してください」と伝達して下さい。
- 結果の早期回収 就業上の配慮が必要かを早く確認するため、新入社員の分の結果だけでも早めに発行してもらえないか、医療機関に相談することをお勧めします。
- 記録の保管 「定期健診まで雇入れ時健診を待つ」のではなく、「入社直後に雇入れ時健診を実施し、会社の定期健診を免除する」運用を検討する。
