Last Updated on 2025年8月14日 by 勝
与信管理は、ざっくり言えば「取引先にどこまで信用を与えて売掛にしてよいかを決め、回収不能リスクを減らす」ための管理です。もう少し分解して説明します。
与信管理とは何か
与信とは、信用供与の略です。「与」と「信」です。信用する枠を与える、という意味です。
与信管理とは、与信限度額を管理することです。つまり、この取引先に対しては、何円までの取引を認めるという与信限度額を決定するプロセスのことです。与信管理の目的は、売掛金が回収できなくなる「貸倒れ」を防ぎ、会社の資金繰りを安定させることです。
与信管理の具体的内容は、①取引先ごとの信用力を調査・評価する。②与信限度額(上限)を設定する。③取引中も定期的にモニタリングすることです。問題兆候があれば条件変更や取引縮小・中止の決定をすることも与信管理に含まれます。
「与信を設定する」とは
先ほどの説明にも含まれていますが、与信を設定するとは、与信限度額を決めることを指します。
例)調査の結果、A社は安定していて年商も十分 →「1,000万円まで掛売りOK」
限度額を超える注文が来た場合は、前金や、保証などの条件変更、あるいは取引の中止を考えることになります。
取引先の経営内容を調査する方法
調査は新規取引時と、定期フォロー(書類審査は通常年1回、観察は常時)で行います。
主な調査方法
主な方法は次の通りです。
調査方法 | 内容 |
商業信用調査会社の報告書 | 帝国データバンク、東京商工リサーチなどの企業情報を購入 |
決算書の入手・分析 | 取引先から直接もらい、売上・利益・負債比率などをチェック |
官報・登記情報の確認 | 代表者変更、担保設定、倒産情報など |
業界動向の把握 | 競合状況や需要動向、行政処分の有無 |
現地訪問・ヒアリング | 実際の事務所や工場を見て設備・雰囲気を確認 |
支払実績の確認 | 既存の支払条件通りに入金されているか |
担当者の観察眼
出入りしている営業担当者の観察力は重要です。人の出入りが多く人の動きに活気があるか、商品の出入りは順調であるか、トラブルを抱えているような様子はないか、あるいはその逆であるか。このようなことを把握できるのは実際に出入りしている担当者しかいません。そのような、利害が絡む情報を上にあげやすい、オープンな社風づくりは危険回避の第一の方策です。
決算書依頼は失礼か
中小企業の取引でも、決算書の提出をお願いすることは珍しくなく、失礼にはあたりません。むしろ、与信管理や取引条件の適正化のために、かなり一般的に行われています。
企業同士の取引は信用を前提にした商取引です。信用を確認するのはお互いのリスク管理であり、特定の相手を疑っているわけではありません。
大企業や上場企業の場合は、決算内容はすでに公開情報ですし、中小企業間でも「決算書提出=信頼できる会社」という評価にもつながります。
決算書入手の一般的なやり方
新規取引開始前
「社内規定で、一定以上の掛取引の場合は決算書をお願いしております」と理由を明確にして依頼する。
既存取引の与信見直し時
年1回、決算が終了したら再度提出してもらいます。
提出書類の範囲
通常は直近2〜3期分の貸借対照表・損益計算書(PL・BS)です。
失礼感を減らす依頼文の例
平素より大変お世話になっております。
弊社では一定額以上の掛取引に関し、社内規程に基づき取引先様の財務内容を確認させていただいております。
つきましては、直近○期分の決算書(貸借対照表・損益計算書)をご提出いただけますと幸いです。
ご多忙のところ恐れ入りますが、何卒よろしくお願い申し上げます。
与信限度の決定プロセス
与信限度の決定は一般的に担当者が単独で決めるのではなく、社内の承認プロセスを経て上位者が決裁します。中小企業では、社長や役員決裁になるケースが多いです。
担当者による事前調査
新規取引や限度額変更の必要が出た時、営業の担当者が取引先の信用情報を集めます。
- 信用調査会社のレポート
- 決算書分析(自己資本比率、利益、負債構成など)
- 支払実績や遅延の有無
- 業界動向や経営者の信用
担当者は自分の判断で限度額を決めるのではなく、根拠となる資料を揃える役割です。
社内審査・与信案の作成
調査結果をもとに「希望与信額」とその根拠を簡潔にまとめます。
根拠には「決算書類の分析結果」「過去の取引実績」「今回の支払条件」「調査会社のスコア」などを記載します。
以下のような基準を決めて、その範囲に収めるやりかたもあります。
- 見込まれる売掛残の〇倍を超えない
- 相手先の年間売上高の〇%を超えない。設備投資であるときは相手の財務状態による
- 1つの取引先で、当社売上の〇%を超えない
上司の審査
営業課長・部長などが内容を確認し、リスクが妥当かを判断します。
必要に応じて経理部や財務部が並行してチェックする場合もあります。
決裁権限者による承認
与信限度は社内規程で「金額別の決裁権限」が決まっているのが一般的です。
例)
〜500万円:部長決裁
500〜2,000万円:役員決裁
2,000万円超:社長決裁
金額が大きい場合やリスクが高い場合は、与信審査会議を開く企業もあります。
社内システムに登録
承認された限度額を基幹システムや管理表に登録し、営業・経理が共有します。限度額を超えた取引が行われないようにシステム上で制限をかけます。
定期的な見直し
年1回程度、または大きな支払遅延や業績悪化などがあれば随時見直します。
与信管理規程
与信管理規程のサンプルです。
関連記事:与信管理規程サンプル
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