自己申告制度について

評価制度

Last Updated on 2025年9月26日 by

自己申告制度とは

自己申告制度は、配属や勤務地などについての希望を、会社の求めにより提出する制度です。

人材の配置や研修に活用する

社員に将来のキャリア意向や担当している仕事への意欲や適性等を聞くことで、適材適所の人事異動やキャリア開発のための研修などに活用することができます。

ただし、本人の思いが現実離れしていることもあるので、単純に希望をかなえる方向で動くことがよいとは限りません。

受け止める上司の側に、やるべきことを前に進める実行力や、できないことをきちんと説明する説得力が無ければ、不満・不信をつのらせるだけになりかねません。

職場環境の改善に活用する

職場が抱えている問題点が浮き彫りになることがあります。不満や問題点を取り上げて改善を図り解消する努力をすることで、職場環境の改善に活用することができます。

自己申告制度を実施するとこれまで隠れていた問題点があぶりだされることがあります。そのような問題点は、一人の上司の力では解決が難しいものです。個々の上司に対する会社としてのバックアップ体制をつくる必要があります。

自己申告制度の手順

実施時期

例えば、4月に定期異動を実施する会社であれば、意向調査は12月賞与の評価が実施される10月頃に実施することが多いようです。自社の状況によって決めればよいでしょう。

実施の流れ

  1. 人事から自己申告書を配布する
  2. 社員は自己申告書に記入して上司または人事に提出する
  3. 提出を受けて必要に応じて面談を実施する
  4. 人事と関係部署は対象社員の異動などの希望について協議する
  5. 上司または人事はフィードバック面談を行い、会社の意向を説明する

自己申告書の設問

自己申告書の設問の設定にあたっては、社員にストレスがかからないように、記入のしやすさを考慮しましょう。できるだけチェック欄を設け、自由記入欄を少なくするようにしましょう。

一般的な項目を説明します。

現在の仕事に対する意見

現在の仕事内容や状況について聞きます。仕事の量や質、満足度などを聞きます。

仕事への適性について

現在の仕事の適性を聞きます。得意な仕事、不慣れな仕事、苦手な仕事などを聞きます。

キャリアについての意向

将来のキャリアについてどのように考えているか聞きます。

異動についての希望

異動についての希望を聞きます。配置換え、転勤、昇任などの希望を聞きます。今後身につけたいスキルや挑戦したい職務領域の欄も設けます。今の職位が重荷になっていることもあるので、降任についての記載欄もあればよいでしょう。

その他

一般的には自由意見欄を設けます。

自己申告制度の問題点と対策

自己申告制度で希望を伝えても「どうせ叶わない」と感じられれば、従業員の不満や不信感につながり、制度自体が形骸化してしまいます。

勤務地や配属の希望は、企業の経営戦略や組織の人員計画に強く左右されるため、全ての希望を叶えることは現実的に不可能です。

不満を防ぎ、制度を機能させるための重要なポイントは、「実現可能な範囲を明確にし、叶えられない理由と、それ以外の貢献を評価する」という運用側の姿勢にあります。

不満や不信感を防ぐための運用ポイント

制度に対する不満や不信感を最小限に抑え、制度を「キャリアについて会社と対話する機会」として機能させるための主要な対策は以下の通りです。

1. 期待値のコントロール(事前のメッセージング)

最も重要なのは、制度の目的と限界について、正直かつ明確に伝えることです。

  • 「約束」ではなく「参考情報」と明言する: 自己申告制度は、「希望を叶える制度」ではなく、「会社が異動や配置を検討する上で重要な参考情報として聞かせてもらう制度」であることを明確に伝えます。
  • 実現の難易度を共有する: 勤務地の希望は、特に事業所の配置やビジネスニーズに強く影響されるため、「会社として最大限努力するが、全ての希望が叶うわけではない」と事前に伝えておきます。

2. フィードバックと対話の徹底

希望が叶えられなかった場合に、放置することが最大の不満につながります。

  • 丁寧なフィードバックの機会を設ける: 異動や配属が決定した後、希望が叶わなかった従業員に対しては、上司との個別面談などで丁寧に理由を説明する機会を設けます。
    • 例: 「A支店への異動希望は把握しているが、今年度は事業計画上、B支店の経験者を緊急で増強する必要があり、あなたの専門性が求められた。来年度に向けてはA支店への異動も引き続き検討する。」
  • 「代替案」や「次善の策」を提示する: 勤務地は変えられなくても、職務内容やキャリア開発の機会など、申告書に書かれた他の希望を叶えるよう努力している姿勢を見せます。

3. 「希望」以外の申告内容を重視する

申告内容を、勤務地や配属の「要望書」としてだけでなく、「自己成長のための計画書」として捉え直します。

  • 能力開発や経験の申告を重視: 従業員には、勤務地や配属先の希望だけでなく、「今後身につけたいスキル」「挑戦したい職務領域」を記入させ、その内容を異動判断や人材育成の際に積極的に活用します。
  • 申告した努力を評価に反映: たとえ希望の勤務地に行けなくても、自己申告で「〇〇のスキルを習得する」と宣言し、実際に努力したプロセスや成果を人事考課で評価する仕組みと連動させます。

4. 公平性と透明性の確保

制度の運用がブラックボックス化すると、不満は増幅します。

  • 人事異動の基準を可能な範囲で開示: 「どのような場合に異動の希望が通りやすいか」など、判断基準や優先順位を可能な範囲で従業員に共有し、透明性を高めます。
  • 毎年継続的に実施する: 希望が叶わなくても、毎年申告する機会があることで、「来年こそは」という期待を持たせ、会社が継続してキャリアに関心を寄せているという安心感を与えます。

これらの運用努力によって、従業員は「希望は必ず叶うわけではないが、会社は自分のキャリアや意向に真剣に向き合ってくれている」と感じられるようになり、制度への不満を抑えることができます。