労働契約法第3条は、労働契約における基本的な理念と共通の行動原則を定めており、一般に「労働契約の5原則」と呼ばれています。
労働契約第3条の解説
第3条は、労働者と使用者が労働契約を結んだり変更したり、また契約上の権利を行使したりする際に守るべき基本的なルールを5つの項に分けて規定しています。
労使対等の原則(第1項)
労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとする。
- 要点: 契約の当事者である労働者と使用者は、法的には対等な関係でなければならないという原則です。
- 背景: 実際には経済力や情報力に差があるため、この原則を定めることで、労働契約の交渉や締結が、使用者側の一方的な意思によるものとならないように求めています。
均衡考慮の原則(第2項)
労働契約は、労働者及び使用者が、就業の実態に応じて、均衡を考慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。
- 要点: 労働条件(賃金、待遇など)は、同じ会社内であっても、仕事の内容や責任の重さといった就業の実態に応じて、バランス(均衡)を考慮して定めるべきであるという原則です。
- 具体例: 正社員とパートタイム労働者の間で、仕事内容や責任が同じであれば、不合理な待遇差を設けるべきではないという考え方(後のパートタイム・有期雇用労働法などにもつながる考え方)の基礎となります。
仕事と生活の調和への配慮の原則(第3項)
労働契約は、労働者及び使用者が仕事と生活の調和にも配慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。
- 要点: 契約の締結や変更に際しては、労働者のワーク・ライフ・バランス(仕事と家庭生活や個人的な活動との両立)にも配慮すべきであるという原則です。
- 具体例: 育児や介護の必要性がある労働者に対し、柔軟な働き方を検討するなど、生活との両立を支援する配慮を求めています。
信義誠実の原則(第4項)
労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない。
- 要点: 労働契約の当事者は、お互いに信頼し、誠意をもって約束(契約内容)を守り、権利を行使し、義務を履行しなければならないという原則です。
- 具体例: 労働者は真面目に働く義務を、使用者は賃金をきちんと支払う義務を負い、お互いに相手の信頼を裏切らないように行動すべきです。
権利濫用の禁止の原則(第5項)
労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならない。
- 要点: 労働契約に基づいて与えられた権利であっても、社会的に許容されないような目的や態様で行き過ぎた行使をしてはならないという原則です。
- 具体例: 使用者による解雇(第16条)や懲戒処分などが、この原則に基づき、客観的に合理的で社会通念上相当であるかが厳しく判断されます。労働契約法における最も重要な規制原理の一つです。