労働契約法とは
労働契約法は、労働契約に関する基本ルールを定め、労働者と使用者の対等な立場での合意と信頼関係に基づく労使関係の形成を目的とした法律です。
2008年に施行され、従来の労働基準法や裁判例(判例)で認められていたルールを明文化・体系化したものです。
法律の構成
第1条~第5条:基本原則(総論)
第6条以降:契約の成立、変更、終了など具体的ルール(各論)
各条文の要点と実務上の留意点
第1条(目的)
労働契約の適正な締結・履行・変更・終了により、労働者の保護と事業の健全な発展の調和を図ることを目的とします。
第2条(定義)
労働者:使用者に使用され、賃金を支払われる者
使用者:労働者に賃金を支払う者
一般的な雇用関係と同義です。
第3条(労働契約の原則)
5つの原則を明文化しています。
- 労使対等の原則
- 均衡考慮の原則(公正な処遇)
- ワーク・ライフ・バランスへの配慮
- 信義誠実の原則
- 権利濫用の禁止
第4条(内容の理解促進・書面確認)
- 使用者は契約内容について労働者の理解を促進する努力義務がある。
- 労使双方は契約内容をできる限り書面で確認すべきとされている(義務ではないが強く推奨)。
第5条(安全配慮義務)
使用者は労働者が生命・身体の安全を確保しつつ働けるよう必要な配慮をしなければならない。
「安全配慮義務」には職場でのメンタルヘルス対応、長時間労働防止なども含まれます。
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第6条(労働契約の成立)
労働者と使用者が「労働」と「賃金」について合意すれば契約は成立します。
- 口頭でも成立する点に注意(例:採用内定)
- 採用内定=「始期付解約権留保付労働契約」が成立→ 無効にするには合理性・相当性が必要(解雇と同様)
第7条(就業規則と契約の内容)
周知された就業規則が合理的であれば、その内容が労働契約に組み込まれます。労働契約書に明記していなくても、就業規則が内容を補う可能性があるのです。
第8条(契約内容の変更)
労働条件は労使の合意により変更可能です。一方的な変更は原則として無効になります。
第9条・第10条(就業規則による不利益変更)
就業規則の変更によって労働者に不利益な変更をするには合意が必要(第9条)
ただし、第10条では、例外として「合理的で社会的に相当と認められる場合」に限り、合意なしでも変更可能
判断基準:
- 就業規則の内容の合理性
- 労働者への影響の程度
- 手続の適正性 など
第11条(就業規則の変更手続)
労基法第89条・90条に基づく手続が必要→ 労働者の意見聴取、監督署への届け出
第12条(就業規則と労働契約の関係)
労働契約が就業規則に違反して労働者に不利益な場合は無効
就業規則より有利な契約条件は有効
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第13条(法令・労働協約との関係)
就業規則が法令や労働協約に反する場合、そちらが優先される
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第14条(出向)
出向命令が権利の濫用と認められると無効になる
実務上:本人の同意、事情の合理性が必要
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第15条(懲戒)
客観的合理性と社会的相当性がない懲戒処分は無効
管理職による懲戒指導は慎重に。感情的な処分は無効リスク。
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第16条(解雇)
解雇も同様に、合理性・相当性がなければ無効
関連記事:解雇するときの注意点
第17条(有期契約期間中の解雇)
契約期間中はやむを得ない事由がない限り解雇不可
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第18条(無期転換ルール)
有期契約が通算5年超継続した場合、労働者の申し込みにより無期契約に転換
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第19条(雇止めの制限)
有期契約でも、反復更新・期待があるときなど、雇止めが無効になる場合がある
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適用除外
国家公務員・地方公務員、同居親族のみを使用する事業→ 労働契約法の適用外
労働契約法と労働基準法の関係
- 労使の合意と信頼関係のルール 労働条件の最低基準
- 民事的性格(罰則なし) 行政的性格(罰則あり)
- 判例や慣行を法文化 国が定めた義務的基準