労働契約の基礎知識

Last Updated on 2021年10月13日 by

契約の原則

民法には契約自由の原則が定められています。当事者が合意すればどのような内容の契約をすることも自由です。

民法521条 何人も、法令に特別の定めがある場合を除き、契約をするかどうかを自由に決定することができる。
2 契約の当事者は、法令の範囲内において、契約の内容を自由に決定することができる。

しかし、全く自由にしてしまうと、強い立場の方の意向を押し付けられる可能性があります。

そこで、民法は契約自由の原則を定めつつ「法令に特別の定めがある場合を除き」「法令の範囲内において」の条件を付しています。

労働契約

労働契約も契約の一つです。労働契約は労働者と使用者が、雇用について合意したときに成立します。

労働契約法第6条 労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。

労働契約のことを民法上は雇用契約と言います。

労働契約の成立

労働することとその報酬について合意がまとまった時点で労働契約が成立します。その後雇用契約書の取り交わしをしなかったとしても労働契約の効力に影響はありません。

採用を約束した時点で労働契約が成立するので、雇用契約書を交わす前であることを理由に採用を取り消すことはできません。

また、雇用契約書に記載されていない合意があれば、その合意も労働契約を構成します。

例えば、採用面接の時に「私は親の面倒を見なければならないので残業はできません」と述べて、そのうえで採用されたのであれば、使用者は残業しないという申し出に合意したことになるので、雇用契約書に記載していないとしても残業を命じることはできません。

黙示の合意

労働契約の内容である権利や義務は、就業規則や労働条件通知書、雇用契約書に明示されていなくても発生することがあります。

例えば、年2回の賞与を支給している事実が長年続いているのであれば、賞与の支給が就業規則等に全く記載されていなくても、年2回の賞与が支給されるという黙示の合意が成立していることがあります。

次に、労働契約と法令等との関係について説明します。

労働法>労働契約

労働契約の場面では、一般的には使用者の立場が強いため、使用者の意向に沿った契約が締結される可能性があります。

そこで、労働基準法等では、法律の基準に達しない労働契約はその部分について無効であることを定めています。

労働基準法第13条 この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において、無効となつた部分は、この法律で定める基準による。

例えば、労働基準法は労働時間を1日8時間、週40時間を超えてはならない(一部例外があります)と規定しています。この規定が適用される事業場では、1日9時間という条件で、労働者も納得して採用されたとしても、法定の労働時間を超えた部分は無効なので、この労働条件は1日8時間に修正されます。また、使用者には罰則も適用されます。

賃金については最低賃金法が賃金の最低基準を定めています。最低賃金法の手続きによって定められた最低賃金(当道府県別等に定められます)を下回る賃金を定めれば、下回る部分は無効になります。

例えば、最低賃金が時給1000円と定められている都道府県で、仮に労働者から「私は年金があるので低い賃金で働きます」という申し出を受けて時給800円に決めたとすれば、最低賃金法が適用されて賃金は自動的に1000円に修正されます。また、使用者には最低賃金法違反の罰則が適用されます。

労働協約>労働契約

労働組合と使用者が団体交渉をして締結した協定を労働協約と言います。

労働協約と労働契約の関係については労働組合法に定められています。

労働組合法第16条 労働協約に定める労働条件その他の労働者の待遇に関する基準に違反する労働契約の部分は、無効とする。この場合において無効となつた部分は、基準の定めるところによる。労働契約に定がない部分についても、同様とする。

つまり、労働協約で定められた労働条件は個々の労働契約より優先されます。

労働協約は原則として組合員だけに適用されます。ただし、労働協約が同種の労働者の4分の3以上に適用されている場合は、組合員以外にもその労働協約が適用されます。

労働協約よりも個々の労働契約が有利な内容であったとしても、労働協約の方が優先し、労働契約の有利な内容が引き下げられるというのが一般的な解釈です。労働者は労働組合を通じて労働条件を決定するという労働組合法の立場によるものです。

就業規則>労働契約

就業規則とは、職場内で守られるべき規律や共通の労働条件など職場での統一的なルールを定めたものです。

就業規則と労働契約の関係については労働契約法に定められています。

労働契約法第7条 労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。

つまり、労働契約よりも就業規則が優先するという規定です。

ただし、労働契約が有利な部分については労働契約が適用されます。

例えば、就業規則に休憩1時間と規定されていれば、その就業規則が適用される労働者に対して、労働契約で30分とすることはできず、その契約は自動的に休憩1時間に修正されます。

また、就業規則に定年制の定めがあったとしても、その労働者に対して「定年制を適用しない」という労働契約があれば、労働契約のほうが有利なので、労働契約の内容が適用されます。

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