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労働契約

出向させるときの注意点

Last Updated on 2021年7月1日 by

出向とは

会社ではいろいろな異動があります。配属先や勤務地が変わっても一つの会社のなかでの異動であれば配転といいますが、他の会社に行く異動を出向といいます。

他の会社に行くといっても、元の会社の従業員という身分は変わりません。これが転籍と違うところです。

出向という言葉を用いても、元の企業で籍がなくなる場合は法的には転籍になります。出向と転籍はあいまいに使われることがあるので注意しましょう。

出向が必要になるとき

1.出向元と出向先が提携関係にあり、経営指導や技術指導のために出向させるケース
2.中高年従業員を処遇する場を自社内に見いだすことが難しいために出向させるケース
3.人員整理の一環として、整理解雇を回避するための手段として出向させるケース。
など。

出向命令の根拠

出向を命じるには、就業規則に出向について記載があり、その命令に従うべきことが規定されていることが必要です。

就業規則の規定:人事異動|就業規則

出向命令がスムーズに機能するには出向規程が必要です。

関連規程:出向規程のサンプル

権利の濫用に注意

次に、権利の濫用に当たらないように注意しなければなりません。

(出向)
労働契約法第14条 使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において、当該出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該命令は、無効とする。

就業規則や労働協約で出向について包括的同意があったとしても、権利の濫用と認められる場合は、その出向命令は無効になります。

出向の条件を決める

賃金については、出向元従業員としての身分は保持されるので実質維持されるのが普通です。また、定年や退職金制度などについても同様です。出向元が賃金を払い、出向先は負担金を出向元に払う契約もあります。一定の負担割合を決めて、二つの会社から賃金を支払う方法もあります。特に法律上の制限はありません。これらは、出向元と出向先の出向契約によって定めます。

社会保険料と労働保険料は、賃金がどちらから払われるかによって扱いが違います。

関連記事:出向させるときの社会保険料と労働保険料

出向者に対しては、出向先の36協定が適用されます。よって、出向先の会社は、出向してきた従業員にも自社で締結されている36協定の範囲で時間外・休日労働を命じることができます。

出向の場合は、出向元との雇用関係が継続しています。したがって、有給休暇は出向元において継続して権利が発生していきます。ただし、時季変更権は出向先企業にあります。よって、出向者は有給休暇の取得届けは出向先に対して行います。

労働条件の変化

元の会社に籍が残って従業員身分が変わらなくても、違う会社に行くのですからいろいろと変化があります。

勤務地が異なるので、通勤時間が増したり、転居を伴わなければならないこともあります。労働時間や休日などは出向先の就業規則が適用されるので、変化する部分が多いでしょう。

例えば、同じ週休二日制でも、土日を休める会社もあれば交代制の会社もあります。社員食堂がある会社もあればない会社もあります。

このような労働条件の変化(低下)について、会社がどうのような代償措置をとるか(規程等に定めるか)によって権利の濫用を判断されることになります。

労働者の不利益が大きい場合は出向命令が無効とされた裁判例もあります。逆に、労働条件の低下がわずかだとして有効にされた裁判例もあります。

出向者の懲戒処分

出向者に対して、出向元と出向先のどちらが懲戒処分をするかは、事情によって異なります。両方に懲戒権があるとしても、懲戒解雇は籍のある出向元がすることになるでしょうし、

減給処分は給料を払っている方が行うことになると思います。現実的には同じ行為に対して両方から処分を行うことは難しいので、どちらかの就業規則を適用することになります。

出向者は、始業・終業時刻、休日などの労働時間、服務規律などについては、出向先の就業規則に従って労務を提供しています。したがって、この部分に非違行為があれば、出向先が懲戒権を行使することができると考えられています。

また、出向者は、出向先の指揮命令下で労務に服していますが、あくまでも出向元の出向命令に従い出向先において労務を提供しています。したがって、出向先における服務規律違反などは、同時に出向元に対する義務違反でもあるので、出向元の就業規則を適用して懲戒処分を行うことができるとも考えられます。

出向の手続き

出向元と出向先の取り決め

出向元の会社と出向先の会社はどのような条件で出向させどのような仕事をさせるかなどについて契約を取り交わす必要があります。

出向協定書(例)

〇〇株式会社(以下「甲」という)と 〇〇株式会社(以下「乙」という)は、甲の社員〇〇(以下「丙」という)を乙に出向させるにあたり、その勤務条件等に関し次のとおり協定する。

(出向期間)
第1条 出向期間は、平成〇〇年〇〇月〇〇日から平成〇〇年〇〇月〇〇日までとし、延長する場合は新たに協定を締結する。

(就業規則)
第2条 丙は、原則として乙の就業規則その他の規程を適用される。ただし、休職、退職、懲戒、定年など、乙の身分上の事項については甲の規程が適用される。

(待遇)
第3条 丙の給与、賞与は甲が支給する。

(社会保険)
第4条 丙の健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料は甲が取扱い、労災保険は乙が取扱う。

(出向負担金)
第5条 乙は甲に対し、丙の給与、賞与に相当する額を出向負担金として支払う。

2 甲は乙に対し、出向負担金の請求書を当月20日に発行する。

3 乙は、甲の請求書に基づき、出向負担金を当月末日までに甲の指定する銀行口座に振り込む。

(諸経費)
第6条 丙の乙における日常業務で発生する経費は、乙の負担とする。

(赴任旅費)
第7条 出向時及び帰任時の赴任旅費は、甲の旅費規程により甲が支給する。

(協議)
第8条 この協定に関して不明な点及び疑義が生じたときは、その都度甲乙が協議して決定する。

本協定書は2部作成し、甲乙それぞれ記名捺印の上、各1通を保有する。
平成〇〇年〇〇月〇〇日

甲 住所 〇〇〇〇株式会社 代表取締役〇〇〇〇印

乙 住所 〇〇〇〇株式会社 代表取締役〇〇〇〇印

個々の従業員との取り決め

労働条件の一部変更となるので、出向する個々の従業員に対して書面で条件を通知する必要があります。その際、通知を受け受諾したことを明らかにするために、同意書を兼ねた形にするのがよいでしょう。

出向通知書(兼同意書)例

       殿

下記の条件で出向を命じます。

1.出向先に関する事項
会社名
所在地
勤務地
担当業務

2.労働条件
賃金・賞与 当社の給与規程基づき当社から支給されます。
健康保険、厚生年金、雇用保険、介護保険は当社にて継続加入します。
労災保険は、出向先会社において加入します。
労働時間・休日等は添付の乙の就業規則によります。
退職金は当社の規程に基いて継続します。

3.出向期間
平成 年 月 日から、平成 年 月 日までとします。
変更がある場合は期限満了の1か月前までに通知します。

平成〇年〇月〇日

株式会社〇〇     
代表取締役〇〇〇〇 印

出向同意書

上記の諸条件にもとづいて出向することに同意します。

平成〇年〇月〇日

氏名〇〇〇〇    印

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