Last Updated on 2025年7月15日 by 勝
ヒヤリハットとは
ヒヤリハットとは、業務中に「ヒヤリとした」「ハッとした」と感じるような、危険な事態が発生したものの、幸い重大な事故には至らなかった出来事を指します。
これらは単なる偶然の出来事ではなく、重大事故や労働災害の予兆と捉えるべき重要な情報です。
「大きな事故にならなくてよかった」と済ませるのではなく、その体験を組織として共有・分析し、再発防止策を講じることが極めて重要です。
インシデントとの違い
インシデントは、事故・事件が実際に発生したものの、結果として被害が軽微であった事例を指します。
これに対し、ヒヤリハットは「事故寸前」でとどまった出来事であり、必ず当事者が「危険を察知した」ことが特徴です。
つまり:
分類 | 定義 | 発生状況の違い |
インシデント | 実害を伴うが被害が軽微 | 結果として事故が発生(例:軽いけが) |
ヒヤリハット | 事故には至らないが危険な状態 | 危機感はあるが結果として無傷 |
ハインリッヒの法則
ヒヤリハットの重要性を理解する上で、「ハインリッヒの法則」がよく引用されます。
アメリカの技師ハインリッヒ氏が提唱したこの法則では、以下のような比率が示されています:
1件の重大事故の背景には、29件の軽傷事故と、300件のヒヤリハットが存在する。
この「1:29:300の法則」は、重大事故は突然起こるのではなく、繰り返される軽微な事象の積み重ねの上に起こることを意味します。
ヒヤリハットを見逃さず、早い段階での是正措置を講じることが基本です。
ヒヤリハット発生時の対応フロー
ヒヤリハットが発生した際は、以下の3つのステップに沿って対応を行います。
① ヒヤリハット報告書の作成
ヒヤリハットに遭遇した当事者は、事実と気づいたきっかけを正確に記録します。
報告書には、以下の5W1H(いつ・どこで・誰が・何を・なぜ・どう対応したか)を記載します。
報告書記載の基本事項例:
いつ(When):発生日時
どこで(Where):発生場所
誰が(Who):当事者・関係者
何があったか(What):出来事の内容
なぜ起こったか(Why):背景や原因
どう対応したか(How):直後の対応や今後の改善策
内容をデータベース化すれば、類似事例の分析・再発防止策の蓄積に役立ちます。
② 原因の分析と検討
報告された事例について、安全衛生管理担当者や関係部署で原因を分析します。
ここでは個人の責任追及ではなく、組織的な原因の構造を明らかにすることが重要です。
例えば、「作業手順が曖昧だった」「教育が不十分だった」など、再発を防ぐための根本原因に着目します。
③ 再発防止策の策定・実施
原因が明確になったら、具体的な改善策や再発防止策を立案し、組織として実行します。
例:
作業手順書の見直し
教育・訓練の実施
危険箇所の表示や設備改修
再発防止は、従業員一人ひとりの注意喚起だけに頼るのではなく、組織として仕組みで予防することが重要です。
ヒヤリハット報告を促進する工夫
ヒヤリハットの報告は、制度を整えても定着しにくいという課題があります。
そのため、以下のような工夫が有効です。
報告フォーマットを整備する
5W1Hを盛り込んだ簡易な報告フォーマットを用意し、記入の手間を軽減しましょう。
チェック形式や選択式を取り入れることで、報告しやすい雰囲気をつくることができます。
関連書式:ヒヤリハット報告書のサンプル
報告しやすい環境づくり
朝礼・定例会で報告の場を設ける
メール・アプリなどオンライン報告も導入する
報告した従業員を責めず、感謝と評価の姿勢を示す
ヒヤリハットの報告を「自分の責任が問われる」と感じさせないことが、継続的な情報収集には不可欠です。
定期的な研修の重要性
ヒヤリハット対策は、一過性の取組では効果が限定されます。
年1~2回の定期的な安全研修や事例共有会を実施することで、従業員の危機意識やリスク感度を維持できます。
まとめ
ヒヤリハットは、重大事故の手前で止まった「小さな警告」です。 その情報を見逃さず、蓄積・共有・対策につなげることが、安全文化の土台となります。
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