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労働契約

降格させるときの注意点

Last Updated on 2022年8月27日 by

降格とは

降格とは、従業員を従来の役職より下位の役職にする人事発令です。

降格には、懲戒処分としての降格と人事制度上の降格があります。このページでは、人事異動による降格について解説します。

懲戒処分による降格については次のページで解説しています。

関連記事:降格処分

人事異動による降格

人事考課の結果や、職務遂行能力の不足、役職への適格性の欠如を理由として降格することは、原則として、使用者に裁量が認められています。

ただし、人事異動による降格については、人事考課の制度が整っていて、運用も的確に行われていることが前提になります。

職能資格制度は、技能経験の積み重ねで職務遂行能力が上がっていくという制度で、いったん到達した職能資格は下がらない、というのが制度的前提です。もし、職能資格制度において、一度は到達した職務遂行能力も、見直すことがあるとするのであれば、就業規則等に、その旨の規定がなければなりません。

仕事のできが良くない、上司として指導力に欠けるなどの理由による降格は、周りの観察と本人の自覚が食い違うことが多いものです。漠然と「皆んなが言っていた」程度のことで降格にしてしまうと、争いになったときに具体的な証拠を提示できずに困惑してしまうことがあります。具体的にどういうことがあったのかなど、降格を決定するにいたった事情についてきちんとした記録を残しておく必要があります。

問題のある降格

人事異動による降格であっても、権利濫用と認められる場合には無効となり、場合によっては不法行為と評価され損害賠償請求の対象になることがあります。

正当な権利行使に対抗する降格発令

妊娠、出産に伴う権利、例えば、育児休業の取得を契機とする降格は違法です。

(婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止等)
男女雇用機会均等法第9条 事業主は、女性労働者が婚姻し、妊娠し、又は出産したことを退職理由として予定する定めをしてはならない。
2 事業主は、女性労働者が婚姻したことを理由として、解雇してはならない。
3 事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第六十五条第一項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第二項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
4 妊娠中の女性労働者及び出産後一年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は、無効とする。ただし、事業主が当該解雇が前項に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明したときは、この限りでない。

上記以外にも有給休暇の取得など、法律に定められた正当な権利行使を理由とする降格処分は、法律の権利行使を妨害すること自体が違法なので、当然に無効になります。

違法な降格発令は本人の円満な同意があっても違法とされます。

不当な動機がある降格発令

一般に、その人事発令が他の不当な動機、目的をもってなさる場合、例えば、退職に追い込むことを狙いに、実行するのであれば、人事権の濫用に該当します。

過度にダメージを与える降格発令

また、不当な動機がなかったとしても、その人事発令が、過酷なものであって、通常受忍すべき程度を著しく超えると判断されれば、人事権の濫用に該当する可能性が高くなります。

経済的な不利益が大きい降格発令

降格した場合の賃金の扱いですが、基本給の減額は重要な労働条件の不利益変更となるので避けたほうがよいでしょう。

基本給に役職手当相当分が含まれているなどの理由で減給を実施する場合は、就業規則(給与規程等を含む)に減給を適用する基準や減額する額(あるいは減額の幅)などが明確に記載され、その規定に基づいて実施しなければなりません。つまり、抽象的な減額規定では実施が困難です。さらに就業規則と同様に周知されていることも適用条件になります。

尚、降格に伴って従前の役職手当が支給されなくなることについては、その降格そのものに問題がない限り、特に問題となることはありません。

病気を理由にした降格発令

病気を抱える従業員には配置転換などの負担軽減措置をとるべきです。これは、労働安全衛生法が求める安全配慮義務でもあります。責任を軽くするための役職の解任もその一つです。

しかし、本人への説明不足があると、無理やり降格されたというトラブルになることがあります。特にメンタル面での病気のときは、不安感も強くなっているので、コミュニケーションに気をつかう必要があります。

降格により減給になる場合

人事異動による降格による降格には、原則として労働基準法第91条の減給の限度額の基準は適用されません。

役職手当の減少

例えば、課長であった者が総務部付に転じた場合は、その任にあるときだけ支給することが就業規則に明確であれば、課長手当が無くなっても問題ないと考えられます。

基本給の減少

通常、基本給は、任じられている役職とは関係ない要素で決められています。その会社の賃金規程にもよりますが、降格の結果として基本給を減額させれば、労働条件の不利益変更に該当する可能性があります。

基本的には、労働者に不利益な変更であっても、合意があれば変更できますが、「対等の立場における合意」である必要があるのでハードルは高いです。

(労働契約の原則)
労働契約法第三条 労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとする。
(労働契約の内容の変更)
第八条 労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。

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