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雇用保険

従業員のリスキリングを後押し!「教育訓練休暇給付金」を徹底解説(事業主向け)

Last Updated on 2025年7月15日 by

変化の激しい現代において、従業員のスキルアップやキャリア形成は企業にとって喫緊の課題です。今回は、従業員が安心して教育訓練に専念できるよう国が支援する「教育訓練休暇給付金」について、事業主・人事担当者の皆様が知っておくべきポイントを詳しく解説します。

「教育訓練休暇給付金」とは?

「教育訓練休暇給付金」とは、労働者が離職することなく、教育訓練に専念するために自発的に休暇を取得した場合に、その訓練・休暇期間中の生活費を保障するため、失業給付(基本手当)に相当する給付として、賃金の一定割合が支給される制度です。

この制度の大きなポイントは、従業員が「仕事から離れて」学び直すことを支援する点にあります。企業としては、この制度を導入・活用することで、従業員の主体的な能力開発を支援し、結果として組織全体の生産性向上や人材定着にもつながります。

この制度は2025年10月から始まります。

支給対象となる休暇の主な要件

教育訓練休暇給付金の支給対象となる休暇は、以下のすべての要件を満たす必要があります。

就業規則や労働協約等に規定された休暇制度に基づく休暇であること

労働者本人が教育訓練を受講するため自発的に取得を希望し、事業主の承認を得て取得する休暇であること。業務命令による休暇取得では給付金は支給されません。

連続した30日以上の無給の教育訓練休暇であること

    ◦ 休暇期間中に収入を伴う就労を行った日や、有給休暇、育児休業などの異なる休暇・休業を取得した日は、教育訓練のための休暇とは認められず、給付は受けられません。

    ◦ ただし、事業主から資格取得のための手当(受講費用や受験料の一部補助など)が支給される場合でも、それが就労の対価でなければ給付金は不支給にはなりません。

次に定める教育訓練等を受けるための休暇であること

    ◦ 学校教育法に基づく大学、大学院、短大、高専、専修学校、各種学校。

    ◦ 教育訓練給付金の指定講座を有する法人等が提供する教育訓練等。

    ◦ 職業に関する教育訓練として職業安定局長が定めるもの(司法修習、語学留学、海外大学院での修士号の取得等)。

支給対象者(労働者)の要件

教育訓練休暇給付金の支給対象となるのは、一定の条件を満たす雇用保険の一般被保険者です。高年齢被保険者、短期雇用特例被保険者、日雇労働被保険者は対象外となります。具体的には、以下の両方を満たす必要があります。

• 休暇開始前2年間に12か月以上の被保険者期間があること(原則として、11日以上の賃金支払いの基礎となった日数がある月が算定の対象)。

• 休暇開始前に5年以上、雇用保険に加入していた期間があること。

    ◦ 過去に基本手当(失業給付)や教育訓練休暇給付金、育児休業給付金、出生時育児休業給付金を受けたことがある場合、通算できない期間が生じる場合があります。

    ◦ 離職期間があったとしても、12か月以内であれば離職前後の期間を通算できます(ただし、離職期間が12か月以内であっても失業給付等を受給していた場合は通算できません)。

支給額と給付日数

給付日額は、原則として休暇開始日前6か月の賃金日額に応じて算定されます。これは失業給付の算定方法と同じです。

給付日数は、雇用保険に加入していた期間に応じて異なります。

    ◦ 5年以上10年未満:90日

    ◦ 10年以上20年未満:120日

    ◦ 20年以上:150日

受給期間は、休暇開始日から起算して1年間です。この期間内に取得した教育訓練休暇について給付が受けられます。所定給付日数が残っていても、受給期間を過ぎると給付は受けられません。ただし、妊娠、出産、育児、疾病、負傷などの事由が生じた場合は、受給期間を延長できる場合がありますので、ハローワークへの相談が必要です。

事業主(人事担当者)の皆様に求められる対応

従業員が教育訓練休暇給付金を受給するためには、事業主の皆様のご協力・ご対応が不可欠です。

1.教育訓練休暇制度の整備と周知

• まず、教育訓練休暇に関する規定を就業規則または労働協約等に盛り込み、従業員に周知する必要があります。

• 「教育訓練休暇給付金は無給の休暇が対象」「雇用保険加入期間5年以上の一般被保険者が対象」「業務命令によらず自発的に取得する休暇であること」などを明示することが重要です。

• 規定例については、厚生労働省のパンフレットをご覧ください。働き方改革推進支援センターで相談が可能です。

2.労働者との合意形成

• 従業員から教育訓練休暇の取得について申し出があった場合、期間や内容を調整し、合意形成を行う必要があります。

• 合意後、従業員から提出される「教育訓練休暇取得確認票」に必要事項を記載します。この確認票には、休暇期間、教育訓練の目標、内容、実施方法などが含まれます。

3.ハローワークへの必要書類の提出

事業主の皆様がハローワークへ提出する必要がある主な書類は以下の通りです。

教育訓練休暇開始時賃金月額証明書

休暇制度が規定されている就業規則等(写し)

対象労働者に係る賃金台帳、出勤簿等の賃金・就労実態が確認できる書類(写し)

これらの書類は、対象労働者の休暇開始日の翌日から起算して10日を経過するまでの間に、事業所の所在地を管轄するハローワークに提出する必要があります

4.ハローワークからの書類交付と労働者への速やかな交付

• 事業主が提出した書類に基づき、ハローワークから「賃金月額証明票(本人手続用)」と「教育訓練休暇給付金支給申請書」が交付されます。

• 事業主は、これらの書類を速やかに教育訓練休暇を取得している被保険者(労働者)に交付しなければなりません

事業主の皆様への注意事項

解雇等を予定している労働者への虚偽の届出は厳禁です。虚偽の届出を行った場合、罰則の対象となる可能性があり、また、教育訓練休暇を取得した労働者を解雇等すると、一定期間、雇用関係助成金の支給を受けられなくなる場合があります。

休暇期間中の就労は認められません。教育訓練に専念していただく必要があるため、教育訓練休暇中に出勤を求めることは認められず、30日以上連続して無給の休暇を取得する必要があります。

被保険者期間のリセット:教育訓練休暇給付金の支給を受けた場合、休暇開始日より前の被保険者期間はリセットされ、通算できなくなるため、原則として、一定期間は失業給付などの被保険者期間を要件とする給付金を受給できなくなる点も把握しておく必要があります。

関連する助成金・相談窓口

人材開発支援助成金(人への投資促進コース):長期教育訓練休暇制度(30日以上取得可能な休暇)を導入し、実際に労働者に適用した事業主は、この助成金の対象となる場合があります。

働き方改革推進支援センター:就業規則への休暇制度導入に関する個別相談を受け付けています。

ハローワーク:教育訓練休暇給付金の手続き全般について、事業主は事業所を管轄するハローワークへ、労働者は住居所を管轄するハローワークへお問い合わせください。

教育訓練給付金:教育訓練休暇給付金と併せて、教育訓練の受講費用の一部を給付する教育訓練給付金も利用できる場合があります。

キャリア形成・リスキリング推進事業:キャリアコンサルティングを無料で受けられます(ただし、給付金の手続きや対象講座の案内とは異なります)。

まとめ

「教育訓練休暇給付金」は、従業員がキャリアアップのために長期の学び直しに挑戦する際に、その生活を保障する画期的な制度です。事業主の皆様にとっては、従業員の自律的な成長を促し、結果として企業の競争力強化にも繋がる重要なツールとなり得ます。


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