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労働契約

賃金引き下げの注意点

Last Updated on 2024年11月16日 by

原則として不利益変更はできない

給与を下げることはできますか?

給料の引き下げは「不利益変更」にあたります。原則としてできません。

(就業規則による労働契約の内容の変更)
労働契約法第9条 使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。

「この限りでない」の部分は就業規則の変更による不利益変更です。

合意があれば変更可能

労働契約法第3条に、労働契約は対等の立場における合意に基づいて締結するという規定があります。

(労働契約の原則)
労働契約法第3条 労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとする。

つまり、合意によって締結したものは、合意があれば変更できると読めます。対象となる個々の労働者が引き下げに合意するのであれば給料を下げてもよいということになります。

ただし、給料を下げられることを進んで合意する人はいません。合意を得るのは大変難しいと思われますが、説明をして納得してもらえらば合意が成立します。

無理強いした合意は無効です。有効な合意は「対等の立場における合意」です。強要(上司の力でゴリ押しするなど)、脅迫(同意しないとクビにすると言うなど)、詐欺(本当はそれほどでないのに合意しないと会社がつぶれると言うなど)、それに類似した行為によって取り付けた合意は無効になります。

したがって、説明ないし説得は、密室で個別にやるべきでなく(それだけで強要ととられる可能性があります)、職場ごとあるいは役職ごとのグループ別の説明会のかたちで、配布資料を用意して行なうべきでしょう。

説得にあたっては、賃下げの幅と期間を明示し、なぜ賃下げしなけれならないかなどを資料を示して丁寧な説明し(ただし長時間になると強要とみられる)、即答を求めるのではなく考慮時間を与え、自由な意志による合意を取付けるよう努めなければなりません。

また、会社としては、後日の釈明に備えて、何日何時何分から何時何分、どこで、誰が、誰の同席のもと、誰に対してどのように説明したかを記録し、説明に使用した文書をすべて保存しておきましょう。

合意を得ないまま強行するとどうなりますか?

ある裁判例では、会社更生法の適用を受けた会社が管理職の賃金を20%カットしたのですが、一方的な通知だけで同意をとっていないということで、会社が負けています。会社更生法適用中という事態であっても一方的な賃金カットはできないという例です。

就業規則による変更

労働契約法第9条に「この限りではない」と定めているのは、第10条による就業規則変更による労働条件変更です。

就業規則の変更による労働条件変更については、手続きや内容等についての制約が定められています。(第10条)

具体的には、変更内容等が「労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものである」必要があります。

就業規則による不利益変更については別記事で解説しています。

関連記事:就業規則改定による不利益変更

労働協約による変更

個々の同意ではなく、労働組合との労働協約によって不利益変更の同意をとる方法もあります。ただし、労働協約は労働組合との間でしか結べないので労働組合がない会社は対象外です。

関連記事:労働協約とは


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