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労働協約の基礎知識

Last Updated on 2024年11月3日 by

労働協約とはどのようなものか

労働協約とは、労働組合と使用者が労働条件等について締結する文書のことです。

労働組合法に労働協約の要件が定められています。労働協約とは、労働組合と使用者とが取り交わすさまざまな協定、取り決めなどのうち、労働組合法14条の要件(書面に記すこと、締結両当事者の署名または記名押印)を満たしたものをいいます。

労働組合と使用者の間でのみ締結できるので、労働組合のない会社に労働協約はありません。

労働協約の要件

書式に決まりはありません。ですから、メモのようなものでも双方の記名押印があれば有効な労働協約です。なので、正式な合意を記載した労働協約書を作る前に、議事録や確認メモなどが提示されても、安易に署名又は記名押印に応じてはいけません。

署名又は記名押印する者は、その労働協約を締結する権限を有する者でなければならず、労働組合側は執行委員長、使用者側は事業主あるいは代表権を持つ取締役が署名又は記名押印するのが通常です。

労働協約の締結当事者は、労働者側は労働組合とその連合団体とされているので、個人加盟のいわゆる「合同労組」なども労働協約の締結当事者になります。

書面にしなかった部分や、署名又は記名押印がない文書は、労働協約の要件を欠いているので、労働協約としては無効ですが、約束事(口頭契約等)である以上、効力がないとは言えずトラブルになることがあります。

労働協約の期間を定める場合、3年を超える有効期間を定めることはできません。有効期間を定めなかったときは、期間の定めのない労働協約となり、当事者の一方が、解約しようとする日の少なくとも90日前に署名又は記名押印した文書で相手方に予告すれば、解約すること ができます。

また、包括的な労働契約を締結してもよいし、課題毎に一つずつ労働協約が存在しても構いません。

不当労働行為に注意

合意が成立したにもかかわらず正当な理由なく、労働協約の成立を妨害する意図的で署名又は記名押印を拒むことは、不当労働行為の可能性があります。

なお、労働組合との交渉に応じないのは不当労働行為として禁じられていますが、組合の主張をそのまま受け入れなければならないとは定められていません。会社も会社の状況に基づく主張をする権利があります。場の雰囲気に流されて、冷静さを欠いて署名してしまうことは避けなければなりません。

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労働組合との交渉は、労働組合法などの知識がなければ思わぬ不利な状況に陥ることがあります。このような事態にならないためにも、労使交渉の経験がない会社では、団体交渉の申し入れがあった場合は、団体交渉を受けることを前提に弁護士等の専門家に、どのように対応をすべきか、どのような点に注意をすべきかアドバイスを受けることが必須だろうと思います。

労働協約は労働契約や就業規則より強い

労働協約で定めた労働条件は、個々の従業員と結んだ労働契約(雇用契約)より優先します。

労働条件その他の労働者の待遇に関する基準を定めた労働協約は、これに反する労働契約の定めはその部分については無効となり、無効となった部分は労働協約の基準がこれに代わることとになります。

しかも「労働契約に定めがない場合」も同様とされていますので、結局、労働協約の「労働者の待遇」に関する定めはそのまま労働契約上の合意と同じ意義を有するということになります。

また、労働協約は就業規則より優先します。使用者が一方的に作成変更できる就業規則よりも、労働者の団体である労働組合が使用者と結んだ労働協約が優先するということです。

つまり、

法令>労働協約>就業規則>労働契約

という関係になります。

労働協約の効力の及ぶ範囲

労働協約は、一般的には、締結した労働組合に加入している組合員全員に適用され、当該組合員でない者に対して効力が及びません。上記の優位関係で言えば、非組合員については就業規則が優先するということになります。

しかし、工場事業場に常時使用される同種の労働者の4分の3以上の数の労働者が一つの労働協約の適用を受けるに至った時は、当該工場事業場に使用される他の同種の労働者に関しても当該労働協約が適用されるという規定(労働組合法17条)があります。

労働組合法18条では、特定の地域で大多数の同種の労働者が一つの労働協約の適用を受けるに至った場合には労働委員会の決議にもとづいて当該地域の他の同種の労働者及びその使用者にも当該労働協約が適用されることがあると定めています、しかし、この条文により地域レベルに拡張適用された例はほとんどないようです。

現物支給と労働協約

現物支給とは、例えば、賞与の一部または全部を自社製品で支給することをいいます。

給与や賞与などの賃金を現物で支給することは労働基準法24条で原則として禁止されていますが、労働協約を締結すれば賃金の現物支給をすることができます。

労働協約が条件ですから、労働組合のない会社等は賃金の現物支給をすることができません。


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