派遣元と派遣先の間で締結される「労働者派遣契約書」には、労働者派遣法により定めるべき多くの必須事項があります。通常、「労働者派遣基本契約書」と、個々の派遣社員・業務ごとに結ぶ「労働者派遣個別契約書」の2種類がありますが、ここでは特に重要な個別契約書の典型的なモデルと解説を行います。
労働者派遣個別契約書の典型的なモデル(主要項目)
| 項目 | 記載内容の例 | 解説 |
|---|---|---|
| 1. 派遣労働者が従事すべき業務の内容 | 経理業務における仕訳入力、月次決算補助、売掛金・買掛金管理(ただし電話応対は含まない) | 最重要項目。 派遣労働者はここに記載された業務以外に従事することはできません。 |
| 2. 就業の場所と組織単位 | 就業場所:○○株式会社 東京本社 経理部/所在地の住所 | 就業する事業所の名称・所在地、および組織単位(部署名など)を明記します。契約外の場所や部署への異動はできません。 |
| 3. 指揮命令者に関する事項 | 派遣先指揮命令者:経理部長 山田太郎(役職、氏名、連絡先) | 派遣労働者を直接指揮命令する者の氏名・役職を定めます。この者以外は、原則として指揮命令はできません。 |
| 4. 派遣期間 | 令和7年4月1日~令和7年9月30日 | 派遣の開始日と終了日を明記します。派遣可能期間の制限(いわゆる「3年ルール」)にも関わります。 |
| 5. 就業日、始業・終業の時刻、休憩時間 | 就業日:月曜日から金曜日/始業:9:00 終業:18:00/休憩時間:12:00~13:00(60分) | 派遣労働者の就業スケジュールを具体的に定めます。 |
| 6. 安全及び衛生に関する事項 | 労働安全衛生法等に定める事項は、派遣先・派遣元双方の責任分界に基づき遵守する。 | 労働安全衛生法上の責任分界(派遣先が責任を負う事項:作業環境測定、定期健康診断など)を明確にします。 |
| 7. 苦情の処理に関する事項 | 派遣元苦情処理窓口:人事部 相談担当 〇〇(電話番号)/派遣先は派遣元の苦情処理に協力する。 | 派遣労働者からの苦情申出先と、派遣元・派遣先の役割分担を定めます。 |
| 8. 待遇決定方式 | (a) 労使協定方式の対象となる派遣労働者に限るか否かの別 | 労使協定方式か派遣先均等・均衡方式か、どちらの待遇決定方式を適用するかが分かるよう、必ず明記が必要です。 |
| 9. 契約解除時の措置 | 派遣先の都合により契約を中途解除する場合、派遣元と協議し、派遣労働者の新たな就業機会の確保など必要な措置を講じる。 | 派遣労働者の雇用の安定を図るために必須の項目です。 |
| 10. 時間外・休日労働 | 所定時間外労働:有(1日2時間、1ヶ月45時間、1年間360時間以内) | 派遣元の36協定の範囲内で、時間外・休日労働を命じる際の限度を定めます。 |
| 11. 責任の程度 | 従事する業務に伴う責任の程度:一般事務の範囲とし、部下に対する指揮命令や金銭の出納・管理は行わない。 | 同一労働同一賃金の観点から、職務の内容に伴う責任の程度を明確にすることが求められます。 |
特に注意が必要な部分の解説
業務内容の特定と契約外業務の禁止(最重要)
- 注意点: 契約書に記載のない業務を派遣労働者に指示することは、労働者派遣法違反(違法派遣)となり、行政処分の対象となります。
- 解説: 契約書には、派遣労働者に任せる業務を可能な限り具体的かつ詳細に記載する必要があります。
- 例: 「一般事務」 のような曖昧な記載ではなく、「データ入力、資料作成(Excel)、ファイリング」などと具体化します。
- もし、契約内容にない業務を依頼したい場合は、必ず事前に派遣元と協議し、契約書を再締結(変更)する必要があります。
派遣期間の制限(抵触日の明記)
- 注意点: 派遣期間には、原則として「組織単位(部署)の業務」について3年間という制限があります。
- 解説: 派遣先は、派遣契約を締結する際、この期間制限に抵触する日(抵触日)を、派遣元へ書面で通知する義務があります(法第26条第4項)。この抵触日を超えて派遣を受け入れることはできません。
- ただし、無期雇用派遣労働者、60歳以上の派遣労働者、有期プロジェクト業務などは期間制限の例外となります。
待遇決定方式(労使協定方式/均等・均衡方式)
- 注意点: 2020年4月の法改正により、派遣労働者の待遇は「労使協定方式」または「派遣先均等・均衡方式」のいずれかで決定することが義務付けられました。
- 解説: 契約書には、どちらの方式の対象となる派遣労働者であるかを必ず明記する必要があります。これにより、派遣元は待遇決定の根拠を、派遣先は待遇確保に必要な情報提供の義務(派遣先均等・均衡方式の場合)を認識します。
契約の中途解除時の措置
- 注意点: 派遣先の都合による一方的な中途解約は原則できません。やむを得ず解約する場合、派遣先は派遣労働者の雇用の安定を図るための措置を講じる責任を負います。
- 解説: 具体的な措置としては、新たな就業機会の確保(他の派遣先での仕事紹介)、またはそれができない場合の休業手当等に相当する損害の賠償などが含まれます。この義務を果たすための手続きを契約書に明記します。
派遣労働者の氏名
- 注意点: 個別契約書自体には、原則として派遣労働者(働く人)の氏名を記載してはいけません。
- 解説: 派遣契約は、業務内容や就業条件について派遣元と派遣先の間で結ぶものであり、特定の労働者の氏名を記載すると、派遣先が派遣労働者を選別(面接等)したとみなされ、違法な行為(事前面接の禁止)と判断されるリスクが生じるためです。派遣労働者の氏名は、別途、派遣就業開始前に派遣先へ通知されます。
これらの点に特に注意し、派遣契約書を作成・確認することが、法令遵守とトラブル防止の鍵となります。

