派遣労働者を決定するにあたって、派遣先企業が派遣労働者と面接したり、履歴書を提出させたりして選考することは、法律で原則禁止されています。 これは、派遣労働者の保護と、派遣先による不当な選別を防ぐための重要なルールです。
なぜ「事前面接・選考」が禁止されているのか
その目的は、派遣労働者の立場を保護し、雇用関係の安定性を守ることにあります。
- 雇用主の責任の明確化: 派遣労働者と雇用契約を結んでいるのは派遣元(派遣会社)です。派遣先が選考を行うと、あたかも派遣先が雇用主であるかのように誤認され、本来派遣元が負うべき雇用責任が曖昧になる恐れがあります。
- 不当な選別の防止: 派遣先が面接や履歴書で派遣労働者を選別できるようにすると、年齢、性別、容姿、家族構成など、業務遂行能力と無関係な要素で不当に不採用とする差別的な選考が行われるリスクが高まります。
- 雇用の安定: 派遣元は、派遣労働者に安定した雇用機会を提供する必要があります。派遣先が自由に選考し不採用にできると、派遣元が雇用した労働者がいつまでも就業できず、雇用の安定が損なわれてしまうためです。
禁止される具体的な「特定行為」
派遣先が、派遣労働者を特定したり選別したりするために行う以下の行為は、原則として禁止されています。
| 禁止される行為 | 具体例 |
| 面接の実施 | 派遣労働者を特定の業務に就かせる前に、派遣先の担当者が対面、オンライン、電話などで応募者と接触し、選考の要素を含む質問をすること。 |
| 履歴書等の提出要求 | 派遣先が、派遣元を通じて、派遣労働者の履歴書、職務経歴書、または戸籍謄本などの個人情報が特定される書類を提出させ、選考の材料にすること。 |
| 性別、年齢等の指定 | 派遣元に対し、派遣労働者の性別、年齢、または容姿などを指定して依頼すること。 |
| 派遣元による選別依頼 | 派遣先が派遣元に対し、「面接代わり」として、派遣元側で特定の基準に基づいて派遣労働者を選別し、その結果を報告させること。 |
事前面接の禁止は、派遣ビジネスの根幹に関わるルールであり、違反した場合は行政指導や勧告の対象となります。
許容される例外的なケース
原則禁止ですが、一部の例外的なケースや、選考ではない情報確認の方法は認められています。
紹介予定派遣の場合
- 将来的に派遣先で直接雇用(正社員など)することを予定している紹介予定派遣の場合に限り、派遣期間終了後の採用選考を目的として、面接や履歴書の提出が認められています。
業務能力の確認(選考ではない接触)
- 選考を目的としない、業務遂行能力の確認や職場見学などは認められる場合があります。
- 例: 高度な専門スキルを要する業務の場合、派遣元と派遣先が共同で、派遣労働者のスキルシートに基づいて業務能力を確認すること。
- 例: 派遣労働者が自ら希望した場合に、職場環境や業務内容の確認のための派遣先への訪問(顔合わせと呼ばれることもありますが、選考要素を含まないことが必須条件です)。
無期雇用派遣労働者・60歳以上の派遣労働者
- 派遣元に無期雇用されている派遣労働者や、60歳以上の派遣労働者については、雇用安定の観点から、派遣先が派遣労働者を特定することを目的とする行為が緩和される場合がありますが、選考を目的とする面接は引き続き禁止されています。
法律上は努力義務
労働者派遣法第26条第6項(現行法では第7項に相当) 労働者派遣(紹介予定派遣を除く。)の役務の提供を受けようとする者は、労働者派遣契約の締結に際し、当該労働者派遣契約に基づく労働者派遣に係る派遣労働者を特定することを目的とする行為をしないように努めなければならない。
この規定は、「しないように努めなければならない」という表現が使われており、これは努力義務と解されています。
努力義務規定の違反については、それ自体を理由とした行政罰(罰則や過料)は設けられていません。
しかし、派遣労働者の特定行為は、以下の理由から極めて厳しく規制されており、実質的には禁止に近いと理解しておく必要があります。
- 実質的な禁止: 派遣元が派遣労働者の選考に関与する派遣先の要望に応じることや、派遣先が派遣労働者を特定できる情報を提供させることなどは、行政通達や指針により、違法な事前面接(選考)とみなされ、指導・処分の対象となります。
- 派遣元への影響: 派遣先が特定行為を行った場合、その結果として派遣元が派遣労働者を変更したり、不採用としたりすると、派遣元事業主が職業安定法の規定(労働者供給事業の禁止)に違反する労働者供給事業に該当するとして、行政処分の対象となるリスクがあります。
