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  • 初心者でもわかる!固定資産管理の基本

    「固定資産管理」と聞くと、なんだか難しそう、専門的な知識が必要そう、と感じる方も多いかもしれません。ですが、実は事業を続ける上でとても大切な業務の一つです。この記事では、固定資産管理の基本を、初心者の方にもわかりやすく解説します。

    そもそも「固定資産」ってなに?

    固定資産とは、会社が長期にわたって保有し、事業のために使う資産のことです。

    たとえば、

    建物(オフィス、工場、倉庫)
    土地
    機械装置(製造用機械、建設機械)
    車両運搬具(営業車、トラック)
    工具器具備品(パソコン、机、エアコン)

    これらは、日々の営業活動で消費される商品や現金(流動資産)とは異なり、すぐに現金化するものではなく、会社の基盤を支えるものです。

    なぜ固定資産管理が必要なの?

    「買ったものを記録しておけばいいんじゃない?」と思うかもしれませんが、固定資産管理には主に3つの重要な目的があります。

    1.正確な財務諸表の作成:会社の財産状況を正確に把握し、貸借対照表(バランスシート)に正しく記載するためです。

    2.減価償却費の計算:固定資産は時間が経つにつれて価値が減っていきます。この価値の減少分を「減価償却費」として費用計上することで、正しい利益を計算できます。

    3.資産の所在・状態の把握:どこに、どんな固定資産があるのか、現状はどうなっているのかを管理することで、無駄な購入を防ぎ、紛失や盗難のリスクを減らします。

    特に、減価償却費の計算は固定資産管理の核となる部分です。

    「減価償却」ってなに?

    たとえば、会社が120万円の機械を購入したとしましょう。この120万円を、購入した年の費用として全額計上してしまうと、その年の利益が大きく減ってしまいます。しかし、この機械は数年以上にわたって使うものです。

    そこで、「減価償却」という考え方を使います。

    「120万円の機械を4年間使う」と仮定した場合、毎年30万円ずつ費用として計上していく、という方法です。

    1年目:30万円を費用に
    2年目:30万円を費用に
    3年目:30万円を費用に
    4年目:30万円を費用に

    このように、固定資産の取得費用を、使用する期間にわたって少しずつ費用に振り分けていく手続きが「減価償却」です。(分かりやすくするために定額式で説明しました)

    関連記事:減価償却って何?初心者でも10分でわかる資産価値の減り方の仕組み

    この減価償却費を正確に計算するには、いつ、いくらで、どんな資産を購入したのかを正確に把握しておく必要があります。

    関連記事:土地や機械はいくらで計上する?固定資産の取得価額をやさしく解説

    購入後に修繕した場合に、経費処理ができず資産価額に加算しなければならない場合があります。

    関連記事:全部を修繕費として経費にできるわけではない、資本的支出についての解説

    減価償却計算をもとに、償却資産申告書を作成して、市区町村に申告して固定資産税(償却資産税)を納付します。

    関連記事:初心者向け!減価償却費の計算と償却資産申告書の作成ガイド

    固定資産管理、何から始めればいい?

    まずは、手元にある固定資産をリストアップすることから始めましょう。

    1.資産の洗い出し:帳簿上の固定資産と、実際に会社にある固定資産が一致しているかを確認します。

    2.台帳の作成:固定資産台帳を作成し、取得日、取得価格、耐用年数、減価償却の方法などを記録します。

    3.減価償却計算:台帳の情報を元に、毎年の減価償却費を計算します。

    4.現物管理:資産に管理番号をつけたり、所在を定期的に確認したりして、紛失や盗難を防ぎます。

    これらの作業は、Excelなどの表計算ソフトでもできますが、固定資産管理専用のソフトやクラウドサービスを使うと、より効率的に、正確に行うことができます。

    関連記事:これで解決!固定資産管理を楽にするクラウドシステム

    まとめ

    固定資産管理は、会社の財産を正確に把握し、健全な経営を続けるための大切な業務です。会社の財産をきちんと管理することで、無駄な出費をなくし、将来にわたって安定した経営基盤を築くことができます。


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  • 社内サーバーからクラウドサービスへ、現状と方向性

    社内サーバー(オンプレミス)とクラウドサービスの利用状況は、企業の規模や業種によって異なりますが、クラウドへの移行が主流となりつつあります。それぞれの現状、問題点、そして今後の方向性について解説します。

    現状:クラウドへの移行が進む

    社内サーバー(オンプレミス)

    多くの企業がこれまで利用してきた方式です。自社でサーバー機器を購入・設置し、自社のデータセンターやオフィス内にシステムを構築・運用します。特に、金融機関や官公庁など、高いセキュリティや独自のシステム要件が必要な企業で依然として多く利用されています。

    用語について

    「社内サーバー」と「オンプレミス」は、どちらも自社内に物理的なサーバーを設置して運用する形態を指しますが、文脈によって使い分けるのが適切です。

    社内サーバー: この言葉は、より口語的で一般的な表現です。ITの専門知識がない人にも分かりやすく、「会社の中に置かれているサーバー」というイメージを伝える際に適しています。

    オンプレミス: この言葉は、より専門的で技術的な表現です。IT業界やシステム開発の文脈で使われることが多く、クラウドサービスとの対比を明確にする際に用いられます。

    例えば、以下のように使い分けることができます。

    一般的な会話: 「うちはまだ社内サーバーでデータを管理しているんだ。」

    専門的な会議: 「オンプレミス環境からAWSへの移行を検討しています。」

    どちらも間違いではありませんが、話す相手や状況に応じて使い分けることで、より正確なコミュニケーションが可能になります。

    クラウドサービス

    Amazon Web Services (AWS) や Microsoft Azure、Google Cloud Platform (GCP) など、インターネット経由でITインフラを利用する方式です。スタートアップ企業から大手企業まで、業種を問わず導入が進んでいます。特に、柔軟なスケーリング(規模の増減)やコスト効率の良さから、Webサービスやデータ分析など、新しいビジネスで広く活用されています。

    国内企業が提供するクラウドサービス

    クラウドサービスは海外の大手クラウドサービス(AWS、Azure、GCPなど)が市場の多くを占めていますが、国内企業のクラウドサービスも人気です。

    国内企業のクラウドサービスは、主に以下の特長があります。

    安心感: データセンターが国内にあるため、災害対策やデータの保管場所について安心して利用できるという企業が多いです。

    サポート体制: 日本語での手厚いサポートや、国内の商習慣に合わせた機能が充実しています。

    国内企業が提供するクラウドサービスには、次のようなものがあります。

    NTTグループ: NTT東日本の「コワークストレージ」など、中小企業向けのクラウドサービスを提供しています。高い信頼性と手厚いサポートが強みです。

    富士通: 企業の基幹システムにも利用される、信頼性の高いクラウドサービスを展開しています。

    ソフトバンク: Web会議システムやストレージ、セキュリティサービスなど、幅広い機能を提供しています。

    ほかにもたくさんあります。これらのサービスは、それぞれ得意とする分野や料金体系が異なるため、自社の目的に合わせて比較検討することが重要です。

    それぞれの問題点

    社内サーバー(オンプレミス)の問題点

    高コスト: サーバー機器の購入費用、設置スペース、電力、空調、メンテナンス、専門要員の確保による人件費など、初期投資と運用コストが高くなります。

    運用負荷: サーバーの保守・管理、ソフトウェアのアップデート、セキュリティ対策など、専門知識を持つ人材を一定程度配置しなければなりません。

    柔軟性の低さ: システムの規模を変更する際、サーバー機器の追加・設定に時間がかかり、ビジネス環境の変化に迅速に対応することが難しいです。

    災害リスク: 地震や火災などの災害により、サーバーが物理的に損傷し、データが失われるリスクがあります。

    クラウドサービスの問題点

    セキュリティ: サービス提供者のセキュリティ対策に依存するため、自社で全てのコントロールを持つことはできません。また、設定ミスによる情報漏洩リスクも存在します。

    コストの予測: 従量課金制のため、利用状況によっては想定以上のコストが発生する可能性があります。

    システム障害: クラウドサービス自体の障害が発生した場合、自社のサービスも停止するリスクがあります。

    ベンダーロックイン: 特定のクラウドサービスに依存すると、将来的に他のサービスへ移行することが困難になる可能性があります。

    今後の方向性

    今後の主流は、クラウドファースト、すなわち、ITシステムを構築する際にまずクラウドサービスの利用を検討する、という考え方です。しかし、全てのシステムをクラウドに移行するわけではなく、以下のような方針が一般的になります。

    ハイブリッドクラウド: 企業の基幹システムや機密性の高いデータは社内サーバーで運用し、それ以外のシステムはクラウドサービスを利用するなど、両者を組み合わせて利用する方式です。

    マルチクラウド: 複数のクラウドサービスを使い分けることで、特定のベンダーへの依存を避け、リスク分散を図る方式です。

    セキュリティ対策の強化: クラウドサービスの利用が増えるにつれて、アクセス制限や暗号化、ログ監視など、クラウド環境に特化したセキュリティ対策の重要性が増していきます。

    企業は、それぞれのメリット・デメリットを十分に理解した上で、自社のビジネス戦略やリスク許容度に合わせて、最適なITインフラを選択していくことになります。


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  • 人事情報などの機密情報へのアクセス制限について解説

    賃金台帳などの機密性が高い資料へのアクセス制限は、複数の方法を組み合わせて行われます。主な方法として、従業員の権限に応じたアクセス制限、端末の制限、認証方法の強化などがあります。

    従業員の権限に応じたアクセス制限

    これは最も基本的な方法です。従業員を役割や職務に応じてランク付けし、アクセスできる情報の範囲を厳密に定めます。

    職務に応じた権限設定: 賃金台帳や労働者名簿には、給与計算や人事管理を行う担当者のみがアクセスできるようにします。一般の従業員や、それ以外の部署の管理職は、原則として閲覧できないように設定します。

    「職務権限表」の作成: 誰がどの情報にアクセスできるか、書面や電子データで明確に定めた「職務権限表」を作成・運用することで、アクセス権限を管理します。

    接続できる端末の制限

    特定の端末やネットワークからのみアクセスを許可する方法です。これにより、不正な端末からの情報漏洩リスクを減らします。

    IPアドレス制限: 社内の特定のネットワーク(例:経理部のLAN)に接続された端末からのみ、賃金台帳のデータベースにアクセスできるように設定します。

    デバイス認証: 会社が許可した特定のPCやタブレット端末でなければ、クラウドサービスにログインできないように設定します。これにより、個人のPCやスマートフォンからのアクセスを制限できます。

    認証方法の強化

    パスワードに加えて、複数の認証要素を組み合わせることでセキュリティを強化します。

    二段階認証(Two-Factor Authentication, 2FA): IDとパスワードに加えて、登録済みのスマートフォンに届くワンタイムパスワードや、生体認証(指紋・顔認証)を併用してログインする方法です。

    シングルサインオン(SSO): 複数のクラウドサービスを、一度のログインで利用できるようにする仕組みですが、高度な認証と組み合わせることでセキュリティを維持しつつ利便性を高めることができます。

    これらの方法は、単独ではなく複数組み合わせて実施することで、より強固なアクセス制限を構築できます。たとえば、「人事部の担当者(権限設定)が、会社のPC(端末制限)から、二段階認証で(認証強化)、賃金台帳にアクセスする」といった運用が一般的です。

    多くのクラウドサービスが対応しているアクセス制限

    一般的なクラウドサービスは、ほとんどが多種類のアクセス制限に対応しています。特に、ビジネス向けに提供されているクラウドサービスでは、高度なセキュリティ機能が標準装備されていることが多いです。

    権限管理

    多くのクラウドサービスは、ユーザーごとに役割(ロール)を設定できます。たとえば、「管理者」「編集者」「閲覧者」といった役割を割り当て、賃金台帳のような機密性の高いファイルには、人事担当者のみがアクセスできる「人事管理者」ロールを付与するといった運用が可能です。

    IPアドレス制限

    特定のオフィスやネットワークからのアクセスのみを許可するIPアドレス制限も、多くのサービスで利用できます。これにより、社外からの不正なアクセスを防ぐことができます。

    二段階認証(多要素認証)

    パスワードに加え、スマートフォンアプリやメールに送信されるワンタイムパスワードなど、複数の認証要素を組み合わせる多要素認証(MFA)は、セキュリティ強化の基本として広く普及しています。多くのクラウドサービスでこの機能が提供されています。

    ただし、これらの機能が標準で含まれているかどうかは、利用しているクラウドサービスのプランや契約内容によって異なります。無料プランや個人向けプランでは、利用できる機能が限定されている場合があるため、機密性の高い情報を扱う場合は、法人向けの高セキュリティなプランを選択する必要があるかもしれません。

    導入前には、利用を検討しているサービスが、自社の求めるアクセス制限に対応しているか、機能リストやサポート窓口で確認することをお勧めします。


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  • 65歳まで雇用しなければならない?高齢者雇用確保措置を解説

    65歳までの雇用確保義務は、希望する従業員を65歳まで雇用し続けることを企業に義務付ける制度です。これは、高年齢者雇用安定法で定められています。

    65歳までの雇用確保措置の概要

    企業は、以下のいずれかの措置を講じることで、65歳までの雇用確保義務を果たすことができます。

    定年の引き上げ: 定年年齢を65歳以上に引き上げる方法です。

    継続雇用制度の導入: 定年後も希望者を再雇用する制度を導入する方法です。

    定年の廃止: 定年制度自体を撤廃し、年齢に関係なく働けるようにする方法です。

    現在、多くの企業が「継続雇用制度」を導入しており、定年を迎えた従業員を「嘱託社員」などで再雇用する形が一般的です。

    この義務は、法人・個人事業、企業の大小、業種を問わず全ての企業が対象となります。

    義務化の経緯

    この雇用確保義務は、段階的に進められてきました。

    2006年: 定年を65歳未満に定めている企業に対し、65歳までの雇用確保措置を講じることが義務化されました。

    2013年: 希望者全員を対象とすることが原則となり、企業が一方的に再雇用の対象者を絞り込むことはできなくなりました。

    2025年:2025年4月から、65歳までの雇用確保義務が完全な形になりました。企業が労使協定を締結することで、継続雇用の対象者を限定できるという経過措置が廃止されたのです。

    継続雇用と再雇用

    継続雇用制度と再雇用制度は同じではありません。

    継続雇用制度は、高年齢者雇用安定法に定められた、定年後も働き続けたいと希望する従業員の雇用を確保するための制度の総称です。この制度には、主に2つの種類があります。

    勤務延長制度

    勤務延長制度は、定年を迎えた従業員を退職させずに、そのまま引き続き雇用を延長する制度です。

    雇用形態: 原則として、定年前と同じ雇用形態(正社員など)が継続されます。

    退職金: 定年時に退職金は支払われず、延長期間が終了した時点で支払われるのが一般的です。

    この制度は、実質的に「定年を延長する」ことと同じです。

    再雇用制度

    再雇用制度は、定年を迎えた従業員を一度退職扱いにして、その後、新たに雇用契約を結び直す制度です。

    雇用形態: 多くの場合、正社員から嘱託社員や契約社員など、別の雇用形態に変更されます。

    退職金: 定年時に退職金が支払われます。

    多くの企業で採用されているのが、再雇用制度です。

    このように、再雇用制度は継続雇用制度の一つの種類であり、両者は同じものではありません。

    関連記事:定年後の再雇用制度について

    定年の廃止について

    厚生労働省の「令和6年高年齢者雇用状況等報告」によると、定年制を廃止している企業の割合は3.9%です。これは、65歳までの雇用確保措置を講じている企業のなかで、定年引き上げ(28.7%)や継続雇用制度の導入(67.4%)に比べて、非常に低い水準にとどまっています。

    定年廃止の導入率が低いのは、主に以下のような理由が挙げられます。

    人事制度の難しさ: 年齢にとらわれない評価制度や賃金制度を構築・運用するには、高度な専門知識と労力が必要です。

    新陳代謝の停滞: 定年廃止は、若手社員の昇進機会を減らし、組織の新陳代謝を滞らせるリスクがあります。

    人件費の増加: 従業員の高齢化が進むことで、人件費が増大する可能性があります。

    多くの企業は、リスクや負担が大きい定年廃止よりも、継続雇用制度、とりわけ再雇用制度という既存の枠組みを延長する形で高齢者の雇用確保義務に対応しています。

    65歳以降の雇用について

    65歳までの雇用確保が義務である一方、65歳以降70歳までの就業確保は努力義務となっています。企業は、70歳まで雇用するよう努めることが求められますが、義務ではありません。

    関連記事:70歳までの就業機会確保が企業の努力義務に、具体的にはどうなっている?


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  • 見落としがちなポイントも解説!車両の始業点検マニュアル

    車両の始業点検のやり方

    始業点検で最低限行うべき点検項目

    車両の始業点検(日常点検)は、道路運送車両法で定められており、安全な走行を確保するために非常に重要です。最低限行うべき項目は以下の通りです。「点呼」とも言います。

    ブレーキ:

    ・踏み込んだ時の遊びや踏みしろが適切か。
    ・効き具合に異常がないか。

    タイヤ:

    ・空気圧が適切か。
    ・亀裂や損傷がないか。
    ・溝の深さが十分か。

    灯火類:

    ・ヘッドライト、テールランプ、ブレーキランプ、ウインカーなどが正しく点灯するか。
    ・汚れや損傷がないか。

    エンジン:

    ・異音や異臭がしないか。
    ・エンジンのかかり具合はどうか。
    ・冷却水の量やオイルの量に異常はないか。

    その他:

    ・ワイパーが正常に作動するか。
    ・ウィンドウォッシャー液が十分か。
    ・バックミラーやルームミラーが適切に調整されているか。

    これらの項目は、運転者が自らの五感(目視、聴覚、触覚)を使って短時間で確認できるものです。

    点検の記録は必要ですか?

    はい、点検の記録は必要です。

    道路運送車両法では、事業用自動車(運送事業用)に対しては点検の記録と保存が義務付けられています。自家用車であっても、会社が安全運転管理者を設置するような規模の場合、安全運転管理者の業務として点検結果を記録させ、管理することが求められます。

    記録には、以下の事項を含めるのが一般的です。

    ・点検実施日
    ・点検実施者
    ・点検項目ごとのチェック結果(異常の有無)
    ・異常があった場合の対応内容

    この記録は、万が一事故が発生した場合に、会社の管理体制が適切であったことを証明する重要な証拠となります。

    この点検は運転者一人に任せて良いのでしょうか?

    基本的には、運転者一人に任せて構いません。

    始業点検は、その車両を運転する者が、日々の運行前に安全性を確認するために行うものです。したがって、運転者が自ら行うことが原則です。

    ただし、注意すべき点がいくつかあります。

    灯火類の点検: ヘッドライト、テールランプなどの灯火類は、一人では確認できないことが多いので、他の社員にみてもらう必要がります。

    教育の徹底: 会社は、運転者に対して始業点検の重要性や正しい点検方法について、事前に十分な教育を行う必要があります。

    チェック体制の構築: 運転者が点検を怠ったり、異常を見逃したりしないよう、会社としてチェック体制を構築することが望ましいです。例えば、安全運転管理者が定期的に記録を確認したり、抜き打ちで点検状況を確認したりするなどの対応が考えられます。

    異常時の報告義務: 運転者には、点検で異常を発見した際に、速やかに安全運転管理者や責任者に報告し、修理などの処置を受ける義務があることを徹底させる必要があります。異常がある車両を運転させてはいけません。

    つまり、点検自体は運転者にやってもらいますが、任せるだけでなく、会社全体として、運転者が確実に点検を行い、その結果を適切に管理する仕組みを構築することが求められます。

    業務ソフトやクラウドサービスを利用する

    車両の始業点検に必要な事項をチェックし、その記録までデジタルで完結できる業務ソフトやクラウドサービスは多数存在します。これらのサービスは、車両管理システム日常点検アプリなどと呼ばれています。

    主な機能とメリット

    これらのサービスには、以下のような機能とメリットがあります。

    点検項目のデジタル化: 紙の点検表をスマートフォンやタブレットのアプリに置き換えられます。点検項目がチェックリスト形式になっているため、入力漏れや記載ミスを防げます。

    写真・動画での記録: 異常箇所を写真や動画で撮影し、そのまま記録として残せます。これにより、管理者と運転者の間で認識の齟齬が生じることを防ぎ、修理の判断もスムーズになります。

    記録の一元管理: 点検結果はクラウド上でリアルタイムに共有されます。管理者は事務所にいながら、各車両の点検状況や未報告者を確認でき、紙の書類を回収・整理する手間がなくなります。

    運転日報との連携: 多くのサービスは、日常点検の記録だけでなく、運転日報やアルコールチェックの記録機能も備えています。これにより、車両管理に必要な業務を一つのシステムでまとめて行えます。

    アラート機能: 車検や点検の期限が近づくと、自動で通知する機能を持つサービスもあります。これにより、期限切れの防止に役立ちます。

    代表的なサービス例

    SmartDrive Fleet: 車両の動態管理から、日常点検や運行計画、運転日誌の作成・保存まで、車両管理に関する業務をクラウド上で一括管理できます。

    Platio: スマートフォンで簡単にアプリを作成できるツールで、日常車両点検記録のテンプレートも用意されています。紙の点検表をそのままアプリ化できるため、導入がスムーズです。

    スマトラ: トラックの日常点検に特化したWebアプリで、運転者がスマホで点検・記録を行い、管理者がリアルタイムで確認できるサービスです。動画による点検手順ガイド機能も備えています。

    c点検PRO: クラウド車両台帳と日常点検機能を組み合わせたサービスです。電子車検証のデータ登録も可能で、車両情報の一元管理に役立ちます。

    これらのサービスを活用することで、点検業務の効率化と管理体制の強化が図れ、結果として安全な運行に繋がります。導入を検討する際は、自社の車両台数や業務内容に合ったサービスを選ぶことが重要です。

    アルコールチェックと始業点検の関係

    始業点検とアルコールチェックは別の義務

    アルコールチェックは、厳密には始業点検そのものとは別の義務ですが、同じタイミングで実施することが一般的です。

    始業点検は、車両の安全性を確認するための「車両の点検」です。一方、アルコールチェックは、運転者の体調や酒気帯びの有無を確認するための「運転者の健康状態の確認」であり、それぞれ法律上の目的が異なります。

    しかし、両方とも運行の開始前に行う義務があるため、効率的な運用として同時に実施する企業がほとんどです。

    始業点検の用紙にまとめることはできますか?

    はい、可能です。

    多くの企業では、日々の業務を効率化するために、始業点検のチェック項目に加えて、アルコールチェックの結果(呼気中のアルコール濃度、確認者、確認方法など)を記入する欄を設けた専用の記録用紙や日報を使用しています。これにより、記録漏れを防ぎ、管理を簡素化できます。

    始業点検のシステムにアルコールチェックは含まれていますか?

    はい、多くの場合含まれています。

    現在提供されている車両管理システムやクラウドサービス、アプリの多くは、始業点検機能とアルコールチェック機能を統合しています。

    これらのシステムでは、以下のような機能が提供されています。

    アルコール検知器との連携: Bluetoothなどで検知器と接続し、測定結果を自動で記録します。

    写真・動画の記録: 運転者の顔や点検の様子を写真や動画で記録し、なりすましや不正を防ぎます。

    クラウドでの一元管理: 点検結果やアルコールチェックの記録がリアルタイムでクラウドに保存されるため、管理者はいつでもどこでも確認できます。

    これらの統合サービスを利用することで、管理者は運転者ごとのアルコールチェックの実施状況を一目で把握でき、法的な義務をより確実に果たせるようになります。


    会社事務入門事故ゼロを目指す!「安全運転管理」と「車両管理」の実践的なノウハウ>このページ

  • 安全運転管理者になるには資格要件がありますか?

    はい、一定の資格要件があります

    はい、安全運転管理者になるためには一定の資格要件があります。ただし、国家資格や免許試験のようなものではありません。必要なのは、法律で定められた要件を満たしていることです。

    次の条件を満たす人が、安全運転管理者になることができます。(道路交通法施行規則第九条の九)

    1.二十歳(副安全運転管理者が置かれることとなる場合にあつては、三十歳)以上の者であること。

    2.自動車の運転の管理に関し二年(自動車の運転の管理に関し公安委員会が行う教習を修了した者にあつては、一年)以上実務の経験を有する者

    3.普通運転免許を取得してから3年以上の者

    その他、過去2年間に一定の違反歴がないことなどの条件があります。

    安全運転管理者の選任届出が提出された場合、警察は過去の違反歴や事故歴などを確認します。

    選任の流れ

    要件を満たすことが確認されたら、警察署に「安全運転管理者に関する届出書」(選任)を指定の添付書類(住民票・運転記録証明書等=詳しくは提出前に要確認)を付して提出します。

    提出先:事業所の所在地を管轄する警察署の交通課

    提出期限:安全運転管理者を選任すべきことなってから(所定の車両台数に達した日)から15日以内

    講習会を受講する

    安全運転管理者等講習(年1回)を受ける必要があります。

    安全運転管理者になるには、道路交通法施行規則で定められた要件(運転経験・違反歴など)を満たしていれば選任可能です。

    講習の修了は「選任後に受けるべきもの」であり、講習を事前に受けていなくても選任届は提出できます。

    ただし、地域によっては、講習を事前に受けている人を選任することを強く推奨されたり、指導されることもあります。

    選任されたら

    安全運転管理者は名前だけの地位ではありません。

    管理対象の社員が交通事故を起こすと、安全運転管理者としての責任や指導不足が問われる場合があります。警察や監督官庁から呼び出しや報告を求められることもあり、場合によっては法的責任が発生します。

    やらなければならない(法律でさだめられている)、日常的な管理業務がいろいろあります。

    ・運転者の体調確認、免許証の確認、有効期限の管理
    ・運転者のアルコールチェック(アルコール検知器の使用が義務)
    ・運転日報の点検、管理記録の作成・保管
    ・年1回の講習受講 など

    このように責任が重いのですが、安全運転管理者に支給される手当が(一般的に)少額なので、「割に合わない」と感じる人もいます。

    また、本来は運転者の指導的立場にある人が任命されるべきですが、権限がない(あるいは少ない)人が任命されることもあり、その場合は運転手の統率に苦労しているのが実態です。

    しかし、法律上、選任が義務であり、事業所としては選任しないわけにはいきません。つまり、誰かを選任しなければならないのです。

    よって、もし安全運転管理者に選任された場合は、決して「名義だけ」「形だけ」就任していると考えずに、職務については積極的に役割を果たし、上司に対しては安全運転管理者の立場に理解と支援を求める必要があります。


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