カテゴリー: ハラスメント

  • ハラスメント調査をするときの注意点

    基本的な姿勢

    ハラスメント調査は、ハラスメント相談の受付から当事者及び関係者への事情聴取を経て事実認定をするまでが範囲です。

    まず、前提としてハラスメント相談窓口が設置されている必要があります。

    相談窓口の設置と運営

    ハラスメント調査を行う者は、まず、相談者に寄り添う姿勢で、それでいて先入観をもたずに中立的な立場で、迅速に調査を開始しなければなりません。

    まず、相談者の言い分を中心に傾聴することに注力すべきです。

    ただし、相談者は、事実関係を調査する前に事実があったと決めつけるような対応をしてはいけません。

    相談があったにもかかわらず、放置することは許されません。

    相談を受け付ける

    相談担当者を決定する

    相談申込みに対して、受付した当人がそのまま相談に応じることもありますが、もっと適任な人がいる場合もあります。できれば当日その場で相談を開始できればよいのですが、そうでない場合は速やかに相談日程を決めて、担当者や日時場所等を連絡しましょう。

    また、相談者にとって苦手な人や当該事柄に何らかの関係がある人を担当者に決めると不信感をもたれて、その後の対応に悪い影響があるので、相談者には希望があれば担当者の交替を求めることができることを伝えましょう。ただし、相談者の指名に従うと中立的な立場を維持できなくなるおそれがあるので、あくまでも誰が担当するかは会社が決めることであることもを伝えましょう。

    相談者の意向を確認する

    相談者の中には相手とのトラブルをおそれて、自分の配置転換などを希望するものの調査はしないでほしいと要望する人もいます。

    ハラスメントは相談者本人だけの問題でない場合もあるので、会社としては当人がためらっても調査を開始するべきなので、可能な限りの相談者保護措置を取ることを約束したうえで、調査に進むことを説得すべきです。

    それでも、相談者が頑なに調査を拒否するのであれば、相談者の意向を尊重せざるを得ません。しかし、しかし、ハラスメントを放置することはできないので、相談があったことを伏せて、当該職場に何か問題がないかどうか、一般的な情報収集をすることは必要です。また、相談内容を抽象化して、ハラスメントに関する改めての通知を発するなどをして再発防止措置をとっておきましょう。

    関係者への事情聴取

    相談者からの申告内容をもとに、事情聴取すべき対象を決定します。相談者からも改めて聴取します。相談者からは録音等の証拠があれば提出してもらいます。行為者本人からの聴取は欠かせません。また、行為者の上司、相談者の上司、目撃している可能性がある同僚のなかから事情聴取の対象者を選びます。

    事前に、ある程度事案を整理し、疑問点や争点になりそうな部分を洗い出し、聴取する項目をまとめた書面を用意しましょう。

    行為者と上司、同僚等から事情聴取が終わった段階で証言に食い違いがでてきたら再度事情聴取を行います。

    流れとしては、まず相談者の言い分を聞き、それに対する相手方の言い分や認識を聞いたうえで、争いのある部分を中心に第三者に確認するという流れになります。なるべく同日に実施して、口裏合わせや証拠隠滅の可能性を減らすようにしましょう。

    記録を残す

    後日、言った言わないの水掛け論を避けるために、原則として聴取内容は録音しましょう。隠し録音でなく、録音又は録画することを聴取対象者に明確に告げる必要があります。録音することを拒み説得にも応じない場合は、録画の強制はできないので記録係による聴取書面作成にします。記録係は複数を配置し、発言を言った通りに記録することを心がけるようにします。

    走り書きのメモも重要な証拠書類になります。録音がある場合でもメモをとりながら聴取しましょう。メモはなるべくその日のうちに文書化しておきましょう。ただし、文書化しても当初のメモを破棄してはいけません。

    プライバシーへの配慮

    相談受付、調査の記録には関係者のプライバシーが記載されています。部外者が見ることができないような厳重な管理が必要です。

    事情聴取にあたってはプライバシーに対する配慮が大事です。聴取対象者から秘密保持の誓約書を出してもらうことも考えましょう。

    誓約書例

    ハラスメント調査についての誓約書

    ◯◯株式会社◯◯部長殿

    私は、  年  月  日 時 分から 時 分まで、会社のハラスメント調査担当者である◯◯氏による事情聴取に応じましたが、その際知ることになった当該ハラスメントの内容や被害者と加害者とされる方の情報、私に対する質問内容とそれに対する私の回答など、当該調査に関わる一切の情報を第三者に口外しないことを誓約いたします。

      年  月  日

    署名 ◯◯◯◯

    暫定措置の実施

    事情聴取を開始するときには、相手方に対して、相談者への報復はもちろん、相談者や目撃者との接触を禁止することを申し渡す必要があります。

    また、相談者と相手方の席が近いなど接触する機会が多い場合には、相談者の希望を聞いて席の変更などの措置をとることも考えられます。

    ハラスメントがあったことがほぼ確実で、行為者の存在が調査の障害になる場合には、調査のための自宅待機を命ずる選択肢もあり得ます。ただし、懲戒等による出勤停止でなく会社都合による自宅待機なので、賃金を支払う必要があります。この場合、調査を迅速に進めて自宅待機期間は可能な限り短くする必要があります。

    事実認定

    事情聴取や証拠収集により、争いのある部分と争いのない部分が明確になってきます。争いのない部分はそのまま認定できますが、争いのある部分については、どちらの言い分を採用するか、いわゆる事実認定をする必要があります。

    しかし、ハラスメントは証拠証言が乏しいときは事実認定が極めて難しいことがあります。

    そのような場合にも原則として白黒つけなければなりませんが、調査の結果真相は不明という決着もありえます。

    そうした場合は、相談者に対して会社が行う調査の限界を伝え、相談者は労働局雇用均等室等に相談申告できることを伝えることになります。また、相手方に対しては、相談者の相談は正当な権利であってこれに報復的な行動をとると責任を問われる事態になることを伝えて慎重に行動することを求めます。

    事実認定は、あくまでもどのような事実があったかを認定することであり、その事実に対してどのような措置(処分等)をするかは次の段階になります。

    ハラスメントの事後措置


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  • ハラスメントの事後措置

    ハラスメントの種類

    ハラスメントとは、嫌がらせをして相手に不快感を与える行為のことをいいます。職場における代表的なハラスメントは、セクハラ、パワハラに、マタハラです。

    男女雇用機会均等法第11条は会社のセクハラ防止措置の義務化等を定めています。労働施策総合推進法第30条の2はパワハラ防止措置の義務化等を定めています。男女雇用機会均等法第11条の3、育児介護休業法第25はマタハラ防止措置の義務化等を定めています。

    セクハラに対する会社の対応

    パワハラに対する会社の対応

    マタハラに対する会社の対応

    事実認定後の措置

    このページでは、ハラスメントの事実認定後の措置について解説します。

    前のページ:

    調査の結果、ハラスメントに該当しないと認定した場合と、ハラスメントに該当すると認定した場合は事後措置の内容が大きく異なります。

    ハラスメントに該当しない

    事実認定の結果、相談者の主張するようなハラスメント行為が確認できなかった場合、相談者の主張する行為があったことは確認できたがハラスメントと評価できない場合には、相談者との話し合うことになります。

    その場合、行為があったことが確認できなかった、又は行為はあったことは確認したが、ハラスメントの定義等と照らし合わせた結果、その行為をハラスメントとは評価できなかった旨を相談者に伝えることになりますが、容易に納得を得られることはないでしょう。

    納得してもらうために、関係者の証言とそれに基づく判断の内容をある程度詳細に伝えなければならないと思われますが、詳細な内容、特に証言者の氏名等は、この段階では秘匿しなければならないでしょう。

    相談者には、社内調査には自ずと限界があることを伝えて、さらに追及する意志がある場合には、労働局雇用均等室などの外部機関や、個別労働紛争解決制度であるあっせん等の手続きについても説明しましょう。

    また、後日、調査では判明していなかった新証拠・新証言などが出てきた場合には、再調査を検討する旨も説明しましょう。

    ハラスメントに該当する

    事実認定の結果、相談者の主張するハラスメント行為が一部でも認められた場合には、行為者(加害者)にどのような措置をするか検討しなければなりません。

    懲戒処分

    ハラスメント行為があったことが認定された場合は、よほど軽微なものでないかぎり、就業規則の懲戒処分事由に該当することになるので、懲戒処分を検討しなければなりません。

    懲戒処分の種類は、けん責・戒告、減給、出勤停止、懲戒解雇などがありますが、行為と処分内容にバランスが必要です。例えば、会社が懲戒解雇処分にしても、裁判になったときに懲戒処分をするほどのものでないと認定されれば解雇は無効になってしまいます。その懲戒処分を科すかの判断は、極めて難しいので慎重な検討を要します。弁護士等の専門家に相談することも考えましょう。

    また、懲戒処分を決定する手続きも重要です。例えば、明らかに懲戒処分事由に該当する行為であっても、対象者に弁明の機会を与えないと無効になるおそれがあります。

    懲戒処分をするときの注意点

    配置転換

    状況によっては人事上の措置として配置転換をすることも考慮します。

    基本的には、加害者の配置転換を行うべきであり、被害者の配置転換を行うには、被害者の希望あるいは真の同意があるなどかなり特殊な場合に限られると考えられます。

    再発防止に向けた措置

    措置を決定して一件については終了しますが、当事者の間にわだかまりが残る場合が多く、また職場環境の問題などが未解決のまま残ることもあります。再発防止に向けてフォローをする必要があります。

    再発防止策の計画と実施

    再発防止策として、当該の事例をふまえての研修の実施、会社からのメッセージ発信などが考えられます。


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  • 相談窓口の設置と運営

    相談窓口の設置義務

    相談窓口の設置を義務付ける法令がいくつかあります。主なものを解説します。

    パワーハラスメントに関する相談窓口

    根拠法令:労働施策総合推進法(通称「パワハラ防止法」)、男女雇用機会均等法

    内容:職場におけるパワーハラスメント、セクシュアルハラスメント、マタニティハラスメント等の各種ハラスメントに関する相談窓口の設置が義務付けられています。相談内容に応じて適切に対応できる体制を整備し、プライバシー保護や相談を理由とする不利益な取扱いの禁止を周知徹底することが求められます。

    育児・介護休業等に関する相談窓口

    根拠法令:育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(育児・介護休業法)

    内容:育児休業や介護休業、短時間勤務などの両立支援制度に関する相談窓口の設置が義務付けられています。特に2025年4月の法改正により、介護離職防止のための雇用環境整備(研修の実施、相談窓口の設置等)が義務化され、40歳になった従業員への情報提供・意向確認も義務付けられます。

    ストレスチェック後の相談窓口(努力義務を含む)

    根拠法令:労働安全衛生法

    内容:常時50人以上の労働者を使用する事業場では、ストレスチェックの実施が義務付けられています。ストレスチェックの結果、高ストレスと判定された従業員が医師による面接指導を希望しない場合でも、企業は放置せず、悩みを相談できる窓口の設置など、労働者が相談しやすい環境を整備することが重要です。相談窓口そのものの設置は直接的な義務ではありませんが、メンタルヘルス不調を未然に防ぐ観点から強く推奨されています。

    障がい者からの合理的配慮に関する相談窓口

    根拠法令:障害者の雇用の促進等に関する法律(障害者雇用促進法)、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(障害者差別解消法)

    内容:障害のある労働者からの合理的配慮に関する相談に応じ、適切に対応するための相談窓口の設置が義務付けられています。相談窓口の周知、担当者の適切な対応、プライバシー保護、相談を理由とする不利益取扱いの禁止などが求められます。2024年4月1日からは、事業者による障害のある人への合理的配慮の提供が義務化されており、その一環として相談体制の整備が重要視されています。

    公益通報に関する相談窓口

    根拠法令:公益通報者保護法

    内容:従業員数300人を超える事業者には、公益通報(組織内の不正・違法行為など)に対応するための内部通報窓口の設置が義務付けられています(300人以下の事業者は努力義務)。通報の受付、調査、是正措置、通報者の保護(不利益取扱いの禁止、匿名通報への対応など)を含めた体制整備が必要です。

    相談窓口の作り方

    相談しやすい窓口担当者

    相談窓口は、従業員が相談しやすい窓口である必要があります。

    プライバシーが確保できる部屋を準備しましょう。

    窓口担当者の人選に気を配りましょう。相談しやすいとともに信頼がある担当者である必要があります。なかなか難しい注文かもしれませんが、ハラスメントは総務が担当するから総務の担当者を充てる、という決め方でなく、人物が重要だという観点で、幅広く人選する必要があります。

    一人だけでは負担が大きすぎる可能性があります。兼務であってもなるべく複数の窓口担当者を任命しましょう。

    相談のしやすいという観点から、専門家に委託する外部窓口の設置も検討しましょう。

    多様な相談方法を用意する

    いきなり窓口に行って申告するのはハードルが高いと感じる人もいるかもしれません。電話や電子メールなどでも相談可能なように窓口担当者の連絡先を社内に公開しましょう。そのために、窓口担当者には専用の携帯電話やメールアドレスを持たせる必要があります。

    また、相談は実名が基本ですが、充分な調査ができない可能性を条件に、匿名でも受け付けることにした方が良いでしょう。

    担当者の教育をする

    相談窓口の担当者には、関係法令の知識やヒアリングのスキルが必要です。そのため、窓口担当者を外部研修に積極的に派遣する、書籍等の購入予算を与える、カウンセラー資格の取得費用を負担する、などの支援が必要です。

    なお、相談を受け付けて調査したり措置を検討することは大変ストレスのかかる仕事です。会社は担当者一人に丸投げすることがないように、組織的なバックアップ体制が必要です。

    窓口担当者の上司は相談受付の概要や進捗状況の報告を受けて、対応を一緒に協議するなどして窓口担当者の孤立を防がなければなりません。

    総合窓口とすることの可否

    一つ一つの法律に応じてバラバラに相談窓口を設置するのではなく、総合的な相談窓口を設置することについて検討しました。

    会社が設置しなければならない「相談窓口」を一つにまとめればどうなの?

    相談業務の運用

    相談窓口の業務の流れを紹介します。概ね、以下の流れになります。

    相談窓口への相談→事実確認→措置の検討→再発防止策の検討

    相談窓口への相談

    従業員から相談があったときは、窓口担当者が相談内容を聞き取ります。

    窓口の対応範囲を明確にしておきましょう。なんでも相談できるというかたちにすると、逆になにも対応できないという結果になりがちです。

    事実確認

    相談者の了解を得て、行為者等や第三者に事実確認を行います。基本的には窓口担当者が行いますが、事実確認調査の担当者を別にすることもあります。

    事実確認を行う際は、先入観を排除し私情をはさまず中立的な立場で行う必要があります。

    同僚等の目撃者に対する事実確認も重要です。調査を行うときは守秘義務について十分な説明を行い、外部に情報が漏れないよう細心の注意を払う必要があります。

    事実確認に時間がかかると相談者の不安が増します。なるべく間を置かないように進捗状況を相談者に連絡しましょう。

    措置の検討

    事実確認が終わったら、相談者の上司、行為者等の上司と連携を図りつつ、その後の措置を検討します。

    行為者等への注意や指導で解決が見込まれる場合は、行為者等の上司と連携して行為者等に対して注意を与えます。

    行為がハラスメントに該当し、懲戒処分相当と判断される場合は、懲罰委員会等での審議を経て、戒告、減給、降格、出勤停止、懲戒解雇などの懲戒処分をすることになります。

    外見的に解決したようにみえても問題がくすぶっていることもあります。相談者に対して、ある程度長期間のフォローが必要です。

    再発防止策の検討

    行為者等に対しては同様の問題が起こらないように継続的なフォローが必要です。同じことを繰り返すようであれば、前回の措置以上の厳しい対応を考えなけれなりません。

    行為者等のみの問題でなく、同じ行為が発生する職場環境ではないかという視点で再発防止策を検討することも必要です。

    不利益取扱いの禁止

    相談を行ったこと、証言したことなどを理由に解雇その他不利益な取扱いをすることは法律で禁止されています。会社側はもちろん、行為者等からの報復的な言動が出ないように充分に啓発指導する必要があります。

    相談窓口を周知する

    相談窓口を設置しても相談者がいないということになりがちです。問題がない職場であれば良いのですが、問題があってもどこに相談すればよいか分からないことも多いものです。一度通知を流しただけでは周知としては不十分です。

    定期的に利用を呼び掛けたり、情報発信をおこなうなど働きかける努力をしましょう。

    深刻な問題は専門家に相談する

    例えば、相談内容が明確に犯罪行為が行われているような場合、犯罪行為である疑いが濃厚な場合は、早い段階で弁護士等の専門家に相談しながら調査を開始しましょう。

    例えば、相談者が強い精神的打撃を受けていると思われる場合は、速やかにカウンセラーや医療の専門家に相談しましょう。

    深刻な問題に対して社内だけで解決しようとすると、取り返しのつかない事態になってしまうリスクがあります。


    関連記事:苦情処理委員会の設置と運営

    会社事務入門出産と育児を支援する諸制度ハラスメント対策の留意点障害者雇用上の注意事項パート・有期雇用労働者雇用の注意点個別労働紛争の解決手続き>このページ

  • マタハラに対する会社の対応

    マタハラとは

    マタハラ(マタニティハラスメント)とは、職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントのことです。

    職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントとは、「職場」において行われる上司・同僚からの言動(妊娠・出産したこと、育児休業等の利用に関する言動)により、妊娠・出産した「女性労働者」や育児休業等を申出・取得した「男女労働者」の就業環境が害されることです。

    (職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等)
    男女雇用機会均等法第11条の3 事業主は、職場において行われるその雇用する女性労働者に対する当該女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、妊娠又は出産に関する事由であって厚生労働省令で定めるものに関する言動により当該女性労働者の就業環境が害されることのないよう、当該女性労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
    2 第11条第2項の規定(Ⅱ-1参照)は、労働者が前項の相談を行い、又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べた場合について準用する。

    (職場における育児休業等に関する言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等)
    育児介護休業法第25条 事業主は、職場において行われるその雇用する労働者に対する育児休業、介護休業その他の子の養育又は家族の介護に関する厚生労働省令で定める制度又は措置の利用に関する言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
    2 事業主は、労働者が前項の相談を行ったこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

    マタハラの例

    マタハラには、①制度等の利用への嫌がらせ型、②状態に対する嫌がらせ型の2つがあります。

    制度等の利用への嫌がらせ型

    妊娠・出産・育児に関する制度等の利用をしようとする労働者に対して、解雇等の不利益な取扱いの示唆、制度利用の妨害、嫌がらせなどを行うことで就業環境を害することを言います。

    ・上司に妊娠を報告したところ「妊娠したら辞めてもらうことになっている」などと言う
    ・産前の検診のため休業を申請した労働者に「会社が終わってからでも間に合うだろう」などと言う
    ・育児休業を申し出た男性労働者に「会社にいれば仕事があるが、お前が家にいて何をするのだ」などと言う
    ・育児のための短時間勤務している女性労働者に、「こっちは忙しい思いをしているのに甘えているのではないか」などと言う

    状態に対する嫌がらせ型

    労働者が妊娠・出産する、したという状態に対して、解雇等の不利益な取扱いの示唆、制度利用の妨害、嫌がらせなどを行うことで就業環境を害することを言います。

    ・産前産後休業や育児休業をとりたいと申し出た労働者に「休んでも良いが、代わりの人を採用するから戻る場所はないと思ってほしい」などと言う
    ・妊娠した労働者に「なぜ忙しい時期に妊娠するんだ」などと言う
    ・「こう休みが多いと責任ある仕事は任せられない」などと言う
    ・「妊娠しているからといって甘え過ぎではないか」などと言う

    など

    業務上の必要

    不利益取扱いは禁止されていますが、客観的にみて、業務上の必要性に基づく言動はハラスメントには該当しません。

    会社の義務

    事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発

    会社はマタハラ防止についての方針等を明確化するとともに、これに関する情報を、従業員に周知・啓発しなければなりません。

    具体的には、マタハラの内容、妊娠・出産等、育児休業等に関する否定的な言動が職場におけるマタハラの原因や背景となり得ること、マタハラがあってはならない旨の方針、労働者は、妊娠・出産・育児に関する制度等の利用ができること、マタハラを行った者については、厳正に対処する旨の方針・対処の内容を周知します。

    周知・啓発は、ポスターの掲示、パンフレットの配布、メールの送付、研修などにより行います。

    ハラスメントが起こらない職場づくり

    相談・苦情に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備

    会社は社内に相談窓口を設置してマタハラに関する従業員からの相談や苦情に対応しなければなりません。窓口がハラスメントごとに分かれていると相談がしにくくなるため、厚生労働省の指針では、一元的な相談窓口を設置することが望ましいとしています。

    相談窓口の設置と運営

    職場における妊娠、出産等に関するハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応

    マタハラが発生してしまったときは、事実関係を迅速かつ正確に確認し、速やかに被害者に対する配慮の措置をとるとともに、行為者に対する是正措置を行い、再発防止に向けた措置も合わせて講ずる必要があります。

    ハラスメント調査をするときの注意点

    職場における妊娠、出産等に関するハラスメントの原因や背景となる要因を解消するための措置

    マタハラは、業務量が多い職場や人員が不足している職場に生じやすいといわれています。産休や育休をとる人が出たときに、他の社員への負担が大幅に増加することがあるからです。

    会社は、業務の負担の偏りを改善する、人員を補充するなどの対応を行い、マタハラの原因や背景となる要因を解消するための措置をとる必要があります。

    ハラスメントの事後措置


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  • パワハラの定義

    パワハラとは

    職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題(パワハラ)に関して定めた改正労働施策総合推進法=労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律が令和2年6月1日に施行されました。

    第30条の2 事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されること(以下「職場におけるパワーハラスメント」という。)のないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

    整理すると、

    パワハラとは、

    職場において行われる

    ① 優越的な関係を背景とした言動であって、
    ② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
    ③ 労働者の就業環境が害されるものであり、

    ①から③までの要素を全て満たすもの。ということになります。

    指針

    下のリンクは、厚生労働省ホームページに掲載されている「職場におけるハラスメントの防止のために(セクシュアルハラスメント/妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント/パワーハラスメント)」ヘのリンクです。

    以下、指針に基づいてパワハラの定義を説明します。

    優越的な関係を背景とした言動とは

    当該言動を受ける労働者が行為者に対して抵抗又は拒絶することができない蓋然性が高い関係を背景として行われるもの。

    □ 職務上の地位が上位の者による言動
    □ 同僚又は部下による言動で、当該言動を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、当該者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難であるもの
    □ 同僚又は部下からの集団による行為で、これに抵抗又は拒絶することが困難であるもの

    業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動とは

    社会通念に照らし、当該言動が明らかに当該事業主の業務上必要性がない、又はその態様が相当でないもの。

    □ 業務上明らかに必要のない言動
    □ 業務の目的を大きく逸脱した言動
    □ 業務を遂行するための手段として不適当な言動
    □ 当該行為の回数、行為者の数等、その態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える言動

    就業環境を害することとは

    ある言動により、労働者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じること。

    この判断に当たっては、「平均的な労働者の感じ方」、すなわち、同様の状況で当該言動を受けた場合に、社会一般の労働者の多くが、就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動であるかどうかを基準とすることが適当。

    パワハラの代表的な言動の類型

    職場におけるパワーハラスメントの状況は多様であるが、代表的な言動の類型ごとに、パワーハラスメントに該当し、又は該当しないと考えられる例としては、次のようなものがある。

    ただし、個別の事案の状況等によって判断が異なる場合もあり得ること、また、次の例は限定列挙ではないことに留意が必要。

    暴行・傷害(身体的な攻撃)

    該当すると考えられる例

    □ 殴打、足蹴りを行うこと。
    □ 怪我をしかねない物を投げつけること。

    該当しないと考えられる例

    □ 誤ってぶつかる、物をぶつけてしまう等により怪我をさせること。

    脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)

    該当すると考えられる例

    □ 人格を否定するような発言をすること。(例えば、相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な発言をすることを含む。)
    □ 業務の遂行に関する必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行うこと。
    □ 他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責を繰り返し行うこと。
    □ 相手の能力を否定し、罵倒するような内容の電子メール等を当該相手を含む複数の労働者宛てに送信すること。

    該当しないと考えられる例

    □ 遅刻や服装の乱れなど社会的ルールやマナーを欠いた言動・行動が見られ、再三注意してもそれが改善されない労働者に対して強く注意をすること。
    □ その企業の業務の内容や性質等に照らして重大な問題行動を行った労働者に対して、強く注意をすること。

    隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)

    該当すると考えられる例

    □ 自身の意に沿わない労働者に対して、仕事を外し、長期間にわたり、別室に隔離したり、自宅研修させたりすること。
    □ 一人の労働者に対して同僚が集団で無視をし、職場で孤立させること。

    該当しないと考えられる例

    □ 新規に採用した労働者を育成するために短期間集中的に個室で研修等の教育を実施すること。
    □ 処分を受けた労働者に対し、通常の業務に復帰させる前に、個室で必要な研修を受けさせること。

    業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)

    該当すると考えられる例

    □ 長期間にわたる、肉体的苦痛を伴う過酷な環境下での勤務に直接関係のない作業を命ずること。
    □ 新卒採用者に対し、必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責すること。
    □ 労働者に業務とは関係のない私的な雑用の処理を強制的に行わせること。

    該当しないと考えられる例

    □ 労働者を育成するために現状よりも少し高いレベルの業務を任せること。
    □ 業務の繁忙期に、業務上の必要性から、当該業務の担当者に通常時よりも一定程度多い業務の処理を任せること。

    業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと(過小な要求)

    該当すると考えられる例

    □ 管理職である労働者を退職させるため、誰でも遂行可能な業務を行わせること。
    □ 気にいらない労働者に対して嫌がらせのために仕事を与えないこと。

    該当しないと考えられる例

    □ 経営上の理由により、一時的に、能力に見合わない簡易な業務に就かせること。
    □ 労働者の能力に応じて、業務内容や業務量を軽減すること。

    私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)

    該当すると考えられる例

    □ 労働者を職場外でも継続的に監視したり、私物の写真撮影をしたりすること。
    □ 労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露すること。

    該当しないと考えられる例

    □ 労働者への配慮を目的として、労働者の家族の状況等についてヒアリングを行うこと。
    □ 労働者の了解を得て、当該労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、必要な範囲で人事労務部門の担当者に伝達し、配慮を促すこと。

    事例研究

    取引先との接待会食への出席を強制するのはパワハラになりますか?

    私の部下の言動がパワハラだと言われましたが、当人に悪気がありません。どう対応すればよいでしょうか?

    細かなことに口出しする先輩の言動はパワハラにあたりますか?

    部下を二次会に誘ったらパワハラ扱いされてしまいました。どうすればよかったのでしょうか?


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  • セクハラに対する会社の対応

    セクハラとは

    セクシュアル・ハラスメント(セクハラ)とは、他の者を不快にさせる職場または職場外における性的な言動のことです。

    「性的な言動」とは、性的な関心や欲求に基づくものをいい、性別により役割を分担すべきとする意識に基づく言動、性的指向や性自認に関する偏見に基づく言動も含まれます。

    セクハラは男性から女性に行われるものに限らず、女性から女性、女性から男性、男性から男性に対して行われるものも対象になります。

    場所・時間の限定はありません。

    不快であるか否かの判断は、基本的には受け手が不快に感じるか否かによって判断されます。

    セクハラの定義

    セクハラの例

    セクハラになり得る言動として、例えば、次のようなものがあります。  

    ・ スリーサイズを聞くなど身体的特徴を話題にすること。
    ・ 卑猥わいな冗談を話すこと。
    ・ 体調が悪そうな女性に「今日は生理日か」などと言うこと。
    ・ 性的な質問をすること。
    ・ 性的な噂うわさを立てること
    ・ 性的なからかいの対象とすること。
    ・ 「男のくせに根性がない」、「女には仕事を任せられない」などと言うこと。
    ・ 「男の子、女の子」、「お嬢さん」、「おじさん、おばさん」などの呼び方をすること。
    ・ 性的指向や性自認をからかったり、本人の承諾なしに第三者に漏らしたりすること。
    ・ ヌードポスター等を職場に貼ること。
    ・ 雑誌等の卑猥わいな記事等を見せたり、読んだりすること。
    ・ 身体を必要以上に眺めること。
    ・ 食事やデートにしつこく誘うこと。
    ・ 性的な内容の電話をかけたり、性的な内容の手紙・Eメールを送ること。
    ・ 身体に不必要に接触すること。
    ・ 性的な関係を強要すること。
    ・ 更衣室等をのぞき見すること。
    ・ 女性であるという理由でお茶くみ、掃除、私用等を強要すること。
    ・ カラオケで一緒に歌うことを強要すること。
    ・ 酒席で、上司のそばに座席を指定したり、お酌やダンス等を強要すること。

    会社の義務

    従業員からセクハラやパワハラ、職場いじめなどのいわゆる「ハラスメント」の被害にあっているとの申告があったときは、会社はそのハラスメント行為をやめさせる適切な対処をしなければなりません。

    男女雇用機会均等法第11条 事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。


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