カテゴリー: 健康保険

  • 人事担当者が知っておくべき「社会的治癒」の知識

    人事を担当する皆さんは、「同じ病気で再発した社員に、また傷病手当金は出るのか?」と疑問に思ったことはありませんか?

    今回は、人事担当者なら知っておきたい「社会的治癒」の概念と、それが傷病手当金や障害年金の受給にどう影響するのかを解説します。

    2022年の法改正で傷病手当金の支給期間が通算1年6か月になったことはご存知かと思います。しかし、このルールを理解する上で「社会的治癒」は重要なキーワードです。

    社会的治癒とは

    まず、人事担当者の皆さんに理解していただきたいのは、「社会的治癒」は法律で明確に定義された言葉ではないということです。「社会的治癒」とは、傷病手当金や障害年金の審査において、実態に即した判断をするために生まれた、いわば制度上の独自の考え方です。

    医学的治癒:医師が「もう治療の必要はない」「完治した」と判断すること。

    社会的治癒:医学的治癒とは別の概念で、自覚症状がなく、社会生活(就労など)に支障がない状態が一定期間続いた場合に、「治癒した」とみなすこと。

    重要なのは、傷病手当金や障害年金の支給において、社会的治癒は、再発した病気が、過去の病気とは切り離して考えられるかどうかの判断基準になる点です。

    傷病手当金における「社会的治癒」の役割

    傷病手当金の支給期間は、支給開始日から通算1年6ヶ月です。この期間内であれば、一度復職して再び同じ病気で休んでも、残りの期間について請求できます。

    しかし、最初の支給開始日から1年6ヶ月が経過した後に再発した場合は、通常の支給期間は終了しています。

    ここで「社会的治癒」が重要な役割を果たします。

    もし再発した病気が「社会的治癒」を経ていないと判断されれば、それは前回の病気の延長とみなされるので、1年6ヶ月が経過していれば、傷病手当金は支給されません。

    一方、長期間にわたって安定した就労を続けており、「社会的治癒」が認められた場合、再発した病気は新たな傷病として扱われる可能性があります。その場合、再び傷病手当金の申請ができ、新たな支給期間(通算1年6ヶ月)がスタートします。

    障害年金における「社会的治癒」

    障害年金の場合も、「社会的治癒」は重要な判断要素になります。

    障害年金は「初診日」が非常に重要です。同じ病気で再発した場合、初診日は原則として最初の初診日になります。しかし、再発時の初診日で認定を受けれるケースがあります。

    つまり、「社会的治癒」が認められれば、再発時の初診日を新たな初診日として扱うことが可能になる場合があります。

    人事担当者として知っておくべきこと

    • 明確な基準はない: 「社会的治癒」に「〇年以上の復職期間が必要」といった明確な基準はありません。健康保険組合や日本年金機構が、個々のケースに応じて総合的に判断します。
    • 医師の診断書が鍵: 判断の根拠となるのは、医師の診断書や通院記録、そして被保険者本人の就労状況や症状の安定性です。人事担当者としては、これらの状況を把握し、被保険者とコミュニケーションを取ることが大切です。
    • 専門家への相談を促す: 社員から再発時の給付について相談があった場合は、安易な判断は避け、被保険者本人に加入する健康保険組合や年金事務所に相談するよう促してください。

    「社会的治癒」は、複雑なケースを救済するための重要な概念です。社員の不利益にならないよう、基本的な知識を身につけておくことが、人事担当者として求められます。


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  • 社会保険の加入条件を中途で満たしあるいは満たさなくなったらどうするか

    社会保険の加入条件

    一般的には会社等に就職したら社会保険(健康保険や厚生年金保険等)に加入しなければなりません。一般的にと書いたのは、一部ですが加入を免除される事業場があること、そして、勤務時間数などの労働条件によっては加入できない労働者がいるからです。

    加入できるかできないかは、大きくは勤務時間で決まります。

    その事業場で働いている通常の労働者(一般的には正社員のことです)の勤務時間の4分の3に満たない勤務時間であれば加入できません。ただし、近年社会保険の加入条件が緩和されてきており、一定規模以上の企業に雇用される場合は週20時間以上で加入できるようになっています。

    具体的な条件は次の記事を参照してください。

    関連記事:短時間労働者の社会保険加入条件

    雇用途中での資格取得と喪失

    雇用途中で加入条件を満たした場合

    加入条件を満たしていなかった労働者が、労働契約の変更により加入条件を満たすようになった場合は、社会保険の加入手続きをとる必要があります。

    ただし、繁忙期などに一時的に加入するべき労働時間に達したような場合は社会保険の加入対象にはなりません。

    このことについて、厚生労働省のQ&Aに次のようにあります。

    短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大
    Q&A集(令和6年 10 月施行分)

    問 34 就業規則や雇用契約書等で定められた所定労働時間が週 20 時間未満である者が、業務の都合等により恒常的に実際の労働時間が週 20 時間以上となった場合は、どのように取り扱うのか。また、施行日前から当該状態であった場合は、施行日から被保険者の資格を取得するのか。

    (答)実際の労働時間が連続する2月において週20時間以上となった場合で、引き続き同様の状態が続いている又は続くことが見込まれる場合は、実際の労働時間が週20時間以上となった月の3月目の初日に被保険者の資格を取得します。
    なお、施行時においては、実際の労働時間が直近2月において週 20 時間以上となっており、引き続き同様の状態が続くことが見込まれる場合は、施行日から被保険者の資格を取得します。

    以上のように、「連続する2月」における実際の労働時間で判断します。したがって、次の契約更新の際に見直せばよいのではなく、実際の労働時間の推移によっては期間中でも資格取得の手続きが必要になります。

    雇用途中で加入条件を満たさなくなった場合

    逆のケース、つまり、条件を満たしていた労働者が、事情が変わったことにより、労働時間や賃金が減少して、社会保険の加入条件を満たさなくなることもあります。

    ただし、一定の労働時間に満たない週がときどき発生してしまうような場合は、すぐに社会保険の加入資格を失うわけではありません。

    また、妊娠によって体調不良などで早退が多く勤務時間が減少したとしても、それだけで加入基準を満たさなくなるわけではありません。

    問題になるのは、現実の労働時間等が常態的に加入条件を満たす水準に達しているにもかかわらず、雇用契約書上の所定労働時間を盾にとって加入させないケースです。それは、社会保険に加入させないための脱法的な運用とみなされます。

    労働契約を変更する

    社会保険の加入条件である所定労働時間は、労働契約(雇用契約書等)で定めた所定労働時間で判断するのが基本です。

    残業が日常化しているなどで、実質的に社会保険に加入すべき労働時間に達している場合は、労働者の合意を得て新たな雇用契約書を締結してすっきりしたかたちで業務に従事してもらいましょう。


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  • 埋葬料の手続き

    埋葬料とは

    埋葬料とは、健康保険の被保険者が業務外の事由により亡くなったときに支給される給付です。5万円支給されます。

    請求できるのは、亡くなった被保険者により生計を維持されて、埋葬を行う人です。「生計を維持されて」とは、被保険者によって生計の全部又は一部を維持されている方であって、民法上の親族や遺族であることは問われません。また、被保険者が世帯主であるか、同一世帯であるかも問われません。

    生計を維持されている人がいない場合は、実際に埋葬を行った人に埋葬料(5万円)の範囲で実際に埋葬に要した費用が支給されます。この場合は「埋葬費」といいます。「実際に埋葬に要した費用」とは、霊柩車代、霊柩運搬代、霊前供物代、火葬料、僧侶の謝礼等が対象となります。

    被扶養者が亡くなったときは、被保険者「家族埋葬料」が5万円支給されます。

    埋葬料の手続き

    埋葬料(費)は、遺族等が直接協会けんぽ等の保険者に申請する必要がありますが、死亡退職手続きに伴って会社が手続きについて助言するのが一般的です。家族埋葬料は被扶養者の変更手続きに伴って会社が手続きについて助言するのが一般的です。

    健康保険埋葬料(費)支給申請書をダウンロードして記入する。

    添付書類を準備する
    □故人の健康保険証
    □被保険者が亡くなったことを示す書類
    協会けんぽの場合「事業主の証明」で足ります。任意継続被保険者の場合は、埋葬許可証や火葬許可証のコピーのほか、死亡診断書(死体検案書)のコピー、亡くなった方の戸籍(除籍)謄本・抄本、住民票などいずれかひとつ
    □被扶養者以外が申請する場合には生計維持関係を証明する書類
    住民票(亡くなった被保険者と申請者が記載されているもの)住居が別の場合は、定期的な仕送りの事実のわかる預貯金通帳や現金書留のコピーまたは亡くなった被保険者が申請者の公共料金等を支払ったことがわかる領収書など
    □埋葬費の請求の場合は、領収書(支払った方のフルネームおよび埋葬に要した費用額が記載されているもの。埋葬に要した費用の明細書

    申請する(協会けんぽは基本的に郵送)

    退職後の継続給付

    埋葬料は条件が適合すれば退職して被保険者でなくなってからの死亡でも支給される場合があります。

    関連記事:健康保険の資格喪失後の給付


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  • 出産育児一時金の手続き

    出産育児一時金とは

    出産育児一時金は、妊娠4か月(85日)以上の被保険者及びその被扶養者(妻に限りません。娘など被扶養者になっている人が対象になります。)が出産したときに健康保険制度から支給される一時金です。多胎児を出産したときは、胎児数分だけ支給されます。

    産科医療補償制度に加入の医療機関等で妊娠週数22週以降に出産した場合:1児につき50万円

    産科医療補償制度に加入の医療機関等で妊娠週数22週未満で出産した場合:1児につき48万8千円

    産科医療補償制度に未加入の医療機関等で出産した場合:1児につき48万8千円

    (上記金額は令和5年4月1日施行)

    対象期間中であれば、正常分娩のほか、帝王切開、流産、早産、死産、人工妊娠中絶の場合も出産育児一時金の支給を受けることができます。

    被保険者が、業務上または通勤災害の影響で早産したような場合、労災保険で補償を受けたとしても、出産育児一時金が別途支給されます。

    産科医療補償制度とは、分娩に関連して重度脳性麻痺となった赤ちゃんが速やかに補償を受けられる制度で、分娩を取り扱う医療機関等が加入する制度です。

    直接払い制度

    医療機関等が被保険者等に代わって協会けんぽ等に出産育児一時金の申請を行い、直接、出産育児一時金の支給を受けることができる制度です。

    出産育児一時金の支給が協会けんぽから直接医療機関等へ支払われることから、医療機関等の窓口で出産にかかった費用を支払う必要がありません。

    ただし、実際の出産費用が出産育児一時金の額を超 えた場合は、超えた額を医療機関等へ 支払う必要があります。なお、厚生労働省保険局の令和4年社会保障審議会医療保険部会資料によると、令和3年度の正常分娩のみの出産費用は全国平均で473,315円でした。

    出産にかかった費用が出産育児一時金の額より少ない場合は、その差額が被保険者等に支給されます。その場合は「健康保険出産育児一時金内払金支払依頼書」又は「健康保険出産育児一時金差額申請書」を提出する必要があります。

    似たような制度に「受取代理制度」というのがあります。直接支払制度だと出産育児一時金の請求手続も医療機関が代行してくれますが、受取代理制度では原則、被保険者が請求手続きをとる必要があります。ほとんどの医療機関は直接払い制度ですが、受取代理制度の医療機関もあります。出産予定の医療機関で確認しておく必要があります。

    出産育児一時金の手続き

    直接払いの場合

    医療機関等が代わって受け取る「直接払い」にする場合は、出産前に医療機関等と「出産育児一時金の支給申請及び受取りに係る契約」を結びます。実際には、医療機関等が用意してくれる書類にサインをします。これによって、医療機関等が被保険者等に代わって協会けんぽに出産育児一時金の申請を行うので被保険者による申請手続きは不要です。

    本人請求の場合

    被保険者が医療機関等へ出産費用を支払ってから、保険者指定の「健康保険出産育児一時金支給申請書」に必要事項を記入して提出します。

    添付書類としては下記のものがあります。

    □医療機関等から交付される代理契約を医療機関等と締結していない、または医療機関等が直接支払制度に対応していない旨が記載されている書類
    □出産費用の領収・明細書の写し
    □申請書の証明欄に医師・助産婦または市区町村長の出産に関する証明

    退職後の継続給付

    出産育児一時金は条件が適合すれば退職して被保険者でなくなってからも支給される場合があります。

    関連記事:健康保険の資格喪失後の給付


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  • 出産手当金の手続き

    出産手当金とは

    出産手当金とは、健康保険の被保険者が出産のために会社を休んで、給与の一部または全部が支給されないときに支給される手当金です。

    パート・アルバイトであっても社会保険に加入している人は健康保険の被保険者であり、出産手当金の対象となります。

    出産の日(実際の出産が予定日後のときは出産予定日)以前42日(多胎妊娠の場合98日)から出産の翌日以後56日目までの範囲内で、会社を休んだ期間を対象として支給されます。

    出産の当日は出産の日以前の期間に含まれます。また、出産が予定日より遅れた場合、その遅れた期間についても出産手当金が支給されます。

    1日あたりの支給額は、直近12か月間の各月の標準報酬月額の平均額を30で割った金額を基準として、その額の3分の2になります。

    出産手当金は、休業中に勤務先から給与の一部が支払われる場合は、給与と出産手当金の差額が支給されます。給与が出産手当金を上回る場合は出産手当金は支払われません。

    支給について

    実際にお金を受け取れるのは、一括申請の場合は産休が明けて数か月後になるようです。

    給与の締日を過ぎないとその期間の給与の支払い状況の確認ができず、申請書の事業主証明欄に記入できないからです。

    つまり、産休の終了日が6月6日で給料の締日が毎月20日の場合、勤務先が6月20日以降に事業主証明欄を記入して保険者に提出します。そこから保険者の書類審査や支払い手続きが始まります。

    出産手当金は産休中の被保険者の収入減少を補うための制度ですが、実際に給付されるのは産休終了後である点に注意しましょう。産休中に収入がなくなることに備えて、出産費用のほかに生活費の用意が必要です。

    出産手当金の手続き

    一括申請の場合

    出産手当金申請書を入手して本人に交付する(本人がダウンロードしてもよいが記入の説明をする必要があるので一般的には勤務先が入手する)

    本人が記入する部分を記入する

    出産後、担当した医師または助産師に「医師・助産師記入欄」を記入してもらう

    産休明けに勤務先の健康保険担当に申請書を提出する

    勤務先が「事業主証明欄」を記入し、申請書を保険者(協会けんぽ等)に提出する

    分割申請の場合

    上記の手続きを複数回(産前分、産後分など)行うことで分割して受け取ることもできます。一括申請より少し早く受け取れます。

    退職後の継続給付

    出産手当金は条件が適合すれば退職して被保険者でなくなってからも支給される場合があります。

    関連記事:健康保険の資格喪失後の給付


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