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  • 強く叱ったら従業員が行方不明になりました。どうすればよかったのでしょう?

    現場で作業をしていたときに、重大な事故につながりかねないミスをした従業員がいて、しかも、その日二度目の大きなミスだったため、上司が、「危なくてしょうがない、もうお前は帰れ」と言ったところ、会社に戻らずに、そのまま行方知れずになってしまいました。こうした場合、その上司及び会社にはどのような責任が生じるのでしょうか。その上司にはどのように指導するべきでしょうか?

    上司と会社には、法的な責任が発生する可能性が十分にあります。これは、従業員が精神的に不安定な状態で帰宅を命じられ、その結果として行方不明になったと見なされる可能性があるからです。以下で解説します。

    上司の責任

    この状況では、安全配慮義務違反の可能性が考えられます。労働契約法第5条には、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と定められています。

    今回のケースでは、上司が従業員に「もうお前は帰れ」と感情的に帰宅させたことが、この義務に反すると考えられます。従業員が精神的に不安定な状況だった場合、その状態を考慮せずに帰宅を命じた行為が、二次的な事故や事件につながる可能性を予見できなかったと判断されるかもしれません。

    また、上司の「もうお前は帰れ」という発言がパワーハラスメントに認定される可能性もあります。

    会社の責任

    会社も同様に、使用者としての安全配慮義務違反に問われる可能性があります。また、従業員の行方不明になって、事故等につながれば、労働災害と認定される可能性も出てきます。

    これは、業務上のストレスや上司からの発言が原因で従業員の精神状態が悪化し、その結果として行方不明になったと判断されるためです。

    上司への指導方法

    このような事態を再発させないため、上司には以下の点を指導する必要があります。

    1. 冷静な対応の徹底: 従業員がミスをした場合でも、感情的に怒ったり、非難したりするのではなく、冷静に事実を確認し、再発防止策を話し合うよう指導します。感情的な発言は、状況を悪化させるだけでなく、ハラスメントと見なされる可能性もあることを伝えます。
    2. 状況把握と適切な対応: 従業員がミスを繰り返す背景には、過度なストレス、睡眠不足、個人的な悩みなど、さまざまな要因が考えられます。上司には、ただ叱るだけでなく、従業員の精神的・肉体的な状態を把握し、必要に応じて人事担当者や産業医、カウンセラーなどと連携して適切な対応をとるよう指導します。
    3. 言葉選びの重要性: 「もう帰れ」という言葉は、従業員を突き放すような強いメッセージと受け取られる可能性があります。今回のケースのように、従業員の精神状態が不安定な時にこのような言葉をかけることは非常に危険です。上司には、言葉一つ一つが持つ影響を理解させ、より建設的で前向きな言葉を使うよう指導します。例えば、「今日は一度作業を中断して、明日また落ち着いて取り組もう」といった表現に言い換えることができます。

    この件は、ハラスメントにも繋がりかねないため、再発防止のために社内全体でメンタルヘルス教育やハラスメント研修を実施することも重要です。上司が一時の感情で発した言葉が、重大な結果を招く可能性があることを理解させることが、最も重要な指導ポイントとなります。


    会社事務入門職場のトラブルに会社はどう対応する従業員による不適切な行動への対応>このページ

  • 交通事故を起こした従業員を対象にした罰金制度を作ることの問題点について

    罰金制度の問題点

    結論を先に言えば、「罰金制度」は法令に違反する可能性が極めて高いのでやるべきではありません。

    賠償予定の禁止

    交通事故を起こした従業員や、仕事上のミスやトラブルを起こした従業員に対して「罰金」と称するペナルティを科す制度を設けることは、労働基準法第16条の、労働契約の不履行について違約金や損害賠償額をあらかじめ定めておくことを禁止する条文に抵触する可能性が高いと思われます。

    減給の制限

    労働基準法第91条は、会社が従業員に制裁として賃金の減給を行う場合、その額に上限を設けています。

    もし懲戒処分として減給を検討する場合は、就業規則に明記し、かつ法律で定められた上限額の範囲内で行う必要があります。

    具体的な制限は以下の通りです。

    1. 一回の事案における減給額: 平均賃金の1日分の半額を超えてはなりません。
    2. 一賃金支払期(通常は1ヶ月)における減給総額: 賃金総額の10分の1を超えてはなりません。

    この上限を超えた場合は違法となります。上限の範囲内であっても懲戒処分の一つとして行うものなので、懲戒処分の要件を満たさなければなりません。

    関連記事:懲戒処分をするときの注意点

    罰金と損害賠償の違い

    法律上、会社が従業員に「罰金」を課すことと、実際に発生した損害に対する「損害賠償」を請求することは全く別の問題です。

    • 罰金制度: 原則として設けることはできません。
    • 損害賠償: 従業員の故意または重大な過失によって会社に損害が生じた場合、会社は従業員にその損害の賠償を請求することは可能です。しかし、事情にもよりますが、裁判所において認められる可能性は小さいでしょう。

    交通事故は、従業員に不注意(軽過失)があったとしても、その損害の全額を従業員に負担させることは、信義則や公平の原則に反するとされています。通常、会社の指揮命令下での業務中に発生した損害は、会社が負担すべきものと考えられています。

    謝罪させるのはどうか

    パワハラに注意

    事故を起こした従業員に対して、罰金ではなく、朝礼などの場で、社長に謝罪させることはどうでしょうか?

    従業員を多くの社員の前で社長に謝罪させることは、パワハラと見なされる可能性が高く、問題があります。これは、人格権の侵害にあたり、従業員に精神的苦痛を与える行為だからです。

    懲戒処分としての謝罪は認められない

    会社が従業員に謝罪を命じる行為は、懲戒処分の一環として行われることがあります。しかし、判例や法的見解では、以下のような理由から、多くのケースで謝罪を命じる懲戒処分は認められていません。

    • 謝罪の強要: 謝罪は本人の反省に基づいて自発的に行われるべきものであり、会社が強制的に謝罪を命じることは、個人の良心の自由人格権を侵害する可能性があります。
    • 不相当な制裁: 全員の面前での謝罪は、従業員に精神的な苦痛を与え、社会的な評価を著しく低下させる行為です。これは、就業規則に定められた懲戒事由に比べて、あまりにも過度な制裁と判断される可能性が高いです。

    謝罪を求めることの代替案

    謝罪を求めることの目的が、従業員の反省を促し、他の従業員の安全意識を高めることにあるのであれば、より適切な方法を考えましょう。

    • 個別の謝罪: 事故を起こしたことについて、社内の関係者(社長や上司)に対して、個別に、自主的な意思に基づいて謝罪を促す。
    • 事故報告会での共有: 事故の再発防止策を話し合う目的で、事故報告会を開催し、事故の経緯や原因、対策を客観的に発表させる。この際、本人の発言を求めることは問題ありませんが、人格的な非難や公開謝罪を強要してはいけません。

    このような方法であれば、従業員に不当な精神的苦痛を与えることなく、事故防止の目的を達成することができます。

    指導とパワハラの違い

    事故を起こした従業員への指導は、安全運転を徹底させる上で重要ですが、指導方法によってはパワハラと見なされるリスクがあります。

    パワハラ(パワーハラスメント)は、厚生労働省の定義では、「優越的な関係を背景とした、業務上必要かつ相当な範囲を超える言動」を指します。つまり、「必要性」と「相当性」が判断の鍵となります。

    パワハラと見なされる言動正当な指導と見なされる言動
    内容人格を否定する発言、罵倒、大声での叱責、長時間の説教、無視、退職を示唆または強要具体的な改善点を指摘、事故の原因究明、再発防止策の指導、報告書の作成指示、反省を促す問いかけ
    目的個人の責任追及、見せしめ、精神的な苦痛を与える業務上の必要性、安全確保、事故防止、従業員の成長

    パワハラにならない指導の具体例

    1. 冷静な態度で事実確認を行う
      • 事故の経緯、状況、原因について、感情的にならずに冷静にヒアリングします。
      • 「なぜこんな事故を起こしたんだ!」と感情的に怒鳴るのではなく、「この事故はなぜ起きたのか、原因をどう分析していますか?」と問いかけ、本人の内省を促します。
    2. 具体的な問題点を指摘する
      • 漠然と「お前は運転が下手だ」と非難するのではなく、「交差点での一時停止が不十分だったため、右方から来る自転車を見落とした」など、具体的な問題点を明確に伝えます。
    3. 再発防止策を共に考える
      • 一方的に指導するのではなく、従業員に「次に同じ状況になったとき、どうすれば事故を防げたと思いますか?」などと尋ね、解決策を一緒に考えます。
      • 単に叱るだけでなく、「ヒヤリハット報告書を書いてもらう」「運転シミュレーターで訓練する」など、具体的な改善策を提示します。
    4. 指導の場と時間を配慮する
      • 他の従業員の前で見せしめのように叱責するようなことをしてはいけません。
      • 指導の時間は、必要以上に長くならないようにしましょう。
    5. 指導の記録を残す
      • 後日、パワハラと言われることがないか、自分の言動を自ら確認しながら指導しましょう。指導日時、指導内容、従業員の反応、今後の改善策などを記録しておくことで、指導が業務上の必要性に基づいたものであったことを証明できます。

    これらの方法で、従業員の安全運転意識を高めるとともに、指導する側もパワハラのリスクを避けることができます。


    会社事務入門事故ゼロを目指す!安全運転管理と車両管理の実践的なノウハウ>このページ

  • 部下を二次会に誘ったらパワハラ扱いされてしまいました。どうすればよかったのでしょうか?

    小さな商社の課長をやっています。取引先との接待が終わった帰りに、ねぎらいの気持ちで部下を誘ってもう1軒飲みに行きました。しばらくしてから部長に呼ばれて、「部下に酒の無理強いをするものではない、下手をすればパワハラだ」と注意されました。私としては無理強いしたつもりはなく、部下も喜んで飲んでいたように見えたのですが、これではもう誘うことはできません。そういう時代だと思って大人しくしているしかないのでしょうか。アドバイスをお願いします。

    接待後の二次会、お疲れ様でした。部下の方をねぎらうお気持ちはとても素晴らしいと思います。しかし、部長さんから注意を受けてしまったとのこと、心中お察しいたします。

    パワハラとは

    まず、パワーハラスメントは一般的に以下の3つの要素で定義されます。

    • 優越的な関係に基づいて(上司と部下の関係など)
    • 業務の適正な範囲を超えて
    • 身体的・精神的な苦痛を与えること、または就業環境を害すること

    今回のケースをこれに照らし合わせて考えてみましょう。

    1. 優越的な関係

    課長であるあなたと部下という関係は、まさにこの「優越的な関係」に該当します。

    2. 業務の適正な範囲

    二次会が担当業務の適正な範囲に含まれるかですが、気をつかう接待が終わって、部下を労おうとしたのであれば、業務の適正な範囲と考えてもよいでしょう。しかし、部下が「やれやれこれで帰れる」という気持ちになっていたかもしれません。さらに負担をかけることになったのであれば、業務の適正な範囲とは言えなくなるかもしれません。

    また、部下が部長に訴えたのであれば、「身体的・精神的な苦痛が」あったと思われます。

    パワハラかどうか

    今回のご相談内容は、パワハラの定義にあてはめれば、パワハラに近いようにみえます。しかし、無理に手を引いて行ったわけではなく、もう飲めない人に無理強いしたようでもなく、そのときは楽しく飲んでいたようなので、パワハラとまではいかないように思われます。

    ただし、無理強いをしたつもりがなくても、相手が「そう感じてしまった」のであれば、ハラスメントと見なされる可能性があるので、今回はパワハラに近かったかもしれないと考えましょう。

    部長も「下手をすればパワハラだ」と仰っています。これは「あなたがすでにパワハラをした」という意味ではなく、「無理強い」の可能性があると言っているだけです。

    上司からの誘いを断りにくいと感じる部下も少なくありません。たとえ本人が「喜んで飲んでいた」ように見えても、それは本心ではないかもしれません。このことを理解して、どのように立ち回るのが良いか考えてみましょう。

    今後の対応

    誘い方を工夫する

    まず、部下を誘う際には「行きたい人が行く」という選択肢を明確にするとよいでしょう。

    例えば、次のように声をかけてみてはいかがでしょうか。

    • 「もし良かったら、この後もう一軒どうかな? 疲れてるだろうから、無理はしなくていいからね。もちろん、まっすぐ帰っても大丈夫だよ」
    • 「二次会に行きたい人いる? 私はもうちょっと飲んで帰ろうと思うんだけど、よかったら付き合ってくれる?」

    このように、相手にプレッシャーを与えない言葉を選ぶことで、部下は「帰ります」と言いやすくなります。

    このことについては、誘ったときに言うだけでなく、日頃から、誘いを断ってもマイナス評価にならないと伝えておくことも大事です。

    時間が長くなったり、つい飲みすぎたりして翌日に響けば、「喜んでいた」本人も、後になって後悔することもあります。

    誘いに乗ってくれたとしても、一人ひとりが自分のペースで注文できるおちついた店を選ぶなどの配慮をしましょう。

    二次会の時間は、1時間程度で終わるようにしましょう。また、昔は、もっと飲みなさいと勧めるのが常識だった時代もありますが、今は通用しません。上司は部下が飲みすぎないように注意を払う必要があります。

    日頃からコミュニケーションを増やす

    飲み会はコミュニケーションの一つの手段ですが、それだけではありません。

    日々の業務の中で、部下との信頼関係を築くことも大切です。

    • 機会があれば雑談をする(長くなったり話題が説教臭くならないように注意)
    • 仕事の合間にコーヒーを誘って奢る(同上)

    こうした日常的な交流を通じて、部下の個性や考え方を深く理解することで、お互いに気持ちの良い関係を築くことができます。

    まとめとして言えば、「そういう時代だから仕方ない」と諦めてしまうのは、少しもったいないかもしれません。

    部長さんが指摘されたのは「無理強い」の可能性があるという点だけで、「誘うこと自体」を否定されたわけではありません。

    時代に合わせた新しい付き合い方を模索し、部下との信頼関係を築いていけば、より良いチームを作ることができるはずです。


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  • 細かなことに口出しする先輩の言動はパワハラにあたりますか?

    この春に入社して営業部門に配属されました。10人の小さな課なので、仕事は課長から直接指示され、報告も課長に直接することになっています。課内に3年ほどのキャリアがある先輩が居て、権限が無いはずなのに、課長がいないところであれこれ細かなことに口出しをします。課長の指示と違うことを言われることもあります。とても鬱陶しいのですが、新人なので我慢しています。先日、そのことを社外の友人に愚痴を言ったら、それはパワハラではないかと言われました。思っていませんでしたが、客観的にはどうでしょうか?

    先輩が課長と違うことを言ってくると、どう対応していいかわからず戸惑いますよね。それがパワハラかどうか、客観的に考えてみましょう。

    パワハラの定義

    まず、一般的にパワハラ(パワーハラスメント)は、以下の3つの要素をすべて満たす行為とされています。

    1. 優越的な関係に基づいている: 指示をする側とされる側に、上下関係や影響力の差があること。
    2. 業務の適正な範囲を超えている: 仕事の必要性を超えた行為であること。
    3. 労働者の就業環境が害される: 精神的、身体的な苦痛を与え、仕事をする上で見過ごせない問題が生じること。

    あなたの状況を当てはめてみる

    ご相談の状況をこれらの定義に当てはめてみると、次のように考えられます。

    優越的な関係

    この点については、課の先輩という立場なので、あなたに対して優越的な関係があると言えます。

    業務の適正な範囲

    「権限がないはずなのに細かな口出しをする」「課長の方針と違うことを言う」という点から、先輩の指示が業務の適正な範囲を超えている可能性があります。しかし、先輩として新入社員にアドバイスをするという行為自体は、業務の一環と見なされることもあります。

    重要なのは、そのアドバイスが本当に業務を円滑に進めるためのものなのか、それとも個人的な感情や意図によるものなのかという点です。

    就業環境が害されている

    「とても鬱陶しい」と感じていることから、精神的なストレスを受けている状態です。しかし、これが「見過ごせない問題」にまで達しているかは、判断が難しいところです。

    パワハラかどうか

    これらの点を総合的に考えると、パワハラに発展するリスクのあるグレーゾーンだと言えます。もっと具体的な言動を分析しなければなりませんが、ご提示いただいた範囲で検討すると、パワハラかどうかの判断は難しいです。

    ただし、課長と先輩の間で指示内容に矛盾が生じ、あなたが板挟みになって悩んでいる状況は、健全な職場環境とは言えないので改善しなければなりません。

    先輩が良かれと思ってアドバイスをしている可能性もありますが、新人指導という名目で不当な圧力をかけている可能性もあります。

    どう対処すべきか

    すぐにパワハラだと決めつけるのではなく、まずは冷静に対処することをおすすめします。

    • 先輩と穏やかに話す: 「いつもご指導ありがとうございます。先輩のご意見も参考にさせていただきたいと思いますが、私の上司は課長なので、その件については課長の指示に従いたいと思いますがどうでしょうか?」などと、柔らかめに話して、本心を探ってみましょう。
    • 課長に相談する: 当人と話してもうまく意思疎通ができなければ、課長に相談するべきです。課長に「先輩からこのような指示をいただいたのですが、課長の方針と少し違うように感じますが、どのように進めるのが良いでしょうか?」といった形で、穏やかに確認してみるのが良いでしょう。

    それでも状況が改善しない場合は、一人で抱え込まず、会社のパワハラ相談窓口に相談することを検討してください。

    いずれにしても、ご自身の気持ちと向き合い、無理のない範囲で行動することが大切です。


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  • 私の部下の言動がパワハラだと言われましたが、当人に悪気がありません。どう対応すればよいでしょうか?

    メーカーの営業課長です。部下に元気で声が大きい者がいます。多少他人に対する配慮に欠ける言動もありますが、仕事はきちんとやっています。その者の言動がパワハラだという声が複数あり、上司として対応に困っています。これまでも注意したことはあるのですが、本人が自分に悪いところがあるとはまったく思っていないので、説得にも会話にもなりません。どのように対応すれば良いかアドバイスをお願いします。

    これまで注意をしても、本人に悪気がないため話が通じないという状況は、非常に歯がゆく感じられることと思います。しかし、この問題を放置すれば、さらに多くの従業員が精神的な苦痛を感じる可能性があり、最悪の場合、優秀な人材の離職や組織全体の士気の低下につながりかねません。以下に、具体的な対応をご提案させていただきます。

    ステップ1:状況の正確な把握と記録

    まず、事態を客観的に把握し、事実に基づいた対応を進めることが重要です。

    • 具体的な言動の収集: 「パワハラ」という抽象的な言葉ではなく、「いつ」「どこで」「誰に」「どのような」言動があったのか、具体的な事例を集めてください。被害を受けたとする複数の従業員から、個別に話を聞く時間を設けるのが良いでしょう。
    • 記録の作成: 聞き取った内容は、日時、場所、内容を詳細に記録しておきましょう。これにより、後で本人と話す際の証拠となり、感情的な議論を避けることができます。

    ステップ2:本人への個別面談と具体的な指摘

    事実関係を整理した上で、本人と一対一でじっくり話す機会を設けてください。この際のポイントは以下の通りです。

    • 感情的にならず、淡々と事実を伝える: 「あなたにはパワハラをしているという声がある」といった抽象的な表現ではなく、「〇月〇日の会議で、Aさんに対して『そんなこともできないのか』と大声で発言したことが、Aさんを精神的に追い詰めていると訴えがあった」のように、収集した具体的な事例を提示します。
    • 本人の視点を理解する努力: 「なぜそのような発言をしたのか?」と本人の意図を尋ね、本人の「悪気のない」行動の背景を理解しようと努めてください。たとえば、「チームの士気を上げようとした」「早く仕事を終わらせてほしかった」といった本人の考えがあるかもしれません。
    • 行動の定義とリスクを伝える: 本人の意図がたとえ善意であったとしても、その行動が他者に与える影響が問題であることを明確に伝えます。悪意がなくとも、相手が不快に感じたり、精神的苦痛を感じれば、それはハラスメント行為になりうることを認識させてください。また、それが会社としてのコンプライアンス違反にあたる可能性や、放置した場合の懲戒処分など、個人が負うリスクについても冷静に説明しましょう。

    ステップ3:行動改善に向けた具体的な目標設定

    ただ注意するだけでなく、改善に向けた具体的な行動を一緒に考え、目標を設定します。

    • 具体的行動の提案: 「大声で話さない」「相手の意見を最後まで聞く」「否定的な言葉を使わない」など、改善すべき行動を具体的にリストアップします。
    • 具体的な行動計画の策定: 「週に一度はチームメンバー全員に感謝の言葉を伝える」「会議で発言する際は、まず相手の意見を肯定してから自分の意見を述べる」など、実践可能な行動計画を立てます。
    • 定期的なフォローアップ: 面談で終わりではなく、定期的に声をかけ、改善状況を確認し、ポジティブなフィードバックを与えることで、本人のモチベーションを維持させます。

    ステップ4:組織全体での意識改革

    この問題は、特定の個人の問題として片づけるのではなく、組織全体でハラスメントに対する意識を高める機会と捉えることも重要です。

    • 社内研修の活用: ハラスメント防止研修やアンガーマネジメント(怒りをコントロールする方法)に関する研修の受講を本人に促すだけでなく、営業課全体で参加することを検討してください。
    • 相談窓口の周知: 部下たちが安心して相談できる窓口があることを改めて周知し、風通しの良い職場環境づくりに努めます。

    以上のステップを踏むことで、部下の「悪意のなさ」を尊重しつつ、具体的な事実に基づいて問題の本質を伝え、建設的な改善を促すことができると考えます。


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  • 取引先との接待会食への出席を強制するのはパワハラになりますか?

    機械メーカーの営業課長です。従来からの慣習で、ときどき取引先との接待会食があります。相手先会社を担当している営業担当が、会食には参加したくないと言ってきました。たしかに取引先の役員は少々癖のある人です。しかし、直接の担当者が出席しないのは角がたちます。こうした場合に、業務命令だと言えばパワハラに該当するでしょうか?

    取引先との会食について、営業担当者の方が参加を拒否されている状況ですね。業務命令と伝えた場合に、パワーハラスメントに該当するかどうかという点について解説します。

    パワーハラスメントの定義

    まず、パワーハラスメントに該当するかどうかの判断は、その行為が業務上必要かつ相当な範囲を超えているかどうかによります。パワーハラスメントは一般的に以下の3つの要素で定義されます。

    • 優越的な関係に基づいて(上司と部下の関係など)
    • 業務の適正な範囲を超えて
    • 身体的・精神的な苦痛を与えること、または就業環境を害すること

    今回のケースをこれに照らし合わせて考えてみましょう。

    1. 優越的な関係

    営業課長であるあなたと、営業担当者という関係は、まさにこの「優越的な関係」に該当します。

    2. 業務の適正な範囲

    接待会食が、担当業務の適正な範囲に含まれるかが重要なポイントです。

    一般的に、取引先との関係構築や維持を目的とした接待は、営業職の業務の一環として広く認識されています。また、この取引先の担当者がその会食に出席する必要があるという課長の判断は、業務上の合理性があると考えられます。したがって、単に「業務命令だ」と伝えるだけでは、直ちにパワーハラスメントには該当しない可能性が高いと言えます。

    しかし、もしその取引先の役員が、担当者にセクハラや度を越えた嫌がらせをするといった事実があり、部下がそれに強い精神的苦痛を感じているにもかかわらず、参加を強制すれば、「身体的・精神的な苦痛を与えること、または就業環境を害すること」に該当し、ひいては「業務の適正な範囲を超えている」と判断される可能性が出てきます。

    部下と話す際に配慮すべきこと

    業務命令として参加を求めるにしても、一方的に押し付けるのではなく、なぜ参加が必要なのか、部下がなぜ参加したくないのかを丁寧に話し合うことが重要です。

    • 部下の意見を傾聴する: なぜ参加したくないのか、具体的な理由を尋ねてみましょう。単に「気が進まない」「飲み会の雰囲気が嫌」なのか、それとも過去に何か嫌な経験があったのか、取引先の役員からハラスメントを受けたことがあるのかなど、部下が抱えている懸念をまず理解することが大切です。
    • 会食の目的を明確にする: 「なぜあなたにこの会食に出席してほしいのか」を明確に伝えましょう。例えば、「この会食は、今後の取引を円滑に進める上で重要な機会であり、担当者である君が直接関係を築くことが重要なんだ」といったように、業務上の重要性を具体的に説明します。
    • 課長としてサポートを約束する: 部下の懸念に対して、課長としてどのようにサポートできるかを具体的に示しましょう。例えば、あなたも同席してサポートすることや、会食中の振る舞いについて事前に打ち合わせをするなど、部下の不安を軽減する策を一緒に考える姿勢を見せることが大切です。

    結論として、「業務命令だ」と単に伝えるだけではパワーハラスメントに直結するわけではありませんが、より良い解決策としては、相手の心情に配慮しつつ、業務上の必要性を丁寧に説明し、不安を取り除くためのサポートを提案することが重要です。


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