Last Updated on 2025年9月1日 by 勝
現場で作業をしていたときに、重大な事故につながりかねないミスをした従業員がいて、しかも、その日二度目の大きなミスだったため、上司が、「危なくてしょうがない、もうお前は帰れ」と言ったところ、会社に戻らずに、そのまま行方知れずになってしまいました。こうした場合、その上司及び会社にはどのような責任が生じるのでしょうか。その上司にはどのように指導するべきでしょうか?
上司と会社には、法的な責任が発生する可能性が十分にあります。これは、従業員が精神的に不安定な状態で帰宅を命じられ、その結果として行方不明になったと見なされる可能性があるからです。以下で解説します。
上司の責任
この状況では、安全配慮義務違反の可能性が考えられます。労働契約法第5条には、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と定められています。
今回のケースでは、上司が従業員に「もうお前は帰れ」と感情的に帰宅させたことが、この義務に反すると考えられます。従業員が精神的に不安定な状況だった場合、その状態を考慮せずに帰宅を命じた行為が、二次的な事故や事件につながる可能性を予見できなかったと判断されるかもしれません。
また、上司の「もうお前は帰れ」という発言がパワーハラスメントに認定される可能性もあります。
会社の責任
会社も同様に、使用者としての安全配慮義務違反に問われる可能性があります。また、従業員の行方不明になって、事故等につながれば、労働災害と認定される可能性も出てきます。
これは、業務上のストレスや上司からの発言が原因で従業員の精神状態が悪化し、その結果として行方不明になったと判断されるためです。
上司への指導方法
このような事態を再発させないため、上司には以下の点を指導する必要があります。
- 冷静な対応の徹底: 従業員がミスをした場合でも、感情的に怒ったり、非難したりするのではなく、冷静に事実を確認し、再発防止策を話し合うよう指導します。感情的な発言は、状況を悪化させるだけでなく、ハラスメントと見なされる可能性もあることを伝えます。
- 状況把握と適切な対応: 従業員がミスを繰り返す背景には、過度なストレス、睡眠不足、個人的な悩みなど、さまざまな要因が考えられます。上司には、ただ叱るだけでなく、従業員の精神的・肉体的な状態を把握し、必要に応じて人事担当者や産業医、カウンセラーなどと連携して適切な対応をとるよう指導します。
- 言葉選びの重要性: 「もう帰れ」という言葉は、従業員を突き放すような強いメッセージと受け取られる可能性があります。今回のケースのように、従業員の精神状態が不安定な時にこのような言葉をかけることは非常に危険です。上司には、言葉一つ一つが持つ影響を理解させ、より建設的で前向きな言葉を使うよう指導します。例えば、「今日は一度作業を中断して、明日また落ち着いて取り組もう」といった表現に言い換えることができます。
この件は、ハラスメントにも繋がりかねないため、再発防止のために社内全体でメンタルヘルス教育やハラスメント研修を実施することも重要です。上司が一時の感情で発した言葉が、重大な結果を招く可能性があることを理解させることが、最も重要な指導ポイントとなります。