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個人情報保護法の物理的安全管理措置とは?狭い事務所でもできる対策は?

Last Updated on 2025年7月28日 by

個人情報保護法が求める完全管理措置とは

個人情報保護法は、個人情報取扱事業者に対して、保有する個人情報の漏えいや紛失、滅失、き損(データが壊れること)などを防ぐために、適切な安全管理措置を講じることを義務付けています。この安全管理措置は、大きく分けて以下の4つの柱があります。

1.組織的安全管理措置: 責任者の設置、社内規程の整備、従業員の教育など、組織として管理体制を整えること。

2.人的安全管理措置: 従業員に対する監督・教育など、人の管理に関すること。

3.物理的安全管理措置: 個人情報が記録された書類や機器などを物理的に保護すること。

4.技術的安全管理措置: 機器やシステムへのアクセス制御、不正アクセス対策、マルウェア対策など、情報システムに関すること。

今回は、この中の「物理的安全管理措置」について解説します。

物理的安全管理措置とは具体的に何をするの?

物理的安全管理措置とは、個人情報が記録された書類(紙媒体)や、個人情報が保存されたパソコン、サーバー、USBメモリなどの記録媒体を、盗難、紛失、破壊、持ち出しなどから物理的に守るための対策を指します。

一般的な例としては、以下のようなものが挙げられます。

・入退室管理: 個人情報を取り扱う区域への入退室を制限・記録する。

・盗難防止措置: 鍵のかかる棚やキャビネットに書類を保管する、パソコンにワイヤーロックをかける。

・機器等の制限: 個人情報が記録された機器を設置する場所を制限する。

・媒体の持ち出し管理: 個人情報が記録された書類やUSBメモリなどを持ち出す際のルールを定める。

・廃棄措置: 個人情報が記録された媒体を廃棄する際に、復元不可能な方法で処理する(シュレッダーにかける、データ消去ソフトを使うなど)。

小規模な企業で「どこまでの措置」が求められるのか?

中小企業で事務所が狭く、大きなキャビネットを置くスペースや、部屋を仕切るのが難しい場合、「どこまで対策すれば良いのか」は非常に気になるところです。

結論から言うと、個人情報保護法が求める安全管理措置は、「その事業者の規模や取り扱う個人情報の量、種類、リスクに応じて、必要かつ適切な措置」を講じることを求めています。つまり、絶対的な基準があるわけではなく、状況に応じた「相対的な適切さ」が求められます。

狭い事務所やスペースの制約がある中小企業であっても、以下のポイントを意識して、できる限りの対策を講じることが重要です。

小規模企業でもできる、物理的安全管理措置の具体例を紹介します。

個人情報の「保管場所」の特定と対策

重要性に応じた保管: 全ての個人情報を「厳重な鍵付きの部屋」に置く必要はありませんが、顧客情報や機微な個人情報(健康情報など)は、できるだけ人目につきにくい場所、鍵のかかる引き出しやロッカーに保管しましょう。

施錠の徹底: 大きなキャビネットがなくても、既存の引き出しやロッカーに鍵をつけ、終業時や離席時には必ず施錠することを徹底します。これはスペースに関わらずすぐにできる対策です。

「個人情報ゾーン」の設定: 物理的に部屋を仕切れなくても、「このデスク周りは個人情報を扱う場所」と明確に定め、関係者以外が容易に近づけないような配置を工夫したり、パーテーションなどで簡易的に区切ったりすることも有効です。

パソコン・記録媒体の管理

離席時のロック: パソコンから離れる際は、必ず画面ロックをかけるように全従業員に義務付けましょう。これは技術的措置でもありますが、物理的な盗み見を防ぐ基本です。

ワイヤーロックの活用: ノートパソコンや小型のサーバーなどには、ワイヤーロックを取り付け、机などに固定することで盗難リスクを低減できます。これは場所を取りません。

USBメモリ等の持ち出し制限と管理簿: USBメモリなどの外部記録媒体には個人情報を安易に保存させず、持ち出しを原則禁止とするか、**持ち出し記録(誰が、何を、いつ、どこへ)**を義務付けましょう。保管も鍵付きの引き出しが基本です。

廃棄の徹底: 不要になった個人情報が記録された紙媒体は、必ずシュレッダーにかける(手動のものでも可)か、専門業者に委託しましょう。パソコンやUSBメモリも、廃棄時にはデータを完全に消去するソフトを使用するか、物理的に破壊します。

入退室管理と日常の意識

鍵の管理: 事務所の鍵の管理を厳重にし、誰がいつ出入りしたかを記録できる体制が望ましいです。夜間や休日の入室は特に注意が必要です。

来客対応: 来客時には、個人情報が記載された書類が机の上に放置されていないか確認し、視覚的に遮蔽するなどの配慮をしましょう。

従業員の意識: 最も重要なのは、従業員一人ひとりが個人情報の重要性を理解し、常に「見られている」「盗まれる可能性がある」という意識を持つことです。これは、定期的な教育で強化できます。

「必要かつ適切」を判断する視点

中小企業であっても、以下の観点から自社の状況を評価し、対策を講じていきましょう。

取り扱う個人情報の種類と量:

顧客のクレジットカード情報や病歴など、機微な情報を扱っているか?

個人情報の数が数千件、数万件と多いか?

リスクが高い情報や量が多い場合は、より厳重な措置が求められます。

漏えい時の影響度:

もし情報が漏れたら、会社にとってどれほどの損害(信用失墜、賠償請求など)があるか?

事業の特性:

来客が多いオフィスか?

外部の人間が出入りしやすい場所か?

夜間も人がいるのか、無人になる時間があるのか?

まとめ

狭い事務所やスペースの制約がある中小企業であっても、「物理的安全管理措置が不要」となるわけではありません。しかし、大企業のように厳重なセキュリティゲートや複数の施錠部屋を設けることまでを求められるわけでもありません。

重要なのは、自社の状況とリスクに見合った「できる限りの対策」を継続的に実施することです。

・鍵のかかる場所への保管を徹底する

・パソコンや記録媒体の持ち出し・離席時のルールを厳守する

・不要な個人情報は速やかに、かつ確実に廃棄する

・何よりも、従業員全員のセキュリティ意識を高める教育を行う

これらの対策は、スペースの有無にかかわらず、今日からでも取り組めるものです。法令遵守はもちろんのこと、お客様や従業員からの信頼を得るためにも、できることから着実に実施していきましょう。


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