Last Updated on 2025年9月6日 by 勝
休職中の「療養専念義務」とは、労働者が病気やケガの治療に集中し、早期の職場復帰を目指す義務のことです。これは、単に自宅で安静にすることだけを意味するのではなく、症状や病状に応じて、回復を促すための合理的な行動も含まれます。
専念とはどういうことか
療養専念義務の「専念」は、病状の回復を最優先することを意味します。この義務は、会社が労働者の健康状態を理由に休職を認める代わりに、労働者は、休職期間を利用して病状を回復させる努力する責任を負うというものです。
具体的には次のようなことが「療養専念」にあたります。
- 静養(安静): 発熱や体力の消耗が激しい病気(例:インフルエンザ、新型コロナウイルス感染症)の場合、自宅で安静にすることが療養に専念することになります。
- リハビリ等: 外傷などでリハビリが必要な場合(例:骨折、脳血管疾患の後遺症)は、医師の指示に基づいた通院やリハビリテーションが療養の範疇となります。
- 精神的ケア: 精神疾患(例:うつ病)の場合、心身のリフレッシュを目的とした散歩や軽度の運動、気分転換になるような外出や旅行も、医師が治療の一環として認めるものであれば、療養専念義務に反しないと解釈されることがあります。
上記のように、療養専念は、行動が「病状の回復に資すること」が前提になりますが、自分の判断だけでなく「医師の指示があること」が重要になります。医師の許可なく、一見すると趣味や遊びと見られる行動を頻繁に行うと、療養専念義務違反とみなされる可能性があります。
義務違反になりやすいケース
以下のような行為は、療養専念義務に違反すると判断されるリスクが高い行為です。
- アルバイトや副業: 許可なく他の会社で働いたり、個人的な事業活動をしたりすることは、療養に専念しているとは言えない可能性が高いです。ブログやSNSを通じて、自身のスキルや作品を売り込んだり、副業の顧客を募集したりするような行為は、療養専念義務に反する「兼業行為」とみなされることがあります。
- 過度な活動: 激しい運動や飲酒を伴う宴会への参加、頻繁な外出など、病状悪化のリスクがある行動は違反と判断されやすいです。また、家の中にいたとしても、1日に何回もブログ記事を投稿したり、長時間にわたってSNSに張り付いているような状態が続いている場合、療養に専念していないと判断されることがあります。
- 頻繁な旅行: 頻繁にテーマパークや観光地を訪れたり、海外旅行をすると、療養に専念していないと問題視されることが多いです。また、観光地やテーマパークではしゃいでいる写真をSNSにアップロードすることは、会社や同僚の目に触れるリスクがあります。もし投稿するとしても、元気な様子を過度にアピールするような内容は避けるべきです。
- 会社を批判するブログ投稿:ブログ投稿やSNSでの発信は、その内容や頻度、目的によって、療養専念義務に違反するかどうかの判断が分かれます。単なる気分転換や暇つぶしであれば問題ないと考えるのが一般的ですが、発信内容が会社の信用を毀損するケースだと大きな問題になる可能性があります。また、療養中とは思えないほど活動的な様子が頻繁に投稿していると、会社から「本当に病気なのか?」と疑念を持たれる可能性があります。
トラブルを避けるためのポイント
療養専念義務に関するトラブルを避けるためには、以下の点に注意することが重要です。
医師との連携
その活動が治療の一環となるかについて、主治医と相談し、必要に応じて会社に提出する診断書にその旨を記載してもらうことが有効です。
例えば、医師の指示なく旅行に行った場合、療養専念義務違反とみなされる可能性は高まります。ただし、裁判例によると「旅行に行ったこと」が直ちに療養専念義務違反となるわけではなく、その旅行が「療養に資するもの」と判断されるかどうかが重要とされています。
つまり、医師に知らせていない旅行や外出が直ちに療養専念義務違反とはなりませんが、休職中に旅行などをするときは、トラブルを避けるために、主治医に相談し、それが療養の一環であることを確認することが重要です。
会社とのコミュニケーション
会社に、休職中の状況を定期的に報告しましょう。特に、治療の一環として外出や旅行を計画している場合は、事前に相談し、理解を得ておくことが望ましいです。
会社に定期報告をする義務がある場合は、外出の状況を軽く報告しておくことも有効です。問題視されることを恐れて隠すより、例えば「体調が良い日は、リハビリを兼ねて公園を散歩したり、買い物に行ったりしています」「先日、医師から気分転換になると勧められて隣県のテーマパークに行ってきました」などと伝えるだけでも、会社の理解は深まります。
会社から求められた場合は、医師の診断書を提出し、病状や治療方針を明確に伝えることが、会社側の理解を得る上で非常に重要です。
療養専念義務は、会社のためだけでなく、自身の回復のためでもあります。主治医の指示に従い、療養に努めることが、早期の職場復帰につながります。