Last Updated on 2025年9月21日 by 勝
コンピテンシー評価とは
コンピテンシー評価とは、高い成果を出す社員に共通して見られる「行動特性」を評価基準とする制度です。
「コンピテンシー」とは、成果につながる能力や行動のことです。
例えば、「営業成績がトップの社員」がいたとします。単に「売上が高い」と評価するのではなく、その社員がなぜ高い成果を出せたのかという行動に焦点を当てます。
- 目標設定能力: 「顧客のニーズを深く理解し、具体的な解決策を提案する」
- 交渉力: 「相手の立場に寄り添い、双方にとってメリットのある合意点を見つける」
- 情報収集力: 「日頃から業界の最新トレンドを把握し、顧客に有益な情報を提供する」
このように、成果の背景にある行動やプロセスを評価するのがコンピテンシー評価です。
従来の評価制度との違い
コンピテンシー評価 | 従来の能力評価 | |
評価基準 | 「成果につながる具体的な行動」 | 「潜在的な能力」 |
評価例 | 「会議で積極的に意見を述べ、議論を活発化させた」 | 「協調性がある」 |
メリット | 評価が具体的で納得感が高く、社員の行動改善につながりやすい | 評価項目が抽象的で、項目設定が比較的容易 |
デメリット | 評価項目を設定するのに手間がかかる | 評価者の主観が入りやすく、評価が曖昧になりがち |
コンピテンシー評価を導入するメリット
- 評価の納得感が高まる「なぜこの評価なのか」という理由が行動レベルで明確になるため、評価される側の納得感が高まります。
- 社員の成長を促せる「どう行動すれば良い評価につながるか」が明確になるため、社員は具体的な改善策を立てやすくなります。
- 企業理念の浸透に役立つ企業の価値観(例:「顧客第一」「挑戦」)をコンピテンシーとして評価項目に取り入れることで、望ましい行動を促し、企業文化を醸成できます。
導入する際の注意点
- コンピテンシーの明確化: 企業や部署ごとに、理想とする行動を具体的に定義する必要があります。
- 評価者トレーニング: 評価者が主観を排し、客観的に行動を観察・評価できるよう、十分なトレーニングが必要です。
- 評価の負担増: 評価項目が細かくなるため、評価者の負担が増える可能性があります。
コンピテンシーの明確化の例
コンピテンシーの明確化と言ってもイメージがつかみにくいと思います。一例を示します。
ドラッグストアを例に、コンピテンシーをどのように明確化するか解説します。
コンピテンシーを明確化する際は、まず「どのような社員に高い成果を出してほしいか」を考え、その理想の社員が「具体的にどのような行動をとっているか」を洗い出します。
ドラッグストアのコンピテンシー例
ドラッグストアでは、ただ商品を売るだけでなく、お客様の健康に関する相談に応じたり、売り場の効率を上げたりする能力が求められます。
1. 専門性の発揮
- 理想の行動: 医薬品や健康食品に関する最新知識を常に学習し、お客様の症状や悩みに応じて最適な商品を提案できる。
- コンピテンシー評価項目例:
- 学習・知識習得: 医薬品やサプリメントに関する新しい情報を自ら積極的に学び、同僚と共有している。
- 課題解決: お客様の漠然とした悩みを丁寧に聞き出し、複数の選択肢の中から最適な商品を根拠とともに提案している。
2. 顧客志向
- 理想の行動: お客様の立場に立って親身に対応し、信頼関係を築くことで、リピーターを増やしている。
- コンピテンシー評価項目例:
- 傾聴・共感: お客様の話を最後まで丁寧に聞き、共感的な態度で接している。
- 関係構築: 一度来店したお客様の相談内容を記憶し、次回来店時にも声をかけるなど、継続的な関係を築いている。
3. チーム貢献
- 理想の行動: 自分の担当業務だけでなく、チーム全体の目標達成に貢献するために積極的に行動している。
- コンピテンシー評価項目例:
- 協調性: 忙しい時間帯には、自分の担当外のレジ業務や品出しも積極的に手伝っている。
- 情報共有: 売り場の成功事例や改善点をチームメンバーと共有し、チーム全体の売上向上に貢献している。
これらのコンピテンシーは、単なる「まじめに働く」「協調性がある」といった抽象的な言葉ではなく、誰が見ても「どのような行動か」が分かるように、具体的に定義することが重要です。これにより、評価の納得感が高まり、社員も次に何をすればよいかが明確になります。
導入の手順
コンピテンシー評価の導入手順は、一般的に以下の4つのステップで進めます。
ステップ1: 導入目的の明確化とプロジェクトチームの発足
まず、なぜコンピテンシー評価を導入するのか、その目的を明確にします。例えば、「社員の成長を促したい」「企業の理念を浸透させたい」などです。次に、経営陣、人事担当者、現場の管理職など、関係者で構成されるプロジェクトチームを発足させます。
ステップ2: 理想の行動モデルの特定
高い成果を上げている社員(ハイパフォーマー)を複数人選び、行動観察やインタビューを行います。彼らがどのような場面で、どのような思考に基づいて、どのような行動をとっているかを分析し、具体的なコンピテンシーを洗い出します。この際、「営業職はこれ」「事務職はこれ」といったように、職種ごとに異なるコンピテンシーを定義することも重要です。
ステップ3: 評価項目の作成と評価シートへの落とし込み
洗い出したコンピテンシーを、誰が見ても理解できるよう具体的な行動レベルの評価項目に落とし込みます。例えば、「リーダーシップ」というコンピテンシーであれば、「チームの目標を明確に伝え、メンバーの意見を引き出しながら方向性を定める」といった具体的な行動を評価項目として設定します。これを評価シートにまとめ、評価者が円滑に評価できるようにします。
ステップ4: 評価者と被評価者へのトレーニング
評価制度を導入する前に、評価者(管理職など)と被評価者(一般社員)の両方に十分な説明とトレーニングを行います。評価者には、評価項目を正しく理解し、主観を排除して客観的に評価するトレーニングが不可欠です。被評価者には、制度の目的や評価基準を理解してもらい、評価結果を成長につなげられるようサポートします。
これらのステップを経て制度を運用し、定期的に評価結果を検証して改善を重ねることで、コンピテンシー評価はより効果的なものになります。