Last Updated on 2025年8月20日 by 勝
合併後も労働契約は引き継がれる
合併したときは、新設合併であっても吸収合併であっても、消滅する会社と労働者との労働契約は、新設された会社又は吸収した会社に包括的に承継されます。
つまり、個々の労働者の労働条件は変更されません。
もし、合併契約等で労働契約を承継しない旨を定めても無効になります。
結果的に合併後は異なる労働条件が存在することになります。
当然、このままでは何かと不都合なので、合併後はそれを解消するための施策が実施されるのが普通です。
合併により労働条件を引き下げる必要が生じた場合、その変更は労働者の同意または就業規則の変更が必要です。
個別合意による労働条件の変更
会社が個々の労働者と交渉し、変更後の労働条件について同意を得た場合は、労働条件が変更されます。この同意は、書面で確認することが一般的です。
この場合、会社は、労働者に対して、変更内容や不利益の程度、変更の必要性などを十分に説明し、労働者が納得した上で同意を得る必要があります。形式的な同意ではなく、労働者の自由な意思に基づく同意でなければ、無効とみなされる可能性があります。
就業規則の変更による労働条件の変更
合併直後の就業規則
合併前の各会社の従業員は、合併後も、合併前の会社の就業規則の適用が継続されます。そのため、合併後の新会社または存続会社には、合併前の会社の数だけ就業規則が存在することになります。
合併後、旧B社の従業員は引き続き旧B社の就業規則が適用され、旧A社の従業員には旧A社の就業規則が適用されます。
就業規則の統一
合併後の会社は、円滑な事業運営や公平性の観点から、就業規則の統一を目指します。この統一は、以下の手順で行われます。
- 就業規則の新規作成または既存規則の変更: 複数の就業規則の内容を比較検討し、新しい統一的な就業規則を作成するか、存続会社の就業規則を改定します。
- 労働者の意見聴取: いずれの場合でも、労働組合または労働者の過半数を代表する者の意見を聴取します。
- 労働基準監督署への届出: 新しい就業規則を労働基準監督署に届け出ます。
就業規則の不利益変更
就業規則が統一されたことにより、一部の労働者の労働条件が下がることがあります。このような不利益になる変更が有効と認められるには、労働契約法第10条に定める以下の要件を満たす必要があります。
- 変更の必要性: 労働条件の変更が、合併後の経営状況や事業の円滑な運営に合理的に必要であること。
- 労働者が受ける不利益の程度: 変更により労働者が被る不利益がどの程度であるか。
- 変更内容の相当性: 変更後の就業規則の内容が、変更の必要性や不利益の程度に比べて妥当であること。
- 労働組合等との交渉状況: 労働組合がある場合、変更について十分に協議が行われたか。
これらの要素を総合的に考慮して、変更の合理性が認められる場合に限り、就業規則の変更による労働条件の引き下げが可能となります。
関連記事:就業規則改定による不利益変更
合併後の人事異動
また、合併後の経営合理化のために行われる配置転換や出向なども、合併という事情だけで会社が一方的に行うことはできず、通常の配置転換や出向などで求められる対処が必要になります。
関連記事:配転命令の注意点
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