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取締役と監査役

取締役報酬についての留意点

Last Updated on 2025年6月18日 by

報酬決定の一般的な流れ

会社法第361条は、取締役の報酬等について「定款に定めがある場合を除き、株主総会の決議によって定める」としていますが、一般的には、株主総会は報酬等の「総額」や「算定方法」という大枠を決め、個々の取締役への具体的な配分は取締役会に委ねています。

株主総会で役員報酬の総額(枠)を決定する

通常、事業年度開始から3か月以内に開催される定時株主総会で、その事業年度の取締役全員に支払われる報酬の総額の上限を議決します。

例:「当社の取締役の報酬等の総額は、年額〇〇円を上限とする。」

この決議には、株主総会の普通決議(議決権の過半数を持つ株主が出席し、出席株主の議決権の過半数で可決)が必要です。

総額の範囲内で個々の役員報酬を決定する

株主総会で決定された総額の枠内で、各取締役の具体的な報酬額を取締役会で決定します。

各取締役の職務内容、貢献度、会社への貢献見込み、同業他社の水準、会社の業績などを総合的に考慮して決定されます。

取締役会を設置していない会社(監査役設置会社で取締役会を設置しない場合など)や、取締役が1人しかいない会社では、株主総会で個々の報酬額まで具体的に決めることもあります。

個別額決定の際の留意点

職務内容・貢献度

取締役それぞれの職務内容や、会社の業績に対する貢献度を考慮します。

同業他社の水準

同規模・同業種の他社の役員報酬の水準を参考にすることも重要です。極端に高額な役員報酬は、税務上損金不算入となるリスクがあります。

会社の年間収益の見込み

会社の売上や利益の見込みと、人件費としての役員報酬のバランスを考慮します。会社の経営状況を圧迫するほどの高額な報酬は避けるべきです。

従業員の給与とのバランス

従業員の給与とのバランスも重要です。役員報酬が高すぎると、従業員のモチベーション低下を招く可能性があります。

透明性

上場会社では、1億円以上の役員報酬については個別の開示が義務付けられており、近年、役員報酬の決定方針に関する開示も強化されています。中小企業においても、株主や関係者に対して、報酬決定の根拠を説明できるよう準備しておくことが望ましいです。

税務上の留意点

法人税法上、役員報酬を会社の損金(費用)として計上するには、一定の要件を満たす必要があります。この要件を満たさない場合、役員に支払われた金銭であっても会社の損金に算入できず、その分会社の利益が増えて法人税が増加してしまいます。これを「損金不算入」といいます。

損金算入が認められる役員報酬は、主に以下の3種類です。

定期同額給与

毎月同じ時期に、同じ金額を支給する仕組みです。一般的な役員報酬の形態です。

事業年度開始から3か月以内(新設法人の場合は設立から3か月以内)に金額を決定します。 一度決めた金額は、原則として事業年度中は変更できません。毎月、同額を支給することになります。

期中に経営状況が悪化したなどの「臨時改定事由」や、役員の職制上の地位の変更、職務内容の重大な変更などの「特定事情」がない限り、期の途中で金額を変更すると、変更後の金額の全額、または変更後の金額から変更前の金額を差し引いた部分が損金不算入となるリスクがあります。

不相当に高額でないことも条件です。 同業他社や同規模の会社と比較して、著しく高額な場合は、その高額な部分が損金不算入となる可能性があります。

税務調査では、定期同額給与の要件を満たしているか、不相当に高額でないかなどがチェックされます。

事前確定届出給与

あらかじめ税務署に届け出た金額・支給日に支給される役員賞与や、特定の期間(例えば四半期ごと)に支給される報酬です。

株主総会等の決議により、金額と支給日を確定さ、所轄税務署に「事前確定届出給与に関する届出書」を提出します。 提出期限は、株主総会等の決議をした日から1ヶ月を経過する日か、その事業年度開始の日から4ヶ月を経過する日のいずれか早い日です。

届け出た内容と実際の支給が完全に一致しなければなりません。 支給額や支給日が少しでも異なると、全額が損金不算入となります。

不相当に高額でないことも条件です。 定期同額給与と同様に、過大な部分は損金不算入となります。

事前に高額な賞与を設定しても、実際に利益が出なかった場合に支払いが困難になるリスクがあります。

業績連動給与

会社の利益や株価などの客観的な指標に連動して支給される報酬です。主に、大企業の役員報酬で採用されることが多いです。

有価証券報告書で報酬の決定方針が開示されていることなど、厳格な要件があります。中小企業で採用されることは稀です。

その他の留意点

名義貸し役員への報酬

業務をほとんど行っていない名義だけの役員に高額な報酬を支払っていると、税務調査で損金不算入と判断されるリスクが高いです。

使用人兼務役員

取締役であって、部長などの使用人としての職務も兼ねている「使用人兼務役員」の場合、使用人としての給与部分と役員としての報酬部分を明確に区分し、税務上の要件を満たす必要があります。

社会保険の加入

代表取締役や他の役員も、原則として社会保険の被保険者となります。報酬額に応じて社会保険料が決まり、会社と個人で折半して負担します。社会保険料も無視できない支出ですので、報酬決定の際には考慮が必要です。

税理士等の専門家への相談

役員報酬の決定は、会社法と法人税法、所得税法、社会保険など、多岐にわたる法律や制度が絡み合うため、非常に複雑です。特に中小企業においては、法人税と役員個人の所得税・社会保険料の合計額が最小となるような最適な役員報酬額を決定することが、税負担を軽減する上で重要になります。そのため、税理士などの専門家と綿密に相談しながら決定することをおすすめします。

これらの点を総合的に考慮し、会社の状況と税務上のメリット・デメリットを比較検討しながら、適切な取締役報酬を決定することが、会社の健全な発展と役員のモチベーション維持のために不可欠です。


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