使用人兼務役員とは?

取締役と監査役

Last Updated on 2025年10月6日 by

使用人兼務役員の定義と要件

定義

使用人兼務役員とは、取締役などの役員でありながら、同時に部長、課長、支店長、工場長など、法人の使用人としての職制上の地位を有し、かつ常時その使用人としての職務に従事している者を指します。

なれない役員

税務上、以下の役員は、たとえ現場の職務を兼任していても、会社の経営への関与度が高すぎるとみなされ、使用人兼務役員にはなれません(法人税法などで定められています)。

  • 代表取締役、代表執行役、代表理事、清算人
  • 副社長、専務、常務その他これらに準ずる職制上の地位を有する役員
  • 委員会設置会社の取締役
  • 会計参与、監査役、監事
  • 合名会社、合資会社、合同会社の業務執行社員
  • 一定の同族会社の特定役員(株式の所有割合などにより判定)

税務上の主な取り扱い(給与・賞与)

使用人兼務役員の給与は、「役員としての報酬」と「使用人としての給与」の2つに分けて扱われます。この区別が、法人税法上の損金算入(会社の経費として認められるか)に大きく影響します。

役員報酬(役員分)

役員報酬は、原則として定期同額給与(毎月一定額)や事前確定届出給与などの要件を満たさないと、損金に算入できません。これは、利益操作を防ぐためです。

使用人給与(従業員分)

使用人としての職務の対価として支給される給与や賞与は、他の一般の従業員と同様の基準で支給され、適正な金額であれば、原則として全額が損金に算入されます

  • 定期同額給与の適用除外: 使用人分給与については、役員報酬のような「定期同額給与」の要件が適用されません。
  • 賞与の損金算入: 役員としての賞与は原則として損金不算入ですが、使用人としての賞与は、他の使用人と同じ時期に支給され、かつ適正な額であれば損金算入が可能です。

不相当に高額な部分

役員報酬と使用人給与の合計額が、その役員の職務内容や会社の規模などから見て不相当に高額であると判定された場合、その高額と認められる部分は損金に算入できません

留意すべき点

役割の明確化

税務上のリスクを避けるためにも、役員としての職務(経営判断など)と使用人としての職務(現場の実務、管理など)を明確に区分し、それぞれの職務内容と給与体系を定款や給与規定などで定めておくことが非常に重要です。

労働者性の併存

使用人兼務役員は、役員(会社との関係は委任契約)であると同時に従業員(会社との関係は雇用契約)でもあります。そのため、使用人としての職務については労働基準法や就業規則が適用されることになります。

社会保険・労働保険

役員は原則として労災保険や雇用保険の対象外ですが、使用人兼務役員の場合、その労働者性が認められる範囲で、対象にされることがあります。社会保険(健康保険・厚生年金)については、基本的に加入できます。

社会保険・労働保険についての補足

社会保険(健康保険・厚生年金保険)

原則として加入対象

使用人兼務役員は、法人の役員としての地位を有しているため、原則として健康保険・厚生年金保険の被保険者として加入することが義務付けられています。

役員報酬と使用人給与の合計額:健康保険料や厚生年金保険料を算定するための基準となる「標準報酬月額」は、役員報酬として受け取る分と、使用人としての給与として受け取る分を合算した総額を基礎として決定されます。

労働保険(雇用保険・労災保険)

労働保険は、雇用契約に基づいて働く「労働者(従業員)」を保護するための制度であるため、原則として会社との関係が「委任契約」に基づく役員は対象外となります。

雇用保険

原則として加入対象外

  • 理由:雇用保険は、雇用契約に基づき、会社からの指揮監督を受けて労働の対価として賃金を得ている「労働者」が対象です。使用人兼務役員であっても、会社を経営する立場にある「役員」としての性格が強く、会社との関係は委任契約に基づくものとみなされるため、原則として雇用保険の被保険者にはなれません。
  • 例外的な加入:取締役としての経営権や執行権が実質的に無く、他の従業員と全く同じように指揮命令下で働き、労働者性が極めて強いと認められる場合に、ハローワークの個別の判断により労働者とみなされ、加入できるケースもあります。
  • 手続きを行う際は、これらの労働者性が極めて強い実態を証明するために「兼務役員雇用実態証明書」に加えて、定款、役員報酬規定、賃金台帳、組織図、就業規則などの資料をハローワークに提出する必要があります。

労災保険

原則として加入対象外

  • 理由:労災保険も、雇用保険と同様に、雇用契約に基づく「労働者」の業務上の災害を補償するものです。使用人兼務役員は役員であるため、原則として補償の対象となる「労働者」には該当しません。
  • 労災保険が適用されるかどうかの最終的な判断基準は、その役員が「形式上」役員であるかどかではなく、「実質的な労働者(労働者性)」を有しているかどうかです。労働者性が極めて強いと労働基準監督署が個別に判断した場合は労災保険が適用されることがあります。
  • 特別加入制度:使用人兼務役員を含む中小事業主や法人の役員で、実質的に労働者としての業務にも従事している者を対象とした「特別加入制度」があります。これは、労働者性が弱い役員に対しても、業務上のリスクを補償するために設けられた任意加入の制度です。この制度を利用するには、労働局に申請し、承認を得る必要があります。この特別加入によって、使用人としての職務中の負傷などが労災保険の補償対象となります。