従業員によるSNSへの不適切な投稿が判明した場合、会社としては迅速かつ適切に対応することが極めて重要です。対応の遅れや不手際によって、企業イメージの悪化や業績への影響が拡大するリスクがあるためです。
具体的な対応は、次の5つのフェーズに分けて考えるとスムーズです。
1. 初動対応(事実確認と被害の最小化)
最も重要なのは、問題の拡散を防ぎ、正確な情報を把握することです。
1.1. 証拠の保全と投稿の削除要請
- 投稿内容の保存: 問題の投稿が削除される可能性があるため、スクリーンショットなどを撮り、投稿日時、アカウント情報を含めて客観的な証拠として保全します。
- 投稿者への削除要請: 該当する従業員に連絡を取り、速やかに不適切な投稿を削除するよう求めます。従業員が応じない場合は、プラットフォーム運営会社などへの削除要請を検討します。
1.2. 詳細な事実確認(事情聴取)
- 投稿者である従業員から事情聴取を行います。
- 投稿した事実があるか。
- 投稿の真意や目的は何だったのか。
- 社内情報や顧客情報の漏洩の有無。
- 投稿の対象となった第三者の有無(被害者がいるか)。
- 投稿によって会社にどのような影響が出ているか(クレーム、報道など)。
- 事実関係を客観的かつ正確に把握することが、その後の対応(懲戒処分など)の正当性を担保するために不可欠です。
2. 対外的・対内的対応(謝罪、処分)
事実確認に基づき、社外への説明と社内の規律維持を進めます。
2.1. 対外的な謝罪・説明
- 投稿内容が企業の信用に大きく関わり、社会的に大きな反響を呼んでいる場合、速やかに公式サイトやプレスリリース等を通じて公式な謝罪文を発表します。
- 謝罪文には、事実関係の概要、謝罪の意、今後の対応(再発防止策)を明記し、誠意をもって対応します。
2.2. 従業員への処分検討と実施
- 不適切な投稿が就業規則に定める懲戒事由(会社の信用毀損、機密情報漏洩、業務妨害など)に該当するかを検討します。
- 処分の種類(厳重注意、戒告、減給、停職、解雇など)は、投稿の悪質性、会社への影響の程度、故意か過失か、過去の処分歴、本人の反省度などを総合的に考慮し、客観的かつ社会通念上相当と認められるものでなければなりません(労働契約法第15条)。
- 懲戒処分を行う際は、必ず就業規則の規定に基づき、適正な手続き(弁明の機会の付与など)を踏む必要があります。
労働問題は個別の事情によって判断が大きく異なります。懲戒処分や損害賠償請求など、法的な措置を検討する際は、労働法や企業法務に詳しい弁護士に必ず相談し、法的な妥当性と手続きの適正性を確認することをおすすめします。
2.3. 被害者への対応
- 投稿によって顧客や取引先、他の従業員など第三者に被害が生じている場合、誠意をもって謝罪し、損害賠償を含めた適切な対応を検討します。
日頃からやっておくべき、主な事前の防止策は以下の通りです。
3. ルールと仕組みの整備
不適切な行為に対する企業の姿勢と、具体的な行動基準を明確に定めます。
(1) 就業規則への明記
- 服務規律の中に、SNS利用に関する明確な規定を設けます。
- 会社の信用・名誉を毀損する投稿の禁止。
- 機密情報や顧客情報の漏洩の禁止。
- 悪ふざけなど、企業の業務やイメージを損なう投稿の禁止。
- これらの規定に違反した場合の懲戒処分の種類と根拠を明確にします。
- ポイント: 懲戒処分を有効に行うためには、事前に就業規則に根拠規定を設け、全従業員に周知しておくことが不可欠です。
(2) ソーシャルメディアポリシー・ガイドラインの策定
- 就業規則よりも詳細かつ具体的なSNS利用の指針(ガイドライン)を作成し、全従業員に配布・周知します。
- SNSを利用する上での心構え(企業の一員としての自覚、誠実な対応など)。
- 具体的な禁止事項(差別的表現、政治・宗教の過度な主張、著作権・肖像権の侵害など)。
- 「これは個人の意見です」と明記していても、企業に影響が及ぶリスクがあることの説明。
- 「万が一、不適切な投稿をしてしまった場合の報告・相談フロー」を明確にします。
- ポイント: 正社員だけでなく、契約社員、アルバイト、派遣社員など、すべての人を対象に含めることが重要です。
(3) 入社時等の誓約書の取得
- 入社時や異動時などに、「SNS利用ガイドラインを遵守し、不適切な投稿により会社に損害を与えた場合は懲戒処分や損害賠償請求の対象となり得る」旨を明記した誓約書を提出させます。
- ポイント: 従業員自身にルールの存在と責任の重さを自覚させる効果があります。
4. 意識改革と教育の徹底
ルールを作るだけでなく、従業員のリテラシー(判断能力)を向上させます。
(1) SNSリテラシー研修の定期的な実施
- 全従業員を対象に、SNSの特性とリスクを学ぶ研修を定期的(新入社員研修や年次研修など)に実施します。
- 研修内容の例:
- SNSの特性: 匿名性の限界、情報の爆発的な拡散力、情報の永続性。
- 具体的な炎上事例: 他社の「バイトテロ」や情報漏洩事例などを取り上げ、「自分ごと」としてリスクを認識させる。
- 法的・倫理的責任: 懲戒処分だけでなく、名誉毀損やプライバシー侵害による損害賠償責任などの個人が負うリスクを伝える。
- 世代間ギャップの共有: 世代ごとのSNSに対する感覚の違いを理解し合う機会を設けます。
- 研修内容の例:
- ポイント: 研修は一度きりで終わらせず、新しいリスクや事例に合わせて内容を更新し、継続的に実施することが大切です。
(2) 職場環境の改善(不満の芽を摘む)
- 従業員の会社への不満やストレスが、SNS上での悪口や内部告発という形で現れることがあります。
- 社内アンケートや面談などを通じて従業員の不満や意見を吸い上げ、労働条件や人間関係など、可能な範囲で職場環境の改善に努めます。
- ポイント: 従業員満足度を高めることは、不適切な投稿を動機から防ぐ根本的な対策になります。
5. 早期発見と対応の準備
万が一のトラブルに備え、被害が拡大する前に察知し、迅速に対応できる体制を整えます。
(1) ソーシャルリスニング(モニタリング)の実施
- 自社名、ブランド名、商品名、関連キーワードなどに関するSNS上の投稿を監視(モニタリング)する仕組みを導入し、不適切な投稿を早期に発見できるようにします。
- ポイント: 炎上は拡散スピードが速いため、早期発見が被害の最小化に直結します。
(2) 危機管理マニュアルの策定
- 不適切な投稿が発覚した際の、初動対応フローを事前に策定しておきます。
- 報告ルート: 誰が、誰に、いつまでに報告するか。
- 証拠保全の手順: 誰が、何を、どのように記録・保存するか。
- 対外的な謝罪文作成の責任者と広報窓口。
- 懲戒処分を検討するチーム(人事、法務など)の構成。
- ポイント: 有事の際に「誰が何をするか」が明確になっていれば、冷静かつ迅速に対応できます。