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  • 取引先との懇親会に女性を参加させないことにするのは女性差別になりませんか?

    私は入社5年の女性社員です。これまでは取引先との懇親会があれば出席してきました。自分をアピールできる機会でもあり、取引先の人をよく知ることができるので仕事に役立ってきました。自分では行けない高級な店に行けるのも楽しみでした。この度、部長が、今後はこのような懇親会に女性は参加させられないと言い出しました。社会的にいろいろ事件があったからだと言っていますが納得できません。これは女性差別ではないでしょうか?

    ご自身のキャリアアップや仕事の成果につながる大切な機会を奪われるのは、納得がいかないお気持ち、よくわかります。部長が懇親会への女性社員の参加を制限しようとしているのは、おそらく理由があるのだと考えられますが、部長の対応は、法的にも人事労務の観点からも問題を含んでいる可能性が高いです。

    法律上の観点

    男女雇用機会均等法(第6条)では、募集・採用・配置・昇進・教育訓練などの機会について、性別を理由に差別することを禁止しています。

    懇親会は一見仕事を離れた場のように見えますが、実際には取引先との関係構築や情報収集、社内評価にも関わる機会であり、実質的に「仕事の一環」と位置づけられるのが一般的です。

    その機会を「女性は参加できない」と一律に制限することは、性別を理由とした差別的取扱いに該当する可能性があります。

    女性だけが参加できないとなると、取引先とのネットワーク形成や情報交換の機会を奪われ、女性だけがキャリア形成や評価で不利益を受ける可能性があります。

    これは「間接差別」にも当たり得る行為です。

    部長の意図

    トラブル回避:「社会的にいろいろ事件があった」というのは、セクハラやアルコールハラスメントといった、過去の不祥事や社会的な事件を意識して、「ハラスメント防止」や「セクハラのリスク」を念頭に置いて、女性社員をそういったリスクから守ろうとしている可能性があります。会社や自身の管理責任が問われることを恐れているのかもしれません。

    配慮のつもり: 悪意があるわけではなく、女性社員の負担を減らす「配慮」だと考えているケースもあります。たとえば、夜遅い時間や男性ばかりの席にいることが女性にとって精神的な負担になると、部長が一方的に思い込んでいることも考えられます。

    しかし、こうした部長の考えが、結果的に女性差別につながることは否定できません。

    キャリア機会の損失: 懇親会は、仕事上の関係を深める重要な場です。ここに参加できないことで、人脈形成や情報収集の機会が失われ、男性社員との間に差が生まれる可能性があります。これは、昇進やキャリアアップの機会に直接影響する可能性があります。

    主体性の無視: 懇親会に参加するかどうかは、基本的には社員一人ひとりが判断すべきことです。参加したいというあなたの意思を無視し、性別を理由に一律に禁止することは、個人の主体性を尊重しない行為です。

    取るべき対応

    本来は「女性を排除する」のではなく、会社として適切な安全配慮やルール整備(例えば二次会禁止、深夜帯参加の制限、ハラスメント相談窓口の設置など)によって対応すべき問題です。

    リスク管理を理由に「女性を外す」というのは、安易で不適切な対応です。

    ただし、感情的に反発するのではなく、冷静に、かつ建設的に話を進めることが重要です。

    1. 部長に直接、意思を伝える: まずは、あなたが懇親会への参加を望んでいる理由を、具体的に部長に伝えてみましょう。「部長のおっしゃることは、私たちを守るためのご配慮だと思います。ただ、懇親会は取引先の方と関係を深めたり、仕事につなげる大事な機会だと感じています。これまで参加させていただいたことが自分の成長にも役立ってきましたので、今後は参加できないとなると少し不安です。リスクを減らしながらも、女性も参加できるような形を考えていただけないでしょうか。」などを、落ち着いて説明してください。
    2. 会社の相談窓口を利用する: 部長との話が難航する場合や、納得のいく回答が得られない場合は、人事部やハラスメント相談窓口など、会社の正式な窓口に相談することを検討してください。個人で悩むのではなく、組織としてこの問題に向き合ってもらうことが大切です。例えば「部長から『今後は女性は懇親会に参加させない』というお話がありました。安全のご配慮かと思うのですが、懇親会は仕事の一環として取引先と関係を築ける大事な場なので、女性だけ参加できないのは不公平に感じています。安心して参加できるルール作りなどで対応できないか、ご検討いただけるとありがたいです。」などを、落ち着いて説明してください。
    3. 同僚と連携する: もし同じように考えている女性社員や、あなたの意見に賛同してくれる男性社員がいれば、一緒に声を上げることも有効です。個人の意見としてではなく、部署やチーム全体の意見として伝えることで、部長も真剣に耳を傾ける可能性が高まります。

    会社事務入門男女雇用機会均等法とは?知っておきたいポイントを分かりやすく解説>このページ

  • 取引先との接待会食への出席を強制するのはパワハラになりますか?

    機械メーカーの営業課長です。従来からの慣習で、ときどき取引先との接待会食があります。相手先会社を担当している営業担当が、会食には参加したくないと言ってきました。たしかに取引先の役員は少々癖のある人です。しかし、直接の担当者が出席しないのは角がたちます。こうした場合に、業務命令だと言えばパワハラに該当するでしょうか?

    取引先との会食について、営業担当者の方が参加を拒否されている状況ですね。業務命令と伝えた場合に、パワーハラスメントに該当するかどうかという点について解説します。

    パワーハラスメントの定義

    まず、パワーハラスメントに該当するかどうかの判断は、その行為が業務上必要かつ相当な範囲を超えているかどうかによります。パワーハラスメントは一般的に以下の3つの要素で定義されます。

    • 優越的な関係に基づいて(上司と部下の関係など)
    • 業務の適正な範囲を超えて
    • 身体的・精神的な苦痛を与えること、または就業環境を害すること

    今回のケースをこれに照らし合わせて考えてみましょう。

    1. 優越的な関係

    営業課長であるあなたと、営業担当者という関係は、まさにこの「優越的な関係」に該当します。

    2. 業務の適正な範囲

    接待会食が、担当業務の適正な範囲に含まれるかが重要なポイントです。

    一般的に、取引先との関係構築や維持を目的とした接待は、営業職の業務の一環として広く認識されています。また、この取引先の担当者がその会食に出席する必要があるという課長の判断は、業務上の合理性があると考えられます。したがって、単に「業務命令だ」と伝えるだけでは、直ちにパワーハラスメントには該当しない可能性が高いと言えます。

    しかし、もしその取引先の役員が、担当者にセクハラや度を越えた嫌がらせをするといった事実があり、部下がそれに強い精神的苦痛を感じているにもかかわらず、参加を強制すれば、「身体的・精神的な苦痛を与えること、または就業環境を害すること」に該当し、ひいては「業務の適正な範囲を超えている」と判断される可能性が出てきます。

    部下と話す際に配慮すべきこと

    業務命令として参加を求めるにしても、一方的に押し付けるのではなく、なぜ参加が必要なのか、部下がなぜ参加したくないのかを丁寧に話し合うことが重要です。

    • 部下の意見を傾聴する: なぜ参加したくないのか、具体的な理由を尋ねてみましょう。単に「気が進まない」「飲み会の雰囲気が嫌」なのか、それとも過去に何か嫌な経験があったのか、取引先の役員からハラスメントを受けたことがあるのかなど、部下が抱えている懸念をまず理解することが大切です。
    • 会食の目的を明確にする: 「なぜあなたにこの会食に出席してほしいのか」を明確に伝えましょう。例えば、「この会食は、今後の取引を円滑に進める上で重要な機会であり、担当者である君が直接関係を築くことが重要なんだ」といったように、業務上の重要性を具体的に説明します。
    • 課長としてサポートを約束する: 部下の懸念に対して、課長としてどのようにサポートできるかを具体的に示しましょう。例えば、あなたも同席してサポートすることや、会食中の振る舞いについて事前に打ち合わせをするなど、部下の不安を軽減する策を一緒に考える姿勢を見せることが大切です。

    結論として、「業務命令だ」と単に伝えるだけではパワーハラスメントに直結するわけではありませんが、より良い解決策としては、相手の心情に配慮しつつ、業務上の必要性を丁寧に説明し、不安を取り除くためのサポートを提案することが重要です。


    会社事務入門ハラスメント対策の留意点パワハラに対する会社の対応パワハラの定義>このページ

  • 出張中に近くの観光地に行ったりしてはいけないのでしょうか?

    出張中に近くの観光地に行ったり温泉に入ったりしている社員がいるという報告を受けました。その社員の場合は、出張の用務はきちんとこなしたうえで隙間時間を利用したようですが、黙認してよいでしょうか、黙認した場合、考えられる問題点はありますか?

    出張中に観光や温泉に行くことを黙認した場合、いくつかの問題があります。

    黙認した場合の主な問題点

    1. 労働時間管理との整合性
      出張中の時間は基本的に勤務時間として扱い、賃金の対象になる労働時間にあたります。観光や温泉に行っている間も、特に申告がなければ「勤務中」、つまり労働時間として取り扱っていることになります。労働時間と実態の乖離が生じます。後に労務トラブルになりうる点です。
    2. 旅費・交通費の扱い
      観光目的の移動や滞在の費用を会社に負担させた場合、公私混同と見られる恐れがあります。内部監査や経理上の不正利用と評価される可能性もあります。
    3. 公平性・規律の問題
      他の社員に伝わったとき、「あの人は出張で遊んでいる」との不公平感が広がり、管理職が黙認しているとわかれば、「会社のルールはあっても実際は緩い」というメッセージになります。職場規律やモラルの低下につながりかねません。
    4. 労災・安全管理のリスク
      出張中であるにもかかわらず、観光や温泉で事故や怪我があった場合、労災か私傷病かが曖昧になり、トラブルになる可能性があります。黙認していたのであれば「管理職は知っていたのに止めなかった」と責任追及を受ける恐れもあります。

    関連記事:労災保険の認定と不認定の例

    実務的な対応の考え方

    出張に「隙間時間」があるのは事実で、それを出張目的外に利用することを完全に排除するのは非現実的です。

    • 成果重視
      出張の目的を果たしており、会社経費に影響がなく、かつ労働時間管理上も問題がなければ、ある程度は容認できる余地があります。
    • ルール整備
      公私混同をしないことは必ず守らせなければなりません。出張の目的地以外に立ち寄るのであれば、出張を中断した時間の交通費等は自己負担、出張中断中の私的行動時に発生した事故等は労災適用にならない、といったルールを明確にします。

    結論としては、出張の目的を完了させたあとであれば、隙間時間を利用して目的外の行動をするのは直ちに問題とはいえませんが、「労働時間・経費・公平性と規律・安全」の観点からみると単に黙認してよいとは言えません。

    ルール化の例

    旅費規程に載せるかどうかは会社それぞれの判断ですが、例えば、人事からの通達の形で周知させる例を示します。

    出張中の空き時間について

    社員各位

    人事部長

    日頃より業務にご尽力いただきありがとうございます。
    出張の際には、移動や業務の合間に空き時間が生じることがあります。その時間をどのように過ごすかは個々人に委ねられる部分ではありますが、以下の点についてご留意ください。

    • 出張の目的である業務に支障をきたさないこと
    • 私的な活動に伴う費用は自己負担とすること
    • 私的な活動中の事故やトラブルは自己責任となること

    出張中に隙間時間が生じたときに、現地での時間を有意義に活用すること自体を制限するものではありません。公私の区別を意識し、節度ある行動をお願いいたします。


    会社事務入門事務処理のいろいろと事務処理の効率化出張について>このページ

  • 退職する従業員から回収しなければならない物品やデータ(誓約書サンプル付き)

    退職する従業員から回収すべきものは、会社の所有物であり、業務上必要とされたものです。一般的に回収するべきものは以下の通りです。

    会社から貸与された物品

    • 健康保険証(本人分および扶養家族分)
    • 社員証、IDカード、社章
    • 鍵(会社、ロッカー、社用車など)
    • パソコン、携帯電話、タブレット端末
    • 制服、作業着
    • 会社の経費で購入した書籍、文房具、事務用品
    • 社用車の鍵、ETCカード、ガソリンカード
    • 通勤定期券

    業務に関連する情報やデータ

    • 業務で使用した書類やデータ(紙媒体、電子データ問わず)
    • 社内マニュアル、規定集
    • 顧客情報や取引先リスト
    • 開発中の製品情報や企画書、設計図面

    顧客の名刺や取引先のパンフレットについて

    「顧客の名刺」や「取引先のパンフレット」などは営業マンの私物化されていることもありますが、次の理由により通常は回収対象品です。

    • 顧客の名刺
      • 名刺に記載されている情報は、会社に指示された営業活動で得たものであり、会社の情報資産と見なせます。
      • 名刺に含まれる個人情報は、退職後に従業員が何らかの目的で利用すると、情報漏洩や不正競争につながるリスクがあります。
      • 後任者への引き継ぎをスムーズに行うためにも、名刺は会社に返却し、社内で適切に管理されるべきものです。
    • 取引先のパンフレット
      • 業務遂行のために入手したものであれば、会社の所有物です。
      • 競合他社に渡ったり、退職者が個人的に利用したりする可能性を防ぐためにも、回収するのが一般的です。

    回収を徹底すべき理由

    退職する従業員からの物品やデータの回収は、単なる返却だけでなく、以下のような重要な目的があります。

    • 情報漏洩リスクの防止:顧客情報や会社の機密情報が社外に流出することを防ぎます。
    • 不正競争の防止:退職者が競合他社に転職したり、独立したりする際に、持ち出した情報を使って会社に不利益をもたらすことを防ぎます。
    • コンプライアンスの遵守:個人情報保護法や会社の規定を遵守するためにも、適切な回収が必要です。

    誓約書を求める

    「これで全て返却しました」「情報持ち出しはしていません」という誓約書は、退職者から書面で確認を取る際に有効です。法的な強制力は限定的ですが、従業員の意識付けや、万が一の際の証拠の一つとして役立ちます。

    以下に書式の例を示します。必要に応じて項目を追加・修正してご活用ください。

    誓約書

    甲:〇〇株式会社
    乙:氏名 〇〇 〇〇

    乙は、〇〇株式会社(以下「甲」という)を20〇〇年〇月〇日付で退職するにあたり、下記の事項を甲に対し誓約いたします。

    1. 乙は、甲より貸与された物品(健康保険証、社員証、鍵、パソコン、携帯電話、各種カード、制服、備品、その他甲の所有物一切)について、全て甲に返却いたしました。

    2. 乙は、甲の業務上知り得た顧客情報、技術情報、営業情報、財務情報、個人情報、その他一切の機密情報及び営業秘密(以下「機密情報等」という)について、業務以外の目的で使用しないことを誓約いたします。

    3. 乙は、機密情報等を、いかなる媒体(USBメモリ、外付けHDD、個人のPC、スマートフォン、クラウドストレージ、その他)にも複製、保存、転送等により持ち出していないことを誓約いたします。

    4. 乙は、甲の業務上作成したデータ、書類、名刺、パンフレット等、甲の所有に属する一切の業務関連情報を、甲に全て返却し、自己の管理下には一切保管していないことを誓約いたします。

    5. 本誓約に違反し、甲に損害を与えた場合、乙は甲の被った損害を賠償する責任を負うものといたします。

    上記の内容を相違ないことを誓約いたします。

    20〇〇年〇月〇日


      (甲)〇〇株式会社
    代表取締役 〇〇 〇〇 (印)

    (乙)氏名:〇〇 〇〇 (印)

    【誓約書作成のポイント】

    • 具体的に記載する: 「全ての物品」「一切の機密情報」といった包括的な表現だけでなく、具体的な物品名や情報の種類をできるだけ例示するとより明確になります。
    • 返却物リストとの照合: 念書を書いてもらう前に、返却物リストを用意し、一つずつ確認しながら回収し、双方でチェックするようにすると、抜け漏れを防げます。
    • 法的な効果: この念書は、あくまで「本人が持ち出していないことを表明した」という事実の証明であり、それ自体が情報持ち出しを物理的に防ぐものではありません。万が一持ち出しが発覚した際の、会社側の主張の補強材料として用いるものです。

    データの持ち出しをシステム的に防ぐ方法

    データ持ち出しを完全に防ぐことは難しいですが、システム的に対策を講じることで、リスクを大幅に低減できます。

    データ持ち出しを制限・監視する

    • USBポートや外部ドライブの制限:
      • 会社のPCでUSBメモリや外付けHDDの使用を制限したり、特定のデバイスのみを許可したりする設定を行います。
      • Group Policy(Windowsの場合)やMDM(モバイルデバイス管理)ツールなどで一元管理できます。
    • DLP(Data Loss Prevention)ソリューションの導入:
      • 機密情報と定義されたデータが、メール、ウェブアップロード、USBメモリなど、社外への経路を通じて送信されるのを検知・ブロックするシステムです。
      • どのデータが、誰によって、どこへ持ち出されようとしているのかをログとして残すことも可能です。
    • クラウドストレージの利用制限:
      • 会社の許可していない個人用のクラウドストレージ(Google Drive, Dropbox, OneDriveなど)へのアクセスやアップロードを制限します。
      • 社内でのみ利用を許可されたクラウドストレージやファイルサーバーを活用し、そこでのアクセス権限を厳密に管理します。

    アクセス管理を徹底する

    • 役割ベースのアクセス制御(RBAC):
      • 従業員の役職や業務内容に応じて、必要なデータにのみアクセスできる権限を設定します。
      • 退職時には、速やかにアカウントを無効化し、アクセス権限を削除します。
    • ファイルサーバーや共有フォルダのアクセスログ管理:
      • 誰が、いつ、どのファイルにアクセスしたか、編集したか、ダウンロードしたかなどのログを記録し、定期的に監視します。
      • 不審なアクセスがあれば、すぐに検知できる体制を整えます。

    物理的・運用的な対策も重要

    • PCの起動時パスワード:
      • PCにパスワードを設定するだけでなく、起動時にもパスワードを要求する設定にすることで、PCの紛失・盗難時のリスクを低減します。
    • 持ち出し制限に関する社内規定の明確化:
      • データ持ち出しに関するルールや罰則を明確にし、従業員に周知徹底します。
      • 入社時に誓約書を交わすことも有効です。
    • 退職時のデータ消去の徹底:
      • 退職者が使用していたPCやデバイスのデータは、専門のツールで完全に消去するようにします。

    これらの対策を組み合わせることで、情報漏洩のリスクを最小限に抑え、会社の重要な資産を守ることができます。


    会社事務入門従業員が退職するときの手続き>このページ

  • 従業員に会社のお金を横領されてしまいました!会社としては何をどうすればよいのでしょうか?

    経理担当の従業員が勝手に会社の通帳からお金を引き出して使い込んでいました。このようなことが発覚したときに、会社としてはどのような対応ができるでしょうか?

    大変な事態ですね。このようなケースでは、法的な対応、人事的な対応、そして再発防止策を多角的に検討する必要があります。それぞれの対応について、以下に整理して解説します。

    事実確認と証拠収集

    まず何よりも先に、事態の全容を把握するための事実確認と証拠収集を行う必要があります。

    証拠の保全:通帳、出金伝票、領収書などの確認、会社のPCやメール、チャット履歴なども、不正行為の証拠となりうるため、保全しておきます。

    内部調査: 調査担当者を決めて、従業員への聴取を行い、事実関係を確認します。この段階での聴取は特に慎重に行う必要があります。

    横領された金銭の回収

    横領された金銭を回収するために、以下の方法が考えられます。

    従業員との示談交渉

    • メリット: 迅速な解決が期待でき、訴訟費用もかかりません。全額返済すれば刑事告発については情状の余地があるなどの条件で、損害回収が期待できることがあります。
    • 方法: 従業員と直接交渉し、横領した金額の返還と、その支払い方法(一括払い、分割払いなど)について合意します。示談書を作成し、公正証書にしておくことで、法的な効力を持たせることができます。示談書の作成等には専門的知識が必要なので専門家と情報共有して進めましょう。
    • 注意点: 従業員が支払い能力を欠く場合、交渉が難航する可能性があります。

    損害賠償請求訴訟

    • メリット: 示談交渉で合意に至らない場合、裁判所の判決を得て強制的に金銭の回収を図ることができます。横領された金銭だけでなく、横領によって会社が被ったその他の損害(調査費用など)も併せて請求することができます。
    • 方法: 民事訴訟を提起します。従業員の財産(預貯金、不動産など)を差し押さえるための手続きも同時に進めることができます。
    • 注意点: 訴訟には弁護士費用がかかり時間もかかります。勝訴を得ても従業員に資力がない場合は回収できないリスクがあります。

    人事処分(懲戒解雇)

    横領は重大な非違行為でなので、懲戒処分として懲戒解雇を検討することができます。

    • 懲戒解雇の要件: 会社の就業規則に懲戒解雇事由として横領が明記されている必要があります。また、従業員に弁明の機会を与えるなど、適正な手続きを踏む必要があります。
    • 手続き:
      1. 懲戒委員会の開催: 社内のしかるべきメンバーで懲戒委員会を開き、事実関係を審議します。
      2. 弁明の機会の付与: 従業員に弁明の機会を与えます。
      3. 懲戒処分の決定: 懲戒委員会の審議結果に基づき、懲戒解雇を決定します。
      4. 解雇通知: 従業員に懲戒解雇を通知します。
    • 注意点: 懲戒解雇は従業員のその後の生活に大きな影響を与えるため、慎重に判断しなければなりません。特に横領について否認している場合、何か背景事情がありそうな場合は更に充分な調査が必要です。

    刑事告発

    横領は、刑法上の「業務上横領罪」に該当する犯罪です。警察に被害届を提出し、告訴を行うことができます。

    • メリット:
      • 受理されると警察による捜査が行われ、横領の事実がより明確になります。
      • 従業員に対する社会的制裁となります。
      • 会社の調査ではわからなかったことが明らかになる可能性があります。
    • 方法:
      • 警察署に被害届を提出します。
      • 告訴状を作成し、警察に提出します。これも通常は弁護士に依頼します。
    • 注意点:
      • 告訴は、民事上の金銭回収とは直接関係ありません。
      • 事件が明らかになることで、会社の信用が傷つくおそれもあります。

    再発防止策

    同様の事態を二度と起こさないために、再発防止策を講じることが最も重要です。

    内部統制の強化

    複数人によるチェック体制: 経理処理や支払い手続きを一人に任せるのではなく、複数人でチェックする体制を構築します。

    職務分掌の明確化: 経理担当者の権限を明確にし、担当者以外が会社の通帳を管理できないようにします。

    定期的な監査: 外部の監査法人や税理士による定期的な監査を実施します。

    従業員への教育と啓発

    倫理規定の周知徹底: 従業員に対して、会社の倫理規定やコンプライアンスに関する教育を行います。

    経理システムの導入

    経理ソフトウェアの導入: 不正な取引を検知する機能がある経理ソフトウェアを導入します。

    まとめ

    経理担当従業員による横領事案は、会社にとって大変深刻な問題です。

    法的対応: 損害賠償請求(示談交渉または訴訟)と刑事告発を検討します。

    人事対応: 懲戒解雇を視野に入れ、就業規則に則った適正な手続きで対応します。

    再発防止策: 内部統制の強化、従業員教育、システム導入などを通じて、会社のガバナンス体制を立て直すことが不可欠です。

    専門的な知識が必要となるため、事態が発覚した時点で、速やかに弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。


    会社事務入門職場のトラブルに会社はどう対応する従業員による不適切な行動への対応>このページ

  • 作成した資料が他者の著作権を侵害しないために注意するべきこと

    著作権の注意点

    法令や官公庁記事の利用

    法令・通達を所管する官公庁のホームページからコピーすることがあると思いますが、法律・政省令・告示・判決などは「著作物ではない」ので自由に利用できます。

    官公庁のサイトにある「制度の説明記事」「図解」「Q&A」などは、職員が文章化した「表現」であり、原則として著作権が生じます。

    ただし、多くの省庁サイトでは「出典を明示すれば自由に引用・転載可能」などの利用条件が示されています。なかには、利用を禁じている官公庁サイトもあるので注意が必要です。

    書籍・民間記事からの利用

    表現をそのまま引用する場合

    文章をそのまま紹介する場合には、著作権法上の「引用」として扱う必要があります。引用の要件としては、

    • 公表された著作物であること
    • 必要性があること
    • 主が自分の文章で従が引用した部分という主従関係が明確であること
    • 自分の話と引用部分が明確に区別できること
    • 出典を明示すること

    が求められます。

    引用と認められる要件を少し詳しく説明します。

    著作権法第32条には、「引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。」と定められています。この条文と過去の裁判例などから、一般的に以下の要件を満たす必要があるとされています。この要件が、一つでも欠けると著作権侵害となる可能性があります。

    1. 公表された著作物であること
      • 引用できるのは、すでに公表されている著作物に限られます。
      • 非公開の論文や未発表の作品、個人のSNSアカウントの鍵付き投稿などは引用できません。
    2. 引用の必要性があること
      • なぜその著作物を引用しなければならないのか、明確な理由が必要です。
      • 単に装飾や面白さのため、あるいは自分の文章のボリュームを増やすためといった目的では、正当な引用とは認められません。
    3. 主従関係が明確であること
      • 「主」は自分の著作物、「従」は引用した部分という関係性が不可欠です。
      • 自分の文章がほとんどなく、他者の著作物をコピペした部分が大部分を占めるような場合は、「引用」ではなく「転載」とみなされ、著作権侵害となる可能性が高いです。
    4. 引用部分が明確に区別されていること
      • 引用した部分が、自分のオリジナルな部分と見てすぐに区別できるようにする必要があります。
      • 具体的には、文章の場合は「カギ括弧(「」)」や「引用符(””)」で囲む、インデント(字下げ)や背景色を変えるといった方法が一般的です。
      • 画像や図版の場合は、キャプション(説明文)を付けるなどして、引用であることを明確にします。
    5. 出所(引用元)が明示されていること
      • 誰のどの著作物から引用したのかを、明確に表示しなければなりません。
      • ウェブサイトからの引用であれば、「サイト名」と「URL」を明記します。
      • 書籍からの引用であれば、「書籍のタイトル」「著者名」「出版社名」「発行年」を記載するのが一般的です。

    内容(知識・情報)だけを参考にして自分の言葉でまとめる場合

    書籍等を参考にしたとしても、自分の言葉で書いた文章は、基本的には、著作権侵害にならないことになっています。模倣しすぎると「翻案」とみなされる可能性があります。

    配布範囲と私的利用の誤解

    いわゆる私的利用であれば認められることもありますが、事業活動として配布することは、私的利用の範囲には入りません。必ず権利処理や引用ルールを守る必要あります。

    引用と転載の違い

    「引用」は、あくまで自分の意見や主張を補強するために、必要最小限の範囲で他者の著作物を利用する行為です。正しい「引用」であれば、著作権者の許諾がなくても利用できます。

    「転載」は著作物の全部または大部分を掲載することです。転載は、引用と違って著作権者の許諾が必要です。たとえば、他者の記事をそのまま自分のブログに貼り付ける行為は「転載」にあたり、無断で行えば著作権侵害となります。


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