カテゴリー: 安全運転

  • 従業員の勤務時間外の飲酒を規制できるか?運転職以外にも呼気検査をできるか?

    勤務時間外の飲酒規制について

    勤務時間外の飲酒を規制することは、原則として従業員のプライバシーや個人の自由を侵害する可能性が高く、一般的には許容されません。ただし、特定の状況下では例外的に規制が認められる場合があります。

    労働者は、労働契約に基づき、業務時間中は会社の指揮命令に従う義務がありますが、勤務時間外は個人の自由な時間であり、基本的には何をするにも自由です。飲酒もこの個人の自由な活動の一つであり、会社がこれを規制することは、憲法が保障する個人のプライバシー権や私生活の自由を不当に侵害すると見なされる可能性が高いです。

    たとえ就業規則に「勤務時間外の飲酒を禁止する」という規定があったとしても、その規定は「合理的ではない」と判断され、法的に無効となる可能性が高いです。

    例外的に規制が認められる場合

    以下のような「合理的な理由」がある場合には、勤務時間外の飲酒規制が例外的に認められる可能性があります。これは、飲酒が翌日の業務に重大な支障をきたし、会社の事業運営や安全管理に深刻な影響を与える場合に限られます。

    • 運転業務など危険な業務に従事する従業員
      飲酒運転や、飲酒による判断力低下が重大な事故につながるリスクがあるためです。特に、翌日の業務開始時に酒気帯び状態にあることを防ぐため、前日の飲酒を制限する規定は、安全配慮義務の観点から合理的と判断される場合があります。
    • 出張や海外赴任中の従業員
      現地の法令遵守、会社の信用維持、または安全管理上の理由から、勤務時間外であっても行動に制約を設ける場合があります。
    • 社会的信用を失墜させる可能性がある場合
      勤務時間外の過度な飲酒が原因で事件や事故を起こし、それが報道されるなどして会社のブランドイメージを著しく傷つける行為は規制できる可能性があります。ただし、この場合、個人の飲酒行為そのものを禁止するのではなく、「会社の信用を毀損する行為を禁止する」という就業規則に基づいて処分が行われることが一般的です。

    これらの場合でも、規制は必要最小限にとどめるべきであり、飲酒の量や時間、場所などを細かく限定するような過剰な規制は、やはり違法と見なされる可能性があります。

    結論として、 企業は、従業員のプライベートな行為である勤務時間外の飲酒を安易に規制することはできません。ただし、その飲酒行為が翌日の業務遂行に深刻な影響を与え、企業の安全管理や社会的信用を維持するために不可欠であると客観的に判断できる、ごく限られた場合に限り規制することができると考えられます。

    運転職に対する呼気検査について

    アルコールの呼気検査が法的に義務付けられているのは、主に「道路交通法に基づく自動車の運転者に対してです。

    関連記事:安全運転管理者による酒気帯び確認

    また、工場における工作機械等の操作や、高所作業などについては、労働者の安全を守るための「労働安全衛生法」の趣旨に基づき、企業が自主的にアルコール検査を導入しているケースは多くあります。これは、企業の安全に対する責任として、非常に重要な取り組みと言えます。

    一般従業員に呼気検査できるか

    一般の従業員、例えば、危険があるとは言えない事務職の従業員に、アルコールの呼気検査を求めることは違法となる可能性が高いと考えられます。その理由は、以下の複数の法的原則に抵触する可能性があるためです。

    1. プライバシー権の侵害

    労働者は、企業に従事するとはいえ、一人の人間として、個人のプライバシーを尊重される権利があります。アルコールの呼気検査は、その人の健康状態や前日の行動(飲酒)に関する情報を得る行為であり、これは個人のプライベートな領域に属する情報です。

    問題点: 業務上、自動車の運転や危険な機械の操作といった、生命や身体の安全に直結する業務に従事していない事務職の従業員に、一律または疑いを理由に検査を求めることは、「業務上の必要性」が極めて低いと判断される可能性が高いです。

    業務上の必要性が認められないにもかかわらず、検査を強制することは、個人のプライバシー権を不当に侵害する行為と見なされる可能性があります。

    2. 権限濫用

    使用者は、労働契約に基づき、労働者に対して業務上の指揮命令権を持っています。しかし、この権限は無制限ではなく、業務を遂行する上で「合理的な範囲」でなければなりません。

    問題点: 事務作業は、一般的に飲酒による業務遂行能力の低下が重大な事故につながる可能性が低い業務です。にもかかわらず、飲酒を疑って呼気検査を強制することは、企業の指揮命令権の範囲を逸脱した「権限濫用」と判断される可能性があります。

    特に、就業規則に明確な根拠がない場合や、特定の従業員のみを対象とする場合は、恣意的な人権侵害として問題視されるリスクが高まります。

    3. 就業規則の不備

    企業が従業員にアルコール検査を求める場合、その根拠を就業規則に明確に定めておく必要があります。そして、その規定は、検査の目的、対象者、実施方法、結果に基づく措置(懲戒処分など)について、合理的な範囲でなければなりません。

    問題点: 事務職を含むすべての従業員を対象としてアルコール検査をするには、それを実施する合理的理由が問われます。前日の深酒を防止するため、二日酔いで勤務してほしくない、というだけでプライバシーの問題、権限乱用の問題をクリアできない可能性が強いです。

    また、就業規則に検査を拒否した場合の懲戒規定を設けていたとしても、検査の命令自体が不当であると判断されれば、懲戒処分も無効となる可能性があります。

    企業がアルコール検査を実施する場合、その目的を「飲酒運転防止」や「危険作業における事故防止」といった明確な理由に限定し、対象者を限定することが重要です。

    自家用車通勤の許可条件にできるか

    自家用車で通勤する従業員に対して、自家用車通勤許可の条件としてアルコール呼気検査を義務付けることについても、慎重な判断が必要です。

    法律上は、通勤のみを目的とする自家用車の運転は、道路交通法のアルコールチェック義務化の対象外とされています。

    したがって、企業は法律上の義務に基づいて自家用車通勤者全員に検査を強制することはできません。

    法的な義務がないにもかかわらず、企業が通勤時の飲酒運転防止を目的に検査を導入する場合、以下の点に注意する必要があります。

    業務上の必要性・合理性の判断

    合理的と見なされるケース: 通勤後に社用車や個人の車で業務上の運転を行う可能性がある場合。この場合は、通勤時の検査は業務上の安全確保に直接つながるため、合理性が認められやすいです。

    合理性が認められにくいケース: 通勤後、社内で事務作業のみを行うなど、業務上の運転が一切発生しない場合。この場合は、検査の必要性が低いと判断され、従業員のプライバシー権の不当な侵害と見なされるリスクがあります。

    就業規則への明記

    自家用車通勤許可の条件としてアルコール検査を義務付ける場合は、その旨を就業規則や関連規程に明確に記載し、かつ、個別に同意を得ることが重要です。

    自家用車で通勤する従業員へのアルコール呼気検査は、通勤後に業務上の運転が予定されている場合に限り、自家用車通勤許可の条件として実施する合理性があると判断できます。業務上の運転がない従業員に対して一律に実施することは、慎重になるべきです。


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  • 安全運転を表彰する制度について(実施要綱付き)

    無事故無違反の運転手を表彰する制度は、安全運転意識の向上に非常に有効な施策です。表彰制度をより効果的に機能させ、会社全体の安全運転文化を醸成するための工夫をいくつかご紹介します。

    表彰制度の工夫

    達成期間に応じて段階的な表彰を用意します。例えば、「1年無事故無違反」「3年無事故無違反」「10年無事故無違反」などとすることで、短期的なモチベーションだけでなく、長期的な目標にもなります。

    運転手個人だけでなく、チームや営業所単位での表彰も取り入れることで、従業員同士が互いに安全運転を意識し合う文化が生まれます。

    表彰のインセンティブは、金銭だけでなく、感謝状、特別休暇、記念品、社内報での紹介など、多岐にわたるものが効果的です。

    できるだけ多くの従業員が参加できる場で表彰することで、受賞者の功績を称え、他の従業員の安全運転意識を刺激することができます。

    安全運転文化を醸成する工夫

    会社の安全運転運動が、「罰」中心ではなく、「褒める」ことによる正のフィードバックを重視することで、従業員の自律的な安全運転意識を高める工夫をしましょう。

    ヒヤリハットの共有と表彰

    実際に事故には至らなかったが、危険な状況に遭遇した「ヒヤリハット」事例を積極的に報告させ、共有する制度を設けます。ヒヤリハットを報告した従業員を表彰することで、問題意識の高い行動を評価し、他の従業員もリスクを事前に察知する能力を養うことができます。

    安全運転教育の定期的な実施

    表彰制度と並行して、定期的な安全運転講習や研修を実施します。運転記録証明書から得られる情報を匿名データとして活用し、会社全体で注意すべき点を共有することで、具体的な安全運転指導につなげることができます。

    安全運転に関する社内アンケート

    従業員が日頃感じている運転上の危険や課題について意見を募ります。これにより、従業員が安全運転管理に主体的に関わっていると感じられ、制度への参加意欲が高まります。

    安全運転表彰制度要綱

    表彰の実施要綱(サンプル)です。

    第1条(目的)
    本制度は、従業員の安全運転意識の向上と、交通事故・交通違反の撲滅を図ることを目的とします。安全運転を継続的に実践する従業員及びチームを評価・表彰することで、全社的な安全運転文化の醸成に努めます。

    第2条(表彰の対象)
    表彰の対象は、当社の業務車両を運転する従業員および所属するチーム・事業所とします。

    第3条(表彰の種類と基準)
    以下の基準に基づき、部門長会議の審議を経て表彰者を決定します。

    個人表彰

    無事故・無違反賞:運転記録証明書に基づき、過去1年間事故および交通違反がなかった従業員を表彰します。

    特別功労賞:継続年数に応じて表彰します。

    • ゴールドドライバー(無事故・無違反3年達成)
    • プラチナドライバー(無事故・無違反5年達成)
    • ダイヤモンドドライバー(無事故・無違反10年達成)

    ヒヤリハット報告賞:「ヒヤリハット」事例を積極的に報告し、会社全体の安全意識向上に貢献した従業員を表彰します。

    チーム・事業所表彰

    無事故達成賞:年度ごとに、チームまたは事業所全体で事故・違反件数が最も少なかった部門を表彰します。

    第4条(表彰と副賞)
    表彰は金一封または記念品を授与します。

    第5条(表彰の実施)
    表彰は、原則として年1回、全体会議または朝礼で実施します。

    附則
    本要綱は、令和◯年◯月◯日より施行します。


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  • 交通事故を起こした従業員を対象にした罰金制度を作ることの問題点について

    罰金制度の問題点

    結論を先に言えば、「罰金制度」は法令に違反する可能性が極めて高いのでやるべきではありません。

    賠償予定の禁止

    交通事故を起こした従業員や、仕事上のミスやトラブルを起こした従業員に対して「罰金」と称するペナルティを科す制度を設けることは、労働基準法第16条の、労働契約の不履行について違約金や損害賠償額をあらかじめ定めておくことを禁止する条文に抵触する可能性が高いと思われます。

    減給の制限

    労働基準法第91条は、会社が従業員に制裁として賃金の減給を行う場合、その額に上限を設けています。

    もし懲戒処分として減給を検討する場合は、就業規則に明記し、かつ法律で定められた上限額の範囲内で行う必要があります。

    具体的な制限は以下の通りです。

    1. 一回の事案における減給額: 平均賃金の1日分の半額を超えてはなりません。
    2. 一賃金支払期(通常は1ヶ月)における減給総額: 賃金総額の10分の1を超えてはなりません。

    この上限を超えた場合は違法となります。上限の範囲内であっても懲戒処分の一つとして行うものなので、懲戒処分の要件を満たさなければなりません。

    関連記事:懲戒処分をするときの注意点

    罰金と損害賠償の違い

    法律上、会社が従業員に「罰金」を課すことと、実際に発生した損害に対する「損害賠償」を請求することは全く別の問題です。

    • 罰金制度: 原則として設けることはできません。
    • 損害賠償: 従業員の故意または重大な過失によって会社に損害が生じた場合、会社は従業員にその損害の賠償を請求することは可能です。しかし、事情にもよりますが、裁判所において認められる可能性は小さいでしょう。

    交通事故は、従業員に不注意(軽過失)があったとしても、その損害の全額を従業員に負担させることは、信義則や公平の原則に反するとされています。通常、会社の指揮命令下での業務中に発生した損害は、会社が負担すべきものと考えられています。

    謝罪させるのはどうか

    パワハラに注意

    事故を起こした従業員に対して、罰金ではなく、朝礼などの場で、社長に謝罪させることはどうでしょうか?

    従業員を多くの社員の前で社長に謝罪させることは、パワハラと見なされる可能性が高く、問題があります。これは、人格権の侵害にあたり、従業員に精神的苦痛を与える行為だからです。

    懲戒処分としての謝罪は認められない

    会社が従業員に謝罪を命じる行為は、懲戒処分の一環として行われることがあります。しかし、判例や法的見解では、以下のような理由から、多くのケースで謝罪を命じる懲戒処分は認められていません。

    • 謝罪の強要: 謝罪は本人の反省に基づいて自発的に行われるべきものであり、会社が強制的に謝罪を命じることは、個人の良心の自由人格権を侵害する可能性があります。
    • 不相当な制裁: 全員の面前での謝罪は、従業員に精神的な苦痛を与え、社会的な評価を著しく低下させる行為です。これは、就業規則に定められた懲戒事由に比べて、あまりにも過度な制裁と判断される可能性が高いです。

    謝罪を求めることの代替案

    謝罪を求めることの目的が、従業員の反省を促し、他の従業員の安全意識を高めることにあるのであれば、より適切な方法を考えましょう。

    • 個別の謝罪: 事故を起こしたことについて、社内の関係者(社長や上司)に対して、個別に、自主的な意思に基づいて謝罪を促す。
    • 事故報告会での共有: 事故の再発防止策を話し合う目的で、事故報告会を開催し、事故の経緯や原因、対策を客観的に発表させる。この際、本人の発言を求めることは問題ありませんが、人格的な非難や公開謝罪を強要してはいけません。

    このような方法であれば、従業員に不当な精神的苦痛を与えることなく、事故防止の目的を達成することができます。

    指導とパワハラの違い

    事故を起こした従業員への指導は、安全運転を徹底させる上で重要ですが、指導方法によってはパワハラと見なされるリスクがあります。

    パワハラ(パワーハラスメント)は、厚生労働省の定義では、「優越的な関係を背景とした、業務上必要かつ相当な範囲を超える言動」を指します。つまり、「必要性」と「相当性」が判断の鍵となります。

    パワハラと見なされる言動正当な指導と見なされる言動
    内容人格を否定する発言、罵倒、大声での叱責、長時間の説教、無視、退職を示唆または強要具体的な改善点を指摘、事故の原因究明、再発防止策の指導、報告書の作成指示、反省を促す問いかけ
    目的個人の責任追及、見せしめ、精神的な苦痛を与える業務上の必要性、安全確保、事故防止、従業員の成長

    パワハラにならない指導の具体例

    1. 冷静な態度で事実確認を行う
      • 事故の経緯、状況、原因について、感情的にならずに冷静にヒアリングします。
      • 「なぜこんな事故を起こしたんだ!」と感情的に怒鳴るのではなく、「この事故はなぜ起きたのか、原因をどう分析していますか?」と問いかけ、本人の内省を促します。
    2. 具体的な問題点を指摘する
      • 漠然と「お前は運転が下手だ」と非難するのではなく、「交差点での一時停止が不十分だったため、右方から来る自転車を見落とした」など、具体的な問題点を明確に伝えます。
    3. 再発防止策を共に考える
      • 一方的に指導するのではなく、従業員に「次に同じ状況になったとき、どうすれば事故を防げたと思いますか?」などと尋ね、解決策を一緒に考えます。
      • 単に叱るだけでなく、「ヒヤリハット報告書を書いてもらう」「運転シミュレーターで訓練する」など、具体的な改善策を提示します。
    4. 指導の場と時間を配慮する
      • 他の従業員の前で見せしめのように叱責するようなことをしてはいけません。
      • 指導の時間は、必要以上に長くならないようにしましょう。
    5. 指導の記録を残す
      • 後日、パワハラと言われることがないか、自分の言動を自ら確認しながら指導しましょう。指導日時、指導内容、従業員の反応、今後の改善策などを記録しておくことで、指導が業務上の必要性に基づいたものであったことを証明できます。

    これらの方法で、従業員の安全運転意識を高めるとともに、指導する側もパワハラのリスクを避けることができます。


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  • 会社が従業員の運転記録証明書を入手して安全運転管理に利用できますか?

    運転記録証明書の入手

    自動車安全運転センターが交付する「運転記録証明書」や「無事故・無違反証明書」は、原則として本人からの申請に基づいて発行されます。会社が従業員個人の証明書を直接取得することはできません。

    ただし、従業員本人が委任状を作成し、会社に証明書の取得を委任することは可能です。その場合でも、証明書は従業員本人に交付され、それを従業員が会社に提出するという手続きになります。

    利用に当たっての注意点

    会社が従業員の承諾を得てこれらの証明書を取得し、それらを安全運転指導や業務適性の判断に利用すること自体は、一般的に問題ないとされています。ただし、以下の点に注意が必要です。

    • 個人情報保護への配慮: 会社が証明書を取得・利用する際は、個人情報保護法に基づき、その利用目的をあらかじめ従業員に明示し、同意を得る必要があります。
    • 利用目的の明確化: 証明書をどのような目的で利用するのか(例:安全運転指導、業務適性の確認など)を具体的に従業員に伝える必要があります。
    • 適切な取り扱い: 取得した証明書の内容は、業務上必要な範囲でのみ利用し、目的外の利用や不適切な取り扱い(例:無関係な社員への開示)は避けなければなりません。

    委任拒否や提出拒否があったら

    運転の職にある者が、「運転記録証明書」又は「無事故・無違反証明書」を取得するための委任状の提出を拒み、あるいは、送付されてきた証明書の会社への提出を拒むことがあるかもしれません。

    対応策を検討します。

    • 就業規則: まず、就業規則に、運転業務従事者に対し、「運転記録証明書」等の提出を義務付け、提出拒否が懲戒事由となる旨が明確に定められている必要があります。就業規則自体に定めていなくても採用時の誓約書等で従業員が証明書の提出に同意していれば同等の効力があります。
    • 業務上の必要性: 運転業務に従事する従業員の安全運転能力を確認することは、企業にとって安全配慮義務を果たす上で非常に重要な業務上の必要性があります。そのため、証明書の提出を求める命令は、一般的に合理的な業務命令と認められます。
    • 懲戒処分・乗務拒否の妥当性: 提出拒否は、業務命令違反という事実に基づいています。そのため、この事実を根拠とした懲戒処分や、運転業務への乗務拒否は正当である可能性が高いです。
    • 処分の相当性: 提出拒否のみを理由に懲戒解雇などの重い処分を下すことは、相当性を欠くと判断されるリスクがあります。

    また、提出拒否の背景に何らかの不都合な事実(過去の違反歴など)がある可能性はありますが、証明書が提出されていない以上、その事実を理由とした処分はできません。あくまで、証明書の「提出拒否」という業務命令違反の事実を根拠として処分を行うことになります。

    証明書の内容を理由とした処分

    安全運転指導や乗務可否の判断に証明書の情報を用いる場合は、その必要性と合理性を明確にし、適切な手続きに則って行うことが重要です。

    証明書の内容だけを理由に、業務上の不利益(懲戒処分や不当な配置転換など)を課すことは問題となる可能性があります。

    例により検討してみます。

    質問

    会社が就業規則によって、勤務時間内外を問わず飲酒運転を禁止し懲戒処分の対象にしている場合、証明書の内容によって、勤務時間外の飲酒運転が判明した場合、処分(懲戒処分・配置転換)してよいか?

    回答

    就業規則に飲酒運転を懲戒処分の対象とすることが明記されており、従業員の同意を得て取得した「運転記録証明書」から飲酒運転の事実が判明した場合、それを根拠とした処分は正当である可能性が高いと思われます。

    ただし、懲戒処分や配置転換の正当性を判断する際には、いくつかの重要なポイントがあります。

    懲戒処分が正当と認められるための条件

    懲戒処分が有効となるには、客観的かつ合理的な理由と、社会通念上相当な処分内容が求められます。

    • 就業規則の明記と周知: 飲酒運転を懲戒事由として就業規則に明確に定めており、従業員にその内容を周知している必要があります。
    • 業務への関連性: 飲酒運転が会社の業務に与える影響の度合いが重要です。特に、運送業や運転を伴う業務の従業員であれば、業務との関連性が高く、重い処分が認められやすい傾向があります。
    • 行為の悪質性: 飲酒運転の状況(酒気帯びか酒酔いか、事故の有無、飲酒量、被害の程度など)が考慮されます。悪質な行為であるほど、重い処分が正当化されやすくなります。
    • 本人への弁明の機会: 処分を決定する前に、従業員本人に飲酒運転の事実や経緯について弁明の機会を与えるなど、適切な手続きを踏むことが不可欠です。

    裁判例では、従業員の私的な飲酒運転であっても、その職種や企業の社会的影響を考慮し、懲戒解雇が有効と判断されたケースがあります。例えば、運送会社のドライバーや公務員などが飲酒運転で処罰された場合、企業の信用失墜や職務への適格性の欠如を理由に、懲戒処分や降格、配置転換が認められている例があります。

    しかし、飲酒運転の事実が判明したからといって、無条件に懲戒解雇が認められるわけではありません。事案の軽重、従業員の勤務年数、反省の態度、過去の処分歴などを総合的に判断する必要があり、安易な懲戒解雇は無効とされるリスクを伴います。

    配置転換について

    「運転記録証明書」から勤務時間外の飲酒運転が判明し、安全運転管理上、運転業務から外す必要があると判断した場合、運転を伴わない業務への配置転換は一般的に正当性が認められやすいです。これは、飲酒運転の事実が職務遂行上の信頼を損なうものであり、業務適格性の問題と判断されるためです。


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  • 見落としがちなポイントも解説!車両の始業点検マニュアル

    車両の始業点検のやり方

    始業点検で最低限行うべき点検項目

    車両の始業点検(日常点検)は、道路運送車両法で定められており、安全な走行を確保するために非常に重要です。最低限行うべき項目は以下の通りです。「点呼」とも言います。

    ブレーキ:

    ・踏み込んだ時の遊びや踏みしろが適切か。
    ・効き具合に異常がないか。

    タイヤ:

    ・空気圧が適切か。
    ・亀裂や損傷がないか。
    ・溝の深さが十分か。

    灯火類:

    ・ヘッドライト、テールランプ、ブレーキランプ、ウインカーなどが正しく点灯するか。
    ・汚れや損傷がないか。

    エンジン:

    ・異音や異臭がしないか。
    ・エンジンのかかり具合はどうか。
    ・冷却水の量やオイルの量に異常はないか。

    その他:

    ・ワイパーが正常に作動するか。
    ・ウィンドウォッシャー液が十分か。
    ・バックミラーやルームミラーが適切に調整されているか。

    これらの項目は、運転者が自らの五感(目視、聴覚、触覚)を使って短時間で確認できるものです。

    点検の記録は必要ですか?

    はい、点検の記録は必要です。

    道路運送車両法では、事業用自動車(運送事業用)に対しては点検の記録と保存が義務付けられています。自家用車であっても、会社が安全運転管理者を設置するような規模の場合、安全運転管理者の業務として点検結果を記録させ、管理することが求められます。

    記録には、以下の事項を含めるのが一般的です。

    ・点検実施日
    ・点検実施者
    ・点検項目ごとのチェック結果(異常の有無)
    ・異常があった場合の対応内容

    この記録は、万が一事故が発生した場合に、会社の管理体制が適切であったことを証明する重要な証拠となります。

    この点検は運転者一人に任せて良いのでしょうか?

    基本的には、運転者一人に任せて構いません。

    始業点検は、その車両を運転する者が、日々の運行前に安全性を確認するために行うものです。したがって、運転者が自ら行うことが原則です。

    ただし、注意すべき点がいくつかあります。

    灯火類の点検: ヘッドライト、テールランプなどの灯火類は、一人では確認できないことが多いので、他の社員にみてもらう必要がります。

    教育の徹底: 会社は、運転者に対して始業点検の重要性や正しい点検方法について、事前に十分な教育を行う必要があります。

    チェック体制の構築: 運転者が点検を怠ったり、異常を見逃したりしないよう、会社としてチェック体制を構築することが望ましいです。例えば、安全運転管理者が定期的に記録を確認したり、抜き打ちで点検状況を確認したりするなどの対応が考えられます。

    異常時の報告義務: 運転者には、点検で異常を発見した際に、速やかに安全運転管理者や責任者に報告し、修理などの処置を受ける義務があることを徹底させる必要があります。異常がある車両を運転させてはいけません。

    つまり、点検自体は運転者にやってもらいますが、任せるだけでなく、会社全体として、運転者が確実に点検を行い、その結果を適切に管理する仕組みを構築することが求められます。

    業務ソフトやクラウドサービスを利用する

    車両の始業点検に必要な事項をチェックし、その記録までデジタルで完結できる業務ソフトやクラウドサービスは多数存在します。これらのサービスは、車両管理システム日常点検アプリなどと呼ばれています。

    主な機能とメリット

    これらのサービスには、以下のような機能とメリットがあります。

    点検項目のデジタル化: 紙の点検表をスマートフォンやタブレットのアプリに置き換えられます。点検項目がチェックリスト形式になっているため、入力漏れや記載ミスを防げます。

    写真・動画での記録: 異常箇所を写真や動画で撮影し、そのまま記録として残せます。これにより、管理者と運転者の間で認識の齟齬が生じることを防ぎ、修理の判断もスムーズになります。

    記録の一元管理: 点検結果はクラウド上でリアルタイムに共有されます。管理者は事務所にいながら、各車両の点検状況や未報告者を確認でき、紙の書類を回収・整理する手間がなくなります。

    運転日報との連携: 多くのサービスは、日常点検の記録だけでなく、運転日報やアルコールチェックの記録機能も備えています。これにより、車両管理に必要な業務を一つのシステムでまとめて行えます。

    アラート機能: 車検や点検の期限が近づくと、自動で通知する機能を持つサービスもあります。これにより、期限切れの防止に役立ちます。

    代表的なサービス例

    SmartDrive Fleet: 車両の動態管理から、日常点検や運行計画、運転日誌の作成・保存まで、車両管理に関する業務をクラウド上で一括管理できます。

    Platio: スマートフォンで簡単にアプリを作成できるツールで、日常車両点検記録のテンプレートも用意されています。紙の点検表をそのままアプリ化できるため、導入がスムーズです。

    スマトラ: トラックの日常点検に特化したWebアプリで、運転者がスマホで点検・記録を行い、管理者がリアルタイムで確認できるサービスです。動画による点検手順ガイド機能も備えています。

    c点検PRO: クラウド車両台帳と日常点検機能を組み合わせたサービスです。電子車検証のデータ登録も可能で、車両情報の一元管理に役立ちます。

    これらのサービスを活用することで、点検業務の効率化と管理体制の強化が図れ、結果として安全な運行に繋がります。導入を検討する際は、自社の車両台数や業務内容に合ったサービスを選ぶことが重要です。

    アルコールチェックと始業点検の関係

    始業点検とアルコールチェックは別の義務

    アルコールチェックは、厳密には始業点検そのものとは別の義務ですが、同じタイミングで実施することが一般的です。

    始業点検は、車両の安全性を確認するための「車両の点検」です。一方、アルコールチェックは、運転者の体調や酒気帯びの有無を確認するための「運転者の健康状態の確認」であり、それぞれ法律上の目的が異なります。

    しかし、両方とも運行の開始前に行う義務があるため、効率的な運用として同時に実施する企業がほとんどです。

    始業点検の用紙にまとめることはできますか?

    はい、可能です。

    多くの企業では、日々の業務を効率化するために、始業点検のチェック項目に加えて、アルコールチェックの結果(呼気中のアルコール濃度、確認者、確認方法など)を記入する欄を設けた専用の記録用紙や日報を使用しています。これにより、記録漏れを防ぎ、管理を簡素化できます。

    始業点検のシステムにアルコールチェックは含まれていますか?

    はい、多くの場合含まれています。

    現在提供されている車両管理システムやクラウドサービス、アプリの多くは、始業点検機能とアルコールチェック機能を統合しています。

    これらのシステムでは、以下のような機能が提供されています。

    アルコール検知器との連携: Bluetoothなどで検知器と接続し、測定結果を自動で記録します。

    写真・動画の記録: 運転者の顔や点検の様子を写真や動画で記録し、なりすましや不正を防ぎます。

    クラウドでの一元管理: 点検結果やアルコールチェックの記録がリアルタイムでクラウドに保存されるため、管理者はいつでもどこでも確認できます。

    これらの統合サービスを利用することで、管理者は運転者ごとのアルコールチェックの実施状況を一目で把握でき、法的な義務をより確実に果たせるようになります。


    会社事務入門事故ゼロを目指す!「安全運転管理」と「車両管理」の実践的なノウハウ>このページ

  • 安全運転管理者になるには資格要件がありますか?

    はい、一定の資格要件があります

    はい、安全運転管理者になるためには一定の資格要件があります。ただし、国家資格や免許試験のようなものではありません。必要なのは、法律で定められた要件を満たしていることです。

    次の条件を満たす人が、安全運転管理者になることができます。(道路交通法施行規則第九条の九)

    1.二十歳(副安全運転管理者が置かれることとなる場合にあつては、三十歳)以上の者であること。

    2.自動車の運転の管理に関し二年(自動車の運転の管理に関し公安委員会が行う教習を修了した者にあつては、一年)以上実務の経験を有する者

    3.普通運転免許を取得してから3年以上の者

    その他、過去2年間に一定の違反歴がないことなどの条件があります。

    安全運転管理者の選任届出が提出された場合、警察は過去の違反歴や事故歴などを確認します。

    選任の流れ

    要件を満たすことが確認されたら、警察署に「安全運転管理者に関する届出書」(選任)を指定の添付書類(住民票・運転記録証明書等=詳しくは提出前に要確認)を付して提出します。

    提出先:事業所の所在地を管轄する警察署の交通課

    提出期限:安全運転管理者を選任すべきことなってから(所定の車両台数に達した日)から15日以内

    講習会を受講する

    安全運転管理者等講習(年1回)を受ける必要があります。

    安全運転管理者になるには、道路交通法施行規則で定められた要件(運転経験・違反歴など)を満たしていれば選任可能です。

    講習の修了は「選任後に受けるべきもの」であり、講習を事前に受けていなくても選任届は提出できます。

    ただし、地域によっては、講習を事前に受けている人を選任することを強く推奨されたり、指導されることもあります。

    選任されたら

    安全運転管理者は名前だけの地位ではありません。

    管理対象の社員が交通事故を起こすと、安全運転管理者としての責任や指導不足が問われる場合があります。警察や監督官庁から呼び出しや報告を求められることもあり、場合によっては法的責任が発生します。

    やらなければならない(法律でさだめられている)、日常的な管理業務がいろいろあります。

    ・運転者の体調確認、免許証の確認、有効期限の管理
    ・運転者のアルコールチェック(アルコール検知器の使用が義務)
    ・運転日報の点検、管理記録の作成・保管
    ・年1回の講習受講 など

    このように責任が重いのですが、安全運転管理者に支給される手当が(一般的に)少額なので、「割に合わない」と感じる人もいます。

    また、本来は運転者の指導的立場にある人が任命されるべきですが、権限がない(あるいは少ない)人が任命されることもあり、その場合は運転手の統率に苦労しているのが実態です。

    しかし、法律上、選任が義務であり、事業所としては選任しないわけにはいきません。つまり、誰かを選任しなければならないのです。

    よって、もし安全運転管理者に選任された場合は、決して「名義だけ」「形だけ」就任していると考えずに、職務については積極的に役割を果たし、上司に対しては安全運転管理者の立場に理解と支援を求める必要があります。


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