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  • 年次有給休暇の付与における出勤率の計算について解説

    年次有給休暇の付与要件の基本

    年次有給休暇は、労働基準法第39条で定められている労働者の権利です。年休が付与されるには、以下の2つの要件を満たす必要があります。

    1.雇い入れの日から6ヶ月継続して勤務していること

    2.その6ヶ月間の全労働日の8割以上出勤したこと

    7ヶ月目以降は、1年ごとに区切られた期間(基準日以降1年間)における全労働日の8割以上出勤している場合に、年休が付与されます。

    出勤率8割未満だった場合:

    例えば、雇入れ後1年目に、全労働日に対する出勤率が8割未満だった労働者には、2年目に有給休暇を付与されません。通常、有給休暇は勤続年数ごとに日数が追加されるので、本来であれば、2年目には11日付与されるはずですが、このケースでは1年目の出勤率が影響して2年目の有給休暇はゼロとなります。ただし、さらに次の年である2年目の出勤率が8割以上に戻った場合には、3年目の付与日数は3年目に相当する日数、つまり12日が付与されます。出勤率により年次有給休暇が付与されないのはあくまでその年度の付与のことで、継続勤務年数には影響しないのです。

    全労働日とは?

    全労働日とは、従業員に労働義務が課されている日を指します。

    具体的には、基本的には、総歴日数から所定休日を除いた日です。

    よって、所定休日に出勤(いわゆる休日出勤)した日は所定休日から除外する必要があります。

    次にあげる日数も全労働日にはカウントされないため注意しましょう。

    ①業務上傷病による休業期間
    ②育児・介護休業期間
    ③産前産後休業期間

    以上については、労働基準法第39条⑩に規定されています。

    次の期間についても全労働日にはカウントしません。

    ①年休を取得した日
    欠勤として取り扱うことは当を得ないため、出勤として取り扱う(昭22.9.13 発基第17号)
    ②使用者の責に帰すべき事由による休業
    事実上労働の義務が免除されているため、全労働日(分母)から除外すべき(昭33.2.13 基発第90号他)
    ③ストライキ期間
    労働者の勤怠評価の対象とするのは妥当でないため、全労働日(分母)から除外すべき(同上)
    ④生理休暇
    欠勤として取り扱う休暇として定め得るが、出勤として取り扱うことも差し支えない(昭23.7.31 基収第2675号)

    さらに、台風、地震などの不可抗力による休業も、労働者の勤怠評価の対象とするのは妥当でないため計算上出勤に入れるべきでしょう(客観的に出勤ができない状態であったかの実情を考慮する必要はあります)

    休職期間については、実質的に欠勤を連続して取得するもの考えれば、出勤率計算上は欠勤と同様に取り扱うことになりますが、会社からの発令による休職であれば、会社都合と言えなくもありません。そもそも休職については労働基準法に定めがなく、会社が任意に設定したものなので、運用について事前に就業規則等で定めておく必要があります。

    出勤した日とは?

    「出勤した日」とは、実際に出勤した日に加えて、前述の「全労働日」の項目で挙げた「出勤したものとして扱われる日」が「出勤した日」に含まれます。

    一方、以下の日は「出勤した日」には含まれません。

    ・欠勤日: 労働者が自己都合で休んだ日。

    ・私傷病による休業日: 業務外の傷病による休業で、休業補償の対象外となる期間。

    ・遅刻・早退をした日: 遅刻や早退があっても、その日は1日出勤したものとしてカウントされます。その日を労働時間に応じて按分して計算するような運用は認められません。

    出勤率の計算方法

    出勤率は、以下の計算式で求められます。

    出勤率=出勤した日数の合計÷全労働日数の合計​×100(%)

    計算例:

    基準日前1年間の所定労働日が240日だったとします。

    ・会社都合の休業が5日
    ・有給休暇の取得が10日
    ・欠勤が30日

    この場合、

    1.全労働日数の合計
    所定労働日数240日 - 会社都合の休業5日 = 235日
    ※有給休暇は全労働日数には影響しません。

    2.出勤した日数の合計
    (実際に労働した日数)+ 有給休暇の取得10日

    実際に労働した日数は、
    235日(全労働日数)- 欠勤30日 = 205日

    したがって、出勤した日数の合計は、205日 + 10日 = 215日

    3.出勤率の計算(215日​÷235日)×100≈91.49%

    この例の場合、出勤率は約91.49%となり、8割を満たしているため、次回の年休が付与されます。なお、この場合、欠勤が57日を超えれば8割を切ります。

    計算上の留意点

    1.労働時間短縮の場合:育児・介護休業法に基づく短時間勤務制度を利用している場合でも、年休の付与日数は所定労働時間に比例して減額されることはありません。出勤率の計算も同様に、短縮勤務を考慮せずに行われます。

    2.基準日の統一:多くの企業では、従業員ごとに異なる入社日を基準日とすると管理が煩雑になるため、基準日を全従業員で統一する「斉一的取扱い」を採用しています。その場合も、最初の年休付与時のみ、入社日から6ヶ月間の出勤率を算定し、その後は統一された基準日から1年間の出勤率を算定します。

    まとめ

    年次有給休暇の出勤率の計算は、単に休んだ日数だけを見るのではなく、「全労働日」と「出勤した日」のそれぞれに、法的に出勤とみなされる期間や事由を正確に含めることが重要です。特に、育児・介護休業、産前産後休業、業務上の負傷・疾病による休業期間などは、労働者の権利保護の観点から出勤扱いとなるため、計算から除外しないよう注意が必要です。

    正確な計算と適切な年休付与は、労働者の権利を守り、企業のコンプライアンスを確保するために不可欠です。疑問点があれば、労働基準監督署や社会保険労務士などの専門家に相談することをお勧めします。


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  • 有給休暇の基準日統一ってどうですか?課長に聞いてみた!

    年次有給休暇の基準日統一について、入社日が異なることによる管理の不便さを解消する方法として、基準日を統一することのメリットとデメリットを、人事課長と新人人事担当者の会話形式で解説します。

    有給休暇の基準日統一ってどうですか?

    新人人事(以下、新): 課長、年次有給休暇の管理についてご相談があります。従業員によって入社日がバラバラなので、有給の付与日もそれぞれ違って、残日数の管理がすごく複雑で…。これをもう少しシンプルにする方法はないでしょうか? 基準日を統一する、という話を聞いたことがあるのですが、どうなんでしょう?

    課長: そうだね。入社日ごとに管理するのは、確かに手間がかかるし、ミスも起きやすい。「基準日の統一」は、有給休暇管理を効率化する有効な手段の一つだよ。

    新: そうなんですね!具体的にどういうことなんでしょうか?

    基準日を統一するとは?

    課長: 基準日を統一するというのは、文字通り、全従業員の年次有給休暇の付与日を、特定の日に合わせるということだ。例えば、毎年4月1日や1月1日といった、会社の会計年度の始まりやキリの良い日を「有給休暇の基準日」と定めるんだ。

    新: なるほど!そうすれば、全員一斉に有給が付与されるので、管理はすごく楽になりそうですね!

    基準日を統一するメリット

    課長: その通り。基準日を統一するメリットはいくつかあるよ。

    管理業務の効率化:これが一番大きいね。付与日が一斉になることで、年に一度、まとめて付与処理ができるようになる。残日数の確認や、年5日取得義務の管理も格段に楽になるよ。

    従業員への説明のしやすさ:全員が同じ日に有給が付与されるので、「あなたの有給は〇月〇日に付与されます」と個別に説明する必要がなくなり、従業員も自分の有給付与日を覚えやすくなる。

    計画的付与の導入が容易に:年5日を超える部分について、会社が計画的に有給休暇を取得させる「計画的付与」を導入する場合、基準日が統一されていると、全社的な計画が立てやすくなる。

    新: メリットはたくさんありそうですね!ぜひ導入したいです!

    基準日を統一するときの注意点

    課長: ただ、良いことばかりではない。基準日を統一する際には、いくつか注意すべき点や、不都合が生じる可能性もあるんだ。

    労働者にとって不利益にならないこと: これが最も重要だ。労働基準法では、有給休暇の付与は、労働者が不利にならないように行わなければならないとされている。基準日を統一することで、本来付与されるはずだった有給休暇の日数が減ったり、付与されるまでの期間が不当に長くなったりしてはならないんだ。

    新: 不利益にならないように、ですか…。具体的にはどういうことでしょうか?

    課長: 例えば、入社から6ヶ月後に最初の有給が付与されるのが原則だよね。基準日を統一する場合、入社日から最初の基準日までの期間が6ヶ月未満の従業員には、その期間に応じて「前倒しで」有給を付与する必要がある。そして、その付与日数が、本来6ヶ月後に付与される日数(例えば10日)を下回らないように配慮しなければならないんだ。

    また、付与される日数が減ってしまうような場合は、減った分を補填するなどの措置が必要になることもある。

    また、次の点にも注意を払ってほしい。

    労使協定の締結と就業規則の変更: 基準日を統一するには、労働組合(ない場合は労働者の過半数を代表する者)との間で労使協定を締結し、就業規則も変更して労働基準監督署に届け出る必要がある。勝手に変更することはできないから、従業員への説明や合意形成に時間と手間がかかる可能性があるんだ。

    導入時の計算が複雑になる可能性: 統一する初年度は、従業員それぞれの入社日と統一後の基準日との兼ね合いで、最初の付与日数を計算するのが一時的に複雑になる場合がある。特に、入社して間もない従業員や、既に多くの有給を消化している従業員など、個別の状況に応じた調整が必要になることがあるよ。

    従業員への丁寧な説明: 制度が変わることで、従業員から「なぜ変わるのか」「自分にとって不利にならないか」といった疑問や不安の声が出る可能性がある。変更の目的(管理の効率化など)や、従業員に不利益が生じないように配慮している点を、丁寧に説明し、理解を得ることが不可欠だ。

    新: なるほど、管理は楽になるけど、導入するまでが大変そうですね。特に、従業員に不利益を与えないように、最初の付与日数の計算や調整が重要だということですね。

    課長: その通りだ。基準日の統一は、長期的に見れば管理コストの削減や効率化に繋がる良い方法だけど、導入する際には、労働者の権利を侵害しないよう、細心の注意を払う必要がある。

    わが社もだいぶ人数が増えたので、そろそろ基準日を統一したほうが良いかもしれない。まずは現状の有給付与状況を詳しく分析したうえで、一人ひとりに不利益が生じないような案と実施スケジュールを作成してください。

    新: はい! ありがとうございます、慎重に進めていきたいと思います!


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  • シフト確定後の有給休暇申請にどう対応するか

    質問

    シフトが確定してしまってから、休みの希望を出されるのは困ります。本人の年次有給休暇取得の希望も踏まえてシフトを組んでいるので、シフトを組む前に申請しなかった年次有給休暇を拒むことはできますか?

    回答

    結論から申し上げると、シフト確定後に申請された有給休暇であっても、原則として会社は拒否することはできません。

    労働基準法第39条第5項において、「使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。」と定められており、これは「時季指定権」といって、労働者がいつ有給休暇を取得するかを決定する権利です。

    ただし、同条ただし書きに「ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる」とあり、これを「時季変更権」といいます。

    つまり、会社が有給休暇の取得を拒否できるのは、この時季変更権を行使できる場合に限られます。

    シフト確定後の有給休暇申請と時季変更権

    ご質問のケースのように、「本人の休みの希望を踏まえてシフトを組んでいる」「シフトが確定してしまってから、休みの希望を出されるのは困る」というお気持ちは大変よく理解できます。しかし、法律上は以下の点に注意が必要です。

    「事業の正常な運営を妨げる場合」の判断は厳格

    単なる人手不足や、繁忙期であるというだけでは、時季変更権の行使は認められにくい傾向にあります。

    具体的には、

    ・その労働者が休むことで、その日の業務が全く立ち行かなくなる(他の労働者では代替できない、業務に重大な支障が生じる)

    代替要員を確保することが客観的に困難である

    ・同日に多数の労働者が有給休暇を申請し、人員配置上、やむを得ない

    といった、具体的な事実と合理的な理由が必要です。

    「シフトを組む前に申請しなかったから」という理由だけで拒否することは、認められません。

    拒否はできず「時季の変更」である

    時季変更権は、あくまでも「他の時季に与えることができる」権利であり、有給休暇そのものの取得を認めないことではありません

    したがって、時季変更権を行使する場合は、労働者と協議し、別の取得可能な日を提示する必要があります。「有給は取らせない」という対応は違法となる可能性があります。

    申請時期のルール化の限界

    「シフトを組む前に申請してください」というルールを就業規則等で定めること自体は、事業運営上、望ましい運用です。

    しかし、「○日前までに申請しなければ有給休暇を認めない」といった、取得を実質的に困難にするような厳しい申請期限を設けることは、労働者の時季指定権を侵害することになり、無効と判断される可能性が高いです。

    「〇日前までの申請をお願いします」という「お願い」レベルであれば問題ありませんが、それをもって申請が遅れたことを理由に拒否することはできません。

    運用上のポイント

    シフト制の職場で有給休暇の取得トラブルを防ぐためには、以下の点に配慮することが重要です。

    有給休暇希望日に関するルールの明確化と周知徹底

    「シフト作成前に希望を提出すること」を就業規則やシフト運用ルールに明記し、労働者全員に周知徹底します。あくまで「お願い」ベースであることを理解してもらうことが重要です。

    事前の希望ヒアリングの徹底

    シフト作成時に、通常の休日希望と合わせて有給休暇の希望も丁寧に聞き取る機会を設けます。

    コミュニケーションの重視

    シフト確定後に有給休暇の申請があった場合でも、一方的に拒否するのではなく、まずは労働者と十分に話し合い、なぜその日に休みたいのか、業務への影響はどうか、代替案はないかなどを丁寧に確認します。

    代替要員の確保努力

    もし、その日の有給休暇取得が事業運営に支障をきたす可能性があるのであれば、他の労働者との調整や応援体制の検討など、代替要員確保に向けた努力を最大限行う姿勢が求められます。

    時季変更権行使の慎重な判断

    時季変更権を行使する場合は、その具体的な理由(なぜ事業の正常な運営が妨げられるのか)を明確に説明し、別の取得可能日を提示します。安易な時季変更権の行使は、トラブルの原因となります。

    まとめ

    シフト制の職場であっても、年次有給休暇は労働者の権利であり、原則として労働者の請求する時季に与えなければなりません。シフト確定後の申請であっても、会社が有給休暇を拒否できるのは、「事業の正常な運営を妨げる」という厳格な要件を満たし、かつ「時季変更権」を行使する場合に限られます。


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  • 年次有給休暇に関するよくある質問(管理職向け)のサンプル

    年次有給休暇に関するよくある質問(管理職向け)

    ― 管理職として知っておくべき基本と注意点 ―

    Q1.そもそも「年次有給休暇」とは何ですか?

    A.
    年次有給休暇(有給休暇)は、労働基準法第39条に基づいて、一定の条件を満たした労働者が、賃金をもらいながら休むことができる権利です。

    主なポイントは以下の通りです:

    入社日から6か月間継続勤務し、その間の全労働日の8割以上出勤した労働者に付与されます。

    週5日勤務の場合、初年度は10日間付与され、以降、勤続年数に応じて増加します。

    労働者が取得日を自由に指定できる(時季指定権)のが原則です。

    会社側は、業務に「著しい支障」がある場合に限り、取得日を変更できる(時季変更権)とされています。

    年次有給休暇は、働く人の健康・生活を支える基本的な権利です。管理職の皆さまは、法的なルールを理解した上で、部下の取得を妨げず、むしろ促進する姿勢が求められています。部下から有給休暇の希望があった際は、難しいと思う場合でも「希望の日に休めるよう、できるだけ調整してみよう」と伝え、関係者と協議してください。

    Q2.「年5日の有給休暇取得義務」とは何ですか?会社としてどのように対応すればよいですか?

    A. 企業には「年10日以上の年次有給休暇が付与される全ての労働者」に対して、年間5日間の年次有給休暇を確実に取得させる義務が課せられています。これは、労働者からの請求がなくても、会社側が時季を指定して取得させなければならない義務です。

    対応方法:

    時季指定による取得: 労働者の意見を聴き、その意見を尊重した上で、会社が取得時季を指定して取得させます。

    計画的付与制度の活用: Q5で説明する計画的付与制度を活用し、労使協定に基づいて5日を超える部分と合わせて取得させることも可能です。

    労働者からの自主的な取得: 労働者が年間5日以上を自主的に取得していれば、会社が別途時季指定をする必要はありません。

    管理職の皆さまは、部下それぞれの有給休暇取得状況を常に把握し、計画的に取得が進むよう声かけや調整を行ってください。もし年間の取得日数が5日に満たない部下がいる場合は、個別に面談し、取得を促す必要があります。

    Q3.会社が時季変更権を行使できる業務に「著しい支障」とは、どんな場合ですか?

    A.
    業務に「著しい支障」とは、単に忙しい・人手が足りないといった理由だけでは足りず、客観的に見て、事業運営に重大な支障が生じるような状況を指します。

    労働基準法第39条第5項に基づき、使用者は「時季変更権」を持ちますが、その行使は例外的な場合に限られ、慎重に判断する必要があります。

    具体的には、以下のようなケースが「著しい支障」と認められる可能性があります。

    同じ業務を担当する社員が多数同時に有給休暇を申請し、代替要員の確保が著しく困難な場合

    年末年始や決算期など、業務の繁忙期に、全体の体制が機能不全に陥るおそれがある場合

    突発的なトラブルや災害等で、一時的に緊急対応が不可欠であり、特定の社員の不在が直接的な危機につながる場合

    一方で、以下のような理由では時季変更権の行使は正当とは認められにくいです:

    「ただでさえ人手が少ないから」

    「他の人も同じ日に休む予定だったから」

    「上司の許可を得る前に申請したから」

    「特定個人の業務経験が浅い」

    「会社が代替要員を確保するための努力をしていない」

    労働者に時季変更を申し出る際は、「誰が」「どんな業務に」「どの程度の具体的な支障が出るか」を明確にし、本人に丁寧に説明してください。代替日を複数提案するなど、柔軟な対応が強く求められます。

    Q4.欠勤を勝手に有給休暇扱いにしても問題ありませんか?

    A.
    それは違法行為にあたる可能性が高いです。年次有給休暇は、労働者が「いつ取得するか」を指定する権利(時季指定権)を持っています。

    以下のような事例は、すべて違法な取り扱いとなります:

    労働者が欠勤した日なのに、本人の許可なく有給休暇扱いにした。

    シフト表上で、本人の同意なしに有給休暇を勝手に組み込んでいた。

    お盆休みや正月休みなどの会社指定の休業日を、有給休暇に充当した。

    退職を申し出た労働者に対し、「有給休暇はない」と一方的に指導した。

    これらは、労働者の意思を無視した取り扱いであり、「労働者の時季指定権の侵害」となります。

    たとえ「欠勤で給料が減るより、有給休暇扱いにしてあげたほうが親切だ」という意図があったとしても、それは違法です。有給休暇は「労働者の請求により与える」と法律で定められており(労働基準法第39条)、本人の明確な申請がない限り成立しません。

    Q5.計画的付与については強制的に割り振ってもよいのでは?

    A.
    はい、会社は有給休暇の計画的付与について、「強制的に」割り振ることができます。ただし、そのためにはいくつかの重要な条件があります。

    最も重要なポイントは、労使協定の締結です。

    年次有給休暇の計画的付与を行うには、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合と、ない場合は労働者の過半数を代表する者との間で、書面による労使協定を締結する必要があります。この協定がないと、会社が一方的に有給休暇の取得日を指定することはできません。逆に言えば、この協定がある場合には、会社は計画に沿って有給休暇の取得日を指定することができます。

    計画的付与の対象となるのは、年次有給休暇の付与日数のうち「5日を超える部分」のみです。つまり、従業員が自由に取得できる有給休暇を最低でも5日は残しておく必要があります。

    一度労使協定で定めた計画的付与日については、原則として会社も従業員も時季変更権を行使できません。つまり、一度決めた計画的付与日は特別な事情がない限り変更できないということです。やむを得ない事情で変更が必要な場合は、再度労使協定に基づき協議したり、再締結したりする必要があります。

    また、計画的付与の日に有給休暇の残日数が足りない従業員(例:新入社員でまだ有給が付与されていない、病欠などで有給を使い切ってしまったなど)がいる場合は、会社はその日を「休日」とするか、特別休暇を与えるなどの対応が必要です。無給の欠勤とすると、労働者の不利益となるため注意してください。

    Q6.管理職のどのような言動が良くないのか具体的に教えてください?

    A.
    以下に、実務上ありがちな「NGな言動」とその理由を整理します。これらは、違法な取扱いやパワーハラスメント(パワハラ)に該当するおそれもあります。

    「忙しいから休まないでくれ」
    理由: 時季変更権を行使できるのは「業務に著しい支障」があるときだけです。「忙しいから」だけでは時季変更の正当な理由にはなりません。

    「他の人と被るからやめてくれ」
    理由: 取得希望が被った場合、調整を図るのは上司の役割です。取得を諦めさせることは違法または不適切です。

    「こんな時期に取るなんて非常識だ」
    理由: 労働者には休暇を取る自由があります。「非常識」といった表現は、取得を心理的に抑圧するハラスメント的言動にあたるおそれがあります。

    「また有給?そんなに取って大丈夫?」
    理由: 年次有給休暇は法で認められた労働者の権利です。繰り返し取得を指摘することは、権利の行使に対する萎縮効果を生みます。

    「有給は病気のときだけにして」
    理由: 年次有給休暇の取得目的に制限はありません。私用やリフレッシュなども正当な理由です。

    「みんな我慢してるのに君だけ休むの?」
    理由: 「同調圧力」や「集団への不満の誘導」は、取得を抑制する間接的ハラスメントにつながります。

    「来月は忙しくなるから今月は取らないで」
    理由: 忙しさを理由に取得時期を限定することは原則違法です。業務上支障がある場合は「時季変更」を個別に説明・調整する必要があります。

    (申請を無視し)「ちょっと保留で」
    理由: 明確な理由なく申請を遅らせる行為は、黙示の拒否または心理的抑圧と受け取られる可能性があります。申請があった場合は、迅速に承認するか、時季変更権行使の正当な理由を説明する必要があります。

    Q7.NGな言動をとるとどうなりますか?

    A.
    管理職の皆さんの言動が不適切だった場合、以下のような問題が発生する可能性があります。

    労働基準監督署による是正指導:
    労働者が労働基準監督署に相談した場合、会社に対して是正指導が入る可能性があります。これは、管理職の行動が会社全体の法令遵守意識を問われることになるため、慎重な言動が必要です。

    ハラスメントとして認定される可能性:
    会社が定めた方針や就業規則に記載されているハラスメントに関する規定(パワーハラスメントなど)に該当するおそれがあります。その場合、社内での指導や、場合によっては懲戒処分の対象となる可能性もありますので、十分に注意してください。

    従業員のモチベーション低下・離職:
    有給休暇の取得を妨げられることは、従業員の会社への不信感や不満につながり、モチベーションの低下や、最悪の場合、離職の原因となることもあります。

    企業のレピュテーション(評判)への影響:
    SNSなどによる情報拡散で、企業の評判が低下するリスクもあります。


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  • 退職するとき、有給休暇は消化できる?買い取ってもらえる?

    有給休暇取得を拒むことはできません

    退職前に残っている有給休暇を全部使いたい、という申し出を受けることがあります。

    退職の意思表示と同時に、明日から有給休暇を使うのでもう出てきません、などと言われることもあります。

    会社としては最低限の引継ぎくらいはしてから退職してもらいたいところですが、基本的には有給休暇の求めを拒むことができません。

    会社が時季指定をしたくても、退職日を過ぎた日を時季指定することができないからです。

    昭和49年1月11日基収5554号
    時季変更権の行使は「労働基準法に基づくものである限り、当該労働者の解雇予定日を超えての時季変更権行使は行えないものと解する。」

    引き継ぎができないと慌てる会社は、業務運営が組織的に行われていない会社です。日頃から業務をマニュアル化し、関係書類のファイリングがしっかりできていれば、一日で引継ぎを終えることも可能です。

    引継ぎはさせられないのか

    就業規則に引継ぎをしなければならない旨の規定をしている場合もあると思います。その点を強調して有給休暇取得を拒否することも、手段としてはありえますが、従業員が応じなければどっちみち引き継ぎは行われません。

    裁判上の争いになった場合は、会社に生じた損害を求めるくらいしかできません。認められた判例もあるようですが、一般的には、スムーズな引き継ぎができないのは会社の業務体制の不備にもあるわけですから、勝ったとしてもさほどの利益はないと思われます。

    現実的な手段としては、業務の引き継ぎに必要な日数分の有給休暇を金銭で買い取る、または退職日を延期してもらうことが妥当な線でしょう。あまり意地にならず、穏便に収める方が得策です。

    有給休暇の買い上げ

    年次有給休暇の未消化日数に応じて一定の賃金を支払う(これを「休暇の買い上げ」といっています。)は、休養を与えるという制度の趣旨に反しているので、やってはいけないことになっています。

    買い取りしてもよい場合もあります。その一つが退職時における未消化分の買い上げです。

    関連記事:有給休暇の買い取り

    裁判例にも、退職時の有給休暇の買い取りについて、従業員の退職時において、会社が未消化分の有給休暇を買い取ることは「違法ではない」というものがあります。(〇〇学院事件(神戸地裁判決昭和29年3月19日)


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  • 時間単位年休について課長に聞いてみた!

    年次有給休暇は時間単位で取得できる


    新人人事(以下、新): 課長、おはようございます! 年次有給休暇について調べていたのですが、「時間単位年休」という言葉を見つけまして…。普通の有給休暇とどう違うのか、よく分からなくて困っています。教えていただけますでしょうか?

    課長: それじゃ説明しよう。時間単位年休は、労働基準法で認められている、比較的新しい有給休暇の取り方なんだ。

    時間単位年休の基本的な考え方

    課長: まず、通常の年次有給休暇は、1日単位で取得するのが原則だよね。でも、時間単位年休は、その名の通り、有給休暇を1時間単位で取得できるようにする制度なんだ。

    新: 1時間単位ですか!それは便利そうですね。ちょっと病院に行きたい時とか、子どものお迎えに少しだけ早く帰りたい時とかに良さそうです。

    課長: まさにその通り!労働者のワークライフバランスを向上させる目的で、2009年の労働基準法改正で導入されたんだ。

    時間単位年休を導入するための条件

    課長: ただ、この時間単位年休は、会社が「必ず導入しなければならない」という義務があるわけではないんだ。導入するには、いくつか条件がある。

    労使協定の締結が必要:会社が時間単位年休を導入するには、労働組合(ない場合は労働者の過半数を代表する者)と会社の間で「労使協定」を締結し、管轄の労働基準監督署に届け出る必要があるんだ。

    就業規則への明記:労使協定で定めた内容を、就業規則にも明記する必要があるよ。

    新: 勝手に始めていいわけではないんですね。ちゃんとルール作りが必要なんですね。

    労使協定で定めるべき内容

    課長: そうだね。そして、その労使協定では、主に次のことを定める必要があるんだ。

    時間単位年休の対象となる労働者の範囲:全従業員にするのか、一部の従業員にするのか、など。

    時間単位年休の具体的な取得単位:何時間単位で取得できるのか(1時間単位が一般的)。

    1年間の時間単位年休の取得上限時間数:これが重要なポイントで、1年間で取得できる時間単位年休は、5日分までと決まっているんだ。例えば、所定労働時間が8時間の会社なら、8時間 × 5日 = 40時間まで、ということになる。

    時間単位年休の申請方法:いつまでに、誰に申請するのか、など。

    新: 5日分まで、という上限があるんですね。

    労働者が気をつけるべき点

    課長: 労働者の視点から見ると、時間単位年休を利用する上で、いくつか気をつけるべき点があるよ。

    会社に制度があるか確認する:まず、自分の会社に時間単位年休の制度があるかどうかを確認することが重要だ。なければ利用できないからね。就業規則を確認するか、人事部に問い合わせるのが一番確実だ。

    年5日の上限があることを理解する:1年間で5日分(例えば40時間)しか使えないので、計画的に利用することが大切だ。頻繁に利用しすぎると、本当に必要な時に使えなくなってしまう可能性があるからね。

    時間単位年休は繰り越しの際に「日」に戻る:これは少し複雑なんだけど、もし今年、時間単位年休を使いきれずに翌年に繰り越す場合、時間単位で残った有給は、「日」単位に換算されて繰り越されるんだ。例えば、今年8時間分の時間単位年休が残っていても、翌年に繰り越されるのは1日分の有給休暇としてカウントされる、ということだ。端数が出てしまう場合は、切り捨てられてしまう可能性もあるから、できるだけ使い切るか、計画的に残しておく必要がある。

    労働者の判断に委ねられる:時間単位年休の取得は、労働者の自由な意思に委ねられている。会社は、事業の正常な運営を妨げる場合に限り、時季変更権を行使できるとされているけど、これは日単位の有給休暇と同じだね。ただし、会社が日単位での請求を時間単位に変えることや、時間単位での請求を日単位に変えることはできないんだ。

    不利益な扱いは禁止:時間単位年休を取得したことによって、賃金の減額や人事評価での不利益な取り扱いをすることは、法律で禁止されている。

    新: 5日分の上限や、繰り越しの際に日単位に戻る、という点は特に注意が必要ですね!これは申請する側も知っておかないと損をしてしまう可能性がありますね。

    課長: その通りだ。だからこそ、人事担当として、制度を正しく理解して、従業員にも適切に情報提供することが大事なんだよ。制度があっても、知らなければ利用できないし、誤解があるとかえってトラブルになる可能性もあるからね。

    新: はい、よく分かりました! ありがとうございます。

    関連情報

    労使協定についての補足

    労使協定では次の4項目を定めます。

    第1:時間単位年休の対象者の範囲を決めます。必ずしも全ての労働者にする必要はありません。

    ただし、正常な事業運営の必要性などで対象外の労働者を設定することができますが、例えば、育児を行なう労働者に限るなど取得目的による制限は認められません。

    第2:時間単位年休の日数を5日以内で決めます。

    第3:時間単位年休一日の時間数を決めます。一日の所定労働時間が8時間であれば、時間で取得した時間数の累計が8時間分になったときに、一日の有給休暇を取得したと数えます。7時間であれば7時間分になったときです。もし、所定労働時間が7時間30分のように端数があれば、(有給休暇に分単位の概念がないため)繰り上げて8時間付与することになります。端数処理を労働者に有利にということです。

    第4:一時間以外の時間を単位とする場合はその時間数を決めます。普通は1時間単位で決めると思いますが、選択肢としては2時間、3時間という単位も認められています。

    繰り越しについての補足

    通達では「当該年度に取得されなかった年次有給休暇の残日数・時間数は、次年度に繰り越されることになるが、 当該次年度の時間単位年休の日数は、 前年度からの繰越分も含めて5日の範囲内となるものであること」と示しています。

    時間単位年休は繰り越しされません。例えば、5日分40時間の時間単位年休のうち20時間を使って20時間を残した場合、翌年の時間単位年休は40時間プラス20時間にはならず、あくまでも5日分40時間となります。

    年次有給休暇全体としては繰り越されるので、消えるわけではありません。

    労使協定と就業規則のサンプル

    対象者を限定しない労使協定のサンプル
    時間単位年休に関する労使協定のサンプル1

    対象者を限定する労使協定のサンプル
    時間単位年休に関する労使協定のサンプル2

    就業規則の規定:時間単位付与|就業規則

    追加質問(年5日取得義務との関連)

    新: 課長、先日教えていただいた時間単位年休について、もう一つ確認したいことがあります。この時間単位年休って、「年5日の有給取得義務化」の対象になるんでしょうか? もし時間単位で5日分取ったら、義務を果たしたことになるんですか?

    課長: いい質問だね。そこは、よく誤解されやすいポイントなんだ。結論から言うと、時間単位年休は、「年5日の有給取得義務化」の対象にはならないんだよ。

    新: え、そうなんですか!? 時間単位で5日分取得しても、義務は果たせない、ということですか?

    課長: そうなんだ。それぞれの制度の目的と、法律上の位置づけが違うからなんだよ。

    課長: まず、「年5日の有給取得義務化」というのは、2019年に法律で義務付けられたもので、年に10日以上の有給が付与される従業員に対して、会社は最低5日は有給を取らせないといけない、というルールだよね。これは、従業員にまとまった休みを取ってもらって、心身のリフレッシュを図ることが一番の目的とされているんだ。

    新: はい、それは理解しています。

    課長: そして、この「年5日」にカウントされるのは、原則として「日単位」で取得された有給休暇なんだ。

    課長: 一方、時間単位年休は、従業員がもっと柔軟に有給を使えるように、という目的で作られた制度だ。例えば、病院にちょっと行ったり、子どもの学校行事で少しだけ早く帰ったり、といった短い時間の用事に対応するためにある。会社が労使協定を結んで導入すれば、1年間に最大5日分までを時間で取得できる、という制度だね。

    新: 確かに、目的が違いますね。

    課長: そうなんだ。だから、この二つの制度は目的も性質も異なるから、時間単位年休を5日分取得したとしても、「年5日の取得義務」を果たしたことにはならないんだ。

    簡単に言うと、

    年5日義務化: 「年間で最低5日間は、まとまった休みを取りましょうね」という話。

    時間単位年休: 「日単位で取るほどじゃないけど、ちょっとだけ時間を休みたい時に便利だよ」という話。

    だから、例えば、君が今年、日単位で3日の有給を取って、さらに時間単位年休を20時間(8時間労働の会社なら2.5日分に相当)使ったとするよね。この場合、日単位で取ったのは3日だから、会社としては、残りの2日を日単位で取得させる義務がまだ残っている、ということになるんだ。

    新: なるほど!すごくよく分かりました!


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