有給休暇の申請があったときに、上司が理由を聞くのが良くないと聞きましたが、普通の人間関係であれば、どうしたの?どこかへ行くの?とか会話するのが自然だと思うのですが、やはり、聞いてはいけないのですか?
法律上は「理由」を言わなくてもよい
法律上の原則と一般的な人間関係で、捉え方が異なってくるため、少し複雑です。
- 労働者の権利: 年次有給休暇は、労働基準法で定められた労働者の権利であり、心身のリフレッシュを目的としています。
- 自由利用の原則: 労働者が休暇をどのように利用するかは、労働者の自由に委ねられています。最高裁の判例でも、「年次有給休暇の利用目的は、労働基準法の関知しないところ」と示されています。
- 結論: 従業員は会社に対して有給休暇の理由を申告する義務はありません。「私用のため」という理由で十分です。会社が理由によって取得を拒否することは、原則として違法にあたります。
「理由を聞くこと」自体はどうか?
- 上司が「どうしたの?」「どこかへ行くの?」と聞くこと自体は、直ちに法律違反となるわけではありません。
- 日頃のコミュニケーションの中で、同僚や部下を気遣い、または単なる話題として尋ねることは、自然な人間関係の一部です。
上司が「聞いてはいけない」と言われる理由
「聞いてはいけない」と言われる背景には、ハラスメントや権利侵害のリスクがあるためです。
- 心理的圧力: 上司が理由を尋ねることで、従業員が「言わなければならない」と感じたり、「遊びや私的な理由では取りにくい」と心理的な圧力を感じたりする可能性があります。
- 拒否・不利益処分のリスク: 理由を聞いた上で、「その理由では休ませられない」と取得を拒否したり、理由によって人事評価などで不利益な扱いをしたりすることは、法令違反やパワーハラスメントに該当するリスクが非常に高くなります。
- プライバシー侵害: 込み入った私的な理由(通院、家族の介護など)を詮索することは、プライバシーの侵害につながる可能性があります。
上司として心がけるべきこと
「会話のきっかけとして聞くこと」と「業務上の理由で理由を求めること」を区別し、あくまで相手の意思を尊重することが重要です。
| シーン | 上司の対応と注意点 |
| 一般的な会話として | 「リフレッシュしてきてね」「楽しんでね」など、肯定的な声かけに留める。詳しく話したくなさそうな場合は、深掘りしない。 |
| 業務調整・時季変更権の判断 | 業務の正常な運営を妨げる可能性がある場合(時季変更権の行使が認められる場合)のみ、調整のために理由を確認できる場合がありますが、その場合も最低限の確認に留めるべきです。 |
| 避けるべき対応 | 理由を言わないと取得させない、理由によって取得を拒否する、しつこく問い詰める。 |
自然なコミュニケーションを完全に避ける必要はありませんが、上司の立場としては、「有給休暇は理由を問わず取得できる権利である」という原則を常に念頭に置き、従業員が安心して「私用のため」で取得できる雰囲気を作ることが最も大切です。
休暇届に「理由」の欄があるのは?
休暇願の用紙に理由欄があること自体は、直ちに法律上の問題にはなりませんが、運用に注意が必要です。
理由欄があることの妥当性
理由欄が設けられている背景には、主に以下の2点があります。
- 時季変更権の行使判断: 会社には、労働者が請求した時季に有給休暇を与えることが「事業の正常な運営を妨げる場合」に、取得日を変更できる権利(時季変更権)があります。この権利を行使すべきかを判断するために、休暇の緊急性や重要性を把握する必要が生じる場合があります。
- 例:「手術のため」と「旅行のため」では、時季変更の必要性や優先順位が変わる可能性があります。
- 事務管理上の必要性: 会社によっては、取得理由をデータとして集計・分析し、社員の健康管理や働き方改革の施策に役立てるために、形式的に理由欄を設けている場合があります。
運用上の注意点と問題になるケース
理由欄があっても、会社が以下の運用をした場合、法律違反やハラスメントと見なされる可能性があります。
| 問題となる運用 | 法令上のリスク |
| 理由が書かれていないと申請を受理しない | 労働者の有給取得権を制限する行為として、労働基準法違反となる可能性があります。 |
| 理由によって取得を拒否する | 理由の如何にかかわらず、取得を拒否できるのは時季変更権の要件を満たす場合のみです。旅行など「私用」を理由に拒否することは違法です。 |
| 「私用のため」と書いた場合に問い詰める | 従業員に心理的プレッシャーを与え、取得を妨げる行為として、パワハラと見なされるリスクがあります。 |
まとめ
理由欄の有無よりも、会社が「有給休暇は理由を問わず取得できる労働者の権利である」という原則を理解し、「私用のため」での申請を問題なく受け付ける運用をしているかどうかが重要です。
申請書に理由欄に、従業員は「私用のため」と記載すればよく、会社側はそれを受け入れる義務があります。「私用のため」だけのときは、会社側は時季変更権を考慮する事情がある時に、取得理由を聞くことになります。


