カテゴリー: 労働時間

  • 夜勤のみの勤務を希望する従業員がいますが、希望通りにしてよいでしょうか?

    介護施設ですが、変形労働時間制を採用し、なるべく平等に夜勤を負担するようにシフト管理していますが、夜勤専門で働きたいという希望するものがいます。夜勤のみの従業員がいることについて、法令で何か制約ははありますか。法以外では何か問題が考えられるでしょうか。

    介護施設で「夜勤専門」で働きたいという従業員をどう扱うかについて、法令上の制約と、実務上の注意点を整理します。

    法的な観点

    変形労働時間制との関係

    変形労働時間制は「繁閑に応じて勤務時間を調整する制度」ですが、労使協定や就業規則で定めた運用範囲の中で、特定の従業員に夜勤を集中させても、法令上は特に違反にはなりません。

    深夜労働との関係

    22時〜5時に労働させる場合は、通常の賃金の25%以上の割増賃金(深夜割増)が必要です。

    女性・男性ともに深夜業に制限はありません(かつて女性保護規定がありましたが廃止済み)。18歳未満の労働者は深夜労働禁止です。

    健康確保の観点

    夜勤は労働時間が長くなりがちなので、労働時間上限や休息期間との関係に注意しなければなりません。

    法以外の実務上の懸念

    健康確保の観点

    夜勤専門は生活リズムが崩れやすく、健康障害(睡眠障害・循環器系リスクなど)のリスクが高まることが知られています。健康診断でのチェック、本人への健康指導が重要です。

    夜勤者(夜間勤務を週に1回以上、または月に4回以上している従業員)には労働安全衛生法に基づく「特定業務従事者健康診断」が年2回義務付けられています。これは、配置換えの際とその後6ヶ月ごとごとに1回の受診が必要です。

    公平感・チームワーク

    夜勤のみの人と、シフトに応じて日勤・夜勤を交代している人の間で「夜勤手当を夜勤専門者が独占して高収入になる」「日勤の雑務や家族対応を避けている」などの不公平感や不満が生じることがあります。

    人員配置・教育

    夜勤のみの従業員は、昼間のカンファレンスや研修に参加しにくいため、情報共有や教育に遅れが出やすいです。

    利用者や家族との日中のやり取りに関わらないことで、利用者支援の一貫性が損なわれるおそれもあります。

    労務管理

    夜勤専門者が欠勤・退職した場合に、他の職員にしわ寄せが出やすいです。

    夜勤専門になった経緯の記録が残っていないと、後トラブルになる可能性があります。

    まとめ

    法的には夜勤専門を禁止する規定はありません。ただし労働時間管理・深夜割増・健康確保義務には注意が必要です。

    実務面では、健康リスク、不公平感、教育・情報共有の遅れなどが大きな課題になります。


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  • 休憩時間でも電話に出てもらう必要があります、小規模事業の特例はないでしょうか?

    労働基準法の休憩についての質問です。従業員5名の零細企業です。通常、事務所に事務員1名しかいないので、昼休み中でも電話に出たりしてもらっています。電話番をさせると休憩を与えたことにならないそうですが、仕事の性格上、電話に出ないわけにはいきません。違う時間に休憩を与えるにしても、どの時間でも電話は鳴ります。このような小規模事業への特例はないのでしょうか?

    大変悩ましい問題ですが、特例はありません。労働基準法の休憩時間の規定は雇用している人が一人でも守らなければなりません。対策について検討してみましょう。

    法律上の原則

    労働基準法34条は「労働時間が6時間を超える場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は少なくとも1時間の休憩を与えること」と定めています。

    この休憩は「自由利用できること」が要件なので、電話番をしながらの休憩は「休憩」とは認められません。

    事業の規模が小さい、電話応対が必須、などの事情があっても労働基準法の休憩規定に特例はありません。

    従業員本人が「電話番していても構わない」と言っていても、会社が違反していることに変わりありません。休憩は「自由利用」が必須なので、電話に出てもらうと違反になってしまいます。

    実務的な対応策

    以下のような工夫が考えられます。

    1. 休憩時間を交代制にする
      事務員の休憩時間には、他の誰かが事務所に戻って電話を取るようにする。
    2. 留守番電話や転送機能を活用
      休憩時間中は携帯や外部のコールセンターに電話を転送する。

    一つの例

    労働基準法の休憩は、次の要件があります。

    • 労働時間が6時間を超えるとき45分以上、8時間を超えるとき1時間以上
    • 自由利用が条件
    • 途中に与えること(勤務の始めや終わりにまとめるのはNG)
    • 一斉付与の原則あり(ただし労使協定で適用除外可)

    以上の条件を踏まえると、例えば3時ころには他の社員が戻ってくるという職場であれば、次のようなやり方が可能です。

    • 休憩を例えば3時からとする(労働時間の途中であれば問題ありません)
    • お昼には30分の食事休憩を与える。この時間は法定外の休憩なので、有給にする必要がありますが、代わりに電話応対等の軽い労働はしてもらうことができます。

    法定休憩の要件は午後3時の1時間で満たしているので、昼の電話番をしている状態が問題になることはありません。

    この場合の規定例

    第○条 事務員の休憩時間は正午から1時間とする。ただし、事務員が複数配置されるようになるまでの期間は、午後3時から午後4時までの1時間とする。
    2 前項の但し書きが適用されている期間には、前項の休憩時間とは別に、正午に30分間の法定外休憩時間を与える。この時間は有給とし、業務上の必要に応じて電話応対その他の軽度の業務に従事してもらうことがある。

    これは、やり方の一つです。できない、無理だという発想では「違反状態」から抜け出すことができません。いろいろ工夫してみましょう。


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  • わずかな残業をグダグダ言うなら、勤務中に手を休めている時間を差っ引くと言われました。こういうのはアリですか?

    中途入社で1年経ちました。この会社は、定時で帰る人はいなくて、残業する日でなくても30分くらい仕事してから帰ります。先日、「こういうのは残業はつかないんですかね」と軽く言ってみたら、課長から「お前は貰うことしか考えていないのか。就業時間内は1分も休まず働いているのか、なんだったら手を休めている時間を測って全部差っ引いてやろうか。差し引いていないんだからグダグダ言わずに少しでも多く働け。」と脅すように言われました。あまりことを荒立てる気はないのですが、勤務中に仕事をしていない時間があれば差っ引けるものなのか、教えてくれませんか。

    結論から言うと、勤務時間中に仕事をしていない時間があったからといって、その時間を給料から引くことは認められません。

    労働時間とは

    判例等では「労働者が使用者の指揮命令下にある時間」を労働時間とみなします。したがって、次の仕事に入る前にただ座っていた時間(いわゆる手待ち時間)も労働時間に含まれます。

    勤務中に多少の休憩や雑談があったとしても、それをいちいち測って賃金から差し引くことはできません。労働時間のカウントは「使用者の管理下にあるかどうか」で判断されるため、労働者が勝手に席を外して長時間私的行為をしているなど、明確に「労務提供していない」と言える時間でなければ、差し引く根拠にはなりません。

    それに、会社が従業員の給与から何かを差し引くためには、就業規則にその根拠が明記されており、かつその内容が合理的である必要があります。単に「仕事をしていない時間」という曖昧な理由で給与を差し引くことは、労働基準法第24条に定められている「賃金の全額払い」の原則に反する可能性が高いです。

    つまり、課長の発言は、あなたを威圧し、残業代の請求を諦めさせるためのものだと思われます。法的な根拠に基づいたものではないため、真に受ける必要はありません。

    定時後30分の慣習的な居残りについて

    法定労働時間(通常は1日8時間、週40時間)や就業規則で定めた所定労働時間を超えて働いた分は、たとえ1分でも時間外労働です。法定労働時間を超えていれば割増賃金も払う必要があります。

    このような場合、会社側が「指示していないから残業ではない」と主張するケースがありますが、職場の雰囲気や慣習で事実上帰れない状況であれば、会社の黙示の指示(明確な指示ではないが実質的に仕向けている)とみなされ、労働時間に含まれます。

    結論

    勤務中の「手を休めた時間」を会社が差し引くことは、できません。裁判ではほぼ通用しない主張です。

    定時後30分の作業は、時間外労働とみなされる可能性が高いでしょう。

    つまり、課長の「手を休めた時間を差し引く」という発言は、根拠のない脅し文句であって、現実に通用することではありません。

    荒立てたくないお気持ちとのことですが、このような(パワハラの可能性が高い)発言が今後も続く可能性があります。また、サービス残業の問題も重要です。きちんと対応していくためには、今後は、記録(出退勤時間、日々の残業の状況、言われた言葉)を残しておくことが大切です。


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  • 定時に仕事を始められるようにしなさい、という指示はサービス残業の強制ではありませんか?

    当社では、「始業時間には席に着き、仕事を始められる状態にしておきなさい」と指示されています。なので、最低10分前には席について、パソコンを起動させて、書棚から書類を出して、今日のスケジュールにざっと目を通して段取りを考え始めることにしています。定時に入室していては間に合いません。ということは、事実上、毎日10分程度のサービス残業を強いられていると考えてもよいと思うのですがどうでしょうか。

    会社の指示を守るためには、最低10分前には席にいなければならない、という状況であれば、その準備行動は、時間外労働に該当する可能性があります。

    労働時間とは

    労働基準法上、「労働時間」とは労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間を指します。したがって、会社が定時前の出社や作業準備を事実上義務付けている場合、指揮命令下にあるとみなされますので、その時間は労働時間に該当します。

    労働時間になるケース

    • 始業前ミーティングへの参加を義務付ける
    • 制服への着替えや清掃などを指示する
    • パソコン立ち上げや資料準備を「定時前に終えておくべき」と指導する

    今回のケースはこの3に当たります。

    パソコンの立ち上げや資料準備は、業務に不可欠な作業ですから、労働時間と認定されます。

    もし、名目上は、自主的にやっていた場合でも、準備という「仕事」が始まっているので、使用者の指揮命令下にあります。労働時間に算入しなければなりません

    指示がなく、慣習的なものだとしても、会社の雰囲気として、これをやらないと評価が下がる、といった状況があれば、実態的に強制とみなされる可能性があります。

    しては使用者の指揮命令下にあるため、労働時間に算入しなければならないとされています(裁判例・行政通達あり)。

    労働時間にならない場合

    • 労働者が自主的に早く来て雑談している、私物整理をしている、コーヒーを飲んでいる、といった時間は労働時間に含まれません。

    実務上のリスク

    未払い残業に当たる可能性があります。1日10分だとしても、年間200日とすると、2000分になります。時間にすれば33時間強です。時給2千円で計算すると6万6千円強になります。これを全従業員に対して数年分払わなければならないこともありえます。

    企業としての対応策

    「始業時刻に業務開始できること」を求める場合、準備行為の時間を労働時間に含めることが望まれます。具体的には始業時間の変更か、時間外労働賃金の支払いが必要です。

    準備を業務に含めないのであれば、準備不要の運用に改めるべきです。就業規則や通達で「定時前の準備作業は必要ない」と明示しましょう。

    結論として、会社が定時前出社を事実上強いている場合は「早出残業」にあたる可能性があります。対策としては、「労働時間として認める」か「準備作業をさせない」と整理になります。


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  • 休憩時間って本当に自由にしていいんですか?

    労働基準法の定め

    休憩時間は自分の自由に過ごすことができます。労働基準法にきちんと書いてあります。

    労働基準法第34条3 使用者は、第1項の休憩時間を自由に利用させなければならない。

    こうなれば休憩とは言えない

    次のような状態であれば休憩を与えているとは言えません。

    • 電話が鳴ったら出なければならない
    • 来客があったら応接しなければならない
    • 自分の席にいることを求められている
    • ときどき仕事を頼まれることがある
    • メールを読んでいなかったと叱られる

    自由ってどのくらい自由なの?

    休憩時間中は、近くの食堂に行くのも、どこかで昼寝をするのも、忘れ物をとりに自宅に行くのも自由です。

    具体的には、以下のような行動は一般的に問題ないとされています。

    休憩室でアクセサリー作りの副業をする: 休憩時間は、労働者の自由に利用できる時間であるため、会社に損害を与える、あるいは会社の秩序を乱すような行動でなければ、副業を行うことも可能です。

    近所の風呂に行ってくる、家が近いので帰って昼寝をする: 休憩時間中に事業場から外出することも自由です。ただし、休憩時間内に帰ってこなければなりません。

    外出禁止はできるのか?

    休憩時間は自由にできるので、外出することも自由です。しかし、なかには、許可なく事業場から離れることを禁止している会社もあります。

    これは、休憩時間の自由利用を妨げる目的であれば違法です。ただし、休憩時間が終わっても戻ってこない人がいるときに、どこに行ったものか全くわからないというのは不便だし、安全上の問題もあります。

    そこで、食事に行くとか、散歩に行くとかの断りを入れさせる会社が多いのですが、それくらいの規制は違法とは言えないでしょう。裁判例でも、合理的な範囲での使用者の管理権は認めています。

    文書による届出制は運用によってはグレーゾーンです。例えば弁当を買いに行くにも書類を出さなければならないということになると、実質的に休憩が取りにくくなるので違法に近いと思われます。外出を許可しないというのは業種にもよりますが一般的には違法の可能性が髙いです。

    休憩自由利用の例外

    一部の事業・業種で自由利用の例外が認められています。(労働基準法施行規則第33条)

    一 警察官、消防吏員、常勤の消防団員、准救急隊員及び児童自立支援施設に勤務する職員で児童と起居をともにする者

    二 乳児院、児童養護施設及び障害児入所施設に勤務する職員で児童と起居をともにする者

    三 児童福祉法第六条の三第十一項に規定する居宅訪問型保育事業に使用される労働者のうち、家庭的保育者として保育を行う者

    ただし、二号に掲げる労働者を使用する使用者は、その員数、収容する児童数及び勤務の態様について、様式第十三号の五によって、予め所轄労働基準監督署長の許可を受けなければなりません。

    休憩自由利用除外許可申請の様式は厚生労働省ホームページに掲載されています。


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  • 勝手残業が止まりませんが、会社としてはどうすればよいでしょうか?

    従業員が勝手に時間外労働をして、それを課長が追認しているケースが多いので、今後は一切の勝手残業を認めないことにし、その時間の賃金も支払わないと通知しました。現在は守られていますが、今後、勝手な時間外労働があったときに、その時間の賃金を払わないと突っ張ればどういうリスクがありますか?

    法律上の考え方

    法律と判例によれば「使用者の指揮命令下で労働した時間」は時間外労働として賃金支払い義務がある、とされています。

    ポイントは「命令したかどうか」だけではなく「使用者がその労働を認識し得る状態にあったかどうか」です。

    上司が残業を黙認した、追認した。出退勤記録や業務メールなどで会社が把握できる状態にあった、などの場合は「黙示の指揮命令」とみなされ、賃金支払い義務が認められています。

    会社の対応とそのリスク

    基本的には、御社でやられたように、「勝手残業は認めない」と明確に通知し、守らせる指導をすることが大事です。

    指導しているにもかかわらず、従業員が時間外に働き、それを会社が「気づいたのに止めなかった」「成果物を利用した」場合は、追認があったとみなされる可能性が高いと思われます。

    つまり、禁止しているのだから賃金を支払わないとと突っぱねると、労働基準監督署に申告された場合、是正勧告を受ける可能性が大きいです。

    実務対応のポイント

    残業申請制を徹底

    残業は事前申請・許可制にし、許可なき残業は認めないと、あらためて周知します。

    発覚時の対応

    実際に残業があった場合は、原則として賃金は支払う(未払いは危険)ことにしますが、同時に、ルール違反として「指導」し、悪質な場合は「懲戒処分」を行います。

    つまり「賃金は払うが、ルール違反は処分する」という二本立てで管理します。

    課長層への徹底

    上司が「勝手残業を黙認」しないことが重要です。

    管理職に対して「止める義務」「承認ルート以外の残業を認めない」教育を徹底する必要があります。

    まとめ

    賃金未払いで戦うのはほぼ負け筋です。

    未然に防ぐ仕組みを維持しつつ、万一残業があった場合は支払った上で指導するのが現実的です。

    「払わない」とすると、労働基準監督署対応・裁判リスクなどに発展するおそれがあります。

    残業申告についての規程例

    これまでの解説を規程の形に整えてみました。この規程を就業規則の付属文書として制定することで、「残業代は支払う」が、「無断残業は規程違反として処分対象」という方針を明確に示すことができます。

    時間外労働管理規程(文例)

    第1条(目的)

    本規程は、労働基準法その他関係法令を遵守し、従業員の労働時間を適正に管理するとともに、従業員の健康保持及び業務効率化を図ることを目的とする。

    第2条(原則)

    1. 当社における労働時間は、就業規則に定める所定労働時間を原則とする。
    2. 時間外労働は、業務上やむを得ない場合に限り、事前に申請・承認を得た場合のみ認める。

    第3条(申請・承認手続)

    1. 従業員が時間外労働を希望する場合は、あらかじめ所定の様式により、理由及び予定時間を明記して直属の上長に申請しなければならない。
    2. 上長は、業務上の必要性を確認のうえ承認または却下を行い、必要に応じてさらに部署責任者の承認を得る。
    3. 承認された場合に限り、時間外労働を行うことができる。

    第4条(禁止事項)

    1. 承認を受けずに時間外労働を行うことを禁止する。
    2. 上長が承認手続きを経ずに時間外労働を黙認または追認することを禁止する。

    第5条(違反時の取扱い)

    1. 従業員が承認を得ずに時間外労働を行った場合であっても、実際に労働した時間については法令に基づき賃金を支払う。
    2. 前項の場合、当該従業員は本規程違反として指導・注意を受け、繰り返す場合には懲戒処分の対象となる。
    3. 上長が承認を経ずに時間外労働を黙認または追認した場合、当該上長は管理責任を問われ、指導・注意を受け、繰り返す場合は降格等の人事上の不利益を受けることがある。

    第6条(周知徹底)

    会社は、本規程の内容を全従業員に周知し、労働時間管理の徹底に努める。

    第7条(附則)

    本規程は、○年○月○日より施行する。


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