カテゴリー: 労働時間

  • フレックスタイム制のあらまし

    フレックスタイム制とは

    フレックスタイム制とは、労働者があらかじめ定めた総労働時間の範囲内で、日々の始業時刻と終業時刻、労働時間を自ら決めることができる制度です。(根拠規定:労働基準法第32条の3等)

    一般的にプログラマー、デザイナー、企画職、事務職などのように、外部との接触時間等を調整しやすく、同僚との連携事務が少ないなど、自分のペースで業務を進めやすい仕事はフレックスタイム制を適用しやすいと言われています。

    逆に、接客業、サービス業、工場のライン、営業職などのように顧客と対面で行う仕事や、連携する同僚や外部が多い仕事はフレックスタイム制を適用しにくいと言われています。

    フレックスタイム制を導入するためには、就業規則の改定と労使協定の締結が必要です。

    就業規則を改定する

    まず、就業規則で、始業及び終業の時刻を労働者の決定に委ねる旨を定めます。始業及び終業時刻の両方を労働者の決定に委ねることが必要です。

    関連記事:フレックスタイムの就業規則規定例

    清算期間、清算期間における総労働時間についても、就業規則に定めます。

    労使協定を結ぶ

    フレックスタイム制の基本的枠組みについて労使協定を結びます。

    定めるべき事項

    □ 対象となる労働者の範囲
    □ 清算期間
    □ 清算期間における所定労働時間(総労働時間)
    □ 標準となる1日の労働時間
    □ コアタイム(定める場合)
    □ フレキシブルタイム(定める場合)

    関連記事:フレックスタイム制に関する労使協定のサンプル

    対象となる労働者の範囲

    フレックスタイム制を適用する労働者の範囲を決めます。対象となる労働者の範囲は全労働者とすることもできるし、個人ごと、課ごと、グループごと等様々な範囲を決めることができます。

    清算期間

    計算単位となる期間、清算期間を定めます。

    清算期間が1ヶ月以内であれば労使協定を労働基準監督署に届出る必要はありませんが、清算期間の上限を1ヶ月を超え3ヶ月以内にした場合は、労使協定を労働基準監督署に届出る必要があります。

    清算期間の長さと起算日も定めなければなりません。単に「1ヶ月」とせず、毎月1日から月末までなどと具体的に定めることが必要です。

    清算期間における所定労働時間(総労働時間)

    つぎに、清算期間中の総労働時間を定めます。労働者が労働すべき総所定労働時間のことです。

    この時間は、平均したときに、1週間の労働時間が法定労働時間の範囲内となるように定める必要があります。

    清算期間が1ヶ月を超え3ヶ月以内の場合は、清算期間内の1ヶ月ごとに区分した期間に1週平均50時間を超えた場合、清算期間の途中であっても、各期間に対応した賃金支払い日に割増賃金を払わなければなりません。

    標準となる1日の労働時間

    標準となる 1 日の労働時間とは、年次有給休暇を取得した際にこれを何時間労働したものとして賃金を計算するのか、明確にしておくためのものです。通常はフレックスタイム制導入前の所定労働時間にしています。適切と思われる労働時間にしても構いません。

    コアタイム・フレキシブルタイム

    必ず勤務すべき時間帯(コアタイム)を定めることもできます。会議の時間を取りたいなど、完全に自由にすると支障が出る心配がある会社はコアタイムを設定するところが多いです

    コアタイムの開始及び終了時刻を定めます。コアタイムは、法令上必ず設けなければならないものではありませんが、設定する場合は、労使協定において、その開始及び終了の時刻を定めなければなりません。

    コアタイムを決めるときは次の通達に留意する必要があります。

    昭和63.1.1基発1号、婦発1号、平成113.31基発168号
    フレキシブルタイムが極端に短い場合、コアタイムの開始から終了までの時間と標準となる1日の労働時間がほぼ一致している場合等については、基本的には始業及び終業の時刻を労働者の決定にゆだねたこととはならず、フレックスタイム制の趣旨には合致しないものであること。

    労使協定が異なる事業場に異動した場合は、労働時間は通算できません。賃金を清算する必要があり、それぞれの期間の労働時間が週40時間を超えていれば、割増賃金の対象になります。

    コアタイムが決まればそれ以外の時間がフレキシブルタイムですが、労使協定にそれぞれ記載することもできます。

    時間外労働の扱い

    使用者は労働時間を把握する義務がある

    フレックスタイム制では、始業及び終業の時刻を労働者の決定に委ねるのですが、いつ来たか、帰ったかを知らなくてよいというものではなく、使用者はタイムカードなどで、各労働者の各日の労働時間を把握する義務があります。

    これをしないと、事前に定めた総労働時間を超えて労働したのか、不足だったのか把握できず、正しい賃金計算ができなくなります。また、長時間労働の把握ができないので安全配慮義務を果たすことができません。

    残業がないわけではないので36協定も必要

    36協定も締結する必要があります。清算期間の総労働時間が、法定労働時間の総枠を超えない限りは、時間外労働は発生しませんが、時間外労働が無いということではありません。

    36協定は、通常、1日について延長することができる労働時間を記載しますが、フレックスタイム制の場合は、1日単位で時間外労働を計算しないので、「清算期間を通算して〇時間」という記載になります。

    関連記事:時間外労働の手続き

    労働時間の過不足処理の注意点

    清算期間が終わってみると、必要な総労働時間まで働いていないとか、逆に働きすぎがあったということも考えられます。

    フレックスタイム制では、時間外労働であるかどうかは、1日単位で判断しないで、清算期間を単位として判断します。清算期間で過不足をみて、法定労働時間を超えていれば時間外労働となります。例えば、清算期間が暦日30日の1ヶ月であれば、171.4時間(40時間×(30÷7日))を超えた時間が時間外労働になります。

    清算期間の暦日数週の法定労働時間(40時間)
    31日177.1時間
    30日171.4時間
    29日165.7時間
    28日160.0時間

    多く働いていた場合は、その労働時間を次期の清算期間に繰り越すことはできず、超過分に相当する賃金を支払って清算しなければなりません。時間外割増賃金の対象になります。

    逆に労働時間が不足した場合は、翌月の総労働時間が法定労働時間の総枠の範囲内で、不足分を翌月に繰り越すこともできます。または、不足分に相当する賃金をカット(遅刻や欠勤と同様の扱い)します。

    割増賃金は賃金支払日の賃金を基礎にして計算する

    割増賃金は、賃金支払い日における賃金額を基礎として算定するのが基本です。ですから、例えば、清算期間の3ヶ月目に昇給があった場合は、昇給前の2ヶ月間を含めた清算期間を平均して、1週間当たり40時間を超えて労働した時間について、昇給後の賃金額を基礎として割増賃金を計算する必要があります。

    清算期間についての補足

    フレックスタイム制における清算期間の上限は3ヶ月です。

    1か月単位のフレックスタイム制は、月またぎの調整ができないため、ある月の労働時間が週当たり40時間を超えていた場合は、その超過時間は、時間外労働となり割増賃金の支払いが必要となります。

    逆にある月の労働時間が月の総労働時間に達していないと、その達していない時間は欠勤控除の対象になります。

    3ヶ月の間で調整できるようになると、3か月平均の週当たりの労働時間が法定労働時間の枠内に収まれば、時間外労働が発生せず、欠勤控除も発生しません。

    ただし、単月において特定の月に過重労働が生じないように、労働時間が清算期間の各月で週平均50時間に収めるように規定されています。

    3ヶ月の枠で平均して法定労働時間に収めれば、3ヶ月内の各月では、週平均50時間までは時間外労働にならないというわけです。

    この制度について、厚生労働省は子育て中の親が8月の労働時間を短くすることで、夏休み中の子どもと過ごす時間を確保しやすくなる、と説明しています。

    なお、清算期間が1ヶ月を超える場合は、特例業種の法定労働時間44時間は適用されません。特例業種であっても40時間×週数で計算した総枠に収まるように、総労働時間を設定しなければなりません。

    子の看護休暇や介護休暇との関係

    厚生労働省のQ&Aには、看護・介護休暇は、労働者の労務提供義務を消滅させる効果を有するものであり、一定期間内においてあらかじめ定めた総労働時間数の範囲内で労働者自身が柔軟に労働時間を設定することができるフレックスタイム制度とは趣旨が異なるものである。したがって、フレックスタイム制度のような柔軟な労働時間制度が適用される労働者であっても、申出があった場合には、時間単位で看護・介護休暇を取得できるようにしなければならない。と記載されています。

    このような運用は違法です

    フレックスタイム制を導入しても次のようになっていると違法です。

    □ 日によって上司が出社時刻や退勤時刻を指定する
    □ コアタイムでない時間帯に出社を強制する
    □ 時間外割増賃金を支払わない
    □ 時間外労働時間を翌月に繰り越させる
    □ 年次有給休暇を取得させない
    □ 18歳未満の労働者にフレックスタイム制を適用する


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  • 管理監督者の労働時間

    労働基準法における時間管理除外規定

    一定の業種と業務には労働基準法の労働時間、休憩、休日に関する規定が適用されません。

    労働基準法第41条 この章、第6章及び第6章の2で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
    一 農業水産業の労働時間
    二 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
    三 監視断続的労働

    関連記事:農業水産業の労働時間

    関連記事:機密の事務を取り扱う者

    関連記事:監視・断続的労働

    このページでは、二の「管理監督者等」について解説します。

    事業経営をするためには、一定の範囲の労働者には、労働時間や休憩、休日についての規制を超えて活動してもらう必要があるだろうという考えです。この条文にある「監督若しくは管理の地位にある者」を縮めて「管理監督者」と呼んでいます。

    労働時間、休憩、休日に関する規定とは

    労働時間

    労働基準法において、労働者の労働時間の上限は、1日8時間および1週40時間と定められています。また、時間外労働は原則として月45時間、年360時間を上限とします。

    管理監督者には労働時間の上限規制が適用されません。時間外労働の上限も対象外なので、残業時間に規制がなく残業手当の支払いもありません。

    ただし、深夜労働の割増は管理監督者にも適用されます。

    また、過重労働を防止するため、使用者は管理監督者についても労働時間を把握しなければなりません。

    休憩

    労働基準法は一定の休憩について定めています。これに違反して休憩を与えないことがあれば罰則が適用されます。しかし、管理監督者には休憩についての規定も適用されないので、休憩しないで働いたとしても労働基準法の休憩規定に違反しません。

    休日

    労働者に対して、毎週少くとも一回の休日、または四週間を通じ四日以上の休日を与えなければならないと決まっています。

    この規定は、管理監督者には適用されません。管理監督者には週1回などの法定休日を与えなくても良いのです。

    ただし、有給休暇には休日のように管理監督者を除外する規定はありません。管理監督者も有給休暇をとることができます。労働基準法は「休日」と書いています。休日と休暇は別であることに留意が必要です。

    管理監督者と管理職は違います

    労働基準法にでてくる管理監督者は、会社の課長や部長といった管理職と同じではありません。重なる部分はありますが、違うものだととらえた方が間違いがないでしょう。

    「管理職」と「管理監督者」を混同して残業代などを支払わないのであれば、賃金の未払いという労働基準法違反になるおそれがあります。

    管理監督者性を否定する重要な要素

    通達では、管理監督者性を否定する判断要素を示しています。

    職務内容、責任と権限

    ① アルバイト・パート等の採用について責任と権限がない
    ② アルバイト・パート等の解雇について職務内容に含まれず、実質的に関与しない
    ③ 部下の人事考課について職務内容に含まれず、実質的に関与しない
    ④ 勤務割表の作成、所定時間外労働の命令について責任と権限がない

    勤務様態

    ① 遅刻、早退等により減給の制裁、人事考課での負の評価など不利益な取扱いがされる

    <補強要素>
    ① 長時間労働を余儀なくされるなど、実際には労働時間に関する裁量がほとんどない
    ② 労働時間の規制を受ける部下と同様の勤務様態が労働時間の大半を占める

    賃金等の待遇

    ① 時間単価換算した場合にアルバイト・パート等の賃金額に満たない
    ② 時間単価換算した場合に最低賃金額に満たない

    <補強要素>
    ① 役職手当などの優遇措置が割増賃金が支払われない事を考慮すると十分でなく労働者の保護に欠ける
    ② 年間の賃金総額が一般労働者と比べ同程度以下である

    通達をふまえた対応

    上記で示された要素に一つでも該当すると、管理監督者に該当しない可能性が高いとされています。では、一つも該当しないと大丈夫か? そうでもなさそうです。

    通達には、「否定要素をすべてクリアできたからといって必ずしも管理監督者に該当するとはいえない。」「実態判断する」とも書かれています。

    つまり、管理監督者として認められるケースは極めて限定的だということです。

    厚労省のパンフレットには「労働条件の決定その他労務管理について、経営者と一体的な立場にあり、労働時間等の規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な職務内容を有していなければ、管理監督者とは言えません。」とも記載されています。

    つまり以下の3項目です。

    ① 経営者と一体的な立場である
    ② 労働時間の規制の枠を超えて活動せざるを得ない
    ③ 重要な職務内容を有している

    上記の3項目に照らして再検討する必要があります。

    これにあてはまるのは、工場長や支店長、営業部長などが考えられますが、単に肩書だけでなく、実質的な権限があるかどうかで判断しなければなりません。本社の了解がなければパートの採用もできないようであれば経営者と一体的な立場とは言えませんし、他の従業員と同様に毎日定時の出社が義務付けれらているような働き方では労働時間の規制の枠を超えていると言えません。

    なお、「管理監督者」であっても長時間労働をさせて健康を害するようなことがあれば会社は安全配慮義務に違反します。また、管理監督者であっても深夜割増賃金は払わなくてはならないので、労働時間の把握はしなければなりません。

    裁判になれば管理監督者と認められるケースはさらに限定的のようです。どうであれば認められるかという線を引くことはできませんが、工場長や支店長という肩書を与えられて他の従業員よりも給料が高くても、他の従業員と同様の現場仕事で忙しくしている場合は、まず管理監督者とは認められないでしょう。


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  • 休憩時間って法律でどう決まってる?労働基準法に定められた休憩のルール

    休憩の時間

    労働時間が6時間を超えたら45分、8時間を超えたら1時間与えなければなりません。

    労働基準法第34条 使用者は、労働時間が6時間を超える場合においては少くとも45分、8時間を超える場合においては少くとも1時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない。

    労働時間が8時間ちょうどであれば、法律上必要な休憩は45分です。この場合、1分でも残業になれば、8時間を超えるので休憩時間は1時間必要になります。

    したがって、8時間労働で昼の休憩45分の会社は、定時後の残業を始める前に15分以上の休憩をとらせないと、労働基準法の休憩に関する規定に違反することになってしまいます。

    なお、トイレに行く、水を飲みに行くなどの、生理的欲求に基づく作業離脱は労働基準法に定められた「休憩」ではありません。休憩時間でなくても、いつでも、とることができます。

    労働時間6時間以内のとき

    労働時間が6時間を超えなければ、法律上は休憩を与えなくても問題ありません。

    しかし、例えば、朝の9時から午後の3時までのパートさんに、法律上は問題ないからといってお昼を食べる時間も与えずに働かせるのは無茶です。実務上は、休憩を与えているのが普通です。

    この場合、労働基準法上の休憩ではないので、45分とか1時間ではなく、例えば15分でも30分でも問題ありません。常識の範囲で決めれば良いことです。また、休憩時間は労働時間ではないので無給にすることができます。

    休憩付与の例外

    労働基準法第40条に「公衆の不便を避けるために必要なものその他特殊の必要あるものについては、その必要避くべからざる限度で(中略)休憩に関する規定について、厚生労働省令で別段の定めをすることができる。とあります。

    これを受けて、労働基準法施行規則第32条に休憩時間を与えないことができる業種及び職種が指定されています。

    旅客又は貨物の運送の事業、郵便の事業に使用される労働者のうち、機関手、運転手、操縦士、車掌等で、長距離にわたり継続して乗務する者が対象です。

    乗務員で前項に該当しないものであっても、その者の従事する業務の性質上、休憩時間を与えることができないと認められる場合においては、その勤務中における停車時間、折返しによる待合せ時間その他の時間の合計が休憩時間に相当するときは、休憩時間を与えないことができます。(労働基準法施行規則第32条2)

    屋内勤務者30人未満の郵便局において郵便の業務に従事するものにも与えないことができます。

    休憩時間の3原則

    休憩時間の原則は次の3つです。
    □ 労働時間の途中に与えなければならない
    □ 一斉に与えなければならない
    □ 自由に利用させなければならない

    労働時間の途中に与えなければならない

    休憩は労働時間の途中にあたえなければなりません。「途中」について細かい規定はありませんが、労働時間の中間に近い時間帯というのが常識的なところでしょう。

    なお、労働基準法では、休憩時間を「連続した時間」とまでは規定していません。そこで、昼40分、午前10時に10分、午後3時に10分も違法ではないとされています。だだし、「昼の休憩時間を削って終業時間の直前に入れれば早く帰れるのではないか」というのはだめです。労働時間の途中に休憩させなければなりません。

    一斉に与えなければならない

    原則としては、休憩は一斉にとらせなければなりません。

    労働基準法第34条2 前項の休憩時間は、一斉に与えなければならない。ただし、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定があるときは、この限りでない。

    一斉休憩の除外業種

    労働基準法第40条の規定を受けて一斉休憩が除外されるのは以下の業種です。(労働基準法施行規則第31条)

    別表第一第四号 道路、鉄道、軌道、索道、船舶又は航空機による旅客又は貨物の運送の事業
    第八号 物品の販売、配給、保管若しくは賃貸又は理容の事業
    第九号 金融、保険、媒介、周旋、集金、案内又は広告の事業
    第十号 映画の製作又は映写、演劇その他興行の事業
    第十一号 郵便、信書便又は電気通信の事業
    第十三号 病者又は虚弱者の治療、看護その他保健衛生の事業
    第十四号 旅館、料理店、飲食店、接客業又は娯楽場の事業
    官公署の事業

    商店や病院、介護施設など、けっこう範囲が広いです。これらの業種では、労使協定がなくても一斉休憩の適用をしないことができます。

    ただし、交替制など、どのようにして法定の休憩時間を取らせるかは就業規則等に定める必要があります。

    労使協定による適用除外

    上記以外の業種で、一斉休憩を与えない事情がある場合には労使協定が必要です。

    休憩時間が1時間であれば、第1班が11時半から12時半まで、第二班が12時半から13時半まで、などのシフトを組むのが一般的です。

    関連記事:一斉休憩の適用除外に関する労使協定のサンプル

    この労使協定は労働基準監督署に届け出る必要はありません。従業員に周知するとともに、労働基準監督官の調査等の際にすぐに取り出せるようにしておきましょう。

    従業員が一人の事業場では交替ができません。そのような小規模事業場は、その時間店舗等を閉じるか、使用者自身が受付や電話当番をするか、電話の転送サービスを利用するなどの工夫をする必要があります。

    自由に利用させなければならない

    休憩時間は完全に労働から解放されて自由に過ごせなければなりません。電話に出るだけでも休憩したことになりません。

    関連記事:休憩時間って本当に自由にしていいんですか?

    関連記事:休憩時間でも電話に出てもらう必要があります、小規模事業の特例はないでしょうか?

    その他の注意点

    当番には別途休憩を与えなければならない

    多くの会社では、昼休みであっても電話が来たり来客があったりします。昼休みだから受け付けませんとは言いにくいものです。

    そこで、順番制などで電話当番を決めたり、受付当番を決めることがあります。

    この当番制は、たとえその昼休み中に1人の来客も1本も電話がなかったとしても、完全に労働から解放されているとは言えないので、休憩を与えられなかったことになります。つまり、休憩時間中の当番制は、労働基準法に違反することになるので、当番に別な休憩時間を与えるなどの措置をとらなければなりません。

    なお、一部の人に異なる時間に休憩をとらせる場合は、上述した一斉休憩の適用除外に関する労使協定を締結しなければなりません。

    労働者が自ら休憩をとらない場合は

    正午から午後1時を休憩時間としている会社で、ある従業員が仕事の区切りがつかず12時30分まで労働したとします。その従業員は12時30分から休憩に入るので、1時30分まで休むべきですが、自主的に午後1時から労働を再開するかもしれません。

    なかには昼休みはデスクでパンを食べるなどしながら仕事を継続して、満足に休憩を取らない従業員もいるかもしれません。

    いずれの場合も、法律で定められている休憩時間を会社が与えていないということになり、また、代わりの休憩を与えないのであれば賃金未払いということになります。いずれも労働基準法違反です。

    休憩時間を与える義務が使用者に課せられている以上、従業員が自主的にやったとか、会社は知らなかったとかいうことは理由になりません。労働基準法に則った働き方をするように、管理職が指導しなければなりません。

    終業と残業開始の間の休憩時間

    勤務時間が終わった後、残業(時間外勤務)を始めるまでの間に30分とか45分とかの休憩時間を設定している会社があります。

    これは、終業後すぐに残業を始めると長時間の連続勤務になってしまうので、残業に備えてリフレッシュする時間として設定されたものです。労働基準法上の義務ではありません。

    ところが、残業は多くが忙しいからするのであって、ゆっくり休んでいると帰りが遅くなるだけなので、規定の休憩をとらずにそのまま働き続けるケースが珍しくありません。その場合は、就業規則で休憩時間とされているので自動的に賃金控除されてしまい、実質的にサービス残業になってしまいます。

    このような休憩設定をしている会社は、一度従業員のニーズを把握してみましょう。このような休憩に対するニーズが少ないのであれば、廃止して、残業中に業務に大きな支障が出ない範囲であれば水分補給をしたり軽食を取ったりすることをトイレ休憩等に準じて許容する運営に変えることを検討しましょう。

    フレックスタイム制や時差出勤制度を導入している場合は一律で残業前の休憩を設定するのは不自然でもあります。

    分割してもよいが注意が必要

    厚生労働省ホームページのQ&Aに休憩を分割して与えることについての記載があります。

    それによると「分割された休憩時間がごく短い場合、休憩時間の自由利用が事実上制限されるため、労働者が労働から完全に解放されているとは評価されない場合があります。」とのことです。

    ごく短く分割することは問題があるが、分割すること自体は可能だということになります。ただし「ごく短い」が何分かは示されていませんが、社会通念の範囲、そして労使の合意(就業規則の変更が伴う)によって決めることになります。


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  • 未払い残業代を請求されたら

    早期解決を目指す

    本人または代理人である弁護士から申し入れがあったときは、相手の言い分を誠実に聞くことで、穏便に解決を図ることを目指しましょう。

    相手方から提出された書類を精査し、会社の資料と付け合わせをして払うべき残業代を計算しましょう。会社は誠実に調査し、払うべきものがあれば払わなければなりません。

    ただし、残業しているかどうかはっきりしないのに相手の言い分通りに認めてしまうと、他の労働者に悪い影響を与えることになります。法外な要求には、しっかりと反論し対応することが必要です。

    個人加入の労働組合から申し入れがあったときは、不慣れであれば、早急に、労働問題に詳しい弁護士に相談しましょう。不当労働行為などについての知識が必要なので、経験がない人だけで労働組合に対応に対応するのはリスキーです。

    社内調査にあたって

    会社が直属の上司に聞き取り調査をすると、残業を指示していない、あるいは残業などしていない、などとことさらに強調することがあります。現に相手は残業していたと主張しているのに、まったく知らないというのは不自然です。

    その上司に責任を負わせようとしているわけではないのだということを説明する必要があります。事ここに至っては会社の信用損害をできるだけ少なく食い止める必要がある。それには正直に誠実に対応することが必要だということを言い聞かせ、本当の事情を教えてもらう必要があります。また上司の発言は、場合によっては法廷提出する文書にしたり、証言をしてもらわなければならないこともあることも説明しましょう。

    合意書の取り交わし

    計算した金額を相手に提示し納得が得られれば、合意文書を作成することになります。そして、合意書に則って支払いをすれば完了です。

    参考書式:和解合意書のサンプル

    外部の機関による解決

    当事者との話し合いで合意に至らなければ、紛争調整委員会や労働審判、裁判ということになります。当事者どおしの話し合いがなく、直接、裁判等になることもあります。

    裁判で和解の勧め、紛争調整委員会や労働審判などによるあっせん等があったときは、法外な請求でない限り応じた方が得策です。

    得策というのは、短期に終了した方が、お互いに貴重な時間を使わなくても済むからです。

    紛争解決委員会は特定社会保険労務士が対応できますが、労働審判あるいは裁判になってしまえば弁護士に依頼することになります。

    いずれの場合も、原則として、第一回目の期日までに各種の資料を準備し提出しなければなりません。(裁判の場合には一部の資料は後に回すこともできます)

    未払い賃金請求をされない対策

    いずれにしても争いごとになってしまえば手間がかかるしお金は取られるし、評判は悪くなるしで、会社にとって良いことはありません。

    未払い賃金請求をされないためには、適正な労働時間の把握が重要です。


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  • 特定の人が居残る場合の対策

    特定の従業員に残業が多いとき

    多くの従業員は早めに帰るのだが、特定の従業員がいつまでも居残っている。こんなことはありませんか。

    これは、実際に抱えている仕事が多い場合と、その人の仕事の進め方が要領が悪い場合があります。両方の理由によることもあります。

    多すぎる仕事を抱えている場合

    往々にしてやれる人に仕事が集中する傾向があります。その人の仕事をみて、その仕事量であれば誰がやっても残業せざるを得ないという状態であれば、残業が多くなるのも当然です。

    この場合は、応援を出すなどして、その仕事を担当する人員を増やす必要があります。ただし、誰でもよいというのではなく、その業務について戦力になる人を出さなければなりません。

    仕事の要領が悪い場合

    他の人と同じくらいの仕事なのに、なぜか人よりも時間がかかる人がいます。これにはいろいろなタイプがあります。

    慣れていない

    新人などが典型的なケースです。新人であれば仕事が遅いのは当たり前です。この場合、時間の経過とともに改善するはずなので、慣れるまでは周りが支援する必要があります。上司や先輩が多少我慢しながら手伝ってやることで、追い付いてくるでしょう。

    新人を指導するときは、漠然とした指示ではいけません。具体的に指示をすることが大事です。「ここはこのように行う、勝手に手順を変えないでやってみましょう」と丁寧に教えて、しかも、何度も根気よく続ける必要があります。

    動作が遅い

    仕事が丁寧で人よりも時間がかかる人がいます。時間はかかっても、顧客等にその丁寧さが評価されている場合には、貢献もしているのですから、責めるのではなく、仕事量の配分を調整してやる、つまり少し減らしてやることで早く上がれるようになるでしょう。

    仕事が遅い上に雑な仕事しかしない人もいます。こういう人は実はまだ仕事を覚えていない場合が多いようです。どこを覚えていないのか、仕事ぶりをみたり、本人と協議して、覚えていない部分について教育をし直す必要があります。

    また、締め切り時間を明確にすることで改善することがあります。なんでもキリキリと締めるのはどうかと思いますが、会社と言うものは時間時間できっちり仕事を仕上げなければならないと言う意識がどこかで欠落する人もいるのです。改善の兆しが見えるまでは何度も締め切りを確認する必要があります。

    集中力がない

    集中力がない人もいます。日中は、たいして用もないのに出かけたり、電話を掛けたり、同僚に話しかけたりして時間を過ごします。そして、日が暮れたころにエンジンがかかり始めます。

    こういう人は、帰りが遅くなることをあまり苦痛に思わない人が多いです。また、自分は有能だと思っているので、意見されてもなかなかなおりません。労働時間管理の面からは大変迷惑な存在です。

    このような人には、自分の裁量する部分が少ない単純な仕事、納期などをほとんど考えなくてもよい仕事が向いています。異動させるのが一番の対策です。

    健康を損じると会社の責任になる

    特定の人が居残る場合、原因はいろいろなので、一人一人対策を考える必要があります

    長時間労働は、健康障害につながります。誰かが病気などになれば、それは、個人の責任ではなく会社に責任があるとされることが多くなっています。あの人は仕方ないということで放置することはできません。

    上司が心配して、早く帰るように再三進めても、大丈夫だと言って帰らない場合、注意したのだから仕方ない、手の打ちようがない、となりがちですが、その結果、本人が病気になったり、長時間労働で労働基準監督署から指摘を受けたりすると、大変なことになります。

    早く帰るように注意したということは、会社も配慮したことにはなりますが、現実に早く帰らずそして病気になってしまった場合には、会社としては不本位かもしれませんが、従業員の健康に配慮が足りなかったとして責任が生じます。

    裁判例でも、「残業しないよう指導助言するだけではもはや十分ではなく、端的に、これ以上の残業を禁止する旨を明示した強い指導・助言を行うべきであり、それでも応じない場合、最終的には、業務命令として、出社してきた従業員の構内への入館を禁じ、あるいは一定の時間が経過した以降は帰宅すべき旨を命令するなどの方法を選択することも念頭に置いて、長時間労働を防止する必要があった」というのがあります。会社に責任があると言うのです。

    この裁判の従業員は、1か月当たりの時間外労働が100時間を超える6か月以上続いてうつ病を発症しました。

    会社(上司)は、作業の進捗状況を把握していて、上司が補助する、一部の業務を他のものに引き継がせる、人員を補充するなどの措置を講じていました。

    それでも、長時間の残業が減らなかったようです。

    この裁判では、従業員が、長時間労働をあえて自らの意思によってとり続けたこともあったことを認め、3分の1は過失相殺としましたが、全体的には会社の責任ということになりました。つまり、従業員の方に身勝手な行動があったとしても、結果的に長時間労働をさせてしまえば、会社としては安全配慮義務違反になるということです。

    よって、

    単なる助言だけでは効果がない場合、そこであきらめるのでなく、就業規則に基づく就業拒否、入館禁止命令が必要だということになります。

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    この規定に基づく命令は、総務部長など、人事権を有する者の名で、文書を発行するのがよいでしょう。

    単に仕事をさせないだけなく、本人の抱えている仕事を誰が肩代わりするかも決めなければなりません。通常は、命令と併せて、人事異動が必要になると思われます。

    これに従わないときは、就業規則の懲戒事由、例えば、「正当な理由なく、しばしば業務上の指示・命令に従わなかったとき」などを適用して、処分を考慮する段階になります。

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  • 会社から過労死を出さない対策(概要版)

    1.過労死とは

    過労死とは、業務における過重な負荷が原因で、脳心臓疾患精神障害を発症し、死亡に至ることです。日本の過労死等防止対策推進法では、過労死の範囲を「業務における過重な負荷による脳血管疾患もしくは心臓疾患を原因とする死亡、もしくは、業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡」と定義しています。

    過労死の主な原因は以下の2つに大別されます。

    • 脳・心臓疾患:長時間労働や不規則な勤務、出張などによる身体的疲労の蓄積が、高血圧や動脈硬化を悪化させ、脳卒中や心筋梗塞などを引き起こします。
    • 精神障害・自殺:パワハラやセクハラ、仕事の失敗、ハラスメントなどによる精神的ストレスが、うつ病などの精神障害を引き起こし、自殺に至ることがあります。

    2.過労が引き起こす健康リスク

    脳心臓疾患への影響

    過重な労働は、交感神経を優位な状態に保ち、心拍数や血圧を上昇させます。この状態が慢性的に続くと、血管に大きな負担がかかり、動脈硬化が進行しやすくなります。加えて、睡眠不足や不規則な食生活も相まって、高血圧、脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病のリスクを高めます。これらが複合的に作用することで、最終的に脳卒中や心筋梗塞といった、命に関わる重篤な疾患を引き起こすことになります。

    精神障害・自殺への影響

    過労は精神的なストレスも増大させます。長時間労働や業務上のプレッシャーは、脳内のセロトニンやドーパミンといった神経伝達物質のバランスを崩し、うつ病や適応障害などの精神障害を発症させるリスクを高めます。精神的な不調は、集中力の低下、食欲不振、不眠といった形で現れ、放置すると状況が悪化し、最悪の場合、正常な判断能力を失い自殺に至ってしまう危険性があります。

    3.会社がとるべき具体的な対策

    会社は、従業員の健康を守るために、以下の具体的な対策を講じる必要があります。

    • 労働時間管理の徹底: 残業時間の削減目標設定、勤怠管理システムの導入、ノー残業デーの実施など。
    • 産業医・保健師との連携強化: メンタルヘルス相談窓口の設置、定期的な健康診断やストレスチェックの実施、産業医面談の促進など。
    • 労働環境の改善: ハラスメント防止研修の実施、業務量の見直し、適正な人員配置、休暇取得の推奨など。
    • 従業員への教育と啓発: 健康に関する社内セミナーの開催、過労死防止に関するeラーニングの実施、セルフケアの重要性周知など。

    4.周囲ができること:管理監督者と従業員

    過労死を防ぐためには、会社全体の取り組みだけでなく、現場での日々の配慮が欠かせません。

    管理監督者(上司)の役割

    管理監督者には、部下の健康状態を把握し、早期に異変を察知する重要な役割があります。

    • 日頃からのコミュニケーション: 部下の表情、言動、業務状況の変化に注意を払う。
    • 業務量の適正化: 特定の部下に業務が集中しないよう、適切にタスクを分散させる。
    • 休暇取得の推奨: 積極的に声をかけ、部下が休暇を取りやすい雰囲気を作る。
    • 産業医面談への誘導: 疲労やストレスの兆候が見られる部下には、産業医への相談を促す。

    同僚ができること

    同僚同士の助け合いも、過労死防止に繋がります。

    • 声かけと傾聴: 「大丈夫?」と声をかけ、相手の話を丁寧に聞くことで、精神的な孤立を防ぐ。
    • 協力と分担: 業務が集中している同僚がいたら、できる範囲で手伝う。
    • 相談先の共有: 会社の相談窓口や産業医の連絡先など、困った時に頼れる場所を共有する。

    これらの対策を組織全体で実行し、従業員一人ひとりが心身ともに健康に働ける環境を築いていくことが、過労死防止には不可欠です。


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