カテゴリー: 労働時間

  • 長時間労働者への医師による面接指導とはどういうものか?

    医師による面接指導

    長時間労働者への医師による面接指導制度は、健康障害発症のリスクが高まった労働者の心身状況を把握し、問診その他の方法による面接指導を実施し、面接結果を踏まえた措置を行うものです。

    労働安全衛生法第66条の7~9、労働安全衛生規則第52条の2~第52条の8に定められています。

    対象者

    医師による面接指導は、1人でも該当する労働者がいる場合は、実施しなければなりません。

    ただし、1か月以内に面接指導を受けた労働者等で、面接指導を受ける必要がないと医師が認めた者を除きます。

    下記の時間に該当するか否かの算定は、毎月1回以上、基準日を定めて行います。

    労働者(裁量労働制、管理監督者含む)

    ① 義務:労働者の週40時間を超える労働が1月当たり80時間を超え、疲労の蓄積が認められる労働者(申出を受けたとき実施)
    ② 努力義務:事業主が自主的に定めた基準に該当する者

    研究開発業務従事者

    ① 義務:月100時間超の時間外・休日労働を行った者
    ② 義務:月80時間超の時間外・休日労働を行い、疲労蓄積があり面接を申し出た者
    ③ 努力義務:事業主が自主的に定めた基準に該当する者

    高度プロフェッショナル制度適用者

    ① 義務:1週間当たりの健康管理時間が40時間を超えた時間について月100時間超行った者
    ② 努力義務:①の対象者以外で面接を申し出た者

    健康管理時間:労働時間等設定改善委員会において労働者が事業場内にいた時間と事業場外において労働した時間との合計の時間

    実施者

    面接指導の実施者は医師となっていますが、産業医がいる場合は産業医に依頼します。

    産業医を選任する必要がない50人未満の事業所では、地域産業保健センターに依頼し、センターの医師が面接指導を実施することができます。

    面接指導の流れ

    労働者からの申し出

    面接指導の実施

    医師の意見

    事後措置の実施

    記録を作成

    労働者からの申し出

    労働者から申し出があることが前提です。事業者は労働者の労働時間を把握して、面接指導を受けるべき基準に達している労働者に対して、その旨の情報を通知しなければなりません。

    事業者は産業医に対しても同じ情報を提供します。産業医は要件に該当する労働者に対して申し出を行うように勧奨することができます。

    医師による面接指導の実施

    申し出からおおむね1か月以内に実施します。

    医師は、労働者の勤務の状況、疲労の蓄積の状況その他心身の状況(メンタルヘルス面も含みます。)について確認します。

    医師の意見を聴く

    面接指導からおおむね1か月以内に実施します。

    事業者は、面接指導を実施した労働者の健康を保持するために必要な措置について、医師の意見を聴かなければなりません。

    事後措置の実施

    事業者は、医師の意見を勘案して、必要があると認めるときは、当該労働者の実情を考慮して、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を講じます。

    事業者は、実施した措置の内容に関する情報を医師に提供し、医師は労働者の健康確保の必要がある場合は勧告します。勧告内容は衛生委員会に報告しなければなりません。

    記録を作成する

    面接指導の結果の記録を作成します。労働者の疲労の蓄積の状況その他の心身の状況、聴取した医師の意見等を記載します。書類の様式に特に定めがないので、医師の報告書をそのまま保存してかまいません。この書類は5年間保存義務があります。

    注意点

    周知する

    事業者は、面接指導等を実施するに当たっては、その実施方法及び実施体制の周知はもちろん、労働者が自分の労働時間数を確認できる仕組みの整備、申出を行う際の様式の作成、申出を行う窓口の設定などの措置を講じて、労働者が申出を行いやすくする観点に立ってその周知を徹底しなければなりません。

    衛生委員会が関与する

    面接指導について、衛生委員会又は安全衛生委員会は、調査審議を行い、事業者はその結果に基づいて必要な措置を講じなければなりません。

    衛生委員会

    就業規則に規定する

    長時間労働者に対する面接指導|就業規則

    面接指導に準ずる措置

    上記の基準に満たない場合でも、時間外・休日労働時間が月45時間超であれば、健康への配慮が必要な者が面接指導等の措置の対象となるよう基準を設定し、面接指導等(医師による面接指導又は面接指導に準ずる措置)を実施することが望まれます。

    必要と認める場合は、適切な事後措置を実施することが望まれます。

    面接指導に準ずる措置の例

    保健師による保健指導を実施する。

    疲労蓄積度チェックリストを用いて疲労の度合いを把握する。

    事業者が、健康管理について産業医等から助言指導を受ける。

    などがあります。

    オンラインによる実施

    長時間労働やストレスチェックに関連する医師の面接指導は、対面での面接が原則ですが、実施者が表情やしぐさなどを確認できるといった一定の条件を満たせば、テレビ電話など通信機器を用いた面接指導を行うこともできます。

    オンラインで行う場合の留意事項が厚生労働省から示されています。

    「情報通信機器を用いた労働安全衛生法第66条の8第1項及び第66条の10第3項の規定に基づく医師による面接指導の実施について(令和2年11月19日付け基発1119第2号)」において考え方と留意事項が示されています。(pdfファイル)

    以下は抜粋です。

    面接指導に用いる情報通信機器

    以下の全ての要件を満たすこと。

    ① 面接指導を行う医師と労働者とが相互に表情、顔色、声、しぐさ等を確認できるものであって、映像と音声の送受信が常時安定しかつ円滑であること。

    ② 情報セキュリティ(外部への情報漏洩の防止や外部からの不正アクセスの防止)が確保されること。

    ③ 労働者が面接指導を受ける際の情報通信機器の操作が、複雑、難解なものでなく、容易に利用できること。

    情報通信機器を用いた面接指導の実施方法等

    以下のいずれの要件も満たすこと。

    ① 情報通信機器を用いた面接指導の実施方法について、衛生委員会等で調査審議を行った上で、事前に労働者に周知していること。

    ② 情報通信機器を用いて実施する場合は、面接指導の内容が第三者に知られることがないような環境を整備するなど、労働者のプライバシーに配慮していること。

    高ストレス者の面接指導

    労働安全衛生法に定められた医師による面接指導は、ここに説明する長時間労働に関するものの他に、ストレスチェックの結果により高ストレス者と判断された労働者に対する面接指導があります。

    ストレスチェックのあらまし


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  • 長時間労働を是正するために会社が実施すべき対策

    長時間の過重労働は、従業員の健康を蝕み、ひいては企業の存続をも脅かす重大な問題です。労災認定や損害賠償といった法的なリスクだけでなく、生産性の低下、優秀な人材の流出、企業イメージの悪化など、経営に与える影響は甚大です。本稿では、長時間労働がなぜ危険なのか、そしてその根本的な原因を解明し、具体的な是正策について詳しく解説します。

    長時間労働がもたらす健康リスク

    長時間の過重労働が続くと、身体的・精神的な疲労が蓄積し、血管に大きな負荷がかかります。この状態が慢性化すると、高血圧や動脈硬化を進行させ、やがて脳卒中や心筋梗塞といった重篤な脳・心臓疾患を発症するリスクが高まります。最悪の場合、突然死に至ることもあり、これは過労死と呼ばれます。

    業務と健康障害の関連性は、厚生労働省の「脳・心臓疾患の労災認定基準」に基づいて判断されます。特に、発症前の時間外労働時間数が以下の基準を満たす場合、業務と発症の関連性が強いと判断される可能性が高まります。

    1. 発症前1か月間におおむね100時間を超える時間外労働
    2. 発症前2か月間から6か月間にわたって、1か月あたりおおむね80時間を超える時間外労働

    これらの基準は、あくまで労災認定のひとつの目安であり、個々の状況によって判断は異なります。しかし、この基準を超えた労働時間がある場合、労災認定される可能性が高まり、さらに企業の安全配慮義務違反が問われ、多額の損害賠償を請求されるリスクに直面します。

    なぜ長時間労働が常態化するのか?

    長時間労働を是正するためには、まずその原因を深く掘り下げ、分析することが不可欠です。原因は大きく分けて3つに分類できます。

    1. 外部要因:仕事量とスケジュールの問題

    • 仕事量が多すぎる: そもそも個々の従業員に割り当てられている業務量が、所定労働時間内に完了できる量を超えているケースです。
    • 納期に無理がある: 取引先からの厳しい納期要求や、非効率な業務プロセスにより、時間的な余裕がないケースです。

    2. 内部要因:従業員個人の問題

    • 残業手当への依存: 残業手当を生活費のあてにしているため、意図的に残業時間を引き延ばしているケースです。
    • 業務処理能力の不足: 仕事のやり方が非効率であったり、スキルが不足していたりするため、他の従業員よりも時間がかかってしまうケースです。

    3. 環境要因:組織や職場の問題

    • 周囲に合わせた行動: 職場全体に残業が常態化しており、「みんなが残業しているから帰りづらい」という暗黙のプレッシャーが存在するケースです。
    • 管理職のマネジメント不足: 上司が部下の業務状況を正確に把握できておらず、特定の従業員に業務が集中していることに気づかないケースです。

    長時間労働をなくすための具体的対策

    根本原因が明らかになれば、それぞれの問題に応じた対策を講じることが可能になります。

    外部要因への対策

    • 適正な業務量の見直しと再配分: 業務量を定量的に把握し、特定の従業員に業務が集中していないかを定期的にチェックしましょう。過重な負担がかかっている場合は、業務の分担を再検討し、チーム全体で協力する体制を構築することが重要です。
    • 無理のない受注体制の構築: 営業部門と生産部門が密に連携し、会社の生産能力を正確に共有しましょう。過剰な受注を避け、無理のない納期を設定することで、従業員が追い詰められる状況を回避できます。

    内部要因への対策

    • 賃金体系の見直し: 残業ありきの生活設計を脱却するため、基本給の引き上げや、効率的な働き方を評価する仕組みを導入するなど、賃金体系そのものを抜本的に見直すことが求められます。
    • スキルアップ支援と業務効率化: 業務処理能力に課題がある従業員には、個別に相談に乗る時間を設け、OJT(On-the-Job Training)や研修を通じてスキル向上を支援しましょう。また、RPA(Robotic Process Automation)などのITツールを導入し、定型業務を自動化することも有効な手段です。

    環境要因への対策

    • 「早く帰る」を評価する文化の醸成: 管理職が率先して定時退社を実践するなど、経営層から「時間内に成果を出すこと」を高く評価するメッセージを発信し続けましょう。これにより、「残業することが当たり前」という職場風土を打破し、生産性向上への意識を高めることができます。
    • コミュニケーションの活性化: 部署やチームの枠を超えた交流を促進し、業務上の課題を共有しやすい環境を作りましょう。これにより、孤立して業務を抱え込む従業員を減らし、チーム全体で助け合う体制を築くことができます。

    関連記事:特定の人が居残る場合の対策

    医師による面接指導制度の活用

    労働安全衛生法により、長時間労働者に対しては医師による面接指導の実施が義務付けられています。具体的な対象者は、週40時間を超える労働時間が1か月で80時間を超え、かつ疲労の蓄積が認められる者です。

    これは、従業員一人ひとりの健康状態を把握し、心身の不調を未然に防ぐための重要なセーフティネットです。管理者は、この制度を積極的に活用し、対象となる従業員に対して面接指導の機会を提供する責任があります。

    関連記事:長時間労働者への医師による面接指導制度

    長時間労働の是正は、一時的な取り組みで解決する問題ではありません。会社の経営課題として捉え、組織全体で継続的に取り組むことが、従業員の健康と企業の未来を守る唯一の方法です。


    関連記事:会社から過労死を出さない対策(概要版)

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  • 1週間単位の非定型的変形労働時間制

    1週間単位の非定型的変形労働時間制は、従業員が30人未満の旅館、料理店、飲食店、小売業の4つの業種において採用できる変形労働時間制です。

    1週間単位の非定型的変形労働時間制とは

    1週間単位の非定型的変形労働時間制は、変形労働時間制の一つで、次の週の1週間という短い単位で、忙しいと見込まれる日は1日の労働時間を長くし、そうではないと見込まれる日の労働時間は短くするように決めることができる制度です。

    ただし、労働時間の上限は、1日について10時間、1週については40時間以内なので、その範囲で調整しなければなりません。

    採用できる業種とその規模

    この制度の対象は、常時使用する従業員が30人未満の旅館、料理店、飲食店、小売業の4つの業種に限定されています。

    30人未満というのは事業場単位ですから、支店などがある場合は、全体の人数ではなく店舗単位の人数です。

    原則として前週の末までに通知する

    各人の勤務時間は、前週の末までに、翌週の各日の分を書面で通知しなければなりません。

    緊急でやむを得ない事由がある場合には、使用者は、あらかじめ通知した労働時間を変更しようとする日の前日までに、書面によって通知すれば、あらかじめ通知した労働時間を変更することができます。

    導入手続き

    この制度を実施するためには、制度の内容を就業規則に定め、労使協定を締結し、その就業規則と労使協定を店舗ごとに労働基準監督署長に届け出なければなりません。

    就業規則と労使協定には次の事項をさだめる必要があります。

    1.1週間の労働時間が40時間(特例措置対象事業場も同じ) 以下になるように定める。
    2.この時間を超えて労働させた場合には、割増賃金を支払う旨を定める。

    就業規則規定例

    1週間単位の非定型的変形労働時間制|就業規則

    労使協定の書式例

    厚生労働省ホームページに掲載されている労使協定の書式例です。

    上記の労使協定のほかに、時間外労働をさせるためには36協定が必要です。

    時間外労働の手続き

    次の場合は割増賃金を支払う

    次の労働時間に対しては割増賃金の支払いが必要です。

    1日については、所定労働時間が8時間以内とされている日は8時間を超える時間、事前通知により所定労働時間が8時間を超える時間とされている日は、その所定労働時間を超えた時間。

    1週については40時間を超える時間(1日についての計算で割増対象となった時間を除く)。

    労働時間が深夜に及んだときは深夜割増賃金、休日労働が生じた場合には休日割増賃金。

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  • 1年単位の変形労働時間制

    1年単位の変形労働時間制とは

    1年単位の変形労働時間制は、変形労働時間制の一つです。1ヶ月を超え1年以内の一定期間を平均して、1週間あたりの労働時間を40時間以下にすれば、1日及び1週間の法定労働時間を超えて労働させることができます。

    期間は「1ヶ月を超え1年以内の一定期間」です。つまり「1年単位」と表現していますが、必ずしも1年ではありません。3ヶ月、4ヶ月、6ヶ月などにすることもできます。この期間のことを「対象期間」といいます。

    1年単位の変形労働時間制導入効果

    1年を通してみると、忙しい時期、忙しくない時期がはっきりしている職場に向いている制度です。

    ただし、「1日及び1週間の法定労働時間を超えて労働させることができる」のですが、1日の労働時間に10時間というと上限があります。1日の労働時間が10時間を超えることがある事業場では、1年単位の変形労働時間制を導入できません。

    また、商業、映画・演劇業、保健衛生業、接客娯楽業で、従業員数が10人未満の事業所に適用されている1週間当たり44時間労働の特例が適用されている事業場が1年単位の変形労働時間制を利用すると、44時間労働の特例が使えなくなります。

    実施手続き

    1か月単位変形労働時間制などに比べ、若干要件がきびしくなっています。

    就業規則の定めと労使協定の締結が条件になります。就業規則は改定時に、労使協定は協定を締結(更新)の都度、所轄の労働基準監督署への届出が必要です。

    厚生労働省の「スタートアップ労働条件」のサイトから作成支援ツールを利用できます。

    労使協定と就業規則に定めるべき事項

    1.対象となる労働者の範囲

    2.対象期間(1か月を超え1年以内の期間)、およびその起算日

    3.対象期間における労働日および当該労働日ごとの労働時間(ただし、区分期間を設ける場合は、最初の区分期間の労働日と各労働日ごとの労働時間、及び残りの区分期間についての各期間の総労働日数と総労働時間。)

    4.特定期間(対象期間の中でも特に業務が繁忙な期間)

    5.有効期間(1年以内)

    就業規則への規定例:1年単位の変形労働時間制の規定例

    労働時間・労働日数等の制限

    1年単位の変形労働時間制では、対象期間の労働日数、1週間・1日の労働時間数、連続して労働させることのできる日数について、それぞれ限度が決められています。この限度を超えない範囲内で、対象期間における労働日及び当該労働日ごとの労働時間を定めなければなりません。

    ・対象期間が3か月を超える場合は、年間労働日数は280日が限度

    ・1週間当たりの労働時間は52時間が限度

    ・1日あたりの労働時間は10時間が限度

    ・連続して労働させることのできる期間は原則6日
    (対象期間中の特に業務が繁忙な期間=特定期間における連続労働日数は、労使協定で定めた場合は、1週間に1日の休日が確保できる日数。最長12日)

    1年単位の変形労働時間制を採用して、週40時間労働制に適合するためには、1日の所定労働時間に応じて年間休日を確保することが必要です。

    例えば、1日8時間の所定労働時間で1年単位の変形労働時間制を採用した場合、年間休日を105日以上としなければ週40時間労働制の枠内に収まらないことになります。

    時間外労働について

    1年単位の変形労働時間制を採用しても残業がなくなるわけではありません。次の労働時間に対しては割増賃金を支払う必要があります。時間外労働をさせるためには別途36協定が必要です。

    関連記事:時間外労働の手続き

    【1日について】
    所定労働時間が8時間を越える日は、所定労働時間を超えた時間
    それ以外の日は、8時間を越えた時間

    【1週間について】
    所定労働時間が40時間を越える週は、所定労働時間を超えた時間
    それ以外の週は、40時間を超えた時間
    (1日についての計算で時間外労働となる時間を除く)

    【変形期間の全期間について】
    変形期間における法定労働時間の総枠(1週間の法定労働時間×(変形期間の日数÷7))を超えた時間(1日及び1週間の計算で時間外労働となる時間を除く)

    中途採用者・中途退職者の扱い

    1年単位の変形労働時間制は、原則として対象期間の途中で入社または退社した従業員にも適用されます。

    だだし、途中入社や退職者、短期間勤務者のように、対象期間より短い期間しか勤務していない従業員に対しては、実際に労働させた期間を平均して週40時間を超えた労働時間について、その分の割増賃金の支払いが必要です。

    実労働期間における実労働時間−40×(実労働期間の暦日数÷7)

    対象者の制限

    年少者(18歳未満の者)については、一定の場合を除き、労基法により時間外労働、休日労働やいわゆる変形労働時間制により労働させることはできません。また、原則として午後10時から翌日5時までの深夜時間帯に労働させることもできません。

    妊産婦から請求があった場合は、時間外、休日及び深夜労働をさせることはできません。また、請求をし、又は請求により労働しなかったことを理由として解雇その他不利益な取扱いをしてはいけません。


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  • 1か月単位の変形労働時間制

    1か月単位の変形労働時間制とは

    1か月単位の変形労働時間制は、1か月以内の一定期間を平均して1週間当たりの労働時間が40時間を超えなければ、特定された日又は特定された週に1日8時間又は1週40時間を超えて労働させる変形労働時間制です。

    1か月単位の変形労働時間制を採用した場合には、月ごとに労働日や労働時間を事前に設定して労働者に通知しなければなりません。突発的な残業が多く見込まれる職場にはお勧めできない制度です。

    1か月単位の変形労働時間制の導入効果

    1か月単位の変形労働時間制のメリットの一つとして、業務の繁閑の差に合わせた時間配分ができることがあげられるます。

    忙しい日を長めの労働時間に設定し、そうでない日は短めの労働時間に設定することでメリハリのある働き方ができるようになります。結果として残業手当を減少させることになります。

    実施手続き

    以下の定めるべき事項を、労使協定又は就業規則(10人未満の事業場でも就業規則に準じる規程が必要になります)に定め、労働基準監督署に届け出る必要があります。

    就業規則により実施する場合は、労使協定はいりません。就業規則の変更を労働基準監督署に届出ます。

    労使協定により実施する場合は、更新の都度、労使協定を労働基準監督署へ届出します。ただし、就業上の義務を課すのは就業規則なので、就業規則にも記載しなければなりません。一般的には、就業規則による方法が使われています。

    就業規則または労使協定に定めるべき事項

    以下の事項を決めます。

    1.対象となる労働者の範囲
    どのような人が対象になるのか明記してください。

    2.対象となる期間と起算日
    期間は1ヶ月ちょうどでなくても、例えば2週間・4週間などが可能です。

    3.労働日と労働日ごとの労働時間
    1週間の労働時間が40時間(特例措置対象事業場は44時間)を超えないように対象期間の各労働日の始業・終業時刻、労働時間を決めるを予め決めなければなりません。

    関連記事:週44時間労働の特例:対象事業場と運用のポイント

    4.労使協定の有効期間
    労使協定自体の有効期間はその変形労働時間制の対象期間より長い期間を設定します。ただ、あまりにも長く設定するのではなく3年程度を限度にしてください。

    各月の上限労働時間

    1か月以内の一定期間を平均して、1週間当たりの労働時間が40時間を超えない範囲内で決める必要があります。

    変形期間の法定労働時間の上限は次の式により計算できます。

    40時間×変形期間の暦日数÷7

    変形期間を1か月とする場合は、月の法定労働時間の総枠は変動します。

    31日の月の法定労働時間の総枠は177.1時間
    30日の月の法定労働時間の総枠は171.4時間
    29日の月の法定労働時間の総枠は165.7時間
    28日の月の法定労働時間の総枠は160.0時間

    変形期間を4週間とする場合は、月の法定労働時間の総枠は160時間で固定します。←この方が事務的に楽です。

    会社は、この時間の範囲内で 、労働日数と労働時間を割り振り、勤務シフト表を作成します。

    上述のように、1か月が30日の場合の法定労働時間の総枠は、171.4時間なので、8時間労働の場合は、171.4÷8で、21.4日が限界です。

    30日の月で休みが8日であれば、労働日が22日になるので違反になってしまいます。この場合、特定の日の労働時間を少なくする、休日を増やすなどの調整が必要になります。

    なお、規模10人未満の商業、映画、演劇業、保健衛生業、接客娯楽業の事業場(特例対象事業場)については、法定労働時間が週44時間とされているため、上記計算式の「40時間」を「44時間」として計算します。

    時間外労働について

    1か月単位の変形労働時間制を導入した場合でも、時間外労働は発生します。時間外労働をさせるためには36協定が必要です。

    関連記事:時間外労働をさせる手続き

    妊産婦が請求した場合は、1か月単位変形労働時間制が適用されている場合でも、週40時間、1日8時間を超えて労働させてはいけません。

    【1日について】

    就業規則または労使協定などで1日8時間を越える時間を定めた日はその時間、それ以外の場合は8時間を超えて労働した時間が時間外労働になります。

    【1週間について】

    就業規則または労使協定などで1週間40時間を越える時間を定めた日はその時間、それ以外の場合は1週間40時間を超えて労働した時間(1日について時間外労働になる時間を除く)が時間外労働になります。ただし、1日について超えた時間とは重複させません。

    【変形期間の全期間について】

    変形期間の法定労働時間の総枠を越えて労働した時間(1日または1週間について時間外労働になる時間を除く)が時間外労働になります。ただし、1日及び1週間について超えた時間とは重複させません。


    関連記事:一か月単位の変形労働時間制の規定例

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  • 所定休日は会社が任意に定める「お休みの日」

    所定休日って何?

    働く皆さんにとって、お休みの日、つまり「休日」はとても大切ですよね。この「休日」にも、実は法律で定められた最低限のルールと、会社が独自に決めるルールがあります。

    今回は、会社が独自に定める「所定休日(しょていきゅうじつ)」について、その背景にある法律のルールも合わせて解説していきます。

    前提として「法定休日」を知っておこう

    「所定休日」を理解する上で、まず知っておくべきは「法定休日(ほうていきゅうじつ)」です。

    これは、労働基準法という法律で、会社が労働者に必ず与えなければならないと定められている「最低限の休日」のことです。

    原則として、1週間に1日以上

    または、4週間を通じて4日以上、と決まっています。

    どの会社も、原則として労働者にこの日数の休日を与えなければなりません。これが、労働基準法の基本的な休日に関するルールです。

    【ポイント!】 法定休日を特定の日(例:毎週日曜日)と定めている会社もあれば、特に特定していない会社もあります。就業規則で明確にするのが一般的です。

    会社が自由に決める「所定休日」

    さて、いよいよ「所定休日」です。 会社は、この「法定休日」に加えて、独自に「うちの会社では、この日もお休みにしますよ」と休日を決めることができます。

    例えば、多くの会社が、

    毎週土曜日と日曜日
    国民の祝日
    ・年末年始休暇
    ・夏季休暇

    などを「所定休日」として定めているでしょう。

    この会社が独自に定めた休日が「所定休日」なのです。

    【ポイント!】 所定休日は、例えば、「休日は土曜日、日曜日、国民の祝日、年末年始(12月29日~1月3日)とする」といった形で就業規則や労働条件通知書に明記されています。

    「所定休日」と「休日出勤」の関係

    この「所定休日」に働く場合が、「休日出勤」になるわけですが、ここでも休日の種類によって割増賃金のルールが変わる、ということを知っておく必要があります。

    法定休日の労働(法定休日出勤)

    会社が「法定休日」と定めている日に、労働者が出勤して働いた場合です。

    この場合、会社は通常の賃金に35%以上の割増し(1.35倍以上)をして賃金を支払う義務があります。

    所定休日の労働(法定外休日出勤)

    会社が「所定休日」と定めているけれど、「法定休日」ではない日に、労働者が出勤して働いた場合です。

    例:土曜日と日曜日が休日の会社で、日曜日が法定休日、土曜日が所定休日の場合。土曜日に出勤して働いた場合がこれにあたります。

    この場合、通常の賃金に加えて、割増しをする必要はありません(労働基準法上の休日労働の割増賃金は発生しない)。もちろん、本来休む日に働いたのですから、割増をしていない通常の追加賃金を支払う必要があります。

    さらに、所定労働をした結果、「週の法定労働時間(40時間)」を超過することになれば、その超えた時間については時間外労働として25%以上の割増賃金を支払う義務が発生します。

    例:平日40時間働いた人が、所定休日である土曜日に8時間働いた場合、その8時間分は週40時間を超えるため、時間外労働(1.25倍)の対象となります。

    このように、「所定休日」は、会社の運用上の休日を指し、その日に働いた場合に法定休日出勤になるか、それとも時間外労働の扱いになるかは、その日が「法定休日」に当たるかどうかで判断が異なります。

    なぜ「所定休日」が重要なのか?

    労働者の生活計画:労働者がプライベートの計画を立てる上で、いつが休みなのかを明確にするために不可欠です。

    労働時間管理の基準:会社の労働時間管理において、年間休日数や労働時間の計算の基礎となります。

    賃金計算の基準:休日出勤の際の割増賃金が適用されるかどうかの重要な判断基準となります。

    まとめ

    「所定休日」とは、法定休日という法律の最低限のルールに加えて、会社が就業規則などで独自に定めた「お休みの日」のことです。

    この所定休日がいつなのか、そしてその日に働いた場合にどのような賃金が支払われるのかは、会社の就業規則に具体的に記載されています。ご自身の会社のルールを確認することで、安心して働くことができますよ。


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