カテゴリー: 労働時間

  • 三六協定って何ですか?課長に聞いてみた

    山田: 佐藤課長、お時間よろしいでしょうか?実は、36協定について改めて調べてみたんですが、いくつか疑問が出てきてしまって…。

    佐藤課長: よく聞いてくれた。36協定は、社員を守るためにも会社を守るためにも、正確な理解が不可欠だ。今日はその疑問を解消していこう。

    36協定を理解しよう

    36協定はなぜ必要なのか?

    山田: 課長、そもそも36協定って、残業や休日出勤をさせるために絶対に必要なんですよね?

    佐藤課長: その通りだ。法律では、1日8時間、週40時間の法定労働時間を超えて働かせたり、週に1日の法定休日を与えなかったりすることは、原則として禁止されている。たとえ残業代を払ったとしても、この原則を破れば法律違反になってしまうんだ。

    山田: 実際の業務では、残業が必要なことも多いですよね。どうすればいいんでしょうか?

    佐藤課長: そこで、36協定が登場する。会社と従業員の代表が書面で協定を結び、それを労働基準監督署に届け出ることで、例外的に残業や休日労働ができるようになる。協定の名前は、根拠となる労働基準法第36条から来ているんだ。

    山田: 協定がないとどうなるんですか?

    佐藤課長: もし36協定を締結せずに残業をさせたら、たとえ残業代を払っていても法律違反だ。6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金という重い罰則が科せられる可能性がある。36協定は、会社の規模や従業員の人数にかかわらず、残業や休日労働をさせるなら絶対に必要だということを覚えておいてほしい。

    36協定に記載すべきこと

    山田: 36協定を結ぶときは、どんなことを決めればいいんですか?

    佐藤課長: 協定には、法律で定められた項目を必ず記載する必要がある。主な項目は以下の5つだ。

    1.対象となる労働者の範囲:どの部署や業務の人が残業や休日労働の対象になるか。

    2.対象期間:協定が有効な期間。通常は1年間とすることが望ましい。

    3.具体的な事由:残業や休日労働が必要となる理由。「業務が忙しいから」といった曖昧な理由ではなく、具体的に記載することが重要だ。

    4.延長できる時間や日数:残業の上限時間を決める。原則として1ヶ月45時間、1年360時間が限度となる。また、休日労働の日数も定める。

    5.健康・福祉確保のための措置:残業が長時間に及んだ場合に、従業員の健康を守るための措置(例:医師による面接指導)などを定める。

    山田: 結構細かく決めるんですね。

    佐藤課長: ここで大事なのは、「通常の業務量を超えた、臨時的な事由」を具体的に示すことだ。

    特別条項と罰則付きの上限規制

    山田: 課長、もし月45時間の限度を超えて残業が必要になった場合はどうすればいいんでしょうか?

    佐藤課長: その場合は、「特別条項」を設けた36協定を結ぶことで、例外的に上限時間を延長することができる。ただし、これも無制限にできるわけではない。働き方改革関連法によって、特別条項を適用した場合でも、必ず守らなければならない罰則付きの厳格な上限が定められているんだ。

    【罰則付きの上限規制】

    年間の時間外労働720時間以内(休日労働は含めない)

    単月の時間外労働と休日労働の合計:100時間未満

    複数月(2~6ヶ月)の時間外労働と休日労働の合計平均:80時間以内

    佐藤課長: そして、この特別条項を適用できるのは、年6回までという回数制限もある。ひとつでも超えたら法律違反となるから、厳格な労働時間管理が不可欠だ。

    36協定に代わる選択肢

    山田: 36協定って、締結と届け出の手続きが必要なんですよね。もっと効率的にできる方法はないんですか?

    佐藤課長: 実は、ある特定の条件を満たしている企業では、36協定の締結と届け出に代えて、労使委員会の決議をもって時間外労働をさせることも可能だ。

    山田: 労使委員会って何ですか?

    佐藤課長: 会社と労働者代表が、労働時間や働き方について話し合うために設置する組織のことだ。この委員会で話し合って決議した内容も、36協定と同じ効力を持つんだ。ただし、労使委員会の設置には厳密な要件があるから、どの会社でも使えるわけではない。多くの企業では、引き続き36協定を締結するのが一般的だ。

    協定の調印者と就業規則

    山田: 協定書には誰がサインをするんですか?社長と…従業員代表の方ですか?

    佐藤課長: その通り。会社側は社長などの代表権を持つ人が調印する。労働者側は、労働組合がある場合はその組合代表が、ない場合は労働者の過半数を代表する者が調印する。この代表者は、会社が一方的に指名するのではなく、民主的な方法で選出する必要がある。

    山田: 36協定を結んで届け出れば、残業を命じられるようになるんでしょうか?

    佐藤課長: それだけでは不十分だ。36協定は、残業をさせても「法律違反にならない」という免罰効果を持つものにすぎない。実際に従業員に残業を命じるためには、会社の就業規則に「業務上必要な場合は、時間外勤務を命じることがある」といった規定が記載されている必要がある。この規定と36協定の両方が揃って初めて、会社は従業員に業務命令として残業を指示できるようになるんだ。

    山田: なるほど!36協定と就業規則はセットなんですね。とてもよくわかりました。ありがとうございます!

    佐藤課長: いい勉強になったな。労働基準法は働く人の健康と権利を守る大切な法律だ。疑問はそのままにしておかないで、いつでもまた聞きに来てくれ。


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  • 法定労働時間って何?〜法律で決められた「これ以上働かせちゃダメ!」な時間です

    法定労働時間とは

    会社で働く皆さんにとって、「労働時間」は最も基本的なルールですが、この労働時間の上限のことを「法定労働時間(ほうていろうどうじかん)」といいます。

    これは、労働基準法という法律で定めています。会社は、原則としてこの時間を超えて労働者を働かせてはいけません。

    法定労働時間の具体的なルール

    労働基準法第32条で、以下のように定められています。

    原則:1日8時間、1週40時間

    休憩時間を除いて、1日に働かせられるのは最大8時間まで。

    1週間に働かせられるのは最大40時間まで。

    これが、日本における労働時間の基本中の基本ルールです。

    特例措置対象事業場(特定の業種・規模の事業場)

    一部の業種や、常時10人未満の労働者を使用する小規模な事業場については、特例として「週44時間」まで労働させることが認められています。

    これに該当するのは、商業(小売業、飲食業など)、映画・演劇業(映画の製作事業を除く)、保健衛生業(病院、診療所など)、接客娯楽業(旅館、ホテル、ゴルフ場など)です。

    ただし、この場合でも「1日8時間」の上限は変わりません。

    関連記事:週44時間労働の特例:対象事業場と運用のポイント

    なぜ「法定労働時間」があるの?

    「法定労働時間」は、労働者の健康と生活を守るために非常に重要な役割を果たしています。

    過労死や健康障害の防止:長時間労働は、心身の健康を害し、過労死や精神疾患のリスクを高めます。法定労働時間は、これを防ぐための最低限の歯止めです。

    生活と仕事のバランス(ワークライフバランス):労働者が仕事以外の時間も確保し、家族との時間、趣味、学習、休養などに充てられるようにすることで、人間らしい生活を送れるようにします。

    「法定労働時間」を超えたらどうなる?

    会社が、労働基準法で定められた「法定労働時間」を超えて労働者と働かせた場合、原則としてそれは「時間外労働(または法定外残業)」となります。

    そして、この「時間外労働」をさせるには、以下の2つの条件をクリアしなければなりません。

    36協定(サブロク協定)の締結と届け出

    労働者と使用者(会社)の間で、「時間外労働や休日労働をさせることがありますよ」という内容の協定を結び、これを労働基準監督署に届け出る必要があります。

    関連記事:労働時間延長の手続き

    36協定がなければ、法定労働時間を超えて働かせることはできません。厳密に言えば、災害等の労働基準監督署長の許可を得たときは法定労働時間を超えて働かせることができますが、それは極めて例外的な場合です。

    割増賃金の支払い

    法定労働時間を超えて働かせた時間については、通常の賃金に25%以上の割増し(1.25倍以上)をして支払う義務があります(深夜労働や休日労働などの場合には、さらに高い割増率が適用されます)。

    「法定労働時間」と「所定労働時間」の違い

    「所定労働時間」と混同しやすいので、ここでもう一度整理しておきましょう。

    法定労働時間法律で決められた「労働時間の上限」(原則1日8時間、1週40時間)。

    所定労働時間会社が就業規則などで独自に定めた「この時間働いてくださいね」という時間。

    関連記事:所定労働時間とは何か?法定労働時間との違いを中心に詳細解説

    まとめ

    「法定労働時間」は、法律で定められた最も基本的な労働時間の上限です。原則1日8時間、1週40時間を超える労働は「時間外労働」となり、36協定の締結と割増賃金の支払いが必要となります。

    この法定労働時間を正しく理解し、会社がこれを遵守することは、健全な労使関係を築き、労働災害を防止する上で極めて重要です。

    法定労働時間を超えるときの手続き

    法定労働時間を超えて働かせるには、法律に定められた手続きをとらなければなりません。

    また、超えた時間については、割増賃金を払わなければなりません。数分、数十分の残業代を、わずかのことだから誰も文句を言ってこない。だから、これくらいいいだろう。というやり方はよろしくありません。たとえ1日1分でも、年間にすれば数時間になり、数千円のお金をごまかしていることになるからです。


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  • 労働時間に含まれる時間と含まれない時間

    労働時間とは

    「労働時間は労働時間。字のとおり、働いている時間に決まっている」

    まあ、そうなんですが、そんなに簡単ではありません。

    次のような判例があります。

    平12.3.9 〇〇重工事件 最高裁
    労働時間に該当するかどうかは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではない。

    つまり、労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間のことです。

    例で説明します。

    勤務時間が午前9時からの会社があるとします。

    この会社では、従業員は何時に出社するでしょうか?

    午前9時ちょうどに入る人はあまりいないと思います。10分前、20分前というのが普通でしょう。遅刻にならないようにゆとりをもって出勤するからです。

    そして、10分前に職場の自分の持ち場、例えばデスクに到着すれば、何をするでしょうか?

    普通は、引き出しを開けて書類を取り出したり、パソコンのスイッチを入れたりすると思います。

    そういう動作は仕事そのものですから、厳密に言えばその時点で労働を開始したことになります。

    この場合、従業員は会社に対して、多く働いた10分の賃金を請求できるのでしょうか?

    できるのです。

    10分といえども、年間200日働くとすると、2000分、時間にすると33時間強です。もし、その人が時給1000円であれば、33000円、時間外労働ですから2.5割増をつけると41250円です。くれるなら欲しいですよね。

    この例は始業時間前に仕事をしていた場合です。単に会社にいるだけで仕事をしていないのであれば労働時間にカウントすることはできません。

    10分前に出社して自分のデスクについたとしても、隣の同僚と雑談したり、コーヒーを飲んでスマホをいじっているのであれば労働時間ではありません。

    しかし、定時の前に出社した人が、すぐに仕事を始めたか、仕事をしなかったか、会社は把握していますか?

    あるとき、「私は毎日1時間早く出社し仕事をしていた。さかのぼって払ってもらいたい。」と主張してきたらどうなるでしょうか?

    これは労働時間になるの?

    時間管理について、一度しっかり考えてみる必要があります。

    試験会場のように、チャイムがなるまで机に手をふれるな、終了のチャイムがなったら机から手を離せ、というやり方ができれば良いのですが・・・・、現実の仕事はそういうものではありませんから・・・・。

    では、どのような場合であれば労働時間にカウントしなければならないか、どのような場合であれば労働時間にカウントする必要がないか、ケース別に検討してみましょう。

    黙示の指示がないか

    はっきり指示したわけではないけれど、態度や雰囲気でやらせるような場合です。基本的には労働時間です。

    関連記事:黙示の指示があれば労働時間になる

    手待ち時間は労働時間か

    勤務時間中ではあるけれど、特に仕事がなくて待機していたような時間です。基本的には労働時間です。

    関連記事:手待ち時間も労働時間です

    着替えしている時間も労働時間か

    労働時間に含まれる場合と含まれない場合があります。

    関連記事:着替えしている時間は労働時間に含まれるか

    自宅待機させている時間も労働時間か

    連絡があれば仕事をしなければならない状態にいることです。

    関連記事:自宅待機は労働時間に入るか

    持ち帰り残業も時間外労働か

    仕事を家に持ち帰って家で仕事をすることです。

    関連記事:持ち帰り残業は労働時間か

    忘年会へ出席させれば時間外労働か

    会社や取引先との親睦のための忘年会やゴルフは労働時間になるのでしょうか。

    関連記事:忘年会に出ている時間は労働時間か

    仕事に必要な研修も時間外労働か

    研修に参加している時間は労働時間になるのでしょうか。

    関連記事:研修時間は労働時間か

    仮眠をとっている時間は労働時間か

    夜間の勤務で仮眠をとれるとして、仮眠している時間に給料はでるでしょうか。

    関連記事:仮眠時間は労働時間として扱うのか

    移動している時間は労働時間か

    客先への移動時間は労働時間になるのでしょうか。

    関連記事:移動時間は労働時間か

    労働時間に該当するものまとめ

    □ 所定の時間に出社したが特に仕事を与えられなかった時間
    □ 休憩時間中の来客当番や電話番
    □ 当番制ではないが、休憩中に来客や着信があった場合は対応しなければならない場合(休憩時間全部が労働時間になります)
    □ 上司からの指示による残業
    □ 上司からの明確な指示はなかったが、時間外に働かなければこなせないので行った残業
    □ 仕事を自宅に持ち帰って仕事した時間
    □ 会社からの指示により参加した研修(強制ではなく、自由参加のものであれば、労働時間には該当しない可能性が高い)
    □ 作業服などに着替える時間(指定の作業服がない会社では、労働時間には該当しない可能性が高い)
    □ 仮眠時間(休憩中の来客や着信への対応と同じです)

    労働時間に該当しないものまとめ

    □ 通勤時間
    □ 出張先への移動時間(物品の運搬自体を目的とする業務の移動時間は労働時間に該当する)
    □ 緊急時の呼び出される可能性がある時間(労働時間ではありませんが、そのような負荷に対する対価が必要です)
    □ 会社の忘年会などに出ている時間(参加強制があれば労働時間です)
    □ 接待ゴルフなどの時間(参加強制があれば労働時間です)


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