申請期限を定めることに問題はありません
就業規則に「年次有給休暇を取得するには◯日前までに申し出なければならない」という規定を設けることは、禁止されているわけではありません。
ただし、年次有給休暇は労働者の時季指定権(労働者が希望する時季に休暇を取得できる権利)に基づいており、会社が定める申請期限には合理性が求められます。
重要なポイントは以下の通りです。
- 就業規則の役割:法律上、「何日前まで」という期限の定めはありません。したがって、会社は、年次有給休暇の円滑な取得と事業の正常な運営のために、就業規則に申請期限を定めることができます。
- 期限の合理性: 定められた期限は、会社が時季変更権(事業の正常な運営を妨げる場合に、取得時季を変更させる権利)を行使するかどうかを判断するために必要な、合理的な期間である必要があります。
- 長すぎる期間を設定すると、労働者の時季指定権を不当に制限するものとして無効と判断される可能性があります。
- 判例などでは、業務の内容や代替要員の確保の難しさなど、事業場の特性を考慮して判断されますが、一般的には「前日まで」が多く、「2日前」「1週間前」もあるようです。
- 時季変更権の行使: 労働者から申請があった場合、会社は原則としてその時季に有給休暇を与えなければなりませんが、「事業の正常な運営を妨げる場合」に限り、他の時季への変更を求めることができます。
- 期限超過の場合: たとえ就業規則の申請期限を過ぎて申請があったとしても、会社側が時季変更権を行使する時間的余裕がある場合には、その申請を一律に無効として欠勤扱いとすることはできません。時季変更権を行使するかどうかを速やかに判断し、通知する必要があります。
したがって、就業規則に申請期限を設けることは可能ですが、その期間は時季変更権を行使するための準備期間として合理的である必要があり、労働者の有給取得の権利を不当に制限するものであってはならない、という点に注意が必要です。
申請期限後の申請にどう対応するか
就業規則で定められた申し出期限を過ぎてからの年次有給休暇(有給)の取得申し出を理由に、一律に取得を認めない(拒否する)ことは、問題になる可能性が高いです。
年次有給休暇は労働基準法で定められた労働者の権利であり、労働者が指定した時季に与えることが原則です(時季指定権)。
会社がすべき対応は「拒否」ではなく、「時季変更権の行使を検討すること」です。
申請期限超過だけを理由とした「拒否」は違法となる可能性が高い
- 労働基準法違反の可能性: 有給休暇の取得要件は「所定の勤続期間」を満たしていることだけであり、申請期限の遵守は取得の要件ではありません。期限を過ぎたという理由だけで「取得させない」「欠勤扱いにする」とすることは、労働者の時季指定権を不当に制限するものとして、労働基準法第39条違反となる可能性があります(6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性あり)。
- 時季変更権の行使が原則: 会社がすべきことは、その申請された時季に休暇を与えることで「事業の正常な運営を妨げるか」どうかを検討し、妨げると判断した場合にのみ時季変更権を行使して、別の日に取得するよう求めることです。
適切な対応
申請期限を過ぎた有給申請に対する適切な対応 |
1. 「期限切れ」を理由に一律拒否しない。 |
2. 申請された時季に休暇を取得されると「事業の正常な運営を妨げる」か迅速に判断する。 |
3. 妨げると判断した場合のみ、その理由を明示して「時季変更権」を行使し、別の時季での取得を提案する。 |
4. やむを得ない事由(急病など)による当日・事後申請については、会社の裁量で認めるかどうかのルールを就業規則に定めておくことが望ましい。 |