シンプルな評価制度でスタートするーその2

Last Updated on 2025年9月15日 by

一つ目のご提案は、目標管理制度(MBO)とコンピテンシー評価を組み合わせたものでした。これは多くの企業で採用されているスタンダードな手法です。

もう一つ、人事考課を初めて導入する会社におすすめしたいのが、360度評価絶対評価を組み合わせた制度です。この制度は、多角的な視点から社員を評価し、公平性を高めたい場合に特に有効です。

シンプルな評価制度の設計案:360度評価と絶対評価

360度評価

何を評価するか: 「周囲への貢献度」や「チームワーク」を評価します。

運用のポイント:

  • 評価者は上司だけでなく、同僚や部下も含まれます。これにより、特定の関係に偏らない、公平な評価が実現できます。
  • 評価項目は、「協調性」「サポート力」「コミュニケーション」など、チームで働く上で重要な行動に絞ります。
  • 評価の尺度は、「非常に当てはまる」「当てはまる」「あまり当てはまらない」といったシンプルな3段階程度にすると、回答者の負担が減ります。
  • いきなり全員に導入するのではなく、まずは一部のチームで試行的に始めると良いでしょう。

絶対評価

何を評価するか: 「個人の成果や能力」を、他者との比較ではなく、あらかじめ定めた基準で評価します。

運用のポイント:

  • 「期待されている役割をどの程度果たしたか」に焦点を当てます。
  • 職務や役割ごとに、期待される行動や成果のレベルを具体的に設定します。
  • 例えば、「若手社員」「中堅社員」「リーダー」といった職位別に評価基準を設けることで、評価がしやすくなります。
  • 評価は、上司が個人の能力や成果を客観的な基準に照らして判断します。

導入と運用のためのアドバイス

  1. 目的の明確化と安心感の提供
    • 360度評価は、導入時に従業員の不安や反発を招くことがあります。「お互いの成長を助け合うためのフィードバック」が目的であり、懲罰的なものではないことを丁寧に説明しましょう。
    • 匿名性を確保するなど、従業員が安心して本音で回答できる環境を整えることが非常に重要です。
  2. フィードバック面談の徹底
    • 360度評価の結果は、給与や賞与に直接反映させるよりも、本人の「気づき」を促すためのフィードバックに使うのが効果的です。
    • 「あなたは周りの人からこのように見られています」という客観的な視点を提供し、本人の成長を支援する機会として活用しましょう。
    • 絶対評価の結果と併せて、強みや課題を共有することで、より深く、納得感のある面談が実現できます。
  3. 完璧を目指さない姿勢
    • 360度評価は、全員が同じ評価項目で評価されるため、職種によっては評価項目が合わないと感じる社員が出てくるかもしれません。
    • 大切なのは、完璧な制度を最初から作ろうとしないことです。まずはシンプルに始め、運用しながら「この項目は私たちの会社に合っているか」「もっと良い評価方法は何か」を現場の声を聞きながら改善していく姿勢が重要です。

この制度は、会社の文化やチームワークを重視する場合に特に有効です。ご自身の会社の風土に合うかどうか、ぜひ検討してみてください。

人事評価シートのサンプル


人事評価シート(サンプル)

氏名: [氏名]

部署: [部署名]

評価期間: [YYYY年MM月~YYYY年MM月]

評価者: [評価者氏名]

評価日: [YYYY年MM月DD日]

1. 行動評価(360度評価)

この項目は、同僚や上司、部下など複数名による多角的な視点から、「チームへの貢献」や「周囲との関わり方」を評価します。

行動項目評価尺度
協調性
(周囲と協力し、円滑な人間関係を築けるか)
1. あまり当てはまらない
2. 当てはまる
3. 非常に当てはまる
サポート力
(チームメンバーの業務を積極的に支援できるか)
1. あまり当てはまらない
2. 当てはまる
3. 非常に当てはまる
コミュニケーション
(自分の意見を明確に伝え、相手の意見も尊重できるか)
1. あまり当てはまらない
2. 当てはまる
3. 非常に当てはまる

<評価者コメント>

[具体的な行動例や、良かった点・改善点など、自由にコメントを記入してください。]

2. 能力・成果評価(絶対評価)

この項目は、上司が個人の職務や役割に基づき、「期待される役割をどの程度果たしたか」を客観的な基準で評価します。

(例:若手社員の評価基準)

評価項目評価基準上司評価
業務遂行能力3: 指示された業務を、自ら工夫して期待以上の成果を出した
2: 指示された業務を、問題なく期限内に完了した
1: 指示された業務を完了できず、サポートが必要な場面が多かった
[評価:2]
主体性3: 自身の役割外の課題にも積極的に取り組み、改善策を提案した
2: 自身の役割を十分に理解し、指示された業務に主体的に取り組んだ
1: 指示を待つことが多く、自ら考えて行動する姿勢が見られなかった
[評価:2]
責任感3: 困難な状況でも最後まで諦めず、責任を持って業務を完遂した
2: 自分の役割を理解し、最後まで責任を持って業務に取り組んだ
1: 業務の途中で責任を放棄したり、他者に任せきりにすることがあった
[評価:2]

(※この評価基準は、職位や職務内容に合わせて個別に設定してください)

3. 総評・フィードバック

自己評価コメント:

[評価期間を振り返っての所感、今後の目標や改善点などを自由に記入してください。]

上司コメント:

[被評価者の良かった点、さらなる成長のためのアドバイス、次期に期待することなどを記入してください。]

署名欄

被評価者: [氏名]

上司: [氏名]

※上記サンプルはあくまで一例です。御社の事業内容や従業員に求める行動に合わせて、項目や評価尺度を調整してください。

昇給や賞与に反映する

360度評価と絶対評価を組み合わせた評価制度では、昇給と賞与の決定にそれぞれの評価を異なる目的で反映させるのが一般的で、シンプルで公平な運用方法となります。

詳細については、シンプルな評価制度でスタートする−その1の「昇給や賞与に反映する」を参照してください。

昇給と賞与への反映方法

昇給への反映:絶対評価が主、360度評価は参考

  • 絶対評価の結果を昇給額の決定に直接反映させます。昇給は「その人の将来的な能力や期待」に対する報酬という側面が強いため、職務の遂行能力や個人の成果を客観的な基準で評価する絶対評価が適しています。
  • 360度評価は昇給額の決定には直接反映させず、評価面談でのフィードバックに活用します。これにより、従業員は周囲からの見られ方や改善点に気づき、今後の成長に繋げることができます。

賞与への反映:絶対評価が主

  • 絶対評価の結果を賞与額の決定に直接反映させます。賞与は「過去の一定期間における成果」に対する報酬であるため、職務目標の達成度や会社への貢献度を評価する絶対評価が適しています。
  • 360度評価は、賞与の決定には原則として使用しません。

シンプルな運用のためのアドバイス

  • 評価の目的を明確にする: 360度評価は「成長のためのフィードバック」、絶対評価は「公平な処遇決定」と、それぞれの役割を従業員に明確に伝えます。これにより、制度への理解と納得感が高まります。
  • 計算方法をシンプルに: 絶対評価の結果をS、A、B、Cといったランクに分け、それぞれのランクに対して昇給額や賞与の支給率をあらかじめ定めておくと、誰にとっても分かりやすくなります。
  • 面談を重視する: 評価結果をただ伝えるだけでなく、なぜその評価になったのかを具体的に説明し、今後の成長に向けて建設的な対話を行うことが、制度を形骸化させないために最も重要です。

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