正社員はフルタイム勤務が一般的ですが、「短時間正社員」という働き方が存在します。これは、厚生労働省が導入を推進している多様な働き方の一つで、「短時間正社員制度」として企業で導入されています。
短時間正社員とは
フルタイムの正社員と比較して、1週間の所定労働時間が短い正規型の社員のことを指します。
主な特徴は以下の通りです。
- 雇用契約: 期間の定めのない無期労働契約である(フルタイム正社員と同じ)。
- 労働時間: フルタイム正社員より所定労働時間(または所定労働日数)が短い。
- 待遇: 時間当たりの基本給や、賞与・退職金などの算定方法がフルタイム正社員と同等である。
つまり、フルタイムではないけれど、雇用期間の定めがなく、給与や賞与・退職金の計算方法などで正社員と同等の待遇を受ける、安定した雇用形態です。
導入の背景と利用目的
この制度は、主に以下のような事情でフルタイム勤務が難しいけれど、キャリアを継続したいと考える人材を支援するために導入されています。
- 育児・介護との両立: 育児や介護のために働く時間に制約がある。
- 病気・障害: 体調に不安があり、フルタイムで働くことが難しい。
- 学業との両立: 専門的な知識を学ぶために時間を確保したい。
- その他: 企業によっては、理由を限定せず、社員の多様なライフスタイルに合わせて利用を認めている場合もあります。
この制度により、企業側は意欲や能力のある優秀な人材の確保・定着につなげることができます。
通常の正社員への切り替え等
通常の正社員と短時間正社員との間で雇用形態を変更する場合、それぞれ異なる注意点があります。最も重要なのは、「労働契約の変更には原則として双方の合意が必要」であることと、「待遇や評価の公平性を確保すること」です。
通常の正社員から短時間正社員への変更(短縮)
主に、育児・介護、病気の療養などの理由で、社員から勤務時間短縮の希望があった場合です。
転換する社員側の注意点
注意点 | 詳細 |
収入の減少 | 労働時間が減るため、原則として基本給や残業代が労働時間に比例して減額されます。賞与や退職金の算定にも影響が出るか、事前に確認が必要です。 |
キャリアへの影響 | 責任のある業務から外れたり、昇進・昇格が遅れたりする可能性があります。短時間での目標設定や評価基準について、上司と明確に話し合う必要があります。 |
業務の線引き | 短時間勤務であるにもかかわらず、残業を課されるなど、勤務時間に関する曖昧な運用がされないよう、事前に業務範囲と残業の有無について確認・合意することが重要です。 |
不利益取り扱いの確認 | 制度の利用を理由として、不当な降格や配置転換などの不利益な取り扱いがないか、会社の規定や法令を確認する必要があります。 |
企業側の注意点
注意点 | 詳細 |
労働契約の合意 | 勤務時間、給与、業務内容などの変更について、社員本人の同意を明確に取り付け、辞令や覚書を作成して記録を残す必要があります。 |
職場の公平性(不公平感の解消) | 業務がフルタイム社員に偏り、「自分たちの負担が増える」という不満が生じないよう、業務の棚卸しや再配分、人員配置の見直しなどで対応し、全社員に制度の趣旨を説明し理解を得ることが重要です。 |
人事評価制度の見直し | 労働時間が短くなったことを前提に、短時間で達成可能な目標設定と、成果に基づく公平な評価基準を確立する必要があります。フルタイムと同じ目標設定のままでは、社員の意欲低下につながります。 |
残業規制の明確化 | 原則として、短縮された労働時間以上の残業は避けるべきです。やむを得ない場合の残業の取り扱いについても、事前にルールを明確にしておく必要があります。 |
短時間正社員から通常の正社員への転換(フルタイム復帰)
主に、育児・介護の理由が解消したり、本人の意欲が高まったりした際に、フルタイム勤務に戻る場合です。
転換する社員側の注意点
注意点 | 詳細 |
生活リズムの変化 | 労働時間が長くなることで、家庭生活やプライベートの時間の配分が大きく変わります。体力面・生活面の準備が必要です。 |
業務・責任の増加 | 労働時間の増加に伴い、業務量や責任の範囲が拡大します。管理職への昇進を含むキャリアパスの再構築について、会社としっかり話し合いましょう。 |
労働条件の再確認 | 転換後の始業・終業時刻、休憩時間、給与体系(基本給、手当、想定される残業時間)など、すべての労働条件が元のフルタイム正社員の条件に戻るか、書面で確認することが重要です。 |
ブランクの克服 | 短時間勤務中に担当できなかった業務や、その間に進んだキャリアから取り残されたと感じる場合は、研修やOJTなどのフォローアップを会社に求めることも検討できます。 |
企業側の注意点
注意点 | 詳細 |
公平な転換基準 | 転換を希望する全短時間正社員に対し、公平で透明性のある選考過程を設けることが望ましいです。転換基準(例:転換希望、業務上必要な残業対応が可能、上司の推薦など)を明確にしましょう。 |
転換後の待遇の明示 | 転換後の労働条件(給与、勤務時間など)を、労働条件通知書等で明確に明示し、社員が納得した上で転換手続きを行う必要があります。 |
キャリアフォロー | 短時間勤務期間の評価が、フルタイムへの転換後の昇進・昇格に不当に影響しないよう、適切なキャリア形成の機会(研修、責任ある業務への配置など)を提供し、モチベーションを維持することが重要です。 |
非転換者への配慮 | 転換を希望しながらも基準に至らなかった短時間正社員に対しては、その理由をフィードバックし、今後の成長機会や再挑戦の可能性について丁寧に説明し、意欲を損なわないよう配慮することが大切です。 |
短時間正社員の管理職登用は可能か
「短時間正社員」を昇格させて管理職に任じることは、決して不可能ではありませんが、いくつかの課題があるため、一般的なフルタイム正社員の管理職昇格と比べると難しい面があるのが現状です。
難しいとされる主な理由
従来、短時間正社員(特に育児等による時短勤務者)を管理職にするのは難しいとされてきた主な理由は、管理職の役割にあります。
- 時間的な拘束の問題:
- 管理職は、突発的な問題対応や会議への出席、部下とのコミュニケーションなど、時間的な拘束が多くなりがちです。
- 労働時間の短い短時間正社員の場合、特に夕方以降や緊急時の対応が難しくなることが懸念されます。
- 評価・処遇の複雑化:
- 管理職の給与は、労働時間ではなく役割や成果に基づいて支払われるため、時短勤務による給与減額の扱いが複雑になります。
- 労働時間が短くても成果を出している場合、その評価基準や他のフルタイム管理職との公平性をどう保つかという課題があります。
- 業務の調整と公平性の問題:
- 管理職の業務を労働時間に合わせ「切り分ける」ことが必要になり、その分、他のフルタイムの社員や管理職に業務のしわ寄せがいく可能性があります。これにより、職場内での不公平感が生じるリスクがあります。
導入・成功事例の広がり
一方で、近年は「時短管理職」として短時間正社員を積極的に登用する企業事例も増えてきています。
これは、労働人口の減少やダイバーシティ推進の観点から、優秀な人材のキャリアを途切れさせないための取り組みとして重要視されているためです。
成功のために必要な要素としては、以下のようなものが挙げられます。
- 「役割」の再設計:
- 管理職の業務を「労働時間」ではなく「成果」で評価できるように、職務と責任範囲を明確に切り分ける(ジョブ型雇用的な考え方)。
- 短時間管理職が担当しない業務を、他の社員(シニア人材や部下)に権限委譲し、組織全体でカバーする体制を構築する。
- 明確なコミュニケーション:
- 本人と会社の間で、期待される役割、勤務時間、給与などの条件を明確に合意する。
- 他の社員(部下や同僚)に対して、短時間管理職の働き方と役割について、透明性のある説明を行う。
つまり、企業が制度や運用を工夫することで、短時間正社員でも管理職として活躍できる道は開かれています。短時間正社員だからといって、必ずしも昇進が閉ざされるわけではありません。