学校との契約
インターンシップを受け入れるにあたっては、学生が在籍する学校と「インターンシップ契約書」や「覚書」といった契約(取り決め)を締結することが一般的です。
これは、企業と学校がインターンシップの目的、期間、実習内容、事故発生時の対応、保険の取り扱い、秘密保持など、相互の役割と責任を明確にするためです。
契約のポイント
- 契約主体: 受け入れ企業と学生を派遣する学校(大学など)が締結します。学生個人からは、別途誓約書を提出してもらうことが多いです。
- 契約の目的: 教育活動の一環としてのインターンシップの円滑な実施と、万が一のトラブルを未然に防ぐことにあります。
- 主な記載事項(例):
- インターンシップの目的と実習期間
- 実習場所と実習内容(プログラム)
- 報酬や手当(交通費、日当など)の有無
- 災害・事故発生時の対応と保険(インターンシップ保険)の加入状況
- 秘密保持義務
- 成果物の取り扱い(知的財産権など)
補足:
学校側が契約書の雛形(ひながた)を用意しているケースも多いため、まずは学校に確認してみることをおすすめします。契約形態や内容は、インターンシップの期間や内容(有給・無給、労働者性が認められるかなど)によって異なる場合があります。
学生との契約
インターンシップに来る学生との契約書(またはそれに類する書面)は、トラブル防止と法的リスク管理の観点から、強く作成が推奨されます。締結するべき契約書の形態は、インターンシップの「実態(労働者性)」によって異なります。
1. 労働者性が認められない場合(教育・体験型)
短期間の職場見学や体験、教育に主眼を置いたインターンシップで、企業の指揮命令下での労働(会社の利益に直結する作業)が少ない場合です。この場合、学生は労働者には該当しません。
- 推奨される書面:
- 秘密保持誓約書(学生個人と企業)
- インターンシップ誓約書(学生個人と企業)
- 守秘義務、企業の規則遵守、事故時の対応などを学生に約束させるものです。
- インターンシップ同意書・確認書(学生個人と企業)
- 実習期間、実習場所、無報酬であること、保険の加入状況などを学生と相互に確認する書面です。
2. 労働者性が認められる場合(労務型)
企業の指揮命令下で業務に従事し、その労働が企業の利益に直接つながる(賃金が支払われる)ような場合、インターン生であっても労働者と見なされます。
- 必要となる契約:
- 雇用契約書(または労働条件通知書)
- この場合、学生はアルバイトなどの非正規社員として扱われます。
- 労働基準法が適用されるため、労働時間、賃金(最低賃金以上)、休憩・休日、安全衛生などについて明確に定める必要があります。
- 雇用契約書(または労働条件通知書)
なぜ書面が必要なのか
契約書や誓約書を作成することで、以下のようなリスクを回避できます。
- 秘密保持の徹底: 学生が企業の機密情報(顧客情報、技術情報など)を外部に漏洩することを防ぐため。
- 事故・トラブル時の責任: 実習中の事故や、学生が会社や第三者に損害を与えた場合の対応(保険や損害賠償)を明確にするため。
- 認識の齟齬の防止: 実習期間、時間、無報酬または報酬の有無、実習内容などについて、企業と学生の間で認識のずれが生じるのを防ぐため。
結論として、学生が労働者にあたるかどうかに関わらず、何らかの書面(誓約書、同意書、または雇用契約書)を取り交わすことが、双方の保護と円滑なインターンシップ実施のために極めて重要です。
労働者性がない場合のサンプル
労働者性が認められない(教育・体験型)インターンシップの場合、「誓約書」または「同意書・確認書」が主な書面となります。
「秘密保持契約書」「インターンシップ契約書」「インターンシップ同意書・確認書」という名称は混在することがあります。ここでは、3つのサンプルの骨子を示します。
秘密保持誓約書(学生から企業へ提出)
これは、学生が知り得た企業情報を外部に漏らさないことを誓約するための書面です。
項目 | 記載内容の例 |
表題 | 秘密保持誓約書 |
宛名 | ○○○○株式会社 御中 |
誓約事項 | 1. 秘密情報の定義: 実習期間中に知り得た技術、製品、ノウハウ、顧客情報、その他業務に関する一切の情報が秘密情報であることを確認する。 |
2. 秘密保持義務: 秘密情報をインターンシップの目的以外に使用せず、企業から許可された場合を除き、実習期間中および実習終了後も第三者に開示または漏洩しないこと。 | |
3. 情報管理: 秘密情報を含む文書、電子データ、物品等を、企業の指示に従い適切に管理し、終了時にすべて返却または廃棄すること。 | |
4. 違反時の責任: 故意または過失により本誓約に違反し、企業に損害を与えた場合は、その損害を賠償する責任を負うこと。 | |
日付・署名 | 提出日、所属大学・学部・学年、氏名(自筆署名)㊞ |
インターンシップ誓約書(学生から企業へ提出)
これは、主に実習中の行動規範や、安全、規則遵守について誓約させるための書面です。秘密保持と統合することもありますが、分けることで遵守事項を強調できます。
項目 | 記載内容の例 |
表題 | インターンシップ誓約書 |
宛名 | ○○○○株式会社 御中 |
誓約事項 | 1. 実習への姿勢: 実習期間中は、企業の指導担当者の指示に従い、誠実に実習に励むこと。 |
2. 規則の遵守: 企業の就業規則、安全衛生に関する規定、その他の指示を厳守すること。 | |
3. 欠席・遅刻: やむを得ず欠席・遅刻する場合は、事前に企業の担当者に連絡し、その指示に従うこと。 | |
4. SNS等: 企業内での写真撮影、動画撮影を無断で行わないこと。また、実習中に知り得た情報をSNSやインターネット上に書き込まないこと。 | |
日付・署名 | 提出日、所属大学・学部・学年、氏名(自筆署名)㊞ |
インターンシップ同意書・確認書(企業と学生が相互に確認)
これは、インターンシップの基本的な条件を企業と学生が相互に確認し、合意するための書面です。
項目 | 記載内容の例 |
表題 | インターンシップ実施に関する同意書 |
当事者 | 甲:○○○○株式会社(企業) / 乙:○○○○(学生) |
確認事項 | 1. 目的: 本インターンシップは教育・職業体験を目的とし、労働力の提供を目的とする雇用契約ではないことを相互に確認する。 |
2. 実習概要: 実習期間、実習時間、実習場所、具体的な実習内容(別紙に定める)を確認する。 | |
3. 報酬・手当: 本実習は無報酬であることを確認する。(ただし、交通費として日額○○円を支給する。) | |
4. 保険加入: 乙は、所属大学を通じて学生教育研究災害傷害保険およびインターンシップ等賠償責任保険に加入済みであることを甲に提示し、甲はその適用範囲を確認する。 | |
5. 安全配慮: 甲は、安全な実習環境を提供するよう配慮し、乙は自己の安全管理に努めること。 | |
6. 知的財産権: 乙が実習を通じて作成・発案した成果物に関する知的財産権は、原則として甲に帰属する。(※貴社の規定に応じて調整が必要) | |
日付・署名 | 締結日、甲(企業名、代表者名、㊞)、乙(氏名、㊞) |
【重要事項】
- これらの書面で「雇用契約ではない」ことを確認しても、実態として企業の指揮命令下で労働を提供し、その対価として賃金が支払われていると見なされれば、法的に「労働者」と判断されます。
- 「労働者」と判断された場合、企業には労働基準法に基づく義務(最低賃金、労働時間管理、残業代の支払いなど)が適用されます。
- 書面作成時には、専門家(弁護士や社会保険労務士)のチェックを受けるようにしてください。