株主総会の議決権行使書とは?委任状との違いなどを解説

株主総会

株主総会の議決権行使書(ぎけつけんこうししょ)とは、株主が株主総会に出席できない場合に、書面によって議案に対する賛否の意思表示(議決権の行使)を行うために使用する書類です。これは、株主の経営参加の権利を保証するために、会社法に基づいて会社が株主に送付する重要な書類です。

議決権行使書の役割と目的

権利行使の手段

株主が総会に直接出向かなくても、議案の内容を事前に確認し、賛否を表明できるようにするために使用されます。これにより、遠方に住む株主や多忙な株主でも、議決権を無駄なく行使できます。

書面投票制度

議決権行使書を用いた議決権の行使は、書面投票制度と呼ばれます。会社法により、公開会社(株式の譲渡制限がない会社)は原則としてこの書面投票制度を採用しなければなりません(会社法第310条)。非公開会社でも定款で定めることで採用できます。

総会成立への影響

株主から返送された議決権行使書に記載された賛否の意思表示は、総会当日、出席株主の議決権数に含めて集計されます。これにより、総会の定足数(決議に必要な最小限の議決権数)の充足や、議案の決議成立に大きな影響を与えます。

議決権行使書の一般的な内容

会社から株主に送付される議決権行使書には、通常、以下の内容が含まれています。

  • 株主の氏名・保有株式数: 議決権の数を確認するための情報。
  • 議案の記載: 総会で決議される予定の全議案(例:取締役選任、計算書類承認など)が番号を付して記載されます。
  • 賛否の表示欄: 各議案に対し、「賛成」「反対」「棄権」などの意思表示をチェックする欄。
  • 署名・記名押印欄: 株主が本人の意思であることを確認するための署名または記名押印欄。
  • 返送期限: 総会当日までに会社に届くよう設定された期限(通常、総会開催日の前日まで)。

近年は、書面による行使に加え、インターネットを利用した電子投票制度(電磁的方法による行使)を採用する会社も増えており、その場合は議決権行使書に電子投票に必要な情報(アクセスコードなど)が同封されます。

忘れたら

株主総会に議決権行使書(書面投票用紙)を忘れていった場合でも、株主本人が出席していれば、議決権を行使できます

議決権行使書は、総会に欠席する場合に書面で事前に賛否を表明するための書類であり、総会への入場券ではありません

本人確認と入場手続き

総会当日の受付では、事務局(会社側)が株主名簿と照合して本人確認を行います。

  • 本人確認: 通常、氏名と住所を伝え、運転免許証などの身分証明書を提示することで本人であることが確認されます。
  • 議決権の確認: 株主名簿に基づき、保有している正確な議決権の数が確認され、入場が許可されます。
  • 入場券の代わり: 議決権行使書は、総会への出席・入場の必須書類ではないため、忘れても問題なく会場に入れます。

議決権の行使方法

議決権の行使は、当日会場で行います。

  • 会場での投票: 総会中に議案が上程された際、挙手備え付けの投票用紙など、会社が定めた方法に従って議決権を行使できます。
  • 書面行使は無効: 総会に出席した株主は、事前に送付・返送した議決権行使書(書面投票)は無効となり、会場での投票が優先されます。

事前行使済みの場合は?

もし、欠席を想定して事前に議決権行使書を会社へ返送済みであったとしても、株主本人が総会に出席した場合は、その書面による議決権行使は撤回されたものと見なされ、会場での投票が有効となります。

したがって、議決権行使書を忘れても、本人確認ができれば、議決権を失うことはありません。

委任状

議決権行使書と委任状は、どちらも株主総会に株主本人が出席しない場合に議決権を行使するための書類ですが、その利用方法と権限の所在に大きな違いがあります。

委任状は、代理人が株主の代わりに総会に出席し、議決権を行使する権限を会社に示すための書類です。

議決権行使書と委任状の違い

項目議決権行使書(書面投票)委任状
書類の目的株主自身が書面で議案への賛否を表明する。第三者(代理人)に議決権の行使を依頼する。
誰が意思決定株主本人。賛否をチェックして会社へ返送する。代理人。株主本人の代わりに総会に出席し、議決権を行使する。
総会への出席不要(書面投票として集計される)。代理人が出席する必要がある。
代理権の有無代理権の授与はない代理人に対する代理権を授与する。
意思表示の柔軟性事前にチェックした通りに固定される。代理人が総会当日の状況に応じて判断し、議決権を行使できる。

端的に言えば、議決権行使書は「株主が会社に直接、自分の意見を伝える手段」であり、委任状は「株主が自分の権利を第三者に任せて行使してもらう手段」です。

委任状が必要な場合

委任状が必要になるのは、株主が代理人に議決権の行使を依頼し、その代理人が株主総会に出席して議決権を行使する場合です。

会社法では、株主は代理人に議決権の行使を委任することが原則として認められています

代理人による出席・行使の要件

委任状には、通常以下の事項を記載し、総会受付時に代理人が会社に提出する必要があります。

  • 代理権を証明する書面: これが委任状本体です。株主本人が作成し、代理人の氏名などを記載します。
  • 株主の氏名または名称: 委任した株主の特定情報。
  • 代理人の氏名または名称: 委任された代理人の特定情報。

代理権の制限

会社は、総会の運営秩序を維持するため、定款によって代理人を「株主(本人)」に限定するなどの制限を設けることができます。この制限がある場合、株主ではない友人や弁護士などは代理人になれません。