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採用の事務

内定を出すときの注意点

Last Updated on 2023年10月23日 by

内定とは

内定というのは、一般的には採用を約束するという意味です。

一般的には新卒採用のときに内定というプロセスがあります。採用を決定したときはまだ在学中であるため、卒業を待たないと正規の採用手続きができません。そこで、内定という形で採用決定を伝え、卒業後に正式に採用の手続きをします。

この内定という用語は、労働基準法等の法律にない用語なので、同じく内定と言っても言う人によって意味が違うことがあることに注意が必要です。

正式な内定

一つは、始期付解約権留保付労働契約が結ばれたという事です。

これは判例によるものです。

大日本印刷事件最高裁判決概要
通常の採用内定の場合は、会社の募集は労働契約の申込みの誘引にあたり、これに対する応募は労働契約の申込みになり、会社からの内定通知は申し込みに対する承諾になる。これにより、始期付解約権留保付労働契約が成立する。

実際の内定場面では、そのようなタイトルの契約書を示すことは、ほぼありません。

内定する旨、出社予定日、今後の手続き、内定取り消し事由などが記載された、内定通知書などの文書を交付し、本人から内定承諾書などの文書を受領するのが一般的です。この場合、内定承諾書が提出された段階で始期付解約権留保付労働契約が結ばれたと判断できます。

契約ですから、必ずしも文書による必要はなく、口頭で上記のようなやり取り、つまり、「何月何日から出社してください」「分かりました」というだけでも始期付解約権留保付労働契約が成立するのですが、トラブルを避けるためには文書による内定通知書の交付と内定承諾書の受領が必要です。

なお、内定取り消しは解雇に類似するので、内定者は使用者からの不当な内定取り消しに対して、損害賠償とともに地位確認を請求することができることも上述の判例に示されています。

内定を約束するという意味の内定

いわゆる「内々定」というものです。業界等で内定時期を取り決めている関係で、取り決めた日程の前では、内定したくても内定を伝えにくいことがあります。そこで、「時期の関係で正式に内定を出せないが、内定と思ってください」などと伝えることがあります。

内々定について会社から書面を出すケースはあまりないと思われます。一般的には、担当者が口頭で、あるいはメールなどで伝えます。

内々定がどういう位置付けになるかは難しいところですが、口頭等であっても、通知を受けたときの状況、通知の時期、通知された内容、担当者の説明、当事者の認識などから、実質的に内定である、つまり、始期付解約権留保付労働契約が成立したと評価できる場合があります。内々定を軽々しく扱うべきではありません。

次の段階に進めるという意味の内定

もっと軽い意味で「内定」という言葉が使われることがあります。

一次選考を通っただけの人に「内定」という場合などです。

これは、会社の慣行や担当者の理解不足からくるものですが、安易に内定という言葉を使うと誤解を生むことがあるので注意しなければなりません。

内定の手続き

内定の手続きは、内定通知書を送付して入社承諾書をとることです。

書式:内定通知書と内定承諾書のサンプル

内定期間中の研修等

内定者に対して、内定から正式採用までの間に、レポートの提出、学習課題の提示、集合研修への参加などを求めることがあります。

会社は内定者に対してこれらの義務を課すこととができるのでしょうか。

これについて、「入社前研修への参加に合意があったとしても、学業への支障など合理的な理由がある場合には、研修を免除する義務を負うという」という裁判例(宣伝会議事件東京地裁平成17年)があります。

こうした研修等ができないということではないようですが、内定者に対して過度に負担を与えるものは避けるべきでしょう。また、内定者の都合も様々ですから、都合が悪い場合には参加を強制するものではないこと、参加しないことによって不利益を与えるものではないことを明示する等の配慮が必要だと思われます。

内定の取消しについて

内定は、条件付きとはいえ労働契約ですから、合理的な理由なくして取り消すことはできません。ただし、経営困難などの特別な事情が生じたときや、採用予定者の非行が明らかになったときなどは内定取り消しを行うことがあります。

関連記事:内定取り消しを安易に考えてはならない

内定者からの内定辞退について

内定承諾書を提出したにもかかわらず、直前になって入社を断ってくることがあります。大変な迷惑行為ですが、基本的にはどうしようもありません。憲法第22条によって職業選択の自由が定められているので、労働契約よりも就職の自由の方が優先されるからです。

具体的な損害が生じていれば賠償請求ということも考えられるかもしれませんが、裁判で認められる可能性は低いでしょう。裁判を起こす気もないのに脅してやろうと思って、損害賠償させるなどと発言すれば脅迫罪となってしまう可能性もあります。また、罪にならないとしても不適当な発言は企業の社会的評価を下げるので、腹が立っても「残念だけど君がそのように決めたのならしかたない。これからも頑張ってください」などと、穏やかに受け入れるのが大人の対応というものです。


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