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労働時間

勝手残業が止まりませんが、会社としてはどうすればよいでしょうか?

Last Updated on 2025年8月16日 by

従業員が勝手に時間外労働をして、それを課長が追認しているケースが多いので、今後は一切の勝手残業を認めないことにし、その時間の賃金も支払わないと通知しました。現在は守られていますが、今後、勝手な時間外労働があったときに、その時間の賃金を払わないと突っ張ればどういうリスクがありますか?

法律上の考え方

法律と判例によれば「使用者の指揮命令下で労働した時間」は時間外労働として賃金支払い義務がある、とされています。

ポイントは「命令したかどうか」だけではなく「使用者がその労働を認識し得る状態にあったかどうか」です。

上司が残業を黙認した、追認した。出退勤記録や業務メールなどで会社が把握できる状態にあった、などの場合は「黙示の指揮命令」とみなされ、賃金支払い義務が認められています。

会社の対応とそのリスク

基本的には、御社でやられたように、「勝手残業は認めない」と明確に通知し、守らせる指導をすることが大事です。

指導しているにもかかわらず、従業員が時間外に働き、それを会社が「気づいたのに止めなかった」「成果物を利用した」場合は、追認があったとみなされる可能性が高いと思われます。

つまり、禁止しているのだから賃金を支払わないとと突っぱねると、労働基準監督署に申告された場合、是正勧告を受ける可能性が大きいです。

実務対応のポイント

残業申請制を徹底

残業は事前申請・許可制にし、許可なき残業は認めないと、あらためて周知します。

発覚時の対応

実際に残業があった場合は、原則として賃金は支払う(未払いは危険)ことにしますが、同時に、ルール違反として「指導」し、悪質な場合は「懲戒処分」を行います。

つまり「賃金は払うが、ルール違反は処分する」という二本立てで管理します。

課長層への徹底

上司が「勝手残業を黙認」しないことが重要です。

管理職に対して「止める義務」「承認ルート以外の残業を認めない」教育を徹底する必要があります。

まとめ

賃金未払いで戦うのはほぼ負け筋です。

未然に防ぐ仕組みを維持しつつ、万一残業があった場合は支払った上で指導するのが現実的です。

「払わない」とすると、労働基準監督署対応・裁判リスクなどに発展するおそれがあります。

残業申告についての規程例

これまでの解説を規程の形に整えてみました。この規程を就業規則の付属文書として制定することで、「残業代は支払う」が、「無断残業は規程違反として処分対象」という方針を明確に示すことができます。

時間外労働管理規程(文例)

第1条(目的)

本規程は、労働基準法その他関係法令を遵守し、従業員の労働時間を適正に管理するとともに、従業員の健康保持及び業務効率化を図ることを目的とする。

第2条(原則)

  1. 当社における労働時間は、就業規則に定める所定労働時間を原則とする。
  2. 時間外労働は、業務上やむを得ない場合に限り、事前に申請・承認を得た場合のみ認める。

第3条(申請・承認手続)

  1. 従業員が時間外労働を希望する場合は、あらかじめ所定の様式により、理由及び予定時間を明記して直属の上長に申請しなければならない。
  2. 上長は、業務上の必要性を確認のうえ承認または却下を行い、必要に応じてさらに部署責任者の承認を得る。
  3. 承認された場合に限り、時間外労働を行うことができる。

第4条(禁止事項)

  1. 承認を受けずに時間外労働を行うことを禁止する。
  2. 上長が承認手続きを経ずに時間外労働を黙認または追認することを禁止する。

第5条(違反時の取扱い)

  1. 従業員が承認を得ずに時間外労働を行った場合であっても、実際に労働した時間については法令に基づき賃金を支払う。
  2. 前項の場合、当該従業員は本規程違反として指導・注意を受け、繰り返す場合には懲戒処分の対象となる。
  3. 上長が承認を経ずに時間外労働を黙認または追認した場合、当該上長は管理責任を問われ、指導・注意を受け、繰り返す場合は降格等の人事上の不利益を受けることがある。

第6条(周知徹底)

会社は、本規程の内容を全従業員に周知し、労働時間管理の徹底に努める。

第7条(附則)

本規程は、○年○月○日より施行する。


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