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36協定の「特別条項」を正しく理解する:残業の上限規制と注意点

Last Updated on 2025年8月4日 by

「36協定」という言葉は聞いたことがあっても、「特別条項」についてはよく知らないという方もいるかもしれません。働き方改革関連法によって、時間外労働の上限規制が厳格化された今、この「特別条項」を正しく理解することは、会社にとっても従業員にとっても非常に重要です。

この記事では、36協定の特別条項とは何か、どのような場合に適用され、どのようなルールがあるのかを、分かりやすく解説します。

そもそも36協定とは?

労働基準法では、1日8時間、週40時間の「法定労働時間」を超えて労働させることを原則として禁止しています。これに違反すると、法律違反となります。

しかし、業務の都合でどうしても法定労働時間を超えて働いてもらう必要がある場合もあるでしょう。そうした際に、会社と従業員の代表者が書面で協定を結び、労働基準監督署に届け出ることが必要になります。この協定こそが、「時間外労働・休日労働に関する協定届」、通称「36協定」です。

36協定を結ぶことで、法定労働時間を超えて働かせることが可能になりますが、無制限に残業させられるわけではありません。原則として、時間外労働の上限は月45時間、年360時間と定められています。

「特別条項」が必要なのはどんな時?

では、「特別条項」とは何でしょうか。これは、通常の36協定で定められた上限時間(月45時間、年360時間)を、やむを得ない事情で超えてしまう可能性がある場合に、例外的に設定できる特別なルールです。

例えば、以下のようなケースが考えられます。

システムのトラブルが発生し、緊急の対応が必要になった。

決算期や、クリスマス・年末年始などの繁忙期で業務量が大幅に増加した。

顧客からの予期せぬクレーム対応に追われた。

ただし、どんな理由でも認められるわけではありません。「業務上やむを得ないとき」や「業務繁忙なとき」といった曖昧で恒常的な理由ではなく、「臨時的かつ特別な事情」に限定されます。協定には、これらの具体的な事由を明記する必要があります。

「具体的な事由」の記載例

「臨時的かつ特別な事情」を、具体的にどのように記載すればよいか、記述の例をいくつか示します。こう書けば良いということではなく、あくまでも記載例です。

繁忙期・業務増加に関する記述例

「大規模なクレーム対応により緊急対応が必要となったとき」

「予算・決算業務、事業年度末における業務の集中、または予期せぬトラブルへの対応により業務が著しくひっ迫したとき」

「予期せぬ大規模な設備トラブルへの対応、またはシステムの大規模改修に伴う緊急対応が必要となったとき」

「通常の生産量を大幅に上回る受注が集中し、納期がひっ迫したとき」

「製品に重大な不具合が発見され、対策を講じるため緊急の対応を要するとき」

「臨時株主総会の開催、監査法人の往査対応等、通常予見し得ない業務が突発的に発生したとき」

納期・受注に関する記述例

「予期せぬ短納期での大口受注が突発的に発生し、納期がひっ迫したとき」

「顧客からの緊急な仕様変更に伴い、納期調整が困難となったとき」

「新製品の研究開発において、当初想定し得ない技術的な課題が突発的に発生し、期限がひっ迫したとき」

「災害、システム障害などにより通常業務に遅延が生じ、その回復を図るため緊急対応を要するとき」

記述のポイント

これらの例からわかるように、具体的な記述にするには以下のポイントを押さえることが重要です。

予見可能性の低さ:「予期せぬ」「突発的な」といった言葉を使い、通常では予測できない事態であることを示す。

事由の限定性:「〇〇な業務」や「〇〇な事態」など、具体的にどのような業務や事象が原因となるのかを明確にする。

恒常性がないこと:「毎年必ず発生する〇〇」といった恒常的な業務は、特別条項の対象として認められにくい傾向があります。

「業務が繁忙なとき」のような表現は、ほとんどの企業でいつでも発生しうる恒常的な事由とみなされ、特別条項を適用する根拠として認められない可能性が高いです。

労働基準監督署に届け出る際は、これらの具体性がチェックされるため、協定書を作成する際には、上記の例を参考に、自社の業務の実態に即した具体的な理由を明記してください。

特別条項があっても超えられない「本当の上限」

特別条項を設ければ、上限なく残業させられる、というのは大きな誤解です。働き方改革関連法によって、特別条項を適用した場合でも、必ず守らなければならない上限(罰則付き)が厳格に定められました。

時間外労働は年720時間以内

これは、休日労働を含まない時間外労働のみの上限です。

時間外労働と休日労働の合計が、

単月で100時間未満

複数月平均で80時間以内

さらに、特別な事情がある場合でも、月45時間を超えることができるのは年6回までという回数制限もあります。

つまり、会社は従業員の労働時間を注意深く管理し、これらの上限規制を絶対に超えないようにしなければなりません。

なお、一部の業種や業務においては、上述の時間外労働の上限規制に猶予期間や適用除外規定が設けられています。

特別条項を適用する際の注意点

特別条項を適用する際には、36協定に以下の内容を明記する必要があります。

具体的な理由:上述したように、具体的に記載します。

労使間の手続き:特別条項を適用する際に、「労使の協議を経て」といった手続きを定めます。

割増賃金率:法定の割増賃金率を超える努力義務に加え、月60時間を超える時間外労働には、法定で50%以上の割増賃金率が義務付けられています。

また、特別条項を安易に適用せず、業務効率の改善や人員配置の見直しなど、根本的な対策を講じることが、健全な働き方を実現する上で重要です。

36協定の特別条項は、あくまで緊急時の一時的な対応策です。従業員の健康を守りながら、持続可能な働き方を実現するために、会社も従業員もこのルールを正しく理解し、適切に運用していくことが求められます。

期間の定めについて

36協定では、延長できる時間数の単位として、「1日を超え3ヶ月以内の期間および1年間」を定めることとされています。多くの企業が「1ヶ月」と「1年」を定めますが、「3ヶ月」を定めることも可能です。

この「3ヶ月」の上限時間を定めた場合、特別条項においても同様に、通常の限度時間(例えば、3ヶ月120時間など)を超える時間外労働が必要な際に、延長時間を「3ヶ月」単位で定めることになります。

例えば、以下のように定められます。

通常の36協定

1日の延長時間は2時間とする。

3ヶ月の延長時間は120時間、1年の延長時間は360時間とする。

特別条項

ただし、通常の生産量を大幅に超える受注が集中し、特に納期がひっ迫したときは、労使の協議を経て、年2回を限度として、3ヶ月200時間まで延長することができる。

また、1年450時間まで延長することができる。

このように、通常の36協定で定めた期間の単位は、特別条項を定める際にも引き継がれることになります。ただし、特別条項を適用した場合でも、法令で定められた以下の「罰則付きの上限規制」は必ず遵守しなければなりません。

時間外労働が年720時間以内

時間外労働と休日労働の合計が、単月100時間未満、複数月平均80時間以内

協議書の記載例

特別条項付の36協定を締結しても、実際に特別条項を適用するには、「労使当事者間において定める手続きを」をとることが必要です。具体的には、「通知」による方法と、「協議」による方法があります。

「協議」は当然に事前にする必要がありますが、「通知」による場合でも、事前に通知しなければなりません。実質的にはほとんど同じでなので、ここでは協議による場合の文書例を示します。

特別延長に係る協議書

令和〇年〇月〇日

(労働者代表)殿

〇〇株式会社人事部長〇〇〇印

時間外労働に関する協定(特別条項)に基づき以下のとおり協議する。

対象労働者:
〇月〇日時点の時間外労働時間数:
特別条項に基づく事由:
特別条項適用回数:

上記の協議事項については了承する。

なお、下記事項について要請する。
1.特別延長時間を抑制するために人員配置について見直しをすること
2.特別条項適用者のうち希望者に対して面接指導を実施すること

令和〇年〇月〇日

労働者代表 〇〇〇印

記載上の注意

「〇月〇日時点の時間外労働時間数」については、基本協定の労働時間を超えそうになった時点の時間外労働時間数です。実務的には一定の日を決めて、定期的に点検する必要があります。

「要請事項」についてはあくまでも例です。


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