Last Updated on 2025年7月16日 by 勝
合同会社で唯一の社員が亡くなった場合、その後の手続きは、会社の定款に「持分承継に関する定め」があるかどうかによって大きく変わってきます。
社員一人の合同会社で、その唯一の社員が亡くなってから社員を追加する手続き
唯一の社員が亡くなった場合、まず確認すべきは合同会社の定款です。
1. 定款に「社員の持分を相続人が承継する」旨の定めがある場合
定款に、社員が死亡した場合にその相続人が持分を承継する旨の定め(会社法608条)がある場合、亡くなった社員の相続人が持分を承継し、社員となります。
<手続きの流れ>
相続人の確定: 亡くなった社員の戸籍謄本などにより、相続人を確定します。
相続人による持分承継: 相続人が自動的に亡くなった社員の持分を承継し、社員となります。相続人が複数いる場合、原則として全員が共同で持分を承継し社員となります。特定の相続人のみが社員となることを望む場合は、遺産分割協議によりその相続人に持分を承継させる、または遺言書で指定するなどの対応が必要になります。ただし、遺産分割協議によって一人だけを社員とする登記が受理されない場合もあるため、事前に法務局に確認することをお勧めします。
社員変更の登記: 新たに社員となった者の氏名、住所、代表社員の氏名(もし変更があれば)などを法務局に登記申請します。
必要書類の例:
合同会社変更登記申請書
定款(持分承継の定めがあることを確認)
死亡した社員の出生から死亡までの戸籍一式
相続人全員の現在戸籍
遺産分割協議書(特定の相続人が持分を承継する場合)
新しく代表社員になる者の就任承諾書(代表社員が変更になる場合)
新しく代表社員になる者の印鑑証明書(代表社員が変更になる場合)
この場合、新たな出資は不要で、会社の資本金も変動しません。
2. 定款に「社員の持分を相続人が承継する」旨の定めがない場合
定款に持分承継に関する定めがない場合、原則として、亡くなった社員の持分は相続されません。この場合、亡くなった社員は合同会社を「退社」したことになります(会社法607条3号)。唯一の社員が退社したため、合同会社は社員が欠けたことによって解散することになります(会社法641条1項4号)。
この場合、新たに社員を追加して会社を存続させることはできません。 解散手続きに進むことになります。
ただし、例外的に、会社が清算手続き中に唯一の社員が死亡した場合は、定款に定めのない場合でも相続人が持分を承継し社員となることができます(会社法675条)。これは清算手続きを円滑に進めるための特例です。
【重要なポイント】 一人合同会社を設立する際には、将来のために「社員が死亡した場合、その持分は相続人が承継する」旨を定款に定めておくことが強く推奨されます。これにより、万が一の事態でも会社が自動的に解散することを避け、事業を継続しやすくなります。
社員がいなくなった合同会社を解散する手続き
定款に持分承継の定めがなく、唯一の社員が亡くなった場合、合同会社は解散することになります。解散から清算結了までの手続きは、以下の流れで進みます。
1. 解散事由の発生と解散登記
社員が欠けたこと(会社法641条1項4号)により、合同会社は自動的に解散します。この解散の事実を法務局に登記する必要があります。
解散登記の申請: 唯一の社員が死亡した日から2週間以内に、解散の登記申請を行います。
申請者: 清算人(後述)が申請します。
必要書類の例:
合同会社解散登記申請書
死亡した社員の戸籍謄本
清算人の就任承諾書
清算人の印鑑証明書
2. 清算人の選任
合同会社が解散すると、事業を継続する代わりに「清算」という段階に入ります。清算は、会社の財産を整理し、債務を弁済し、残余財産があれば分配するという手続きです。この清算事務を行うのが「清算人」です。
清算人の選任方法:
定款で定められた者: 定款に清算人となるべき者が定められていれば、その者が清算人となります。
業務執行社員: 定款に定めがなければ、原則として業務執行社員(亡くなった社員)が清算人となりますが、死亡しているため、新たに選任が必要です。
社員の過半数の同意: 死亡した社員の相続人が複数おり、彼らが新たに社員となった場合(定款に承継の定めがある場合)、その社員の過半数の同意で清算人を選任できます。
裁判所による選任: 上記の方法で清算人が選任できない場合、利害関係人(例えば債権者や相続人など)の申立てにより、裁判所が清算人を選任します。唯一の社員が死亡し、定款に承継の定めもない場合は、このケースが一般的になるかもしれません。
清算人選任の登記: 清算人が選任されたら、その旨も法務局に登記します。
3. 清算事務の開始(債権者保護手続きなど)
清算人は、就任後速やかに以下の清算事務を行います。
財産目録および貸借対照表の作成: 会社の現状の財産状況を把握します。
債権者保護手続き:
官報に解散の公告を掲載し、債権者に対して2ヶ月以上の期間を定めて債権の申し出を促します。
会社が把握している債権者には個別に催告を行います。
この期間中は、債権者への弁済はできません。
債権の取立て・資産の換価: 未回収の売掛金などを回収し、不動産などの資産があれば売却して現金化します。
債務の弁済: 債権者保護手続き期間満了後、会社の債務を弁済します。
4. 残余財産の分配
債務をすべて弁済し、まだ会社に財産が残っている場合、それを「残余財産」として社員(この場合は、持分を相続した者または死亡した社員の持分払戻請求権を相続した者)に分配します。
5. 清算結了登記
清算事務がすべて終了したら、清算人は遅滞なく決算報告書を作成し、社員の承認を得ます(社員がいない場合は清算人自身が確認)。その承認を受けてから、法務局に「清算結了の登記」を申請します。この登記が完了すると、合同会社の法人格は完全に消滅します。
必要書類の例:
合同会社清算結了登記申請書
決算報告書
清算人の印鑑証明書
専門家への相談の推奨
社員が死亡し、かつ唯一の社員であるケースは、非常に複雑な手続きとなります。特に、定款に持分承継の定めがない場合は、会社が解散してしまうため、清算手続きを進める必要があります。
これらの手続きは、法律や登記に関する専門知識が必要となるため、司法書士や弁護士といった専門家に相談し、サポートを受けることを強くお勧めします。相続関係の整理には税理士も関わることがあります。
まずは、亡くなった社員の戸籍謄本などを用意し、合同会社の定款を確認するところから始めてください。
登記申請書の書式や記載例は、法務局のホームページで確認できます。
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