Last Updated on 2025年8月15日 by 勝
はじめに
退職を控えた社員が「有給休暇の消化中にアルバイトをしたい」と考えるケースが増えています。しかし、そのような働き方には法令上・実務上のリスクが潜んでいます。次のような事例をもとに、考えられる問題点を整理しました。
【事例】
私は10年ほど勤務した会社を退職予定です。退職理由は自己都合で、円満退社の予定です。30日分の有給休暇が残っているため、その期間を消化して最終出勤日から30日間は休暇に入ります。ただ、ずっと家にいるのはもったいないので、有給休暇中にアルバイトをする予定です。アルバイト先はすでに決まっており、近所の店舗での短時間勤務です。なお、今の会社には副業禁止規定がありますが、有給中なら関係ないと思っています。
問題点を3つの視点から整理
考えられる問題点は主に次の3つです。
① 元の勤務先(退職予定の会社) 就業規則違反、副業禁止規定との抵触
② アルバイト先 二重就業の把握漏れ、信頼関係のトラブル
③ 本人 懲戒の可能性、労災・社会保険の誤認リスク、雇用保険トラブル
元の勤務先― 副業禁止と就業規則違反
有給休暇中とはいえ、退職日までは在籍中です。
就業規則に「在職中の副業を禁止」と定めている場合、副業を行うことは就業規則違反として処分できる可能性があります。
特に、以下のような事情がある場合は、問題が大きくなる可能性があります。
- 退職前の勤務先が同業他社である場合(競業行為)
- 業務情報を持ち出して副業に活かされた場合(秘密保持違反)
アルバイト先 ― 二重就業による誤解と責任
本人が退職前であることを申告していない場合、アルバイト先にも次のようなリスクがあります。
- 二重就業を知らずに雇用した場合のリスク
- 労働時間の通算管理ができない
- 競合企業に該当する場合、元の会社と法的トラブルになるおそれ
- 本人が虚偽申告していた場合、信頼関係が損なわれる
本人 ―「バレなければ大丈夫」は危険
有給休暇中でも、退職日までは元の会社の健康保険・厚生年金に加入中です。
アルバイト先が本人の事情を知らず、誤って社会保険・雇用保険の資格取得届を出すと、手続きが重複しエラーになります。
マイナンバー制度により、国側では重複を把握できますが、 現場での誤入力・届出ミス・本人確認不足により、二重手続き・誤った保険証発行などのトラブルが生じる可能性があります。
有給中にアルバイト先でケガをした場合、元の会社の労災は適用されず、アルバイト先での労災申請が必要です。その際に、労働保険の加入状況や就労実態に齟齬があると、給付遅延や否認リスクがあります。
推奨される対応
本人:退職日、有給期間、副業の有無について正直にアルバイト先に説明する。
アルバイト先:雇用前に現在の在籍状況・社会保険加入状況を確認する。
元の会社:「有給中の副業の扱い」や「就業規則の適用範囲」についてルールを明確にしておく。
まとめ
「有給休暇中だから自由に働いても問題ない」と考えるのは危険です。
退職日までは在籍中であり、就業規則・社会保険・労災などの面で法律上の関係は継続しています。
トラブルを防ぐためには、本人・元の会社・アルバイト先の三者が正確な情報と理解をもって行動することが重要です。
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