Last Updated on 2025年8月5日 by 勝
素行の悪い従業員に再三注意したにもかかわらず改めないので辞めてくれと言ったところ、解雇したいなら文書で通知しろと言われました。どう対応すればよいのでしょうか。
解雇通知書の法的義務について
労働者を解雇する際、会社として「解雇通知書」を文書で交付しなければならないという法律上の義務はありません。解雇の意思表示は、原則として口頭でも有効です。
ただし、労働基準法第22条に規定されている「退職時等の証明」つまり、「解雇理由証明書」の請求があったときは、これを遅滞なく交付する義務があります。これは、解雇の理由を具体的に説明する文書であり、拒否することはできません。
解雇通知書を交付することのメリットとリスク
解雇通知書の交付は義務ではないものの、労働者が求めている場合に拒む合理的な理由がない限り、誠実に応じるのが望ましいと考えられます。あいまいな対応を避けることで、後のトラブル(「解雇されたのか、辞めさせられたのか分からない」といった主張)を防止できます。
一方で、書面に残すことによって、労働者が内容を証拠として不当解雇を主張する材料にする可能性もあるため、文書の内容には十分な注意が必要です。
解雇通知書作成時の注意点
以下の点を意識して作成することで、不要な法的リスクを避けられます。
- 懲戒解雇か普通解雇かを明確に区別する
- 事実に基づいた具体的な理由を記載する
- 感情的・抽象的な表現を避ける
- 就業規則に基づいた処分であることを示す
なお、軽率に「懲戒解雇」と記載することは避けるべきです。懲戒解雇は制裁的な意味合いを持ち、就業規則の定めや手続きの厳格な適用が求められるため、実務上は普通解雇として対応するケースが一般的です。
解雇通知書のサンプル
解雇通知書ではなく解雇理由証明書を発行する
労働者が解雇を文書で通知してほしいと要求している場合、文言通り受け取れば解雇通知書の要求であっても、その内容は解雇理由証明書の要求であることがあります。
相手の請求があいまいな場合は、解雇理由証明書として発行して差し支えありません。
むしろ、以下の理由から「解雇理由証明書」として発行する方が望ましい対応といえます。
理由1:法的義務を確実に果たせる
労働者からの請求内容が「文書で通知しろ」という漠然としたものであっても、それを「解雇理由証明の請求」と解釈して対応すれば、労基法第22条第2項の義務を確実に履行できます。
✳ 労働基準法第22条第2項(抜粋)
労働者が解雇の理由を証明する書面を請求した場合、使用者は遅滞なくこれを交付しなければならない。
「貴殿より解雇に関する文書の交付を求められた件につき、労働基準法第22条第2項に基づき、解雇理由証明書を発行いたします。」という形で前文を入れることで、請求があいまいであっても誠実に対応したことが伝わります。
理由2:労働者にもメリットがある
- 通常、労働者が求めているのは、「なぜ解雇されたのか」を明らかにしてもらいたい、という気持ちからです。
- 解雇通知書よりも理由証明書の方がそのニーズに適合します。
理由3:会社としても記録が残る
- 曖昧なままより、文書で明確にしておいた方が、後日の主張食い違い(例:退職か解雇か)を防止できます。
- 証拠能力の点でも、会社が適正な対応をしたことを示す資料になります。
これをまとめたのが次の表です。
質問 | 回答 |
---|---|
解雇通知書か解雇理由証明書か分からないがどちらを発行すべきか? | 解雇理由証明書として発行して問題なし |
会社として不利にならないか? | 内容を事実に基づき冷静に記載すれば、かえってトラブル予防になる |
労働者に伝えるときの注意点は? | 「ご請求にお応えし、理由証明書として交付します」と一文添えると丁寧 |
まとめ
- 解雇通知書の交付は法律上の義務ではないが、求められた場合には誠実に対応するのが望ましい
- 相手が解雇通知書にこだわるのでなければ、解雇理由証明書を交付する方が双方にメリットがある
- いずれにしても内容次第ではトラブルの火種になるため、冷静かつ事実に基づいた文面を作成することが重要
- 懲戒解雇は慎重に扱い、通常は普通解雇として対処するのが実務的
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