Last Updated on 2025年8月5日 by 勝
温情的判断による円満退職処理に関する実務ガイド
本資料の目的
本資料は、勤務態度や規律違反等により本来は「解雇相当」と判断される従業員について、本人の申し出および会社としての温情的配慮により、形式上「自己都合退職」扱いとする場合の対応方針および注意点を整理したものです。
基本的な考え方
- 解雇相当の事由がある場合でも、本人が自発的に退職を申し出た場合、自己都合退職として取り扱うことは可能。
- ただし、「退職強要」や「形式的な自己都合退職」などと後日主張されるリスクがあるため、本人の意思と会社の対応の記録を残すことが不可欠。「退職願を書け」と会社が促した記録が残るとリスク大。
- 「会社が懲戒を回避した」という事実は、就業規則の運用上も例外的判断として位置づけるべき。
実務上の対応フロー
ステップ | 内容 | 記録・対応のポイント |
---|---|---|
① 懲戒相当行為の確認 | 就業規則・指導記録・事実確認 | 注意指導の記録・面談記録などを整理 |
② 懲戒手続きの準備 | 審査委員会招集・事前通告 | 本人に説明の場を設ける(録音・議事録) |
③ 本人の申し出確認 | 「解雇ではなく円満に退職したい」等 | 本人の意思表示を明確に文書で残すこと |
④ 退職願の提出 | 本人の署名・日付入りで提出 | 手書き or 本人署名・捺印が望ましい |
⑤ 懲戒審査委員会の議事録作成 | 「解雇相当と判断され得たが、本人の申し出により自己都合退職として取り扱う」旨を明記 | 感情的表現は避け、客観的な事実に基づく記録とする |
⑥ 退職証明書の発行 | 本人の請求に応じて、「自己都合による退職」と記載 | 「本人の請求に基づき記載」と一文添える |
文書で残すべき資料(証拠保全)
- 本人からの退職願(原本・写し)
- 注意・指導記録(指導書、面談メモ等)
- 懲戒審査委員会の議事録
- 本人とのやり取りのメールや議事メモ
- 退職証明書の控え
注意すべき点
✅ 本人の意思が「自発的」であることを明確に
強制・誘導が疑われてはならない。
✅ 文書には感情的・評価的表現を使わない
客観的な事実と会社の判断にとどめる。「反省しているから退職を認めた」「性格に問題」などの表現は避ける。
✅ 就業規則の運用との整合性に注意
同様のケースが生じた場合一貫性ある対応を図る。今回の対応が例外であることを内部的に明確にしておく。
将来のリスク
本人が後日「実質的に解雇された」と主張する可能性があるため、退職の任意性を明確に記録し保管する必要があります。本人自筆の退職願、経緯を記載した議事録、その他の記録が有効な証拠になります。
懲戒審査委員会議事録(サンプル)
懲戒審査委員会 議事録
開催日:令和〇年〇月〇日
開催場所:本社会議室A
出席者:〇〇(人事部長)、〇〇(総務部長)、〇〇(所属部課長)、〇〇
記録者:〇〇(総務部)
【審議対象者】
氏名:〇〇 〇〇
所属:〇〇部〇〇課
職位:一般職
【事案の概要】
〇〇氏は令和〇年〇月以降、業務命令への不従順、勤務態度不良(無断離席、私語等)、上司への暴言など、職場の秩序を乱す行為を繰り返していた。
これに対して会社は複数回の口頭・書面による注意指導を行ったが、改善が見られなかった。
【審議内容】
本人の弁明によれば、上記事実については本人も一定程度認めており(別紙記録)、上司、同僚への事情聴取(別紙記録)と関係証拠書類(別紙記録)をもとに慎重に審議したところ、当社就業規則第〇条に違反すると認められることから、本委員会としては普通解雇または懲戒処分が相当との認識に至った。
ただし、令和〇年〇月〇日、本人から「退職願」が提出され、本人意思に基づく退職を希望していることが確認された。
本件について、会社としては、本人が退職するのであれば職場秩序の回復が見込まれることを関係者に確認し、処分がもたらす本人の将来への影響についても勘案して慎重に審議した結果、本人の申し出を受け入れる形で、懲戒処分は行わず、自己都合退職として取り扱うこととする。
【結論】
・本件は懲戒処分相当であることを確認
・ただし本人の意思を尊重し、自己都合退職として処理する
・本対応は例外的措置であり、同様の事案に対しては別途個別判断とする
【備考】
・この件の関係記録、並びに本人の退職願の写しを本議事録に添付
・退職日は令和〇年〇月〇日とする
以上
まとめ:対応のポイント
- □ 本人に十分説明のうえ意思確認を行ったか
- □ 本人の申し出が書面で提出されているか
- □ 懲戒審査の過程を議事録に残しているか
- □ 感情的な表現を使わず、事実に基づく記録となっているか
- □ 退職証明書は本人の請求内容に限定して記載しているか
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