労働契約の成立とは?具体的に解説

労働契約

労働契約が成立するとは、労働者使用者の間で、労働者が使用者に使用されて労働し使用者がこれに対して賃金を支払うことについて合意することを指します。この成立要件は、労働契約法第6条に定められています。

労働契約の成立に関する労働契約法上の定め

労働契約法第6条の規定により、労働契約の成立には以下の2つの要素に関する合意が不可欠です。

  1. 労働者が使用者に使用されて労働すること
    • 労働者が使用者の指揮命令下に入り、労務を提供するという合意です。
  2. 使用者がこれに対して賃金を支払うこと
    • 労務提供の対価として、使用者が労働者に賃金を支払うという合意です。

合意の原則

  • 労働契約は、原則として労働者使用者対等の立場における合意に基づいて締結されます(労働契約法第3条第1項)。
  • この合意は、必ずしも書面である必要はなく、口頭でも成立します。ただし、労働基準法では、労働条件の主要な事項について使用者に対して書面(労働条件通知書など)による明示を義務付けており、後のトラブル防止のためにも書面による確認が強く推奨されます。

労働契約が成立することで、労働者には労務提供義務が、使用者には賃金支払い義務が発生し、同時に労働契約法や労働基準法などの労働関係法令が適用されることになります。

内定も労働契約

内定の段階でも、原則として労働契約は成立していると解釈されています。

ただし、通常の労働契約とは異なり、特別な性質を持つ労働契約と考えられています。これを法的に「始期付解約権留保付労働契約」と呼びます。

労働契約を直後に解約することについて

労働契約に合意した直後に、労働者側から「気が変わった」という理由で入社を取りやめる(契約を解除する)ことは、使用者側からの一方的な解除(解雇・内定取消)と比べて、比較的自由に認められています

これは、日本国憲法で保障された職業選択の自由の考え方に基づくものです。

労働契約法そのものには、労働者側からの解除に関する詳細な規定はありませんが、民法の規定に基づいて処理されます。

期間の定めのない労働契約(正社員など)の場合

内定の段階で成立している「始期付解約権留保付労働契約」は、通常、入社後は期間の定めのない労働契約(正社員など)に移行することを前提としています。

この場合、民法第627条第1項により、労働者は以下の通りに契約を解除できます。

規定内容
解約の申入れ労働者はいつでも使用者に対して契約の解約(退職・辞退)を申し入れることができる。
契約終了の時期解約の申入れの日から2週間を経過することによって、雇用契約は終了する。

したがって、入社予定日の2週間以上前に辞退の意思を伝えれば、法的には問題なく契約を解除することができます。

損害賠償請求のリスク

理論上、労働者の一方的な契約解除によって使用者に損害が生じた場合、使用者は労働者に対して民法に基づき損害賠償を請求できる可能性があります。

しかし、実際の裁判例では、企業が損害賠償請求をしても認められるケースは極めて稀です。その理由としては、以下のようなものがあります。

  1. 立証の困難さ: 労働者の辞退によって生じた具体的な損害額(人件費、設備投資の回収不能分など)を立証することが非常に難しい。
  2. 労働基準法の制限: 労働基準法第16条で「賠償予定の禁止」が定められており、あらかじめ違約金や損害賠償額を定めておくことは禁じられています。
  3. 職業選択の自由: 労働者の退職の自由が強く尊重されるため、企業は労働者が辞退する可能性をある程度受忍すべきとされる。

ただし、入社直前の極めて不誠実な辞退や、企業が採用のために多額の費用をかけ、それが辞退によって無駄になったことが明確な場合に限り、損害賠償が認められる可能性もゼロではありません。